第18話 奴隷を解放しましたっ

ぶわっ


僕に向かって無造作に魔法を繰り出した。致命的なダメージにはならないようだが妖精たちは後ろへ飛ばされた。おい、大丈夫か?木とかにぶつかってないよね?

「どうやらこんなものじゃあ貴様にはダメージにもならないみたいだな。しかし、妖精には効いたみたいだ」

後ろを振り向く僕に妖精たちが吹き飛ばされたことを確信したようだ。


僕はすぐにリーダーたちを目に捕える。広範囲の魔法。けれど僕のダメージは減っていない。

「君の部下は無能?そんな程度の魔法じゃ痛くなかったけど」

少し挑発してみた。これで頭の悪い部下は襲いかかって来るかもしれない。

「なんだと!」

予想通り1人が僕を睨む。だが、もう1人の魔法使いはすぐに呪文を唱え結界らしきものを出した。それに気づいたのか睨んでいた男は呪文を唱える。先程よりも大きい魔力、魔素が減った。

「『火拳』!」

拳のわりには大きい火の玉が僕に襲いかかる。避けたら後ろにいる妖精たちが危ない。なら、

スキル『吸収』

手を火の玉に向けてスキルを発動。ゴォッと燃える炎が僕の手に吸収される。消えた火拳に魔法使いは驚いていた。

あれ?

リーダーがいない。そう認識した瞬間後ろから殺気を飛ばされる。尻目に捉えるとリーダーの男が剣を僕に振りかざしている。早い。こいつのスキルか?避けても追いつかない。かといって攻撃を食らう訳にはいかない。だったら反撃する。

僕はグリンっと体を回転させて手は届かないと思ってい足蹴りで男の剣を折る。当然スキル『怪力』は発動したまま。パキンッと綺麗な音がして折れた剣は地面に刺さる。

「……なっ!」

驚く間もなく僕はめちゃくちゃ手加減しながら男の鳩尾を殴りさらに他の8人の首に手刀を落とした。ほら、よく漫画とかアニメとかであるやつ。一瞬の出来事でこいつらにはわからなかったみたいだ。ドサドサッと倒れる男たち。

「あーあ、かわいそ。こんな小娘にやられちゃって」

この人たちは男と思ってたみたいだけど。ま、いっか。

僕はその場で男たちを拘束しその場に放置した。

奴隷って確か魔法で縛られてるんだよね。どうやったら解けるんだろ。とりあえず奴隷たちの状態の確認だな僕は馬車の扉を開ける。そこには子供から老人までガリガリにやせ細った人達がいた。皆怯えたように僕を見つめている。

「自由だよ。君たちにかけられた魔法解くからどんな魔法か教えてくれる?」

しかし、動くことはなかった。じっと僕を見つめている。

怖いのか?でもこの人たちに会話は聞こえてたと思うけど。面倒だな。

「ねぇ、そこの」

「はい……」

僕は近くにいた年寄りのじいさんに話しかけた。子供より大人のじいさんに聞いた方がいい。

「君たちどんな魔法かけられたの?」

「……まだ、ここに………いるものはかけられて………いません…」

怯えている。力も弱い。当然か。よく見れば鞭で打たれたような傷ややけど、痣も他の奴隷たちに見られる。

「じゃあ、自由じゃないの?出ていけるよ?」

「…いえ、この……鎖が…魔法をかけられていて…動けないのです……」

そう言ってじいさんは喋らなくなった。手足に着いている鎖。これが現況か。どうにかできるが魔法を解いたとしても体力を削られているから動けないだろう。

「ねぇ、精霊樹にこの人たち連れてってもいいよね?」

僕は妖精たちに話しかける。ヨロヨロと飛んできた一匹の妖精が僕に対して頷いてくれた。その顔はもっと自分たちをいたわってくれと言っているようだ。そんなにダメージ食らってないだろ。

「じゃあ、君たちこのまま連れていくから動かないでね」

そして、僕はそのまま扉を閉める。最初から最後まで奴隷たちは何もしなかった。絶望って感じだな。もう死を待つだけって感じだ。僕はメンタルケアなんて出来ないから湖に連れて行って体を癒すだけしか出来ない。

僕は黙って動かない馬たちに話しかけた。リーダーの言う通りなら動物たちを動かすことが出来るかもしれない。

「僕に着いてきてくれる?」

そして、少し歩いてみた。すると馬たちはちゃんと着いてきてくれた。

「おおっ、凄いな」

この容量で他の馬たちにも伝える。僕は散策を中止し真っ直ぐ精霊樹に向かった。


なるべくゆっくり進んだが本当に生きてるのかってぐらい静かだ。馬車の扉を開ける。さっきと同じように奴隷たちはじっと僕を見つめる。そのまま、僕は近くにいたじいさんの鎖にかかった魔法をスキル『吸収』で魔力を吸い取った。すると、鎖は消えた。

