第2話

「大臣からの縁談?」

 ユリシオンの執務室に来た幼馴染であり右腕の、カイディック=ファラシーヌは心底愉快そうにその猫目を細める。

「そそ。ほら、あそこの長女ちゃん、二十歳過ぎたのに独り身でしょ? タランデュアス大臣もだいぶ焦ってるみたい」

 タランデュアス大臣——サイディスタ=タランデュアスと言えば、厳格で堅く、かと思えば家族には優しい、公私の分別が付く優秀な大臣だ。国王が外交に出向く際サイディスタを連れ立って歩くのは、彼が各国の内情について詳しいだけでなく、剣の腕も買っているからだと誰かの噂で聞いた。

 その長女が独身。しかも二十歳を過ぎている。

「行き遅れのレディを、わざわざ殿の縁談に寄越すかねぇ」

「……どういう意味だ?」

「その長女ちゃん、かなりの曲者くせものらしいよ〜

 でもま、ユリィもそろそろ身を固めないとだしね〜。ちょうどいんでない?」

 カイディックの言葉に訝しげに眉を寄せ、ユリシオンは書類を書く手を止め、万年筆を置いて彼を見た。

「曲者って……どういうことだ?」

「まま、会えば分かるって」

 カイディックはニヤニヤ笑うばかりで深くは言わない。優秀な部下だし、良い幼馴染なのだが、たまにこうやってイタズラをしてくる。心の中でだけ深くため息をつき、一度置いた万年筆を手に取る。今日の業務はまだ終わっていないのだ。陽はとうの昔に沈んでいるし、時計の短針は十を指している。その意味が分からないほど愚かでは無い。だが、どうしてもこの山積みの書類は終わらさなければいけないのだ。

 なぜなら

「楽しみだね、長女ちゃんに会うの」

 そう、明日はタランデュアス邸へ顔合わせにいくのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る