スキル『悪食』が化け物すぎたっ
柏谷和樹
第一章
第1話 スキル『悪食』を取得しましたっ
見慣れない光景に今までにない戸惑い。どういうことだろう。僕は今喉が乾いたから自販機でジュースを買っていたはずだ。おかしいだろう。飲みながら帰っていたのが悪かったのか?いつの間にか目の前の景色がジャングルになっていた。
高校3年の0学期も終え今は2月僕達は仮卒というのに突入していた。仮の卒業。本当は先生達は自宅学習の期間だと言って外に出るなと言っているがたぶんみんな卒業旅行だの遊びだの行ってい事だろう。僕も友達との約束がある。それ以外は毎日ゲームしてる。今日は途中でジュースを買いに外に出た。お菓子もあればもっといい。でも太るのはちょっと嫌だ。アニメの世界の筋肉もりもりの男を見るととても羨ましく感じる。僕もトレーニングしようかな。そんなどうでもいいことを妄想してジュース買ってただけなのになんか変な所に飛ばされるのは困る。非常に困る。今からアニメ見るんだぞ?
と、呑気にツッコミを入れている間に僕の周りには動物のうめき声や鳥の鳴き声がする。正直言って怖い。もしかして、何かの組織に攫われてここに放置されたのだろうか。にしても一瞬すぎるし頭痛なんてない。何か現実では起こりえない事が僕に起こった?それにこれはこのままで終わる気配がしない。何かがあるのはわかっているのだがそれが分からないから怖い。ジャングルのように茂っている木々は高く空が見えない。だから薄暗い。心無しか寒気もする。それに先程動物のうめき声が聞こえたし人が対峙しても適わない猛獣と出くわしたら人生オワタ。くそっここどこだよっ。
すると、後ろからガサガサと音がする。僕をすぐに振り向いた。
「誰!?」
焦りと恐怖で声が少し裏返った。そんな自分に情けなさを感じながら身構える。けれど出てきたのはキツネだった。
「な、なんだキツネ…じゃなくね?」
しかし、僕の知っているキツネと見た目が全然違った。実際キツネの野生なんて見たことないけど写真や動画で見たキツネよりだいぶ見た目が違った。額に角があり目は真っ赤毛の色なんてもう常識を超えて紫色だ。牙は口からはみ出るほど見える。最初はキツネかと思ったけど本当は狼か?いや、キツネもイヌ科だけど。そのキツネは僕のことなんか無視して何かから逃げている様子だった。しかし、途中で僕に気づき驚いたのか木にぶつかる。ゴッと言う音と共に首の骨が折れたのかゴキッと鈍い音もした。
「は?馬鹿なの?」
キツネは一瞬で死んだ。ただのキツネが木にぶつかっただけど死ぬか分からないが普通のキツネより何倍もの早さで走っていた気がする。そんなキツネを哀れに思っているとドスンドスンと先程よりも大きな音がキツネがやってきた方から聞こえてくる。僕はさすがにやばいと感じた。見なくてもわかる。早くどこかに隠れないと…っ
僕は木と草むらの影に隠れる。キツネの死骸は上手にその何かからの視界に入っていないようだ。グルルルとうめき声がする。それは息遣いが聞こえるほど近かった。隠れているためそれの姿は見えない。しかし、人間は怖いというのに好奇心を持つ。ホラー映画でいつも登場人物たちが振り返って嫌な思いをしている。いつも僕はなんでそこで振り返るんだってツッコミを入れるが今わかった気がする。気になるのだ。そこには何も無いと気のせいだと言い聞かせ振り返る。だが、そこにはやはり何かがある。それを確認したいがために振り返ってしまうのだ。だから、僕は振り返ってしまう。
見ると、そこには真っ赤な目が4つ。頭には角。僕が知る動物よりも何倍も大きいクマがいた。獲物を捕らえようとする脅威の目。どんな動物の首をも噛み砕く牙。そして、今が飢餓状態だと感じさせる臭いヨダレ。なんでもいいから喰いたい。そう訴えてきている。小動物がこのクマを目の前にしたら動けず死を悟るのだろう。僕だって動けない。だってクマなんて動物園にいる温厚そうなクマしか見たことないのだ。目の前の迫力に気圧される。
怖い。
僕はゆっくりと目を逸らし呼吸さえも気づかれるのではと思い両手で口を抑える。ドッドッドッと心臓がうるさく。耳にまで伝わってくる。うるさい。静かにしろ。うるさい。寒いはずなのに汗が出てくる。手が震える。まともに呼吸が出来ない。願う。早くどこか行け。そう願うしかなかった。
幸いクマは僕に気づかずどこかへ行った。しばらくしてぷはぁっと息を吸い僕は安心して呼吸をした。どっと疲れが出てくる。
「お、お腹空いた…」
