不和と調和 2
国葬当日
馬車がゆっくりと進む中、国王の車内は静寂に包まれていた。
外の曇天が窓ガラスに反映され、帝国への道のりがますます重く感じられる。
国王は深い考えに沈み、車窓の向こうに広がる景色を眺めていた。
その時、車内に同乗していた兵士団の団長であるアダムが、静かに口を開いた。
「陛下、もうすぐ帝国の大聖堂に到着しますが、いかがお気持ちでしょうか?」
国王は目を閉じ、しばらくの間、言葉を探しているかのように沈黙を守った。
しかし、やがてゆっくりと目を開け、団長に向き直った。
「アダム、私は今、この瞬間の重みを痛感している。帝国の指導者の国葬に参列することは、我が国と帝国との友好の象徴でもある。しかし、同時にこの行事が、我々にとっても大きな試練となることを理解している。」
アダムは静かに頷き、その表情に深い敬意を表した。
「陛下のお考え、よく理解しております。我々兵士団は、陛下が無事にその務めを果たせるよう、全力で護衛いたします。どのような危機が訪れようとも、我々が陛下の盾となり、守り抜く覚悟です。」
国王は微笑を浮かべ、アダムをじっと見つめた。
「君たちにはいつも感謝している。私はただの一人の国王だが、私が安心して務めを果たせるのは、君たちがいるからこそだ。」
「陛下、我々は皆、陛下の安全を第一に考えて行動しております。どんな状況においても陛下に不安を感じさせないよう最善を尽くします。どうか安心して、帝国での務めを果たしていただきたい。」
国王は再び窓の外に目を向け、静かに息をついた。
「ありがとう、アダム。私たちが今ここにいるのは、帝国との友情を確認するためだ。だが同時に、この旅が私たち自身の未来にも大きな影響を与えることになるだろう。君たち兵士団の勇気と忠誠に、私は心から誇りを感じている。」
アダムは国王の言葉を受け止め、静かに答えた。
「陛下のそのお言葉が、我々にとって何よりの励みです。無事にこの任務を完遂いたします。」
その時、馬車は帝国の大聖堂へと近づきつつあり、街の景色が次第に荘厳さを帯びていった。
「お、着いたみたいですねー」
初めてのポルトット帝国で無邪気な様子をみせるセレン
国王は一瞬目を閉じ、深呼吸をしてからゆっくりと目を開いた。
「では、行こうか。我々の使命を果たすために。」
「はい、陛下。我々も陛下と共に。」
アダムはしっかりと応え、車内の空気は一層引き締まった。
国王と団長の会話が終わると、馬車はついに大聖堂の前に到着した。
外の厳かな空気が車内に流れ込み、全ての者がこれから始まる儀式に向けて心を整えていた。
「うわー。話しには聞いていましたけど立派ですねぇ」
「あまりはしゃぐなよセレン。遊びに来たわけではないぞ」
「わかってますってー」
浮ついたセレンをたしなめるガガリだったが、そうは言ったものの、目の輝きが抑えられないセレンに対して呆れ顔を見せた。
ローグが馬車の扉を開け、国王はゆっくりと車から降り立った。
曇り空の下、堂々とした佇まいで周囲を見渡すと、すでに到着していた別の友好国であるギーク国の王、ベリルの姿が目に入った。
そのベリル国王は、威厳に満ちた姿で大聖堂の入り口に立ち、彼を迎えるために待っていた。
二人の国王は、長年の友情と信頼を表すように、静かに歩み寄った。
「ラザード陛下、お久しぶりです。」
ベリル国王は微笑を浮かべ、穏やかな声で挨拶を交わし話しを続ける
「このような悲しい場面で再会することになるとは思いもしませんでしたが、こうして共に参列できることを嬉しく思います」
セリニアの王ラザードも微笑を返し、深く頷いた。
「私も同じ思いだ、ベリル。帝国の指導者を失った悲しみは大きいが、我々がここに共にいることが、これまでの友情の証だ。そして、これからも続いていくことを願っておる」
二人の国王は、しばしの間、沈黙の中で互いの存在を感じ取っていた。
その沈黙は、言葉以上に多くの意味を含んでいた。
彼らが長年にわたって築いてきた友好関係が、今まさにこの場で再確認された瞬間だった。
「我々の国々がこの困難な時期を乗り越え、さらに強い絆を持つことができるよう祈っています」と、ベリルが静かに語った。
「この日をきっかけに、未来へと新たな一歩を踏み出すのです。」
「そうだな、ベリル。我々は共に進むだろう。この大きな喪失を乗り越えるために、お互いの力が必要だ」
ラザードも深く頷き、二人の視線が再び交わった。
その時、大聖堂の鐘が静かに鳴り響き、儀式の始まりを告げた。
二人の国王は、厳粛な表情を浮かべながらも、心の中では互いに深い信頼を感じ取っていた。
彼らは肩を並べ、大聖堂の扉の向こうへと足を踏み入れた。
——————
「ったく、なんでよその国の俺達が国葬警備の任につかなきゃいけないんだよ」
「戦争であれだけ借りを作ったんです。僕達だって恩を返さないと」
悪態をつくシュアに対して、大人の対応を見せるコリン。
彼等はランス国との戦争時に結んだ同盟関係により此度の国葬においての警備任務にマザーク共和国の兵士達も駆り出されていた。
「それにまさかこんなにも急に...」
視線を落とすコリンにシュアが尋ねた
「そういやハニは留守番か?」
あたりを見渡しハニの姿を探すシュアにコリンもハッとした表情を見せた
「あれ、さっきまで一緒にいたはずなんですけど....」
——————
大聖堂にて国葬が静かに進行していた。
参列者たちは皆、悲しみと敬意を胸に秘め、帝国の偉大な指導者への最後の別れを告げようとしていた。
その一方で、陰影に紛れて動く影があった。
ミケは、国葬の混乱を狙い、襲撃事件を引き起こすための計画を遂行しようとしていた。
暗く狭い通路を進む彼女の手には、小型の爆発装置が握られていた。
ミケはそれを決められた場所に設置し、計画通りに儀式の最中に爆発させる手筈だった。
しかし、通路の曲がり角に差し掛かったその時、ミケの動きが止まった。
「やめましょう。ミケさん」
目の前に現れたのは、ハニだった。
「お前はハニかにゃ...? こんなところで、一体何をしているんだにゃ?」
ミケの声は、驚きと困惑が混じっていた。
「ミケさんがしようしている事は分かっています」
悲しげな顔でミケを見つめるハニにミケは視線を逸らす。
「お前にゃ関係にゃい。ここを通せ」
ハニは目を細め、長い沈黙の後、静かに首を振った。
「ミケさん...あなたをここで止めないと絶対に後悔するんです」
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