「…おぉ……」

じいさんは驚き自分の手足を見つめる。どうやら鎖自体が魔法だったようだ。

「動ける?」

僕はじいさんに手を差し伸べると涙ながらに僕に感謝し始めた。

「あぁ、ありがとうございます……!」

勢いのまま両手で僕の右手を掴む。そのまま湖に連れていく。

「服脱いでこの湖に入って回復してよ」

「こ、ここは〖水の森〗の湖…!?」

知識を多く持っているじいさんにはわかるようだ。

「そうだよ。早く入って他の人もいるから」

僕は次々に鎖の魔法を吸い込み湖に入れていった。怪我して動けない者は先に回復した人達に任せる。それを繰り返すがやはり残酷な仕打ちを受けていた者もおり、精神的に回復できない子供や大人たちがいた。

3つ目の馬車にたどり着いた時ずっと死んだ目だった奴隷たちだったが1人だけ意志を持つ人が現れた。扉を開け半分まで解放しさぁ、次だと振り返ると1人の青年が僕を睨んでいた。

「触るな…!」

どちらかといえばイケメンな顔だ。僕は面食いじゃないしそういうのは気にしないけど第一印象はそうだった。

「君には触んないよ。鎖に触るだけ。動けるんだったら自分で湖に入って」

構わず鎖に触れようとすると青年は大声を上げた。

「寄るなっていったんだ!」

「うるっさいなぁ。耳元で叫ばないでよ」

青年の声に臆せず僕は面倒だも思いながら青年を見つめる。

「いいよ。君最後ね」

構わず他の人達に足を向ける。ギリッと歯ぎしりをする音が聞こえた。

とりあえず警戒的な青年以外の人達は元気になった。精神面ではどうにもできないが馬車で近くの街に着くように馬たちにお願いすればどうにかなるだろう。とりあえず森を出るまでは僕が着いておこう。

「じゃあ、鎖外すよ?」

今度は俯いたままの青年。諦めたかな。そのまま鎖を吸い取る。終わった瞬間衝撃が与えられ馬車か吹き飛ばされた。そして身体中に広がる燃えるような痛み。明らかになにかの攻撃だ。青年が僕を攻撃したのだろう。まさか仲間が奴隷に紛れ込んでいたのか?いや、それはない。自分で鎖を外せなかった。僕が他の人の鎖を外しているという隙を逃すはずがない。なら何で。僕の体は炎に包まれていて馬車から飛び出てきたせいで他の人たちは驚き慌てだした。女の叫び声や子供たちの泣き声も聞こえる。

僕は燃え広がる前に湖に飛び込み火を消した。どうやらすぐに火を消したおかげで服はしっかりと役割を果たしていた。ガタンと馬車から青年が降りてくる右足を怪我しているようで重心は馬車に預けていた。

「ライト…!何をしておる!」

最初に解放したじいさんが青年に怒鳴る。どうやら青年はライトという名前らしい。

「…うる、さい」

俯いたままのライトを僕は無視して湖から出た。ギュッと服を水を絞り出す。ライトは精神的負荷を与えられ僕に攻撃したのだろう。じいさんはそのライトと知り合いみたいだしちゃんとした被害者だ。攻撃してきたライトは呪文を唱えていなかったからスキルだろうか。周りの魔素が減る感覚はなかった。

「ライト…だっけ、怪我してる。湖にゆっくり入って。怪我が治るから」

僕はなるべくライトを刺激しないように優しく声をかける。

「信じるかよ…」

「え?」

「あいつらだってそんなふうに俺を騙したんだ!オリビアも連れていかれた!!お前が本当に強いならオリビアだって助けられるだろ!!何でここにいるんだ!!!おかしいだろ!今だってオリビアは酷い目にあってるんだ!!助けろよ!」

ライトはそう言って僕を睨みつける。その顔は物凄い形相だ。他の人たちは怯えてる。子供たちの泣き声はやまない。

なんか、凄い理不尽なこと言ってきたな。オリビア?誰だよ。知らないし、僕は森から出られない。助けられない。

「無理だよ。僕はこの森から出られないし相手がどんな風に強いか知らない。助けられない」

「くっ…!」

ライトが僕に指を差した。するとさっきは見えなかったが火の玉が僕目掛けて飛んでくる小さいが早く賊たちが出した魔法とは違い複雑な気配がした。多分ライトのスキルだがコストはなんだ?体力?魔力?僕のイメージは魔力だけど吸い取れるだろうか。僕はそのまま手をかざし火の玉を受け止めるすると後ろに飛ばされるような衝撃が与えられるがそれも全て魔力と考え吸い取った。

