第2話 スキルの実験を開始しますっ


僕は異世界に来てスキル『悪食』について調べることにした。こんな訳分からない状況だがとりあえず生き抜くことが最優先だと考えた。『悪食』はなんでも喰らう。その実験だ。

まず、一つ無機物。一般的に水とか鉄とかだろうか。なんでも食べるなら食べてみよう。僕は近くに落ちている石を拾う。何の変哲もない石だがやはり美味しそうに見える。僕は勇気を振り絞って石を口の中に放り込んだ。ゴリゴリっと口の中で音がする。普通人間が石なんて砕くことなんて出来ないが『悪食』には関係ないみたいだった。口いっぱいに広がる味はとてつもなく美味しかった。ちょっと悲しい。次に少し色や肌触りの違う石を食べる。これも美味しい。ゴリゴリと口の中で石を美味しく味わっていくうちに何か僕の中で大切なものまで砕かれている感じがする。悲しい。

その場にある色んな種類の石は食べた。他にも金属やガラスとかあるはずだがこんなジャングルに落ちているわけない。砂鉄は落ちていると思うけど探すの面倒。磁石ないし。僕はステータスを確認する。


【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)

【種族】人間

【性別】女

【年齢】18

【職業】なし

【レベル】0

【称号】なし

【スキル】悪食

突風


【HP】22/22

【MP】53/53

【攻撃力】7

【防御力】10

【魔力】53

【素早さ】15

【運】6


防御力が上がり攻撃力、HPが増えているがあまりたくさんの量を食べていないからかそんなに上がっていない。なんだこれ。ちょっとゲームみたいで楽しい。スキルは手に入らなかったがもっと食べれば石化みたいなのが手に入るかもしれない。

次に有機物。ここにあるものは木だな。沢山あるし沢山食べれる。僕はその辺に落ちている枝を食べる。乾いていてクッキーみたいだポリポリと噛めば噛むほど味が染みる。クッキーよりもじゃ〇りこ?に食感近いかも味は全然じゃがり〇じゃないけど美味しい。やばい。これは癖になりそう。僕はがむしゃらに落ちている木の枝を食べる。うまいうまいと食べる様子は傍から見ておかしいだろう。けれども空腹は満たされない。

有機物や無機物というのは炭素が入っているかいないかの違いである。しかし、炭素と一酸化炭素、二酸化炭素は炭素を含んでいるのに無機物である。どこかでそんなことを聞いたことがある。

次に空間だが。これは空気ということだろうか?しかし、空気のない宇宙は空間ともいえるしもしかして概念的なものだろうか。よく分からない。これは保留にしよう。とりあえず、色んな草花や鉱石を食っていけば何かスキルは能力を得られるかもしれない。

まず近くにある木だ。この木一本食べてみようか。常識にありえない考えを僕を飄々としてみた。実際この木一本食べてもお腹いっぱいになる気がしない。とりあえず僕は先程手に入れた。スキル『突風』を使ってみる。そういえばキツネが異常に早かったのはこのスキルのおかげなのかもしれない。そのせいで木にぶつかったのか。攻撃力はあまりなさそうだ。『突風』を意識してみる。すると、僕の周りに風が吹き宙に浮く。そのままイメージとして目の前にある木の1番上にたどり着く。僕はやっぱり上から綺麗に食べた方がいい気がしたんだ。枝にぶら下がりバクりと上から食べ始めた。バリバリと僕が咀嚼するつど音がして味なんてもう最高すぎる。先程のキツネとまではいかないが何千年も生きている木は質もいいらしい。いい具合に熟している気がする。僕が食べれば食べるほど周りの動物たちが逃げていく様子が草むらの影から見えた。音に驚いているらしい。でも見える動物は先程のキツネの様な【魔物】と言われるものもいれば普通の僕が見たことあるような動物もいた。それと【魔物】でもない珍しい生き物もチラホラ見えた。後で探して食べてみよう。1番美味しいそうなのは魔物だけど。見たことないのがいると食べたくなる。

予想通りと言えるのかやはり木を一本食べても空腹はあまり満たされない。しかし、それなりの量だったらしい。少しは我慢出来る。

食べ終わってしばらくするとまたステータスのウィンドウが開く。


«スキル『悪食』の消化が完了、のちに発動を再開します»


なんか、さっきより早くなってる気がする。気のせい?よし、気のせいだ。


«スキルの消化の完了により、『光合成』を取得しました»


また、通知だ。これは面倒だなステータス通知って呼ぼう。『光合成』?なにそれ。普通にただの植物の性質を手に入れたとかやめてね。


【スキル】光合成

・太陽光を浴びることで水と二酸化炭素を吸収し酸素を排出する。


いや、それ植物じゃん!!なんでだよ。あんなに怯えた動物たちを犠牲にして食べたのに取得出来たスキルは『光合成』っておかしいだろ!

