6.結末
「今回の件じゃ、二人に世話になっちまったな」
同行するつもりもなかったのに、「克海くんも一緒に来てぇ?」と胡桃の真似でねだる烈牙の気味悪さに負けて、助手席に座っていた。
烈牙は胡桃の自宅前で車から降り、全開にした運転席側の窓枠に、肘をついて身を乗り出している。男っぽく目を細め、悠哉の目前を横切る形で手が伸ばしてきた。
「え……っと、なに?」
「握手だよ、握手」
急になぜと思いつつ、促されるまま手を取る。握り返してきたのは、胡桃の、白魚のような細い指を裏切る力強さだった。
「次、悠哉な」
名残惜しそうに克海の手を離し、今度は悠哉へと手を差し伸べた。戸惑いを浮かべながらも応じかけた手を、しかし烈牙はするりとすり抜ける。
そして悠哉の左頬に手を当て、ぐいっと引き寄せるのと同時、彼の右頬に唇を押し当てた。
「――っ!」
悠哉も驚いただろうが、横で見ていた克海も当然、驚いた。やっぱり二人は両想いで、ここにいる自分は邪魔者だったんじゃと心配するも、よく考えると今は「烈牙」だ。
もっともこう感じられることが、胡桃に惚れたと思っていたのが、月龍の感情に引きずられていただけだと実感できて、安堵もする。
「お前には、これの方が礼になるだろ?」
パチンと片目を瞑る仕草が、胡桃の姿と相まって可愛らしく見えた。
「本当はこいつ本人にさせてやりたかったんだがな。今も、なにするのーって中で真っ赤になって騒いでるくらいだから無理だろうからな」
だからおれが代わりにな。
笑顔を残して、じゃあなと悠哉の頭を撫でるように叩く。
「――烈!」
呼び止める悠哉の声は、いつになく真剣なものだった。
「今回の結果を、おれは良かったと思っている。これでもう――遠慮せずに、すむ」
月龍と蓮が結ばれて、幸せになるのを見届けるのが蒼龍たる自分の義務だ。以前、悠哉はそう言っていた。
けれどそのしがらみが解かれた今、確かにもう遠慮はいらない。
半身で振り返った烈牙が、おう、と肩を竦める。
「わかってるって。うまくやんな」
「じゃあ――またな、烈」
肩越しに軽く笑んで、烈牙は後ろ手に手を振った。
そう、胡桃はここにいる。悠哉もここにいる。その気になればまた、明日にでも会うことができる。
そのはずなのに、どこか不安げに烈牙の後姿を見送る悠哉の表情が、やけに印象的だった。
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