第15話 正常な判断が出来ませんっ

「カナメは精霊樹にいてください!」

「えっ、ちょっ、ソフィアさん!?」

ソフィアさんは僕が呼び止める声を無視して飛んで行ってしまった。

「待って。嘘だろ…」

呆然と立ち尽くす僕に冷たい風が吹く。




ソフィアは精霊樹とは反対の森の端へ進んでいた。少しすると、何かの大群がこちらに向かってくるのが見える。数はおおよそ1万だろうか。全ての魔族の属性は雷。下級魔族と上級魔族の群れだ。この数ならソフィア1人でどうにか出来る。しかし、

「………魔将」

ソフィアは大群の奥にいる1人の男を睨みつける。紫色の長髪男だ。そいつだけ他の魔族と桁違いに気配が違う。魔将がいると相手を倒すのは難しい。カナメに頼るべきだったか。いや、彼女は今まだ不安定だ。

自分がやるしかない。

「…なんだ貴様。あの小娘か?」

男が喋る。どうやら魔族共はカナメを探しているようだ。

「……」

情報を漏らさないためソフィアは黙る。

「いや、この気配。…精霊か」

ソフィアは魔法で剣を召喚する蒼く光る美しい剣だ。

先手必勝!!

一瞬にして男の目の前にソフィアが現れる。虚を突かれた男は引こうとするがその前にソフィアが剣を振りかぶる。

「……っ」

咄嗟に後ろへ後退する男。しかし、片方の腕が森の中へ落ちていく。

「…ちっ、腐っても精霊か」

「……腐ってませんよ」

男はまだくっついている腕を平行に上げる。すると、魔族達が森へと散って行った。

悔しそうにするソフィアを見てククッと男が嗤う。しかし、今は目の前の男だ。カナメは精霊樹にいるはず。襲われることはない。

「腕1本、無くなっただけで調子に乗るなよ」

パリパリッと男の体に電気が宿る。魔法を使うのだろう。周りの魔素と男自身の魔力が大きく動き出す。

男が無造作に腕を振り下ろした。ソフィアは来るであろう衝撃に備えた。

「…え」

しかし、いつまで経っても衝撃が与えられず不思議に思い目を開けるとバキバキッと木々が倒れる音がした。雷が落ちたのだ。炎も上がっている。

「…なっ」

唖然とその様子を眺めるソフィア。森は先程の魔族のせいでめちゃくちゃされている。また、一瞬にして地獄に変わっていく。

「……そんな、詠唱もなしで…こんな魔法…」

「精霊は直接叩くより森を攻撃した方が効率がいいからな〖火の森〗での経験を魔王様から頂いた」

馬鹿にしたようにソフィアを見下ろす。ソフィアは静かに殺気を飛ばした。

「…まだ、やるか」

構えるソフィアに男も大剣を召喚した。どちらかと言うと筋肉質には見えない体だが軽々と大剣を振る。

「当然です」

2人は同時に剣を振りかぶった。





僕はソフィアさんに言われた通りに精霊樹にたどり着いた。急に空が暗くなり魔族が押し寄せてくる。しかし、湖に囲まれたこの精霊樹には近づけないようで湖の向こう側で色んな魔族達が僕を睨んでくる。

「こわっ」

僕はステータスを開き魔力を確認。やはり変わらない。明らかにソフィアさんがこの数の魔族に勝てるはずがない。何かしら手を貸さなければこの状況を打破することができない。


【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)

【種族】人間

【性別】女

【年齢】18

【属性】なし

【職業】なし

【レベル】45

【称号】暴食

【スキル】悪食lvMAX、突風lvMAX、光合成、聴覚lv2、脚力lvMAX、暗視、復活、ポイズン、万能薬、精神抑制、体力回復lv2、解毒剤、解呪lv2、酸耐性lv3、酸lv3、威圧耐性lv3、吸収、威圧lvMAX、結界lv3、隠密lv3、催眠lv3、怪力lv3、糸lv3、痛覚耐性lv2、嗅覚lv2、

【魔法】蒼龍


【HP】650772139701/650772139701

【MP】8967447001394/8967447001394

【攻撃力】29371034259

【防御力】34732072934

【魔力】8967447001394

【素早さ】73541079942

【運】307

【魅力】0


魔力コストの高いスキルは使えない。もっと燃費の良い奴。ポイズンで相手を麻痺させる?けれどこの森にも影響が出てくる。吸収で魔力を奪う?触れなければ意味が無い。どうする?

