第8話 化け物は『僕』でしたっ

僕は信じない。







だってまだ生きてるんだ。








生きてるんだぞ?








なのに何故右半分の感覚がないんだ?









ゆっくりと目を僕の体に向ける。そんなことありえないと言ってももう僕の中で理解しているはずだ。

僕は胸から右腕が何か獣にかじられたように無くなっていた。

「あ、ああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ」

恐怖が襲いかかる。死という恐怖が僕の中を塗りつぶしていく。こんな体の人間が生きていけるはずがない。僕は死ぬと理解した。なのに僕は抗った。

「やだやだやだやだやだやだやだ」

こんなに怖くて苦しくて寂しいはずなのに僕の傍には誰もいない。当然だ。僕がバクバクと喰らうからみんな恐れて近寄らない。喰らう?そうだ。ドラゴン。ドラゴンを喰えば回復するかもしれない。何かスキルが手に入るかも。僕は立とうとした。だけど右足もない事に気づかず前に倒れた。

痛い。ドクドクと自分の中の血が流れ出ているのがわかった。血が少なっくなって寒くなる。





寒い?









寒い。辛い?辛いよ。悲しい。悲しいよ?ねぇ、助けて。苦しい。苦しいんだ。僕、泣いてるよ?泣いてるんだよ?助けてよ。死にたくない。死ぬ?僕、死ぬ?死んじゃう?ねぇ。ねぇ。ねぇ。助けて。助けて。僕の声聞こえてる?誰か。聞こえてる?ねぇ。ねぇ。ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!!!

………寒いよ……辛いよ…………助けてよ………悲しい……寂しいよ…助けて………死ぬ?死ぬ?しぬ?しぬ?しぬ?しぬの?

やだ…………やだやだやだやだやだ!やだよ!ぼく、しぬのやだ!だれかだれかだれか!しぬのやだよ!やだよ!たすけてよ!たすけて!!たすけて!たすけて!!












ステータス通知が空気を読まずに出てくる。僕はぼやけた目で見つめる。


«一定量のストレスにより、スキル『再生』がレベルアップしました»


«スキル『再生』により、レベル26になりました»


«一定量のストレスにより、スキル『再生』がレベルアップしました»


«スキル『再生』により、レベル26になりました»


«一定量のストレスにより、スキル『再生』がレベルMAXになりました»


«スキル『再生』により、レベル27になりました»


«一定量のストレスにより、スキル『再生』からスキル『復活』に変わりました»


«スキル『復活』により、レベル29になりました»


僕はその通知でまだ生きていけると考えた。でもすごく痛い。熱が引いていく寒い。とりあえずステータスを見て様子を見よう。


【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)

【種族】人間

【性別】女

【年齢】18

【職業】なし

【レベル】29

【称号】なし

【スキル】悪食lv3、突風lv3、光合成、聴覚、脚力lv3、暗視、復活、ポイズン、万能薬、精神抑制、体力回復、解毒剤、解呪、酸耐性lv2、酸lv2、威圧耐性lv2、吸収、威圧lv2、結界lv2、隠密lv2、催眠lv2、怪力lv2、糸lv2


【HP】2536/1003964427

【MP】1002593647/3967423420394

【攻撃力】5724311

【防御力】8344719

【魔力】3967423420394

【素早さ】3967204

【運】211


やばいやばい!HPが削れてる!しかもどんどん減ってる!なんで!?『復活』は!?魔力もだいぶ減ってる!!でもそっか。ドラゴンと戦う前『怪力』で遊んでたから!くそっなんで!!!くそっくそっくそっ




あぁっ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!





