第12話 頼ってくださいっ
少女は自分の胸のかなにいるカナメをそっと抱きしめる。そっと地面に寝かせカナメのお腹に両手をかざす。瞳に魔法陣が輝く。
「『蒼瞳』」
少女はもう一度カナメのステータスを見る。他のスキルは魔物から会得したもののようだ。しかし、スキル『悪食』はどこから来ているのだろうか。生まれつきの可能性もあるがこんな短時間に成長するはずもないしこんな協力のスキルが産まれるはずもない。もしかすると与えられたものだろうか。協力すぎるスキル。もしこのまま成長すればこの世界なんて簡単に崩壊する。危険だ。しかし、精霊である自分がこのスキルを消せるかと言われれば絶対に出来ない。このスキルの原点。いったいなんだ?
少女の『蒼瞳』は膨大な魔力を使うため使いすぎれば当然身体に影響が出てくる。
少女が苦しみ出す。もっと深くスキル『悪食』について見ようとする。しかし、何かに邪魔されて上手く知ることが出来ない。
精霊如きが知るものでは無いと言われているようにも思う。
「でも、もうすぐ…見えそう……」
膨大なスキルの情報が少女に流れてきて消えていく。少女が知りたいのはスキル『悪食』の情報だ。他のスキルは簡単に流れてくるのに『悪食』だけが厳重な鎖で鍵をかけられている。しかし、その鍵が開きそうな時。
ジュッ
「……ああぁっ」
目が焼けそうになった。咄嗟に少女は『蒼瞳』を解いた。
今までに経験したことも内容な痛みが少女の瞳に襲いかかる。表面からではなく瞳の中心から焼かれる感覚。
しかし、断片的だが見えた。これは神秘的なもの。ただの人間が簡単に手を出せばその存在が消える。少女は今まで異常に恐怖した。まさか、カナメがこんな恐ろしいスキルを持っているとは思いもしない。完全に無理だ。このスキルは消せない。
少女の目から血の涙が流れる。痛みが引き息を吐く。
「どうしましょうか」
しかし、消せないからと言ってカナメを放って置く訳には行かない。助けなければ。
少女は懐から魔族の黄緑に輝いた水晶を取り出す。今は少女の魔力も圧縮させているため所々蒼色にも輝いている。それをカナメのお腹に押し当てる。
「『蒼瞳』」
『蒼瞳』でまたステータスを見る。膨大な情報が流れてくる。その奥にある鎖できつく縛られた何か。少女は水晶の魔力を使って少しずつ解いていく。自分の魔力だけでは出来ない。あの魔族に少なからず感謝した。
ジュ〜〜〜
目が焼ける。しかし、今度は止めなかった。鎖を解き書き直す。『悪食』を消せなくても変えることは出来るはずだ。とりあえず彼女の飢餓状態をどうにかしなければならない。
鎖を解いて行くと少女ではどうにも出来ない情報が流れてくる。そのひとつひとつが少女に襲いかかってくる。スキル自体が襲ってくるとかどうなんだと少女は苦笑した。その情報はひとつも見逃さない。視界の端に赤いものが見えてもスキルの情報を書き換えることを止めることはしなかった。
涼しく優しい風が僕の頬を撫でる。木々のざわめきが聞こえてくる。鳥のさえずりも子守唄のようで心地良い。目を見開くと葉が揺れて暖かい太陽が僕を向かい入れてくれた。
体を起こすと柔らかい草が揺れる。どうやら僕は大きな樹木の下で寝かされていたようだ。周りは湖に囲まれていて後ろを振り返ると僕を優しく見つめてくる大樹が見える。とても大きくて自然の有難みが伝わる。湖はその大樹を包むように広がっているようだ。
「どこだ、ここ」
「目が覚めましたか?」
上から美しい音色が聴こえる。なんだこんな森に楽器があるのか?話が出来る楽器ってなんだよ。
見上げると先程僕と戦っていた少女が上からフワリと降りてきた。手には大きな葉を抱えている。美しい姿に左目には眼帯をしていた。最初にあった時はしていなかったはずだが。まさか。
「あ、あの!目!目!どうしたんですか!?もしかして僕が!」
「あなたの攻撃は私にダメージを与えていません」
「へ?」
即答。動揺する僕に少女は優しく答える。凛々しい。
何だこの人。めっちゃかっこいい。小さい女の子なのに。かっこいい!
