第7話 バイト先からデートに狩り出される俺と情緒不安定なバイト仲間

「お客様、注文はお決まりでしょうか?」

「はい。広樹くんをお持ちでお願いします。チュッ♡」


バイト先の喫茶店で注文を取りに行った俺は、ワンピース姿の容姿端麗な女性客にそう言われ、投げキッスを受けた。


「うをっ?!///まきっ…涼子さん!」


そう。その女性客は大学で皆の憧れのマドンナにして、同じサークルの先輩で、今は偽の恋人を演じてくれている槇村涼子さんだった。

彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて彼女はこちらを見上げて来た。


「えへへー。バイトの終わる時間よりちょっと早く着いちゃった。」


「待たせちゃってすんません。デート、やっぱりバイトない日にした方が良かったっすかね…。」


申し訳ない思いでそう言うと、涼子さんはニッコリ笑顔でふるふると首を横に振った。


「んーん。いいのよ。この日がいいって私がワガママ言ったんだから。どうせだから広樹くんの働いている姿見てみたかったしね。

男前の店員さん?何か軽く食べられる甘い系で、オススメのメニューあるかしら?」


「んー。そうっすね〜。今だと期間限定のマンゴーパフェがオススメですけど…。」


涼子さんは俺の答えにメニュー表を見ながら顔を輝かせた。


「あ、ホントだ。美味しそう♪じゃあ、それを男前の店員さんの「あ〜ん」付きで!」

「ええ!///」


「ふふふっ。冗談よ。お仕事頑張ってね?広樹くん。」


焦る俺に涼子さんは余裕の笑みを浮かべてヒラヒラと手を振るのだった。


        ✻


「ったく、涼子さんは、一々煽るような…。///俺、何か遊ばれてないか…?くうっ…。」


文句を言いながらも、美人に思わせぶりなセリフを言われるのを内心喜んでしまう男のさがと葛藤していると…。


「ね、猫田…さん…。注文…は…?」

「あっ。ごめん。大上おおかみさん。マンゴーパフェ一つお願いします。」


バイト仲間でホール担当の大上さん(ちょっと太めで内気な俺と同い年の女性。)に涼子さんの注文をお願いした。


「よ、よいしょっ…。さ、さっき店長が、猫田くん、すごい美人の…お客さんと…親しげに話してたって言ってた…けど…。」


太めの体を震わせ、パフェを作りながら普段あまり喋らない彼女が珍しく長文で話しかけて来たのに驚き、俺は正直に答えてしまっていた。


「ああ…。いや、彼女は大学の先輩で…。訳あって今は恋人関係」


「のフリをしてもらっている」と言いかけた時…。


ガチャアァン!!

「(猫田くんに恋人がぁ…!!)うわあぁん!わああぁぁ…!」


「えっ。大上さん、大丈夫?どしたのっ?!💦」


突然、作っていたパフェの容器を割ってしまい、泣き出した大上さんに目を剥き、彼女を宥めながら、割れた容器と床掃除に追われ、しばらくてんやわんやになった。


         ✻


あれからも、大上さんはホールで色々やらかしてしまった為、結局俺も手伝う事になり、予定より上がるのが大分遅くなって、店の外で待っていた涼子さんの元へ向かったのだった。


「ふぅっ…。|||| 涼子さん、本当に大変お待たせしちゃってすんませんでした…。」


謝り倒す俺に、涼子さんはパチパチと目を瞬かせた。


「全然構わないけど、広樹くん何か疲れてる…?ホールの方でものが割れる音と泣き声が聞こえてきたけど、どうしたの?

パフェ来るのも遅かったし、忙しい時に難しい注文しちゃってたらごめんなさいね?」


涼子さんに気を遣わせてしまい、逆に申し訳ない気持ちになりながら、ブンブンと手を振って否定した。


「いや、パフェはそんなに難しい注文じゃないんすけど、なんちゅーか、今日はホールのスタッフさんの(心の)調子が特別悪かったみたいで…。」


大上さんの事を説明しているところへ、従業員出入り口から、しょんぼりと肩を落とした本人が姿を現したので、慌てて挨拶をした。


「あっ。お、大上さん、お疲れって…あれ?もう上がり?」

「ね、猫田くん…。お疲れ様…。本当はあと2時間あったけど、店長から今日はもう帰って休めって言われちゃった…。ハハ…。」

「そそ、そっか…。」


大上さん、確かシフトが夕方までだった筈では?と不思議に思っていると、彼女に引き攣った笑顔でそう説明され、俺は何と言っていいか分からなかった。


「広樹くんのバイト仲間さんですか?

彼とお付き合いさせて頂いている槇村涼子です。

いつも彼がお世話になってまーす!」


「…!!!||||」

「涼子さん!//」


そこへ、涼子さんが大上さんに俺の恋人として挨拶して来たので慌ててしまった。


バイト先でも恋人として通すつもりかよ?


「あ…あ…。||||(こ、この人が猫田くんの恋人…。昔の私とも比べ物にならないぐらいの美人でスタイルもいい…!)」


「??あの、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」


話しかけられてどんどん青くなっていく大上さんに、涼子さんが心配そうに近付くと…。


「(その上、性格もよさそうっ!)うわあぁっ…。わああんっっ。」


ダダダダッ!!


「えっ。ちょっ…、あのっ。」

「大上さんっ?」


大上さんは、驚く俺達に背を向け、泣きながらすごい勢いで走り去って行った。


「彼女、どうしたのかしら?」


「いや~、大上さん、時々情緒不安定になるんすよね。3ヶ月前、彼女が新しくバイトに入って来て、「はじめまして」って言った時も泣き出して…。ハッ。もしや…。」

「…!」


俺はある事に思い当たり、口に手を当てた。


「分かりました!大上さん、初対面の人に挨拶されると情緒不安定になっちゃうんじゃないすかね!」

「……。」


自信満々に自分の推理を披露したが、涼子さんはそんな俺をしばらくジト目で見つめ…やがて困ったような笑みを浮かべた。


「それは多分違うんじゃないかしらね…?」



******************

元カノファイル②


相良千愛さがらちあ(20)

※両親の離婚により姓が大上おおかみに変わる。


高校の時バイト先(コンビニ)で広樹と知り合い、当時、両親の仲の悪さに悩みを抱えており、相談する内に親密になっていき、付き合うようになる。

しかし、3ヶ月後に鉄男と浮気している事が分かり、破局。


その後すぐに鉄男とも別れ、

「縒りを戻したい」と広樹に迫るも、

「親友の元カノと付き合ったら、奴に辛い思いさせるから、復縁は出来ない」と言われ、号泣して立ち去る。


その後、ストレスで不登校(広樹、鉄男とは別の高校)になり、過食で太り、可愛らしかった外見は様変わりしてしまった。


両親の離婚後、同居している母親に働くように言われるものの、なかなかうまくいかずバイトを転々としていたが、3ヶ月前、偶然

広樹のバイト先の喫茶店に勤める事になる。


太って、両親の離婚で姓も変わってしまった彼女に広樹が自分に気付く事はなく、にこやかに「はじめまして」と挨拶されてしまい、号泣。


それでも、以前のようにバイト仲間として温かく接してくれる広樹に想いを募らせていたが、ある日、美人女性客が来店し、広樹に恋人だと教えられ、号泣。


とても自分には敵わないと心が折れ、後日、バイトも辞める事に…。


その後の彼女の行方は誰も知らない。





*あとがき*


いつも読んで下さり、フォローや、応援、評価下さり、本当にありがとうございます✨✨


今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る