«一定量のストレスにより、スキル『痛覚耐性』を取得しました»


«スキル『痛覚耐性』により、レベル30になりました»


僕の目の前にステータスウィンドウが流れるがもうほとんど見てない。しかし、少し、痛みが引いた。冷静になれる。僕は考える。このとてつもないピンチからどうにかして生き抜けなければ。チラリと僕の腕を確認する。『復活』のおかげなのかムクムクと肉が膨らんでいて気持ち悪かった。だが、その様子だと先にHPが消えてしまう。僕はもう一度ステータスを開き隅から隅まで見た。HPは1000を切り魔力はだいぶあるが少なつくなっている。回復系のスキルに『体力回復』を見つける。


【スキル】体力回復

・発生源は魔力。コストは20回復に10の魔力が必要。


今1番欲しいスキルだ。僕はすぐにスキル『体力回復』を使う。1回でも足りない。僕は念じるように『体力回復』を唱えた。ステータスを見ると少しずつ上がっている。このまま『復活』が終わるまで『体力回復』を使う。魔力は充分にある。






───体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復体力回復。






呪文のように叫んだ。周りからしても異常だっただろう。怯えて動物達は消えている。当然だ。ドラゴンがいれば誰だって逃げる。幸い魔物の気配も『聴覚』で確認していなかった。僕はスキルを使い続けいつの間にか気を失っていた。




目を冷ますとブルッと寒気がした右足と右腕の『復活』が終わって体は再生されているが服は再生出来おらずそのまま肌が見えた状態だった。

それにしても体がだるい。まさか生きているとは思っていなかった。体を起こし右腕を動かす手のひらを動かしてみて異常がないことを確認。右足も確認するが異常ない。他の体も見てみるが大丈夫みたいだ。

「はぁ………」

本当に焦った。死ぬかと思った。チャレンジしてみるもんだな。

僕ははだけた胸を隠すために残った布で結び直す。足は膝から先のズボンがなくなっただけで問題なかった。

顔をあげるとドラゴンがまだ倒れている。そして、急に来る食欲。魔力もHPももうほんの少ししかない。今まで以上にお腹がうるさいくらいないている。

やっと喰える。喰わせろ。喰わせろ。喰わせろ。

僕は1歩踏み出した。すると、ビチャッと音がする下を見ると大量の血液や肉が散乱していた。コレは僕の血肉だと理解した。

「ぐっ…………!おえぇぇぇぇ、……っ」

別に気持ち悪いと思った訳では無い今まで血肉なんてこの2日間で沢山見たし慣れた。むしろ、美味しく見える。なのに何故吐き気を感じたのか。それが瞬時に理解できなかった。




そう。



僕の血肉。



鮮明な真っ赤な血と綺麗に光る肉。




───美味しそうと感じた。




僕は『僕』が美味しそうと感じた。それが僕の中で酷く抵抗し嫌悪を感じた。今まで血肉なんて見るだけで高揚してたのになんだ?これはなんだ?



僕は…僕は人間の血肉が美味しそうに見えたのか?



おかしいだろ。それはダメだ。僕は人間だ。人間を美味そうだなんて感じちゃダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。





だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ。





僕は人間なんだから……人間は食べたらいけないだろ…………





「ほんとうに………?」





だめだって!考えるな!!やめろ!落ち着け!!大丈夫だって!!僕は人間だ!!人間なんだから!!!





「…………ちがう」





考えるな!!考えるなって!!だめだって!何もするなって!!!考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな!





「だって………生き物を嬉々として………殺して…………」





違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!





「良心………痛くなくて……」





生きるためだろ!!!そうだろ!!





「…………………必要以上に、喰らって………」





そんなことない!そんなことない!そんなこと、ないだろ!?





「ただ………遊び感覚で…………殺して……………」





違う!!!!!!違う違う違う違う違う!!





「……変な物………喰って……………」





今までの殺してきた動物達の目を思い出す。どの瞳にも恐怖や絶望の感情が渦巻いていた。そんな生き物達を僕は気にせず笑い声をあげながら喰った。

たくさん、殺しただろ?実験と言って意味もなく殺して。毒を盛ったのに無感情に喰って。操ったのに途中で喰らって。何もしてないのに粉砕して。立派な狼、襲って喰べて。気高いドラゴンの鱗を壊して、殺して。




スキルをを手に入れるために。




レベルを上げるために。




魔力が欲しいだけで。




僕は一体何をやっているんだ?最初に『突風』を手に入れた時にジャングルから抜け出せたはずだろ?それを可能に出来るスキルだっただろ?




これはゲームじゃない。




現実だ。




魔物も動物も虫も、ドラゴンも生きてる。





「僕って………人間じゃなくて…………」





言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うなやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ










────────化け物なんだ

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