少女は手に抱えている葉を僕に差し出す。
「木の実です。元気が出ますよ」
少女はそう微笑んでくれた。初めて出会う人間。いや、上から飛んで降りてきたから人間じゃないかもしれないが美しすぎてそんなことはどうでもいい。とりあえず僕はこの人の姿に見とれていた。
「どうしました?」
「あ、いや。食べます!ありがたくいただきます!」
僕は恐る恐る葉の皿を受け取り木の実を口に運ぶ。あぁ!うまい!幸せだ!こんな美しい少女に取ってもらった木の実を食べれるなんて僕はなんて幸せなんだ!
「ふふ」
少女はそんな僕の姿に微笑む。それすらも綺麗すぎて僕の目には眼帯は映っていなかった。ほわぁと少女を見つめると少女が僕の隣に腰をおろす。ぼ、僕なんかの隣に座って大丈夫ですか!?
「ところであなたの名はなんと言いますか?」
「ふぇ、僕ですか?」
あなたのような美しい人に名乗る名前なんてないですよ!待って!そんな美しい顔を僕に近づけないで!!
「はい。私はソフェアです」
「えと、僕はカナメ。コンモトカナメです」
「カナメですね」
こんな美しい声で僕の名前呼んでる!耳死ぬかも。
ソフェアは僕の名前を聞いて嬉しそうに笑う。見た目は女の子なのに大人っぽくてかっこいい。綺麗だ。もしかしてこの人妖精とか精霊とかじゃないだろうか。
「私はこの〖水の森〗の精霊です。友人として仲良くしてくれますか?」
ガチの精霊だった!!マジかよ僕結構この森の魔物とか木とか滅茶苦茶にした覚えがあるんだが。でもソフェア、さん?様?は全然怒っている感じではないな。友人て。今最大の運を使っているのではないだろうか。てか、ここ〖水の森〗て言うのか。
「え、あ、それはソフェア、様?が良ければ僕はなんでもします」
精霊という存在に混乱しながら僕は急いで答える。ていうかなんでもしますって。僕は童貞かよ!いや、まず男でもなかったわ。
「カナメはユーモアがありますね。私のことは様付けしなくていいですよ」
え、マジ?なら『さん』とか?様って呼ぶのあまり慣れてないし。って、何甘えてんだよ!
心の中でツッコミを入れる。隣にいるソフェアさんは立ち上がる。あれもう行くの?と少し悲しそうな目で見上げると一瞬ソフェアさんが固まる。しかし、すぐにふっと笑い、手を差し出した。
「えっと……」
僕は困った。初めて出会う可愛らしい精霊に触れていいのかと心の中で思う。
手を見つめて迷っていると上からソフェアさんが声をかける。
「どこにも行きませんよ。ここは私の家ですから」
「わ、わかりやすかったですか?」
表情を読まれたことに僕は顔を赤くした。
「精霊ですから。多少は人の感情を感じることが出来ます」
ふふと笑うソフェアさんはとても嬉しそうだった。僕は少し心が踊る。この世界で初めて出会う人が優しい人でよかった。
「カナメさえ良ければあなたのことを知りたいのですが聞いてもよろしいでしょか」
優しく笑うソフェアさんに僕の不安なんて吹き飛んだ気がした。僕はソフェアさんの手を掴んだ。すべすべして僕より小さな手だが心強い味方をもった、と心の中で安心した。
「全然大丈夫です!」
僕は異世界から来たということから今までのことを全て話した。本当なら異世界から来たことを話した方がいいか迷ったが不安を吐き出したくて話してしまった。ソフェアさんは驚きも動揺もせず優しい表情で僕の話を聞いてくれた。この人が動揺することってあるだろうか。
「それで、何が何だかわからずここにいまして………」
少し辛いところもあったがソフェアさんの顔を見ると安心した。
僕はソフェアさんに連れられ大樹の大きな枝に座り話をしていた。最初体が浮いた時は驚いたが自分だって飛べるだろと自分を笑う。大きな森を景色に気持ちいい風が吹いていた。
「異世界からの転移……なるほど。それは神の領域ですね」
ソフェアさんは僕の話が終わるとそう呟いた。
「神?えっと、すみません。僕の世界では概念はあるんですけど神とか妖精とかあまり信じてなくて…。まぁ、この状態で完全にいないと言いきれなくなったんですけど」
「そうですね。魔族や妖精、私のような精霊は存在すると言えますが神は曖昧で精霊である私もあったことはありません。存在は感じますけど神ですから人の前に現れません」
なるほど。精霊さえも会わないのか。でも存在はしているみたいだ。この世界の神の概念では僕の世界と一緒なのかな?
