花のをすくに

雨藤フラシ

梗概

粗筋【※結末まで書いてあります、ネタバレ注意!】

 昭和43年、幼い慈愛しげみは地蔵に団子を供え、母に「お祈りしないとお地蔵さまは食べられない」と教わる。母が病に倒れると、彼女が食事出来るよう慈愛は祈った。母の死後、慈愛は祭原さいばら家へ次男として引き取られる。父・景克かげよしは、地下牢の化け物・クチナシの世話を命じたが、化け物は慈愛が十四歳の時に脱走した。


 平成4年、成人した慈愛は夜更けの餐原町さんばらちょうを夢うつつに彷徨い、駐在の河野こうのごうに保護される。餐原町は祭原総合病院で栄え、事実上祭原家が支配していた。

 今日は景克の葬儀だ。


 慈愛を家に送った直後に号は金魚を吐いた。それは彼の特異体質がもたらす凶兆だ。号は三年前、祭原の病院で病死した妻の死に不審を覚えていた。

 真相を探るため赴任してきた号は、慈愛を取っかかりにすることを目論む。この時を境に、号は植物が人を蝕む悪夢に苦しみ始めた。


 不義の子だった慈愛は異母兄の克生かいに虐待されて育った。異母姉の育乃いくのは彼を庇い、一族に伝わる霊術で怪我を治してくれた。

 葬儀の席、慈愛との雑談で、死者を蘇生する反魂樹の話が出る。号が「人を苗床とするか?」と問うと否定され、慈愛は死者蘇生にも嫌悪感を示した。


 悪夢に導かれた号は、夜の墓場で慈愛が口の裂けた大男に実父を捧げ、男が死体を貪り尽くす様を目撃してしまう。それは祭原を脱走した怪物・クチナシだった。

 昭和46年、彼を兄さまと慕う慈愛は、食べても食べてもひもじがる姿に亡き母を思い出し「自分が死んだら食べて良い」と約束する。

 再び平成4年、号に送ってもらった直後に慈愛は帰還したクチナシと再会。「黄人草きひとくさを刈り尽くし、どうだんを簒奪する」と宣言する彼に付き従う。

 慈愛は号をクチナシに捧げようとしたが失敗。号が金魚を吐くのは神の加護によるものだった。彼に協力者になってもらえないかと慈愛は考えを改める。


 育乃は祭原とも縁深いどうだん稲荷に嫁入りしている。神社を訪れた号は、自分が見た大男の心当たりを尋ねた。

 育乃と宮司の森之進もりのしんは言葉を濁し、クチナシの帰還を克生に伝える。育乃は異母弟を問いただしに出かけ、慈愛は彼女に「姪の美登里みどりを守る」と約束した。

 森之進は妻が失踪したと駐在所に押しかけ、クチナシや霊術のことを明かして号に協力を求める。克生は育乃が食い殺されたと仮定し自警団を結成。手がかりを求める号は、慈愛の監視を引き受けた。


 祭原には死者蘇生の秘術があり、力の源はどうだんだった。育乃はクチナシの脱走時に命を落とし、承知で結婚した森之進は何度も彼女をよみがえらせている。だが用意したスペアが朽ち、森之進は妻が冥府・花のをすくにへ逝ったと悟った。

 育乃が消えて娘の美登里は体調を崩していた。その様子に焦る慈愛。

 号はクチナシに捕まり、慈愛と夕食を共にして話を聞く。慈愛は育乃が生ける死者だから葬ったこと、祭原が死者蘇生を求めてどうだんが狂い、クチナシは残った正気の部分、神の化身だと言う。今や秘術も霊術も呪いとなった。号の妻が死んだのは、伴侶にもたらされた金魚の加護が、呪いと反発した結果だとも。


 自警団員からクチナシの襲撃を呪文で撃退できたと連絡が入る。効果ありと見た克生は慈愛を捕らえ、クチナシを退治するため動き出した。

 号は慈愛にしたように、妻がなぜ死んだのかを問うが克生は答えられず、怒りを見せる様から「誰か殺したのではないか」と見抜く。

 作戦が始まると慈愛は自警団員にリンチを受け監禁される。


 どうだん稲荷の御神体・満天星どうだん山で克生らはクチナシを発見、森之進が祝詞を唱える中、猟銃の一斉放火が始まった。動かなくなった体が切り刻まれ、嘔吐しかけて号は隠れる。金魚を拾っていると、不意に異界へいざなわれた。

 クチナシの体が消え、団員の体から蕾が生える。彼は苗床の黄人草を自らの支配下に置き換え、満天星山で肉体を捨て神に復位した。森之進は事態を予測しながら、克生を陥れるため作戦を進めさせていたのだ。


 十六年前、父を憎んでいた克生は慈愛の虐待で憂さを晴らし、死なせてしまう。育乃は異母弟を守れなかった絶望で自殺。克生は二人の死をクチナシになすりつけた。

 十日前、憎しみを爆発させた克生は景克を自然死に見せかけ殺害。彼の犯行を疑っていた森之進は慈愛と話し、真実にたどり着いて妻の復讐を決意した。

 神クチナシは百鬼夜行を率いて山を降り、神罰で餐原町を血の海に変える。母を連れて逃げようとした克生は森之進に追いつかれた。庇った息子を斬り捨てられ、後を追う母親を見てやはり育乃と親子だな、と森之進は恍惚とする。


 神罰は現実世界で土砂災害に書き換えられた。

 号は異界で花の苗床になった妻を見つけ、金魚を呑まて解放する。死者の母にならい命を終えようとしていた美登里も、号に救われる。

 クチナシは去ったが、慈愛は神棚を作って団子を供え、祈るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る