第19話 スキルを発動しましたっ
「それなら奴隷売人たちが水筒を持ってるはずよ。私たちは元々奴隷だったから何も持ってないわ」
女性が僕に提案した。そうか。それならいいかもしれないけど大きいだろうな。小瓶くらいの大きさでいいんだけど。でも遠いし取りいくの面倒。
「それじゃあ、妖精たちに取ってきてもらおうかな」
そう言って何匹かの妖精を見つめると妖精たちは首を横に振った。ん?大きいから無理なのかな。
「中身は捨ててきていいよ」
しかし、首を縦に振らない。なんだ?大きな妖精もいるんだしできると思うんだけど仕方ない。動物たちに頼むか。僕は動物たちに目を向けるとその目には拒否を示していた。
「あれ?なんでだろ」
「どうかしましたか?」
「ううん。なんでもない」
動かない。なら自分で取り行くか。
「あ、あの、お兄ちゃん…」
奴隷だった人達の中から男の子が出てきた。ソフィアさんよりは少し小さい。お兄ちゃんとは僕を示しているようだ。僕お兄ちゃんじゃないんだけど。
「こ、これ」
そして、差し出して来たのは親指くらいの小瓶だった。
「おぉ!ちょうどいいよ。それくれる?」
「うん!助けて、くれたお礼。ありがと!」
「どういたしまして〜」
僕は適当に返事しながらも小瓶を受け取る。すると、妖精たちや小鳥たちが僕の周りに集まり目の前を遮った。
「わわっ」
その様子に他の人たちも驚いたようで大丈夫ですかと僕を心配してくれた。
「大丈夫大丈夫。とりあえず、みんな馬車に乗ってて僕ちょっと準備するから」
困惑しながらもみんな馬車に乗り始めた。ライトはまだ僕を睨んでいた。
僕は少し離れたところで小瓶の蓋を開けスキルを発動させた。
【スキル】万能薬
・どんな病や傷も治すことが出来る。自身の血液が万能薬に出来る一滴でも口にすれば完治。発生源は魔力。コストは一滴あたり2。
あれ?万能薬って傷も治せたっけ?コストも増えてるしいつの間にか変化したのか?
「わぷっ」
小鳥や妖精たちが僕の邪魔をする。
「ちょっとなんだよ。邪魔だな」
妖精たちの顔を見るとそれぞれみんな首を横に振っていた。
「ん?何?」
もしかしてみんな僕がスキルを使おうとしていることに気づいてる?だからこんな反対してるのか。けれど、もう使うと決めたしライトも面倒くさそうだし。僕は迷わす自分の指を食いちぎり血液を出す。スキルの発動をしなければ僕の血はただの血だ。1滴小瓶に入れる。これでは不自然なため近くにある湖の水を入れる。これで万能薬の完成だ。1滴だから味も分からないだろう。
馬車に戻りライトに小瓶を渡した。
「これは?」
ライトは小瓶に入った液体を見つめる。
「薬。とても効くよ。どんな病も傷も治す薬。その小瓶ひとつが1回分だから大切に使ってね。その薬の性能とか調べたりするのはダメ。入手方法も秘密。守れなかったらオリビア嬢を殺す。わかった?」
まぁ、殺すのは嘘だけど。
「………わかった」
「助け出すことはできるはずだよ。その時に全部飲ませて。もし呪いや魔法がかかっていたり精神的にオリビア嬢が傷ついていたらもう一度僕のところへ連れてきて期限は1週間。これすぎたらもう2度と君にもみんなにも合わないからよろしく」
ライトは落ち着いたようだ。黙って僕の話を聞いてくれた。
「無事なら連れてこなくていいのか?」
「逆にもう君たちに会いたくないかな。傷、病以外のことで重体ならすぐ連れてきて。僕もオリビア嬢が無事でいることを願うよ」
淡々とそう言うとライトはもう一度わかったと言ってくれた。僕はよしと答えて馬車を進めた。
森の端に付きじいさんに問いかける。
「じいさん。場所は君たちの住んでいた街でいいの?」
「はい、大丈夫です。本当にありがとうございます」
僕は馬たちに任せて3台の馬車を見送った。
「ねぇ、君」
隣で不安そうにしている妖精に話しかける。僕がスキルを使ったことに不安を感じているのだろう。
「ライトを見張っててよ。できる?」
妖精はすぐに首を縦に振った。そのまま馬車を追いかけて飛んで行った。
「あ、街の名前聞いとけば良かった」
そして、2日後。
女性を抱えたライトが森に入ってきた。それをライトを見張っていた妖精が伝えてくれた。僕はすぐにライトを迎えに行き抱えられた女性を見る。この人がオリビア嬢だろうか。とても可愛らしい女性だ。僕と同い年か?
「た、たすけ……」
ライトの顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。走ってきたのか息も上がっている。貴族なんだから馬車を用意しなかったのか?護衛も付いてない。
「その人がオリビア嬢?」
弱々しく頷く。僕はオリビア嬢を見つめるが死んだように眠っている。まさか死んでるのか?いや、奴隷として扱われていたんだ殺すはずがない。
「オリビア嬢を預かる。君はここで待ってて」
「お、俺も…っ」
着いてこようとするライトに僕は手で制す。こんな状態で僕のスキルを見ても多分忘れるだろうけど僕のスキルは貴重だ。あまり知られたくない。
「だめ」
チラッと妖精たちにを見つめ僕はすぐに走って精霊樹の元へ戻った。
服を脱がし湖へ浸からせる。効果はない。しまった。状況を説明してもらえばよかった。人が死にそうなのに僕は自分のことばっかだな。でも、あの状態で正確に説明できるかわからない。どっちも一緒か。僕はスキル『解呪』を発動何もならない。なら。魔法によるものか?それとも僕の『解呪』よりも高度の呪い?わからない。魔物の魔力を吸う時は魔族の魔力と区別が出来た。でも今回は違う。人間が人間にかけた魔法。もし呪いが魔法で行われていて魔力をコストとしているなら関係なく『吸収』で吸い取ることが出来る。このまま湖に入れたままオリビア嬢の魔力ごとを吸い上げる。魔力を失うと高熱を出すが問題ない。対処出来る。このままスキル『吸収』を発動させる。
僕はオリビア嬢に服を着せて抱えそのままライトの場所へ戻った。ライトは最初に立っていたところから全く動いていなかった。ていうよりも放心状態だろうか?何してんだよ?妖精困ってるじゃん。
「ライト」
はっとしてライトが顔をあげる。僕の腕の中にはオリビア嬢。オリビア嬢は規則正しい寝息をたてていた。
「たすかった……?」
「うん、そうだよ」
「ありがとう……!ありがとう……!」
そう言ってライトは大事そうにオリビア嬢を抱えて戻って行った。
多分、ライトはオリビア嬢を好きなのだろう。そうでなければあんなに必死にならない。僕には恋愛なんてわからない。自分が女だという認識だってどちらかというと薄いほうだし誰かと恋人になるなんて想像しても僕じゃない気がする。そんな僕にとってかけ離れたようなあの二人の存在を助けたかったのかもしれない。まぁ、オリビア嬢が助け出された場合によるけど。僕は流れに任せて2人を助けた。羨ましい。自分にとってとても大切な恋人。僕には一生ない。
……一応、スキル『精神抑制』も使った。約束通りライトは2度とここに来ないだろう。
「5日後。僕はソフィアさんに怒られるんだろうなぁ。妖精たちがめっちゃ慌ててたし」
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