それぞれの想い

ポルトット帝国は深い悲しみに包まれていた。

栄華を誇った皇帝が、無情にも暗殺者の手にかかり、その光を失ったのである。

帝国の各地からは嘆きの声が響き渡り、民衆の胸には深い悲しみと不安が渦巻いていた。

皇帝の死は国の魂に大きな傷を残し、その影響は瞬く間に周辺諸国にも広がった。


「私が...私がいれば....こんな事には...」


帝国の軍神は、悲しみと怒りの狭間で煮えたぎっていた。

皇帝の暗殺という信じがたい事態に直面し、その胸には計り知れない喪失感が渦巻いていた。

だが、その悲しみが冷たい怒りとなって彼の全身を駆け巡り、燃えさかる炎のように彼の心を焦がしていた。


皆の前では冷静で誇り高き彼も、今や感情を抑えきれず、目には烈火の如き怒りが宿っていた。

皇帝を守ることができなかった無力感が、彼の心を一層苛んでいたのである。

周囲の者たちは、その凄まじい気迫にただ圧倒され、彼に近寄ることさえできなかった。


軍神の怒りは、まるで嵐のように帝国の軍全体に伝わる。


「全軍、準備を整えよ。敵の血で皇帝の無念を晴らす。我々が一歩踏み出す時、その地は火の海となるだろう...暗殺者の情報を集めろ。皇帝の命を奪った者に、帝国の怒りを思い知らせるのだ!」


バルドルの命令を受けた兵士たちは、その言葉一つ一つに凍りつくような緊張を覚えた。

彼の心の中では、愛する皇帝を奪った者への復讐の念が燃え上がり、それはすぐにでも行動に移されようとしていた。


彼の瞳に映るのは、皇帝の仇を討つという一点のみ。

悲しみと怒りに突き動かされた彼は、戦場でその感情を爆発させることを待ち望んでいた。

しかし、その心の奥底では、彼自身がこの怒りの炎に焼き尽くされてしまうことをどこかで恐れているのかもしれなかった。


——————


皇帝の突然の崩御により、帝国は悲しみと混乱の渦中にあった。

皇帝の葬儀を執り行うため、帝国の最高位にある者たちは一堂に会し、葬儀の準備を進めながらも、その先に待ち受ける重大な決断を見据えていた。


「皇帝の葬儀には、我が帝国と強い絆を結んできた友好国の指導者たちも参列すべきだ」


長老の一人が重々しい声で提案した。


「この悲しみを共有し、共に皇帝を弔うことで、これまでの盟約をさらに強固なものにしなければならない」


他の顧問たちはその提案に賛同し、直ちに各地の友好国へ使者が送られることとなった。

皇帝への敬意を表し、共に弔うため、友好国の指導者たちは帝都へ招集されたのである。


——————


そして迎えた葬儀の日、帝都には深い悲しみと静寂が漂い、国内外から集まった賓客たちは、荘厳な儀式の中で皇帝に別れを告げた。

各国の使節たちは、帝国の悲しみを共に感じ、その場で新たな絆を誓い合った。


しかし、その場には一人、心に別の目的を抱えた者が紛れ込んでいた。


表向きは忠実な友好国の使節として参列しているその男の心の中には、帝国の混乱を利用し、権力を奪い取ろうという冷徹な計画が渦巻いていた。


「ついにこの時が来たか....」


アダムは厳粛な葬儀の中で密かにほくそ笑んだ。

皇帝の死によって帝国は今、最も脆弱な状態にあり、次期皇帝の座を巡って内紛が起こることは容易に想像できた。


彼の国は、長年にわたり帝国との友好関係を保ってきたが、その裏では常に帝国の力に怯え、そして羨望の念を抱いていた。

この機会を逃す手はないと、アダムは以前から計画を練っていたのだ。


「ミケの手による暗殺は想定外だったが...これは絶好のチャンスだ」


帝国が悲しみに沈んでいる今こそ、自分が手を伸ばし、帝国をその手中に収める時だと考えていた。


アダムは葬儀の合間を縫って、帝国内で不満を抱く有力者たちとの接触を図り、彼らの野心を巧みに煽り立てた。


「今こそ、我々が手を組む時だ。帝国の未来は、あなた方の手に委ねられている。だが、そのためには私の国の支援が必要不可欠だ。」


彼は一見、共に悲しむ賓客として振る舞いながらも、その裏で帝国を乗っ取るための陰謀を着々と進めていた。


アダムの目には、帝国が自分の支配下に入る未来が鮮明に映し出されていた。

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