不和と調和 1
時は遡り、ポルトット帝国皇帝の国葬まであと三日
帝国の外交使節は、深い悲しみを胸に抱きながらも、その使命を果たすべく馬を走らせた。
皇帝が崩御し、帝国全土が嘆きの声で満ちている中、使節たちは各国へと急ぎ、友好国に対して皇帝の国葬を正式に伝えるための旅に出た。
まず、到着した宮殿の広間にて、使節は厳粛な態度で頭を下げ、深々とした礼を示した。
そして、落ち着いた声でその言葉を紡ぎ出した。
「我が帝国において、皇帝が突然の崩御を遂げられました。このことは、帝国にとって甚だしい痛手であり、今や帝国全土が深い悲しみに包まれております。つきましては、来るべき日に皇帝の国葬が執り行われる運びとなりました。貴国におかれましても、是非ともご参列いただき、共に皇帝の御霊を弔っていただきたく存じます。」
使節の声には、悲しみと共に、帝国と友好国との絆を再確認したいという願いが込められていた。
使節は続けて、国葬の日時と場所を丁寧に伝え、皇帝がいかにして国と民に尽くしてきたか、その功績に対する敬意を表した。
「貴国との長きにわたる友好関係を大切に思い、皇帝も生前その絆を深く重んじておられました。国葬の折に、貴国のご参列を賜り、共に皇帝を追悼できることを、我が帝国一同心より願っております。」
使節は再び深々と礼をし、友好国の代表者たちが帝国の悲しみに寄り添い、共に皇帝を偲ぶための参列をお願いしたのであった。
長きに渡り友好国として関係を築いてきたセリニア国も例外ではなく、使節たちはその地に訪れ参列を願った。
そして、セリニア国王や側近、重臣
「なんと痛ましい事か...」
国王の一言に同調するように室内には悲哀に満ちている。
そんな空気に臆せず堂々とした声で男は話はじめた
「国葬に参列されるにあたり、国王の護衛を我々エランノール兵士団にお任せいただきたく」
都市エランノールの兵士団の長であるアダムは堂々とした態度で進言する。
「ああ。そうだな。アダムが同行してくれるのであれば安心だ」
側近の一人がアダムに賛同し取り巻き
「しかし、国の守りが手薄になるのでは?この国葬を機に侵攻されるなんて事は...」
取り巻きの一人が怯えるのも無理はない。
アダムのドラゴン討伐の功績は全土に広がっており、ポルトットの軍神に勝るとも劣らないほどに認知されていた。
「心配には及びません。我が兵士団は今や精鋭揃いです。私が留守の間も安心して任せておけるでしょう」
堂々とした佇まいから溢れる自信がそれ以上の言及を許す事はなかった
「では、頼む」
国王の一言がそれを後押しするようだった
——————
コンフィ城に戻ったアダムは兵士団を集めた。
兵士たちはすぐに姿勢を正し、彼の指示を待つ緊張感が場に満ちていた。
兵士長の顔をしたアダムは鋭い目つきで兵士たちを見渡し、低く重い声で口を開いた。
「我々は、国王陛下の護衛任務に就くこととなる。この任務には、精鋭中の精鋭のみを選抜した。国王陛下の命は、この国の未来そのものだ。いかなる犠牲を払ってでも、陛下を無事に護り抜け」
兵士たちは兵長の言葉に深く頷き、目に見えない重圧が彼らの背にのしかかるのを感じた。
しかし、その重圧が彼らの決意を固める。
「ガガリ、ローグ、セレン。頼んだぞ」
「お任せてください!」
元気よく答えるセレンに相対して、ローグは小さく頷くだけに留める
「御意」
短くも力強く答えたガガリはこれまで幾度となく精鋭としてアダムと共に同行し、一番の信頼を得ている。
「我々が国王陛下を護衛する間、ここに残るお前たちには、この国を守る重大な任務を託す。陛下を守るのと同じく、この国を守ることは我々の最も重要な使命だ。」
兵長は一人ひとりの兵士を見つめ、静かに言葉を続けた。
「国に攻め込もうとする者が現れるかもしれない。だが、ここに残るお前たちは、セリニアの最後の砦だ。お前たちの勇気と忠誠が、この国の運命を左右する。国境や要塞を死守し、敵に一歩たりとも踏み込ませるな。」
兵士たちは、アダムの言葉に耳を傾け、決意を新たにした。
彼らの顔には、国を守るという重大な責務を負う覚悟が見て取れた。
「お前たちの任務は重く、危険を伴う。しかし、この国の未来を守るのは、お前たちだ。信じている。お前たちがこの国を守り抜いてくれることを。」
兵士たちは一斉に「承知しました、兵長!」と声を揃え、力強く応えた。その声には、祖国を守り抜くための強い意志がこもっていた。
「それじゃあ...決起集会ですかね...?」
シーナがアダムの後ろからひょっこりと顔出して相変わらずの様子をみせた
兵士たちはそれに同調するようにそわそわし始める
「お前らほどほどにな」
アダムは呆れ顔で、しかし、どこか嬉しそうにしていた。
ニーナはただただ呆れ、肩を落とす。
「いやっほー!」
「待ってました!!」
「宴じゃあああああああ」
シーナと兵士たちは今宵も狂喜乱舞し酒を煽るのであった
——————
月が高く昇り、コンフィ城にも静寂が訪れていた。
冷たい夜風が窓辺を揺らし、遠くでかすかな梟の鳴き声が聞こえる。
そんな中、城のテラスでは二人の影が月明かりの淡い光に照らされていた。
アダムとミケは、互いの顔を見つめながら低い声で語り合っていた。
アダムは老獪な微笑みを浮かべ、テーブルの上に広げられた地図を指差した。
「皇帝が崩御し、帝国は今まさに揺らいでいる。次期皇帝の座を巡る争いが激化するのは時間の問題だ。そして、その混乱こそが、俺達が帝国を手中に収める絶好の機会だ」
ミケは静かに頷く。
「ミケ、お前にはもう一度帝国の
「葬儀の場で暴れればいいですかにゃ」
「ああ。恐らく軍神様が出しゃばるだろうが、俺に任せればいい。機をみて逃げろ」
「御意」
アダムは満足げに笑い、ミケの顔に目を向けた。
「こんな国でも悪くなかったが、やっぱり目指すなら世界征服だよなぁ」
ミケは目を細め、計画を思い描くように天井を見上げた。
「随分と遠くにきましたにゃ...どこまでもついていきますにゃ」
アダムは頷き、ミケの手を取った。
「お前がいてくれてよかったよ。帝国は俺達のものになる。そして、その日が来たら、お前は皇后にでもなるか?」
ミケは頬を赤らめ小さく動揺していた
「わ、私はアダム様の物ですにゃ。求められればなんにでもしますにゃ...」
アダムは軽く息を吹くように笑い、テーブルに置かれた蝋燭の炎が揺らめく、
アダムの笑みには冷酷な決意と野心が滲んでいた。
夜の闇が、二人の策略を覆い隠す。
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