第4話
応接間に戻ると、サイディアスがひとりだけ、呑気にコーヒーを啜っていた。まるで先程のことなど日常茶飯事であるかのように、彼は誰もいない応接間の中でひとり、コーヒーを飲んでいたのだろう。
「……タランデュアス大臣」
「やぁ、ハイランド太閤殿下」
優雅にコーヒーを飲んでいるが、先程までの珍事件を知らないわけが無い。よってユリシオンが抱く感想はただ一つ。「この古狸がっ!」だけである。サイディアスはただニコニコと笑うだけで、腹のうちはここからでは読めない。
「まぁ、立ち話もつまりますまい。どうぞ、そちらの席へ」
そう言って示されたのはサイディアスの真ん前で、喧嘩を売っているのかと半ば
もしや……と思い身構えたユリシオンに、サイディアスはにこやかに笑いかけた。
「顔合わせは先程済んだかな? 名はまだだろう。
この子が、私の愛娘。エリシオールだ」
嫌な予感ほど当たると言うが、これはあんまりだ。だって、先程まで死のうとしていた人間だぞ。どう接しても「死にたい」しか言わない気がする。ヒシヒシとする。
「エリィ、ご挨拶なさい。お前の縁談相手である、ユリシオン=ハイランド太閤殿下だ」
「太閤殿下っ!」
そんな絶望的な声を出さなくても良いのでは無いのだろうか。
両手を口元に持ってきたエリシオールの顔は真っ青だった。だから、そんな絶望的な顔をしなくても良いのでは無いだろうか。
今まで、『太閤殿下』と言う肩書きに釣られてホイホイ縁談を持ってくる貴族も、ユリシオンの見目に釣られてホイホイ声をかけてくる女も居たが、エリシオールとサイディアスはどちらとも違った。サイディアスに至っては、楽しんでいるようにも見える。
死にたがり令嬢の嫁入り 月野 白蝶 @Saiga_Kouren000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。死にたがり令嬢の嫁入りの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます