第17話 賊を発見しましたっ

魔像の大軍に森を荒らされたせいで木々が倒れていたり草花がぐちゃぐちゃだ。所々魔族の魔力も感じられる。僕はまずスキル『吸収』で魔力を吸い取り植物たちの整理をする。その間も妖精たちは僕の周りを囲んでいた。監視と言うよりもただの興味本位みたいだ。飽きて離れていく妖精もいる。けれど森の至る所に妖精がいるので増えたり減ったりしてあまり変わらない。最初に見たモフモフの妖精は僕に懐いたのかずっと肩にくっついていた。

僕は構わず森の状況の確認と整理を繰り返していた。森は広いし半分も確認できてない。今のところ妖精たちに異変はないし問題はないのだろう。今日は時間もないし日ももうすぐ沈む。精霊樹に戻って体を休めよう。


精霊樹の前にたどり着き根元に座る。日が沈み辺りが暗くなる。寒くはないし暖かくもない。ソフィアさんがいなくなって少し寂しい。

ブンブンッも頭を振る。その様子に妖精たちは驚く。

「いやいや、もう二度と会えないとかないから!寂しいとか!ないから!だってこんなにかわいい妖精たちがいるんだし!寂しくないって!たった1ヶ月だよ!?頑張れるよ!」

誰に言い訳してんのか。大声を出して妖精たちは目を見開いていた。

「あー、ごめん」

僕は体操座りで体を丸め膝に顔を埋める。

僕の元の世界のことを考える。家族とか友達とか。家族とはお互い仲良かったし毎日喋っているの楽しかった。友達だってしばらく会えてなかったけれど登校日にはおしゃべりしたり遊びにも行っていた。大切だったし助けられた。急にこの世界に来て何か実感するんだろうけど僕は結局冷たい。もう、過去だ。昔はもういい。とりあえず今のことを考えること。あの世界に未練とかなかった。もちろんやりたいこととかあの世界にしかないゲームとかアニメ、漫画、本。沢山あるけど。夢だって。あったけど終われば何も無い。とりあえず諦めて今を考える。切り替えだ。あの世界に僕がいてもいなくても同じことだ。





目が覚める。空には太陽が登っておりどうやら朝のようだ。あのまま寝てしまったのか。僕は立ち上がり森へ向かう。妖精たちも着いてくる。昨日は時間が少なかったから半分行けなかったが今日は1日散策すればいいだろうか。この森の広さ感覚掴めないし。精霊樹を中心に散策する範囲を広めよう。

僕が森を歩いていると人型の2匹の妖精がの妖精が何かを持って僕に近づく。

「なにこれ」

蔓?の輪っか?ゴムみたいに小さい。所々葉も生えてる。どこかで取ってきたのか?でもちょっと手作りに見える。妖精は僕にそれを渡してきた。僕は両手で受け取り触ってみる。少し伸ばしたりするとゴムみたいに伸びた。簡単にはちぎれない。

もしかして、

「僕が髪邪魔とか言ったから用意してくれたとか?」

妖精たちの表情が明るくなった。どうやらそうみたいだ。独り言を真剣に捉えられるとは思ってなかった。恥ずかしい。

「あ、ありがとう」

少し照れながら僕はその植物のゴムで髪を留める。ポニーテールにしたら少しは女らしいだろうか。異世界だし髪の長い男も普通にいるだろうな。

「あー、それとこの森の大きさとか知りたいんだけど」

地図があったらいいけどあるのかな。

妖精たちは木の枝を見つけると地面に文字を書き始めた。

………わからない。

「ごめん。文字読めない」

この世界の文字も読めるようにしなきゃ。でもソフィアさんとは話せたし魔族とも話せた。もしかして妖精独特の文字だろうか。でも僕の話す言葉は理解してるみたいだし。

「地図………はないよね」

仕方ない。散策しながら森の大きさを調べるか。僕はまた足を進める。昨日とは反対方向に向かってみる。肩には同じようにモフモフの妖精が眠っていた。よく寝れるね。


それにしても魔族はなんというか慎重な戦い方をしてるな。かと思えば昨日は大群を送り付けてきたし。なんというかバランスがおかしい。プライド高いみたいだし多くなったのなら下級魔族は殺すとか言いそうだけど。仲間意識が高い?うーん。わからん。情報が少なすぎるしとりあえず森の調査だな。