でも、性質を取得だからただの植物だとそうなるのか。それに光合成って中学の頃理科で習ってた時めっちゃ植物便利じゃんとか思ってたしいいのか?コストとかないみたいだしいいか。でも、食べたものの性質を取得って言うならさっきの石は硬いから防御力とかHPになったのかな?木を一本食べたらどうでもいいスキル手に入ったしキツネの時は丸ごと一匹食べたらスキルを取得。なら同じ石の種類を一定量食べればその石の性質を取得出来るのか?けれど今の僕に見ただけで同じ石かなんて判断できないしわからない。スキル『光合成』と言っても木が光合成するのは緑色の葉っぱだけだ。では木の部分の性質はどうなるのだろうか。葉っぱと木の部分はわけられず同じと考えるのなら性質がひとつなのだろうか。あ、でも。


【スキル】悪食

・なんでも喰らう。空腹を感じると発動し食べれば食べるほどスキルが成長する。食べたものの性質を一つ自分のものにでき、栄養分としても体に蓄えられる。無機物、有機物関係なく喰らい空間さえも喰らう。1番の好物は魔法。


性質を一つ手に入れられるけど栄養分も体に蓄えられる。ならもしかしてスキルだけが僕の『悪食』が性質と認識していてそれ以外は栄養分に回される?もしそうならステータスが変わってるかも。


【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)

【種族】人間

【性別】女

【年齢】18

【職業】なし

【レベル】0

【称号】なし

【スキル】悪食

突風

光合成


【HP】25/25

【MP】59/59

【攻撃力】9

【防御力】11

【魔力】59

【素早さ】15

【運】7


やっぱり変わってる。魔力が1番増えてるけどHPも変わってる。HPは確か体力的なものだったはず。光合成はいわゆる呼吸だ。変化がやはり起こるのか。

でも1番は運の上がる条件が分からない。

「グ~~~~~~」

「ふぁっ!?」

一瞬、猛獣のうめき声と思ったが違った。自分の腹の虫が考えすぎで体力がないと言っている。実際HPは変わっていないが精神的にきつい。僕は同じ種類の木をもう一本食べた。



「はぁ、さすがに大きなもの食べるときついなHP全然減ってないけどすごく疲れた。どういう基準だろ。顎も疲れてきた」

木を食べ終え、すぐにステータス通知が来る。

え?早くね?


«一定量のストレスにより、咀嚼筋の筋力が向上し、攻撃力が更新しました»


なんか色々とリアルすぎる気がする。咀嚼筋って初めて聞いたよ。顎の力が発達したってこと?スキルとかの通知以外でそういうのもあるのか。いや、いらないだろ。てか攻撃力の向上とかさっきから少しずつ増えてるけどなんも通知なかったじゃん。

僕は呆れながらステータスを開く。


【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)

【種族】人間

【性別】女

【年齢】18

【職業】なし

【レベル】0

【称号】なし

【スキル】悪食

突風

光合成


【HP】40/50

【MP】59/59

【攻撃力】2009

【防御力】11

【魔力】59

【素早さ】25

【運】7


あれ?なんか、あれ?


防御力の方が上だったのに急に攻撃力が上がった。しかも顎だけの攻撃力が。

まてまてまてまて。なんでだ!さっき攻撃力9だったのになんで2000増えてんの!?おかしいだろ!なんだこのチート!スキルに成長加速とかなんもないのに異常すぎるだろ!!もういい!もう全部スキル『悪食』のせいにしてやる!

1人で誰にツッコミを入れてるんだってところだがこのジャングルに先程まで恐怖していたのにここにある全てが食べ物と認識してしまったおかげ恐怖なんてなかった。





僕はそれから動物を狩ることにした。簡単に木の実を採取し、蔓で罠を設置する。蔓の先に輪っかを作りそれに伸びた蔓は木の枝に引っ掛け輪っかの中心に木の実を置きもう片方の蔓の先端を持って僕は草むらに隠れる。少し実を潰したから匂いで獲物がやってくる、と思う。僕はじっと待つ。当然木々の匂いや花の匂い、それに実の匂いは強烈で空腹の僕には辛かった。もう関係なしに蔓も花も木の実も食べようか迷った。だが、そんな時にガサガサと向こうの方で足音がする。


来た!


