短編 冬の彼女
笹倉のぞみ
季節の匂い
私の前でコートのボタンをいじっていた彼女は振り返り言う。淡い栗色の髪が舞って彼女の輝く瞳が見えた。
「ねえ、今冬の匂いがしたよやばいね。もう冬になっちゃったんだ」
冬の匂いとはなんだろう。彼女は時たまこのようなことを口に出すが、共感しずらい。ただ季節の匂いというのを感じられるというのは素敵だと思う。
「冬の匂いというのはよく分からないけれど、そうだね、もう冬だ」
それを聞いた彼女はなんだか面白いと言って口元を手で隠しながら笑い声を漏らす。えくぼが、見え隠れしていてそれはまるで雲の途切れから見える太陽のように見えて、私は眩しくて眩しくてたまらなくなった。
「ふふ、私はすごいんだよ。君は季節を感じるのが苦手みたいだけど私は達人、いや名人なんだからね」
「そうだね、君はすごいよ」
「ちょっとこれ冗談だから、本気にしないで」彼女は少し照れたように口を窄めた。
ああ、幸せだ。こんな時間がもっと、ずっと続けばいい。これからやってくる孤独で厳しい冬も君の笑顔を思い出していれば耐えられるだろう。茹るような暑さも凍える寒さもきっと世界に別れを告げるその瞬間も、君を思えば。
短編 冬の彼女 笹倉のぞみ @5430asi_m
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編 冬の彼女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます