第6話 マドンナ先輩の名前呼びと次の約束

「ふわーっ!あのヘアピンカーブ曲がるとこ、メッチャスピンかかって迫力ありたしたね?」

「ホントねーっ!最後、レースですんでのところでライバルを下すシーン、爽快だった〜。仲間同士の絆にもグッきたし、久々にいい映画見たわ〜。」


映画『ワイルドスピン』を観終わった後、近くのカフェに移って、俺と槇村先輩は興奮気味に感想会を繰り広げていた。


「槇村先輩にも楽しんでもらえたならよかったっす。気を遣って、俺の好きなジャンルの映画にしてくれたのかと思ってたんで…。」


「別に気を遣っていたわけじゃないのよ?アクション映画も嫌いじゃないし、広樹くんの好きな映画を私も共有してみたかったから…。」

「槇村先輩…。///」


意味ありげな笑みを浮かべじぃっと大きな目で見詰めてくる槇村先輩を前に、俺はまたも胸の鼓動が速まってしまった。


「ま、槇村先輩、あんまり後輩男子を惑わすような事言っちゃダメっすよ?いつの間にか名前呼びだし…。さっきは、ほ、ほっぺにキスして来るし…。///

恋人同士のフリをしてくれるのは、有り難いんすけど、3回NTRの謎を解く前に、俺が本当に槇村先輩の事好きになっちゃったらどうするんすか。」


感想を言い合うのに興奮して、かなり近付いていた彼女との距離を、椅子を座り直し、適切な距離に戻しながら文句を言うと、槇村先輩は大きく目を見開いて、顔を赤らめた。


「キ、キスしたのは、確かにやり過ぎだったかもしれないけど、ああでもしないと、私の気が収まらな…。」


「え?」


「な、何でもないわ!ひ、広樹くんたら、名前呼びされたり、思わせぶりな発言をしたりするだけで、私の事好きになってしまうというの?随分チョロいんじゃない?」


「チョロいですよ。俺は…!

槇村先輩みたいに、美人でスタイルがよくて、いい匂いのする先輩に、優しくされたり好意を持ってる素振りをされたら、それだけで、即惚れします!!

ってーか、多くの男子がそうですよ。気を付けて下さい!」


俺はキモがられるかもしれないのを覚悟の上でそう宣言し、槇村先輩に注意を促すと、彼女は、かあぁーっと真っ赤になった。


「え。え。そんな…。はわわわ…。////(美人で、スタイルがよくて、いい匂いのする先輩…!広樹くんたら、私の事をそんな風に…?そ、即惚れしてくれちゃったの?ど、どうしよう?)」


何やら、小さい声でブツブツいいながら、困っている様子の彼女に俺は安心させるように言ってあげた。


「あ、いや、大丈夫っす。まだ、惚れてはいないっすよ?ただ、気を付けて欲しいって言いたかっただけです。」


「え…。あ、そうなの…?」


しかし、彼女は何故かしょんぼりとした表情で、肩を落とした。


「はい。槇村先輩が、後輩の為に3回NTRの謎を解くために協力してくれてるだけっていうのは分かってますから、好きになったら、悪いですし…。

それに、俺の好きになった人は漏れなく鉄男を好きになりますから。」


「ああ、広樹くんはそれが恋愛のネックになってしまっているんだものね。う〜ん。」


彼女は、しばらく腕を組んで考え込むと、真面目な顔で俺にこんな事を聞いてきた。


「広樹くん、正直に答えて欲しいのだけど、親友の鉄男くんと、自分、どちらが容姿が優れていると思う?」


「え。しょ、正直にっすか…?分かりました。

鉄男もかなりイケメンだと思いますが、容姿だけなら俺の方が優れていると思います。」


「ふんふん。鉄男くんの画像か何かあったら見せてもらえる?」


「ああ、はい。え〜と…。これが、つい先月飲んだ時にふざけて撮った写真っす。」

「ふむふむ…。」


スマホの画像を表示させて、槇村先輩に見せると、彼女はしばらくその画像をじーっと凝視していたが…。


「なるほど。確かに、そうね。鉄男くんもそれなりにカッコいいけど、広樹くんの方がイケメンだと思うわ。」


そう言うと、槇村先輩は嬉しそうにニッコリと笑ったのだった。


         ✽


カフェの後、二人でショッピングセンターの中のお店をブラブラ見て回って過ごし、夕食を食べ、帰る頃にはすっかり夜になっていた。

家の最寄り駅の改札を出たところで、槇村先輩はニンマリ笑った。


「ふふっ。遅くなっちゃったわねー。本当の恋人同士だったら、これからああいうところへ行っちゃったりするのかしらね?広樹くんも行きたい?」


…!!!!////

近くのお城のような建物=どう考えてもそういう目的の宿泊施設を指差して煽ってくる槇村先輩に動揺して声を荒げてしまった。


「槇村先輩!!そ、そーゆーのホントにダメっすからね!!」

「あっ。ごめんなさい。広樹くん。もう煽るような事言わないからっ…。」


出来るだけ建物を見ないように、足早にその場を去る俺を、槇村先輩が慌てて後を追いかけて来た。


「涼子って下の名で呼んでくれたら、もうからかったりしないから!」

「いや、なんでっすか…?」


からかわない条件に名前呼びを所望してくる槇村先輩に目を剥くと、槇村先輩は真剣な顔で詰め寄って来た。


「私は、広樹くんの恋人を自然に演じられるようにと頑張っているのだから、広樹くんも、少しは歩み寄って来てくれないと困るわ。だから、名前呼び。ねっ?あと、先輩はなし!」

「ええ〜。//」


人差し指を立てて主張する彼女に戸惑ったが、俺の3回NTRの謎を解く為に、槇村先輩にはこんなに時間を使って、協力してもらってるんだから、恥ずかしいからといって、それぐらい努力しなきゃいけないよな…と思った。


「じゃ、じゃあ…。涼子…さん…?//」


俺が照れながらそう呼ぶと、槇村先輩は、パチパチと目を瞬かせ…、やがて満足そうな笑顔になった。


「うん。本当は呼び捨ての方がいいけれど、今はそれでいいわ。じゃあ、来週のデートは、最初から名前呼びでお願いするわね?」


「え…?」


なんと、来週のデートも予定されているらしかった…。




✻あとがき✻

読んで下さりありがとうございます✨✨

次回もデート編であります。

来週もよろしくお願いしますm(_ _)m

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