しかし、次々と火の玉を打って来る。銃みたいなものだろうか。火の性質と違い衝撃が与えられる。

「やめんか!ライト!」

じいさんが叫ぶ。僕は構わず一瞬でライトの目の前に立ちものすごーく手加減して湖に蹴り飛ばした。

「ぐはっ」

呻き声を上げながらライトは湖に入った。バシャッと水の音がしてあぁ湖をあまり雑に扱えないなと思いながらライトを放置した。

「じゃあ、とりあえずみんなを森が抜けるまで僕が馬車で連れていくから乗って」

ポカンとした表情の人達が僕とライトを交互に見つめる。

「どしたの?ほら乗って。僕も忙しいから」

「か、管理者がこんなに強いとは……思いもしませんでした…」

1人の女性が僕を見つめる。この人は胸と股間を隠しているが男からしたら刺激が強い格好だスタイルもいいし。てか、管理者ってみんなどんなイメージなの?

バシャッと起き上がるライト。はっとみんながライトに注目する。さすがに弱すぎただろうか。ライトは湖から上がりその場で崩れ落ちた。

「お願いだ……。オリビアを………オリビアを助けてくれ…」

オリビアとうわ言のようにつぶやくライトに僕は半ば引いていた。面倒なことになった。

「ねぇ、じいさん。オリビアって誰」

僕は傍にいたじいさんに話しかけた。

「…ワシらが住んでいる街の領主の娘です」

そんな人が捕まったら騒ぎになるだろ。親も血眼で探すだろうし。

「じゃあ、助かるんじゃないの?てか、何で捕まるんだよ」

領主の娘なんて護衛が必ずいるだろう。

「オリビア嬢はとても活発な方でいつも黙って屋敷を出ていくのです。それが何度かあって今回のようなことになりました」

オリビア嬢か……そう呼ぶってことはなんか爵位とかあるのかな難しそう。そういうの知らないしなぁ。聞いてみようかな。わかんないけど。

「えーと、その領主?の爵位とかって何?」

「ノースブルック伯爵です」

あー。わかんない。もういいや。そのノースブルック伯爵の令嬢なら護衛の人達がどうにかするだろ。

「場所は?オリビア嬢の」

聞くとじいさんは黙った。しかし、すぐに口を開いてくれた。

「おそらく、ノースブルック閣下は場所を知りません。オリビア嬢は〖火の森〗付近の名もない村に囚われています」

なるほど。あそこは予想してもしなくても治安が荒れているから奴隷売人のアジトになりやすい。

「……諦めたほうがいいね。いまの僕らじゃまず〖火の森〗に近づけない。多分そいつらは魔族に寝返ってる。行っても無駄」

蹲っていたライトの体がピクリと動いた。僕はそれを見逃さずにじいさんとの話を進める。

「その伯爵ってこの国にとってどんな役割を果たすの?」

まず常識がない分、僕はこの国のことを知らなきゃならない。

「国の国境付近など、重要な地域を任せられた軍事力のある貴族のことで、有事の時には率先して動かねばなりません。支配している領土も広く、普通の伯爵よりも権限が大きいのが特徴です」

「あー。やっぱいい。ごめん」

話が長くなりそうだからやめとこう。でも、そんな貴族の娘なら場所を教えればどうにかなるかもしれない。軍事力はあるんだろうし。

「なら、君らは場所を教えるだけでどうにかなるかもしれない。そのオリビア嬢がそこにいるのは確かなんだろ?一人娘なら必ず助けるんじゃないか?」

「それじゃあ間に合わない!」

ずっと黙っていたライトがまた大きな声をあげる。うるさい。

「けどそれしかないよ。僕にはここを管理する役目があるから1人の人間を助けにここを離れる訳には行かない。〖水の森〗が無くなればこの国はほんとに終わるよ」

「どうでもいい!俺とオリビアがこの国から逃げればどうにかなる!」

えー。そうきたかぁ。理不尽なやつだなぁ。仕方ない。

「ねぇ、何か蓋のある入れ物ある?液体入れるヤツ」

僕は周りにいる妖精たちに聞いた。しかし、首を縦に振らなかった。なんだないのか?じいさんたちは自分たちに聞いたと勘違いしたようでざわざわし始めた。

「まさか、この湖を分けてくれるのですか?」

代表としてじいさんが聞いてきた。ぱっとライトが顔をあげる。

「違うよ。もっと良い奴」

湖の少しの量で回復させられるかわからない。僕は自分の右手を見つめる。あのスキルならどうにかなるかも。

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