僕は周りを見るがやはり木々や草しかない。空も見えない。こんな状態でまだ泣いていないのは凄いのではないだろうか。はぁはぁと呼吸が荒く空腹に気づくと今まで以上にお腹が空く。そういえばキツネがいたはず。それを焼いて食えば空腹は満たされるだろうか。見たことも無い動物を食べるのは抵抗があるがここは日本じゃない可能性だってある。とりあえず生きることに専念しよう。
僕は落ちている木の枝からそれなりに太く尖っている物を探す。そして、キツネの首を切り落とそうとしてとどまった。実際、日本という平和な国で育った僕は動物なんて解体したことない。そんな機会なんてないしこんなサバイバルみたいなのやりたくない。キツネはもう死んでいる。脳に強い衝撃を与えられオマケに首の骨だって折れている。こんなに綺麗な食材はないだろう。でも、僕は血抜きをする為の首を切り落とすことに躊躇した。
その時、目の前にウィンドウのような透明な物が出てきた。
«空腹によりスキル『悪食』が発動します»
「悪食……?」
僕はなんの事か分からずキツネの解体を止めその画面の様なものを見つめる。
「なにこれ」
まるでRPGの世界観だ。スキルってなんだ。僕はシューティングとかゾンビ倒したりするゲームしかしないためこのような複雑なゲームは知らない。しかし、アニメを飽きるほど見てきた僕にとってこれはステータスだと瞬時に理解出来た。画面に触ると通知の様なものは閉じられ僕のステータスが表示される。
【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)
【種族】人間
【性別】女
【年齢】18
【職業】なし
【レベル】0
【称号】なし
【スキル】悪食
【HP】10/10
【MP】10/10
【攻撃力】5
【防御力】5
【魔力】5
【素早さ】5
【運】5
うん、わからん。なんだ称号て。1番わからない。てか運とかいらなくね?この流れで言うと攻撃力とか防御力とかだから戦闘能力だけど。運っているの?いや、いるのか?運も実力のうちって言うし。
僕はかなり異世界もののチートアニメ見るから分かるけどこのステータスどちらかというとチートってより普通の人間より弱いんじゃないか?やばい。RPGの世界分からない。でもとりあえず0じゃないからいいのか。あ、でもレベルは0だ。しかし、この中で異質なのはスキルの『悪食』だけだ。悪食ってなんでも食うやつのこと?なんかもう発動されてるし。空腹を感じたからかな。お腹すいたら発動するんだ。楽だ。
先程、クマに襲われかけていたくせに目の前のステータスとか異世界みたいなものを見てそんなことを忘れていた。まぁ、簡単に言うと興奮していたのだ。
僕は異世界転移でもされたのだろうか?死んだ時に神が目の前に来て異世界転生か転移というのがありふれているが僕の場合は神が出てこないらしい。まぁ、まだこれが夢かもしれない可能性も出てくるがこんなにリアルな夢はない。しかし、僕は十中八九夢だと思った。こんなありえない事が起こるはずがないし、異世界もののアニメは結構好きだから妄想で夢見てるのかもしれない。とりあえず、グウグウとお腹がなっているが気にせず目を瞑り、数を数える。夢とは今まで自分が経験したものが不規則に繋がり作られるもの。だから不安定でけれど実際夢の中で痛み等体験することも出来る。なので、夢の中でこれが夢なのかと確実に知る方法は心の中で数字を数えることだ。夢は自分の記憶の断片的なものであるため、こうしてクマに遭遇した記憶があっても心の中で数字を数えている記憶は無いはずだ。
僕は1から10まで数えて絶望的になる。今目の前で起きていること。そして、空腹を感じていることは全て現実だと悟った。なら、ここで死んだら終わりだということが分かった。いったいどういうことだろう。僕は死んでもいないし何か特別な所に行った記憶もない。
色々と考えたいが今は生きることに集中しなければ行けない。ウィンドウをどうやって閉じるかわからないが閉じろと念じると消えた。なんだこの快適な設定は。
とりあえず、今はキツネを食べるとしよう。先程よりも何か少し楽になった気がする。抵抗がなくなった。これもスキルの『悪食』のおかげなのだろうか。キツネの首を切り落とし血抜きをする。やり方はわからないが頭に切り落とし逆さにぶら下がっている中国の料理店の犬達を思い出した。中国はなんでも食べるからな。そういえばキツネもイヌ科だった。そんなことを思いながらキツネの首に太く尖っている木の枝からを思い切り躊躇せず刺した。
すると甘い匂いが充満する。『悪食』のスキルが発動してからキツネからいい匂いがすると思っていたが傷口から溢れる血液はこの上なくご馳走に思えた。ドバドバと口からヨダレが出る。理性が吹っ飛びそうなくらい甘く激しい匂いがする。例えばで言うと肉汁が溢れて来ている感じだ。