しばらく歩いていると妖精たちが何か丸まった紙を持って僕の所へ来てくれた。

もしかして地図?めっちゃ嬉しいんだけど。これは羊皮紙かな?異世界だなぁ。

広げてみると森や街のような地図が描かれていて4つの森がある国の首都囲んでいるようだ。首都の周りや森の境には集落もいくつかある。名前が書かれているようだが全く読めない。しかし、何とかなく把握したこの一番広い森が〖水の森〗だろう。その中心近くに何か赤い点が点滅してる。なんだろ。一匹の妖精がその点滅している赤い点を指差し次に僕を指差した。

「………」

僕は訳がわからず首を傾げる。すると、苛立った妖精がビシビシッと地図を指差す。短気だ。

「もしかして、この赤い点はこの地図の現在地をさしてる?」

パァと明るくなる。するとトンビのようにグルグルと飛び周りだした。……ジェスチャーでなんとか掴まないとな。この子は何か怒りっぽいようだ。

「凄い便利じゃん!ありがと!大切に使うよ」

僕は地図を見ながら森を散策と調査を再開する。

単純な調査や整理など置かないながらなんとなくは森の広さがわかってきた。またに出てくる魔物は気絶させ魔力を吸うと普通の動物に戻った。そのまま置いて行くのも可哀想だから目が覚めるまで傍にいた。目が覚めるとどこか行くかなと思っていたが妖精たちみたいに着いてくるようになる。他の動物たちも何かと僕に懐いき始めたようで僕の周りはたくさんの動物や妖精が囲んでいた。傍から見たら白雪姫だ。なにこれ。仕事の邪魔にはならないので無視した。戯れることもしなかった。しかし、夜は暖かった。

3週間が経ってあと1週間でソフィアさんが戻ってくる。今日は森の端を散策しよう。





だいぶ森も綺麗になってきた。異変は今までなかったし油断せず森を管理しよう。そう思っていると気配がした。少し離れたところから馬車?のような音が3つ。僕は音をたてずゆっくりと近づく。木の影に隠れ様子を見る。馬車は予想通り3つ。それぞれ馬は2頭ずつで御者は1人の男がそれぞれ乗っており周りには武器を装備した少し怖そうな男たちが周りを警戒しながら歩いていた。貴族?けれど馬車が古いしボロい。あの中にたくさん人が乗っている。人を運んでいる?周りにいる人たちは護衛かな。どうしよ。人間が入ってきた場合を全く考えていなかった。何も言われてないしそのままでいいのだろうか。それにしても護衛の人達は警戒しすぎじゃないか?いくら魔物がいるかもしれないとしてもこの森は浄化されていることは知っている。そんなに警戒しなくていいはず。あの中はそんなに大事な人達なのだろうか。