「しかし、あなたは非常に神の存在と近い状況にあります」
「え?そうなの?」
「はい。あなたのスキル『悪食』は神秘的なものです。私の片目を傷つけるほどです。実際精霊は人間からの攻撃にダメージをおうことはほとんどないのです」
そう言ってソフェアさんは左目をさする。
「待って。じゃあ、結局その目は僕のせいじゃないですか」
何ともないように言うソフェアさんに驚き僕は少しイラッとした。
「いえ、神からの攻撃です。あなたからの攻撃は痛くてもダメージになっていません」
威張るようにソフェアさんは答える。なんか変に子供っぽい所あるな。てか、痛くてもダメージならないってなに。ダメージの概念がわからなくなる。
「ええと、そういうことにしときます」
僕はソフェアさんにギャップを感じながら話を進めた。
「実際にそうなんですよ。……それでその神の領域は触れるだけで天罰がくだります。私の目は失明していませんが回復に時間がかかるでしょう。魔力もごっそり奪われました。少し悔しいですがカナメを救うためには犠牲は小さかったですね。飢餓状態、なくなりましたよね?」
魔力を神に奪われたことを悔しそうにしている。なんだ。可愛いな。そう言えば全然お腹空いてない。なんだこれ。さっきまで狂うほどお腹すいていたのに。
僕はお腹をさする。空腹でもないし満腹でもない。普通の状態だ。
「カナメのスキル『悪食』の能力を変えました」
……なんだって?スキルって変えられるのか?しかも神の領域ってさっき言ってただろ。なんでそう簡単に変えられるんだよ。しかも目を怪我しただけってあなたが神か!
「えっと、どういう事ですか?」
「少し、呪いに近いものですが害はありません。あなたのスキルと私の呪いでデメリットは打ち消しあっています。カナメは空腹を感じることで魔物達を食い荒らしました。その胃袋の大きさは膨大で下手すれば異空間です。そのため私はカナメの空腹の状態を呪い。2度と空腹を感じない体にしました。人間の三大欲求をなくしてしまって人間から離してしまったことに申し訳ない気持ちでしたがそれではあなたも世界も救えないと思いやむおえず呪いを発動しました。あなたのスキル『解呪』でもそれが成長しても解けない残酷な呪いです。本当にごめんなさい」
「謝らないでください。このスキルのせいで森を荒らしたんだし」
別に僕は空腹がなくなったからと言って別にそんなに嫌な思いをしていない。さっき木の実を食べたけど美味しかったし食の楽しさは感じられるのだ。
「別に食べ物は美味しく味わえるんですよね?」
「はい。そこは人間と同じです」
なら別にいい。空腹を満たすのも大事だと思うが僕は味を重視している。不味ければ空腹も満たされない。
「大丈夫です。気にしてません」
「ありがとう。けれど『悪食』の能力、食べたものを自分のものにする。そして、胃袋の大きさは変わりません」
それはなんか便利な気がするが暫く肉は食べたくないな。
「そして、空腹の限界に達すると一時的に身体能力が上がるという能力も必然的に失います。あってもなくても他のスキル『脚力』や『怪力』があるので問題はないと思いますが」
あれ?そんな能力あったっけ?もしかするとあのドラゴンを食べたことでレベルが上がったのか?そういえばステータス通知がたくさん来てた気がする全然見てなかった。話が終わったら見てみよう。