僕はスキル『聴覚』で敵の数を数えてみた。約1万?魔族全体の数がどれくらいかわからないがこんな数指揮官がいなければ動くことなんて無理だ。ならソフィアさんはそいつと今戦っている。僕はもう一度集中しソフィアさんを探す。

いた!

少し離れたところに剣?の交わる音?それで戦っているのか?音だけじゃ判断できない。しかし、互角で戦っているようだ。僕が参戦すれば勝てるかもしれない。先程雷も落ちたそのせいでソフィアさんの力が弱くなったかもしれない。森も荒れてる。僕はスキル『隠密』で気配を消し精霊樹から離れた。魔族達は急に消えたことに驚きキョロキョロとしている。その後コストが大きいが素早く動くために『突風』でソフィアさんの元へ急ぐ。






弾ける火花。鈍い音。鉄と鉄が擦れるおとが嫌に耳に響く。ソフィアは苦戦していたがどうやら男もだいぶ苦戦していた。キイィンという音が大きく響きお互いの剣が折れた。

その瞬間男の体が帯電する。

「あぁっ!」

ソフィアは咄嗟に後退することが出来ずに男の帯電も直接受けてしまった。幸い気絶することは無かったが上手く体が動けず森の中へ吸い込まれるように落ちていく。しかし、男はそのまま止めを刺そうと片腕でソフィアの胸を貫こうとした。

「…っ!」

「ぐっ」

「!」

ソフィアと男の間に何者かの影が割って入ってきた。






僕は森の上で戦っているソフィアさんを見つけた。相手はさっき僕が見た魔族よりも強い気配を感じる。紫色の髪の毛で長髪だ。細身に見えるのに大剣を振り回している。その男は左腕を失っておりどちらかと言うとソフィアさんが優勢だ。しかし、意図的なのか不自然に両者の剣が折れる。その瞬間パリパリッと紫色の電気を男が発動させた。それをソフィアさんをさんは避けることが出来ずそのまま森に急降下する。見計らった男がソフィアにもう一度攻撃を仕掛ける。僕は超特急でソフィアさんと男の間に割って入った。

「ぐっ」

腹に痛みが伝わる。

僕の腹を男の腕が貫いたのだ。ズズズッと腕が食い込む。目の前の男は驚いていた。このままにしていれば僕は死ぬ。しかし、蒼龍に体半分持ってかれた時死ななかった。どんな状況下だったかわからないがこのくらいで死なないだろう。両手で僕の腹にめり込んだ男の腕を掴むそのまま離れないようにする。

「なっ何をするつもりだ!!」

僕の様子に男が慌てる。お腹を突かれてもこんなに頭が冴えている。これもスキル『痛覚耐性』のおかげなのだろうか。それでも痛いは痛い。でもあの時ほどではない。

「…はぁっ何する…と思う……?」

荒い呼吸をしながら男に嗤いかける。男は僕の挑発にイラついただろう。グチュリと腕を動かす。

「があぁっ」

痛いが広がる。苦しんでる僕に男は笑った。

「カナメ!」

下からソフィアさんの声が聞こえた。僕はソフィアさんに聞こえるよう叫ぶ。

「死なない!から!!…うぅっ…他の魔族をっ……!!!」

森が荒らされている以上それを阻止しなければならない。森の侵略それは元々魔族どもの考えだ。どうして急に大群で押し寄せてきたのか。それにこんなのんびりとした計画。気配からしてほとんどの魔族はソフィアより弱い。そして、ソフィアと互角であろうこの男。魔将か?僕がいるのに勢力が弱すぎる。おかしい。もしかして魔族は頭が悪いのだろうか。相手は僕の存在を酷く警戒していると思ったけれど。

いや、今は思考に没頭するな。まずはスキル『復活』で体を再生させこいつの腕をガチガチに固める。

ソフィアさんは体が痺れるのか動けていないでいる。

「ソ、フィア、さん!も、りを優先!させて!」

僕の言葉が届いたのかソフィアさんはゆっくりと魔族の大群の方へ進む。

「させるか!」

「……ぐっ、」

僕を突き刺したまま慌てたようにソフィアさんの元へ行こうとする。まさか1万の数の魔族がソフィアに負けると思ったのだろうか。ソフィアを甘く見ていた?