ジャラッ


鎖の音?馬車の中から聞こえてくる。なんだ?鎖と人。罪人?このまま進めば国境を出る。国外追放?でも人多すぎるし。

「…奴隷?」

僕がつぶやくと近くの妖精が頷いた。

「誰だ!」

僕の気配に気づいたのかリーダー的存在の人が声を上げた。僕は一瞬迷ったが怪しい人たちの前に出た。護衛たちが武器を構える。僕1人なんだけど。

「女?……いや、男か」

おい、今胸見ただろ。やっぱ髪長いだけじゃダメなのか?まぁ、男でも女でもいいけど。

「何運んでるの?」

とりあえず聞いてみた。

「貴様、何者だ」

「いや、質問を質問で返さないでよ」

僕は呆れたようにつぶやく。この世界に来て初めて会う人間。武器を構えられると悲しいな。

「答える義務はない」

「じゃあ、僕もそれで」

適当に返事すると部下の1人が僕を睨む。

「舐めてんのか、てめぇ!」

部下が僕に殺気を飛ばした。僕はそれを適当にあしらってリーダーを見つめる。

「この国は奴隷制度があるの?」

部下たちが驚きリーダーは目を見開く。それを無視して隣にいた妖精を見つめると首を横に振った。

「他所もんか?」

リーダーは頭がいいようで落ち着いたように僕に話しかける。まぁ、僕は男に話しかけてるようで妖精たちに話しかけてるけど。

「奴隷って犯罪だよね?」

妖精は首を縦に振る。

「てめぇ!質問に答えろ!」

「なんで?」

舐めたような僕の言葉に部下たちが苛立ち始める。部下の1人が1本前に出る。

「やめろ」

しかし、リーダーが止めた。

「ボス!」

なぜと言うように部下はリーダーを見つめる。しかし、リーダーは僕から目を1度もそらさない。

「いいからやめろって言ってんだよ」

リーダーはかなり慎重な男のようだ。ただの山賊なら襲いかかってきそうなもんだが。

それにしても僕の様子をじっと見てくる。

「精霊じゃねぇな。この森には今いねぇはずだ」

驚いた。そんなことがわかるのか?この森に入ってきたのかな?だったら僕や妖精たちが気づくはずだし他の方法かな。

「ううん。僕が精霊」

「嘘つけ。精霊は女のガキだ」

僕はガキじゃないけど女だよ。まぁ、言わないけど。

「馬車にいる人たち解放しよっか」

どんな方法で縛られてるかわからないが犯罪なら見逃せない。妖精たちも止める様子ないし多分これは正解。

「もしかして、精霊がいない隙に国境抜けようとしたの?」

部下たちが一瞬戸惑う。図星か。

「奴隷ってどんな方法で縛ってるの?暴力?恐怖?人質?魔法?」

ここで僕は妖精を見る。妖精は指を4本たてた。

「魔法?」

部下たちがざわつき出した。リーダー以外はわかりやすい。質問責めをすれば相手は戸惑い慌てる。

「だとしてお前に何が出来る」

開き直った?よくわかんないけど表情からしたら僕はどうにかできると思ってるみたい。わまぁ、僕もこいつらをどうにかできるかわからないけど。

「クソ!バレた!殺すぞ!」

部下の1人が声を上げて他の男たちも動き出す。今度は本気出来そうだ。スキルは使わない今使えるのだけ。僕は構えた。

「やめろと言ってるのが聞こえねぇのかぁ!!」

先程よりも大きな声でリーダーが叫ぶ。ビリビリとしか空気部下たちは立ち止まった。僕もびびった。

「あいつの左手首見てみろ」

「なっ……!」

驚く部下たち。僕もつい見てしまったがそういえばソフィアさんに貰った称号の印が刻まれてるんだった。忘れてた。

「奴が構えた時に見えたがあれは『森の管理者』だ。お前らが武器だけでどうにかできるもんでもねぇ」

「精霊が回復してすぐ!?早くないっすか!?」

どうやらこの称号は脅しに使えるみたいだ。まだ、この世界の常識を知らないから今は奴隷たちの解放と賊を追っ払うこと。何人いるかな?5、6人?御者含めて9人?なんとかなるかな?

「しかし、管理者は妖精や動物たちを従えて攻撃する。管理者自身はそんなに強くねぇ」

そうなんだ。思わぬ情報が手に入ったな。だから妖精や動物たちは着いてくるのか。

「そうなんすか!けどなんで武器じゃダメなんすか?」

「魔法ですね」

部下たちがリーダーに話しかける。作戦でも練っているのか。どうしてこんなに頭が回るのに犯罪者なのか。勿体ない。

「そうだ。風魔法で妖精どもを吹き飛ばし森の中に動物たちが潜んでるはずだ」

「ん?妖精が見えるの?」

「見えるわけねぇだろ」

「だよね」

でも、森の中に動物たちは潜んでないし操り方なんて知らない。勝手に着いてきてるだけだし妖精たちがどんな能力を持ってるかなんて知らない。


リーダーは剣を構えて僕に向けているが後方の2人以外の部下たちは周りの森を警戒し、御者も降りて武器を構えた。リーダーの近くにいる2人のどちらかあるいはどちらとも魔法を使うかもしれない。

「どうしよ」

スキル、魔法は使わない。ソフィアさんに許可されたものだけ。今更、スキルの確認なんて出来ないし幸いにスキル『怪力』は常時発動している。手加減しながら攻撃。難しそうだな。催眠使えば楽勝なんだけどあれは許可されてない。

僕が思考に浸っているとリーダーの後ろの2人が何かブツブツし始めた。呪文を唱えてる?魔力があの2人に集まる。微量だけど周りの魔素も少し減った?

「『風針』!」

2人の声が重なる。

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