やばいと思った。今この場でキツネの首にかじりつきたいと思った。生とか体に悪いとか何も考えずその毛皮さえも美味しそうに見える。キツネ……いや、目の前の肉が僕を誘惑する。独特の血の匂いがするはずでそれは人間にとって嫌な匂いのはず。それさえも啜って噛み砕いて骨まで貪りたい。だが、ほんの少しの理性が僕を止めてくれた。危ない。本当にやばい。スキル『悪食』を停止しようと心の中で唱えるがお腹の音がやばい。ますますお腹が空く。ヨダレはドバドバ出て目は見開いているだろう。はぁはぁと荒い息遣いは僕には聞こえなかった。このままでは不味いと思い。肉から離れようと手を動かす。するとグチュリと枝が動いてぶわっと肉や血液とそして何かわからないが今まで嗅いだことのない匂いが僕の理性を壊した。
気づくと僕をキツネに貪り野獣のように血肉を食い散らかしていた。生であるはずなのに美味しくて美味しくて肉厚で内蔵も上手い。肝臓や腸や心臓、膵臓、腎臓、膀胱も全て食い荒らす。むしゃむしゃと口の周りをいっぱい汚しているのに気にせず食べる。最後の一口の目玉をちゅるんと飲み込む。そこで僕は少し理性を戻す。
食べた。全部。食べた。美味しかった。美味かった。ご馳走だった。喰べた。内蔵。喰べた。喰べた。血。飲んだ。骨。喰べた。
やばい。癖になりそう。
ダメだとわかっているが元々食べるのが好きな僕は止まらなかったのだ。キツネ一匹食べて少し満足しているみたいだがまたお腹が空きそうだ。
僕はそんな空腹を抑え先程のスキル『悪食』を見る。今度は自然にステータスが開いた。その中の『悪食』を触ってみるとプラスしてまた別のウィンドウが開く。
【スキル】悪食
・なんでも喰らう。空腹を感じると発動し食べれば食べるほどスキルが成長する。食べたものの性質を一つ自分のものにでき、栄養分としても体に蓄えられる。無機物、有機物関係なく喰らい空間さえも喰らう。1番の好物は魔法。
これは本当にやばいのかもしれない。無機物?石も食べれるのか?空間って、美味しいのかよ……。それに空腹を感じると発動ってもうお腹すいてるよ。やばいな。さっきみたいに動物とか見たらもっと欲しくなるのかな。やばい。化物かよ。ガチのチートじゃんこれ。それにしても魔法が好物?そういえばステータスでも魔力のどうとか書いてあった。どういうことだろうか。
考えているとウィンドウがまた一つ増えた。
«スキル『悪食』の消化が完了、のちに発動を再開します»
まて。早すぎる。何がなんでもこのスキルは怖いぞ。最初の時は空腹なんてなかったのにまさか使えば使うほど胃袋がデカくなるとかじゃないよな?
«消化の完了により、スキル『突風』を取得しました»
また、通知が来る。追いつけないぞ。
『突風』?なにそれ。知らない。もしかしてさっきのキツネがなんかスキル持ってたのかな。『悪食』でも食べたものの性質を一つ手に入ることができるって書いてあるし。
あー、やばい。さっきよりもお腹空いてきた。これ食べなかったらどうなんだろ。精神的におかしくなる?さっきの自分の食べっぷりだと死ぬよりもおかしくなる方が可能性高いかも。
僕は自分に鞭を叩きつけスキル『突風』を確認する。
【スキル】突風
・【魔物】狐のスキルのひとつ。自分の体に突風を纏わせ高速移動することが出来る。瞬発力が上がるが攻撃として相手に突風を使うことは出来ない。発生源は魔力。コストは1。
発生源?コスト?なにそれ。意味がわからない。コストって物にかかる費用みたいなものだよね。1回使う事に魔力が1減るのか。僕の魔力どれくらいだっけ?
【名前】紺本 紀(こんもと かなめ)
【種族】人間
【性別】女
【年齢】18
【職業】なし
【レベル】0
【称号】なし
【スキル】悪食
突風
【HP】20/20
【MP】53/53
【攻撃力】6
【防御力】5
【魔力】53
【素早さ】15
【運】6
魔力が増えてる?あとMPも魔力と同じだ。てかMPって魔力じゃなかったっけ?素早さとかも突風のスキルで上がったのかな攻撃力はたぶんキツネ食べた時だろうしHPはわからない。運はもっとわからない。こうしてちょくちょく見ていけばいいのかな。僕の知ってるゲームでは経験値から割り振ってステータスを更新していくはずなんだけどこれは自然に上がるのかな?よく分からないが今はスキル『悪食』をどうにかしなければならない。
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