「私が行った呪いは出来るか出来ないかの境目でふとした時に呪いが解けるかもしれません。神の領域ですので精霊如きでは太刀打ち出来ませんので」
如きとか言わないでよ。僕の中では僕を救ってくれた神なんだから。てか、待って。僕まだお礼言ってない。
「いや!全然大丈夫です!空腹のせいで絶望的になっていたのでほんとソフェアさんにはとても感謝してます。僕を助けてくれてありがとうございます」
最初に目が覚めた時に言ってとけよ。それぐらい。常識だろうが。僕は心の中で自分を責めた。
「いいえ。お礼を言うのは私の方です。この森を救ってくださってありがとうございます」
ソフェアさんがふわりと笑う。僕はその顔にドキリとした。やっぱ綺麗な顔してる。不意打ちすぎるよ。ソフェアさん。
「そそ、そんな事ないですよ。逆に荒らした記憶しかないし…あはは」
照れた顔を隠すように目を逸らす。その様子に後ろでふふとまたソフェアさんの笑い声が聞こえた。やばい。バレてるよな。
「森にいる魔物達、あれはこの森にとって害でしかありません。あなたが倒した蒼龍も」
「……どういうこと?蒼龍はこの森の主とかじゃないんですか?」
「ふふ、主は私です」
そうだった。
「長い話になります。カナメのスキルの話は終わりましたが聞きますか?これを聞いたからと言って私はあなたに助けを求めているわけではありません。元の世界に戻る方法はわかりませんが今私たちの国から出て生きていくことをおすすめします。少し、嫌な話です」
ソフェアさんはとても悲しそうな顔をした。なんだ。国?国絡みに問題があるのか?でも、ソフェアさんが悲しそうな顔をするのは嫌だな。
「聞くだけ聞きます」
少し、素っ気なかっただろうか。けれどソフェアさんは嬉しそうに笑う。でもやっぱり悲しそう。
「この国はウィリアム国という国で4つの森によって中立を保っています。そのひとつが〖水の森〗です。この森ですね。他に〖火の森〗〖風の森〗〖土の森〗があります。その4つそれぞれに1人の精霊が存在しウィリアム国の人間や動物達にとって癒しの存在でした」
「でした?何かあったんですか?」
コクリとソフェアさんは頷く。
「魔界と言われる世界から攻撃を受けたのです」
「魔界?」
なんかラノベみたいな話になってきた。なんとなくわかって気がする。
「はい。魔界にいる魔族たちがウィリアム国を少しずつ侵略してきたのです。魔族の階級は下級魔族、上級魔族、魔将、魔王、魔神があります。魔神は1人、魔王は属性によって5人。魔将から下級魔族は数えきれないほど多く存在します」
階級か。ソフェアさんは魔界にいる人たちを悪魔じゃなくて魔族って呼んでるのか。悪魔はいるのかな。
「魔族の属性はこのウィリアム国の属性と違います。ウィリアム国の属性は森と同じように水、火、風、土の4つです。魔族たちの属性は炎、氷、雷、鋼、無の5つの属性です」
複雑そうな属性だな。無属性とか1番関係ない属性だ。しかし、侵略としてもウィリアム国だけなのだろうか。
「魔界はこの世界より空間が狭く弱い魔族は繁殖力が強いです。そのためたくさんの魔族が魔界で溢れかえり魔界を支配する魔神はこのウィリアム国を狙ったのです。ウィリアム国は強くも弱くもない国ですが土地が広く大量の魔素が溢れています。そこを狙われたのでしょう」
おっと。知らない単語が出てきた。魔素ってなんだ。『素』って字が入ってるから空気かな?