ドバドバと溢れてくる血が雨のように森へ吸い込まれる。

僕はスキル『糸』で男の足は胴体を木々と繋げ動けなくした。細く硬い糸は男の体をくい込ませる。両手は塞がっているため足でしたら不格好だった。後で練習だな。

「くっ貴様!!人間の分際で!!!」

どうやら魔族はプライドが高いようだ。そこが今回の甘々な大群の原因かもしれない。

「そんな、人間の腹に、腕突っ込んで、離れ、られないのは、誰だよ!」

僕は挑発を続ける。ニヤニヤとこれでもかと言うほど嘲笑ってやる!こちとら1度体半分無くしたんだ。腹に風穴開けられようがどうって事ない!!

本当は苦しいし、痛い。時間が経つにつれて痛みが酷くなっていく。カタカタと掴む手が震える。本当は死ぬんじゃないか。また、狂ったように暴れるんじゃないか。怖くて怖くて仕方ない。

でも掴む腕は力を込めてここで協力なスキルを使えばコントロールできない僕が森を壊してしまう。それに相手からの情報が欲しい。

その時、魔力の流れを感じた。どうやら男が魔法を使うらしい。僕はすかさずスキル『吸収』で魔力を吸い取る。

「な、なんなんだ!!我ら魔族の邪魔をしやがって!!許さん!許さんぞ!!」

魔力を吸われていることに尚更男は暴れ、グチュグチュと腕を動かされ僕は発狂した。

「ああぁぁあっ、痛い痛い痛い!!ふざけんなよ!!お前!!!ぶっ殺すぞっ!」

しかし、意外にも僕は元気だったらしい。こんなにはっきりと文句を言うとは男も思わなかったらしく目をパチクリとさせている。全く可愛くないからな。ソフィアさんの方が可愛い。

「ていうか!そんなに慌てて!!こんな弱い大群連れてきて!君の上司は馬鹿なんだろうね!!」

僕は痛みを根性で堪えて先程よりも大きな声で男に怒鳴った。

「なっ!エデン様を侮辱するつもりか!!」

上司って言葉通じるんだ。てか、エデン?誰だそれ?魔神か?

「当然だろ!!こんな人間1人に!手こずりやがって!!」

このまま、一気に魔力を吸い取る。やはり魔将なのか、かなり魔力を持っているようだ。

「人間の分際でええぇぇぇえぇ!!!!」

「うるせぇ!!!!」

なんというか口喧嘩にも思えるその会話は森に響く。バタバタと男が足を動かし始める。どうやら糸を無理やり引きちぎるつもりらしい。

プシュップシュッと血液が吹き出してきた。

おいおい。足取れるよ?

「があぁぁぁぁああぁぁっ!!」

怒りでどうやら目の前が見えなくなっているらしい。もう正常な判断が出来ていないのだろうか。

構わず魔力を吸い上げる。


ドクンッ


何かが弾けた。


僕は目の前の男を見るが変わらず暴れていた。そのせいで腹が痛いし苦しいし熱い。けれど再生は止まらない。

僕の中で何かが弾けて開放された。しかし、そのあとはなのも起こらずただただ男の叫び声と暴れ出す足が鬱陶しい。それに暴れているから腕が僕の腹をブチュブチュグチュグチュ掻き混ぜる。

ブンっと何かの風が僕の頭上に迫った。

「…やばっ!」

まさかの男のもう片方の腕が再生されていたのだ。それが僕の首目掛けて振り下ろされる。待って待って待って。さすがに首狙われたら死ぬ──────!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る