僕は息を殺して待つ。そこに現れたのは真っ赤な目をして角の生えたウサギだった。見た瞬間魔物だと分かった。口からヨダレがダラダラ出てくる。目は多分血走っていただろう。ウサギは木の実に近づく。正直こんなわかりやすい罠にかかってくれるとは思ってなかっがラッキーだった。ウサギが輪っかに入り木の実の匂いを嗅ぎ口を開ける。可愛らしいウサギとは思えない牙がギラりと見えたが僕はすぐに蔓を引っ張る。すると、ウサギは驚き逃げようとした。しかし、足一本を蔓が捕まえる。なおも暴れるウサギに僕は近づく。手にする石を待ってウサギを掴む。僕はゆったりとした動きでダラダラとヨダレを垂らして右手を振りかぶる。ウサギの真っ赤な目には恐怖が浮かんでいて、体も震えていた。魔物だから何かのスキルがあるはずなのだが小ぶりなウサギだからかまだ使い方が分からないのだろうか。魔物を見かける都度魔物の生態は凶暴で好戦的だ。自分に勝てないと知れば逃げるがそれが無ければ動物や魔物同士戦っているのを見た。だから、このウサギに対して少し不思議に思ったが今はそれどころでは無い。

お腹すいた。お腹すいた。食べさせろ。喰わせろ。喰べたい!





「ごめんね。これも実験の為なんだ」





そういう僕の顔は残酷に笑っていただろう。





バキッ




グチュリッ




ジュルッ




ブチュッ




僕は指についた血を綺麗に舐め取り幸せを感じた。自分が残酷であることは気づいているがこの美味しさの前に理性が抑えられない。最高のご馳走。究極の旨み。口の中をとろけさせる血液。下の上で踊る血肉。癖のある内蔵。どれもが美味しい。快感だった。

食事の余韻に浸っているとステータス通知が来た。


«スキル『悪食』の消化が完了、のちに発動を再開します»


続いて通知。


«スキルの消化の完了により、『聴覚』を取得しました»


チョウカク?ちょうかく……。


あ!聴覚か!やばいなんか頭回ってなかった!これはきついぞ。気をつけなきゃ。えっとどんなスキルかな?


【スキル】聴覚

・遠くの音や近くの小さな音も聞き分けられる。


なるほど。これは結構役に立つのでは?索敵とかで周りの音聞いて僕より強い魔物に会いそうになったら逃げればいいし。これはこれで便利だ。でも直接的な攻撃がないから困るな。もっと魔物食べればいいのかな。

思考に浸っているとまたガサガサと草むらから音がする。今度はさっきの比べ物にならない大きなウサギが僕の前に居た。母親だろうか。しかし、今回のウサギは恐怖よりも僕のことを獲物として見ているようだ。これは僕も少し怯んだ。しかし、あのクマほどではない。僕はスキル『突風』でウサギの背後に移動し顎の力だけでウサギの首をへし折った。ウサギは痛みで叫ぶ。次の瞬間衝撃が走り僕は目を瞑る。しかし口は話さなかった。痛みはないが変な浮遊感が僕を襲う恐る恐る目を開けると僕は初めてジャングルの景色を上空から全体で見ることが出来た。このウサギは異常な脚力で僕ごと持ち上げ逃げようとしたがそこで力尽きたようだ。いつまでも続いているジャングルに僕は驚いたがすぐにスキル『突風』を使い僕を浮かせた。しかし、腕力はただの人間だったためウサギを手で支えることは出来ず顎の力だけで支えるしかなかった。もちろんそのウサギは地上に降りて美味しく味わった。



「はぁ、ちょっとビビった」

ウサギは思ったより大きく一匹だけでお腹いっぱいになった。多分前食べたキツネより、美味しかった。早速ステータスを開こうとすると通知が来る。


«スキル『悪食』の消化が完了、のちに発動を再開します»


今度は満腹になったから少し遅かったな。でも今まで経験したことない空腹だ。このスキルは本当に成長してるんだな。


«スキルの消化の完了により、『脚力』を取得しました»


お、なんか今度は攻撃的な名前だな。なんだろ。僕はステータスを開く。


【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)

【種族】人間

【性別】女

【年齢】18

【職業】なし

【レベル】0

【称号】なし

【スキル】悪食

突風

光合成

聴覚

脚力


【HP】96/101

【MP】157/159

【攻撃力】2583

【防御力】50

【魔力】159

【素早さ】96

【運】10


なんか一気に上がった気がする。攻撃力は上がったけど脚力より咀嚼筋が勝ってるのかよ。おかしいって。

すばやさは脚力からなってるのかな。防御力も少し上がってる。攻撃力と差が激しいけど魔力は攻撃力とまでは行かないけど少しずつ増えてる。HPも地味に上がってるな。


【スキル】脚力

・脚の筋肉が増幅し爆発的に攻撃が出来る。瞬発力も上がり、発生源はHP。コストは不定期でその時どれほどの力を出すかで減る。


おい、なんでここで不安定になるんだよ。本当にリアルだな。体力次第ってことか?わかんないな。自分でやって確かめろってことかな?めんどくさい。

僕は目の前にあるある程度大きい樹木に本気で蹴りを一発。

ステータスを見るとHPは5減っていた。本気で5かこれはいい。樹木を見ると粉砕して周りの木々も少しえぐれて無くなっていた。……あのウサギ怖いぞ。

移動なども確認したがそんなにHPは減らなかった。しかし、元々のHPの数が少ないせいか僕は少し疲れていつもよりお腹が空いた。

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