「魔素とは?」
素直に聞いてみる。すると、ソフェアさんは丁寧に教えてくれた。
「魔素というのは生物や空気中に漂っている極微量な魔力の素のようなものです。魔力は生物によって性質が違います。個性のようなものです。しかし、魔素はその生物の性質に変わる前のものです。そして、その性質によって魔素が魔力に変わり魔法を使うことが出来ます。魔法を使うには自分の魔力の性質を知ることと空気中にある魔素の性質を変えて自分にあった魔力に変える必要があります。魔法を使うには勉強が必要です」
なるほど。魔法は勉強しなきゃ出来ないのか。難しそう。てか、魔素も魔力も同じような気がするけど魔力はその人によって違うのか。性格とか遺伝子とか顔立ちとか?詳しく知りたいけどこれは後回しだ。
「そして、ウィリアム国はその魔素が多く漂っています。それを魔族は狙い攻撃を仕掛けてきました。最初にウィリアム国の中立を保つ4つの森に下級魔族の種をばら撒きました」
か、下級魔族の種?何それ。魔族が襲ってくるとかじゃないの?
「下級魔族の種は動物たちや植物たちに悪影響を及ぼしました。動植物たちは種を体内に摂取したことで下級魔族に変わっていったのです」
待て待て。何それ。怖っ。僕それ食べてたのかな。気持ち悪っ。
「それが魔物ってこと?」
「はい」
「魔物はこの森にどうな影響を及ぼしたんですか?」
「まず生態系を崩されました。そして、下級魔族の種は実験の途中のような未完成のような魔力の性質で魔素なのか魔力なのかわからないものを森に漂わせたのです。魔物のせいで他の動植物たちにも影響を及ぼしました。例えばで言うと毒ガスが蔓延したような感覚です」
そのせいでこの森は衰退して行ったのか。あのジメジメした感覚はそれなのだろうか。
「私の力は〖水の森〗に比例します。森が衰退すれば私も弱くなる。私は残りの力を振り絞って妖精や貴重な植物たちを守り続けました」
「妖精?」
「はい。肉体を持たないなかったりある動物が進化したものです。貴重な植物も妖精に近いです」
もしかしてこの前見た珍しい動物達のことだろうか。見えないってことは今も僕の近くにいたりする?
僕は周りを見てみる。森の景色が続いていて動物達さえも見えないし妖精みたいなのも見えない。ソフェアさんはキョロキョロしている僕にクスリと笑いかける。
「魔物に支配されそうになっても人間たちは諦めませんでした。国を守るため人間たちは森に魔物の討伐をしに来たのです。魔物一体で普通の人間は3人でかかってやっとという程の力の差がありました。しかし、人間たちも力をつけやっとの思いで魔物を少なくすることが出来たのです。しかし、」
そこでソフェアさんは話を止める。初めて目を背けられ僕は不思議に思った。ソフェアさんの瞳には悔しさや悲ししみが入り交じっていた。
「卵を置かれたのです」
「卵?」
ソフェアさんの目が伏せられる。なんだ。抽象的すぎる。そんなにショックな事が起きたのか?魔物だけでも大ダメージなのに。
「膨大な魔力をもった複雑な性質の龍の卵」
僕はあっと声を出した。もしかしてあの蒼いドラゴンのことだろうか。
「あの卵は協力でした。恐ろしかった。卵の状態だけでもタチの悪い魔力を漂わせているのに生まれたの龍は桁違いに恐ろしかった」
ソフェアさんの敬語がなくなる。龍が産まれた時を思い出しているのだろうか。確かにあの龍は桁違いの魔力量で僕にとっては魅力的なものだったがソフェアさんや人間にとっては恐ろしいものだったのかもしれない。
「卵と種は多分魔族達にとって諸刃の剣のような気がしました。それでも力は大きく森を破壊するのに十分でした。魔物は人間である冒険者達が狩り卵は何人ものの大魔道士達が封印しました。卵も種もどちらも普通の魔法ではない方法で作られているように思えます」
普通じゃない魔法。想像がつかない。
「カナメはこの世界に疎いのでわからないのですが古代魔法と言われるものです」
また、知らない単語が出てきた。
「古代魔法は複雑な、そして強力な魔法です。大魔道士でも簡単に扱えない代物。古くから存在し危険なため封印されたものです」
ソフェアさんの瞳が恐怖を彩る。僕はわからないがそんなに恐ろしいのだろうか。
「古代魔法を扱える魔族は無属性の魔族だけ。無から作り出す魔法。魔族にウィリアム国の属性の卵を生み出すことが出来たのも無属性の魔王がいたからだと思います」
ん?というとあのドラゴンは水属性の魔力を持っていたのか?だから青かったのか。綺麗だったけどそんなに恐ろしいものなのか。
「その卵のせいで〖火の森〗が奪われました」
「えぇ!」
マジかよ。バランス悪くなったんじゃないの?
「〖火の森〗を奪われないため3人の精霊は〖火の森〗の精霊の元へ向かいました」
ソフェアさんは僕に目を合わせることが出来ないのかしないのかずっと俯いたままだった。そんなにソフェアさんに僕は不安を感じる。
「けれどもっと最悪な事が起きたのです」
地獄じゃないか。ソフェアさん、最初に嫌な話って言ってたけど僕よりソフェアさんの方が辛そうだよ。
「炎属性の魔王が直接森を奪いに来たのです」
展開が早すぎる。何が起こったんだよ。
「魔族はプライドが高くすぐには自分の存在を現しません。部下を使って人間を襲うのが魔族のやり方です」
確かに。部下にやらせれば自分は傷つかないからな。でも、炎属性の魔王は。
「なのにどういうことなのか魔王が直接奪いに来たのです。意味がわからない」
精霊たちは簡単にやられたのだろう。ソフェアさんの顔を見ればわかる。
「〖火の森〗の精霊は魔王によって倒され私含め他の精霊は深い重症を負いました」
今でも鮮明に思い出すのかギリッとソフェアさんは悔しそうに唇を噛み締める。ダメだよ綺麗な唇が傷ついちゃう。
「そして、それぞれウィリアム国の属性によって置かれた卵はそれぞれの森を浸食し、〖火の森〗は火龍が孵り他の森の卵もゆっくりと力を増していくのです。その時に現れたのが」
ソフェアさんは、やっと僕の目を見てくれた。優しそうな目だ。僕はやはりドキリとする。同性にときめくとかあんまりないのに。
「カナメ。あなたです」
声がいい。ソフェアさんはなんで僕の名前を呼ぶ時にそんな優しい声で呼ぶんだ。耳が死んじゃう。
「僕?」
僕は自分を指差す。ソフェアさんの顔に見とれて名指しされた理由がわからなかった。おい、カナメ!話はちゃんと聞け!
「カナメのおかげで魔物は減り蒼龍は倒され〖水の森〗は豊かになりました」
嬉しそうに僕を見つめるソフェアさん。まさか、僕の行動がこの国を救うきっかけになるとは思ってなかった。絶望的になっていたのに思わぬ形で誰かを救っていたとは。
僕はなんだか嬉しくて泣きそうになった。でもそれは僕のプライドが許さない。こんなに可愛い少女の前で泣けない。いや、薄々ソフェアさんは僕より年上と感じはじめたけど泣きたくない。
改めて思う。僕はソフェアさんに助けられた。こんな化け物みたいな僕なんかにお礼とか言って馬鹿なんじゃないだろうか。でも、めっちゃ嬉しい。
「幸い〖水の森〗は広大で4つの森の中でも力は強いです。これからは他の森に力を分け与え〖火の森〗の奪還を考えていきます」
え、あれ?
「とても感謝しています。カナメは大切な恩人です。なのでこの国の問題に巻き込ませたくない。他の国へ逃げてください」
本当に感謝している。それはわかってる。僕を心配してくれているのはわかってる。でも、このままこの国から出ていくのは何か違う気がする。人の問題には関わらない。僕はそういうふうに生きてきたがさすがに友人たちは放っておけない。
僕はソフェアさんの両肩を掴む。ソフェアさんは一瞬目を見開いた。
「ぼ、僕を頼ってくれないの?」
他国へ逃げろ。きっとこれはソフェアさんにとっては僕のためを思ってのことだろう。けれど1人でこの世界に来て、1人でジメジメした暗い森を彷徨った。数日間だけだが孤独を感じた。初めて出会ったソフェアさんに助けられて僕はここにいる。今独りじゃない。なのに、どうしてソフェアさんはこんなに強い僕を頼ってくれないのだろうか。
わかってる。ソフェアさんは僕を守る存在と認識している。僕のためを思ってのことだ。
しかし、僕にとってソフェアさんに見捨てられたように感じた。
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