第6話 自己紹介


「一先ず自己紹介といこうよ」

 私はイケメンに向かってごく当たり前のことを言う。


 犯される!と叫んだ女が何を言っているんだ的な顔をして、イケメンは手に持ったケーブルを一旦しまう。よ


 (良かった!話はまだ通じる……)


 なんかよく分からないけど、この世界観であのケーブルは何となく良くない雰囲気だった。SF映画に出てくる脳を弄るやつに違いない!って本能が悟ったのだ!


「わ、私はサキ。ピチピチの女子高生!……だった。今はなんかよく分からない状態だけど。好きな食べ物はチーズたっぷりのドリア。好きな動物はセキセイインコ……」

「もういい」

 食わせ気味にイケメンが遮る。え、失礼じゃない?こっちがムカつくの抑えて丁寧に自己紹介してるって言うのに。

 顔にそれが出ていたのかもしれない。イケメンは嫌そうな顔をして横を向く。いやいや、そういうの良いから。早くあんたも自己紹介しなさいよ。しないならずっとお前は名無しのイケメンだぞ。


「……九天」

「え?九点?」

「クテンだ、バカ」

「へ、んな名前……。日本人?」

「遺伝子的にはそうなるな。お前の名前の方が変だろ」

「クテン、くてん……。うーん。呼びづらいからテンで良い?」

「……好きにすれば良い。どうせお前のその体はカノンに返してもらうからな。その時にはお前自身は消えるんだから」


 (……ん?なんか今、とんでもないこと聞いたんだけど)


「えっも。聞き間違いじゃなければ、今「消える」って言いました?」

「ああ」

「だれが?」

「お前だ」

「…………おっとぉ。ちょっと理解して出来ない」


 消える?私が?

 どういうこと?


 私が一言も発さず悩んでいたのを見兼ねたのか、テンと名前がついたイケメンは口を開ける。


 

 「その体は、元の持ち主カノンに返してもらう。お前がカノンに行ったことの逆をすればよい。どうせお前らのことだ。脳は保管しているんだろう?」

「ちょっとよくわからない所もあるんですが!でも体に戻るのは賛成!出来るの?ねぇ?!私の、元の体に戻れるの?」

「お前、何言ってるんだ?寝ぼけているのか?お前がカノンから体を奪った張本人だろ。戻りたいってどういうことだ」

「だから!私はそんなことしてないの!死んで気づいたらこの子の体だったの!いい加減信用しろ!」

「…………」

 テンは全然私を信用してない瞳で、唇を噛んで思案している。これはもう一押しか?信じてくれそう?


「……お前じゃないなら、誰がこんなことをしたって言うんだ?お前がカノンの身体目当てで誘拐して脳を取り替えたとしか思えないだろ」

「私だって知りたい。私の体がまだちゃんとあるなら元に戻りたい」

「……それが演技なら、本当に俺はお前をどうするか分からないぞ……」

 テンが少し警戒を解いた。信じてくれた?私はサキなの!アンタの大切なカノンって人知らないの?だから、私に文句を言うな!


「じゃあこうしましょ」

「?」

「アンタすごく強そうじゃん?」

 テンは漫画的に言うと、生身の体に鈍色の機械みたいなのを取り付けている厨二病な格好だ。さっきの腕も「義体化」やらなんやら言ってた。きっとそれは生身の体を強化するものなんだと思う。

 服はちょっとダサいけど、その中から時折見えるネオン色の筋は人間のものじゃない。顔はもちろん生身に見えるし、結局どこからどこまでがその機械なのかは表面的には分からない。それでもきっとこの男は「強い」んだろうなって感じた。何に対して強いなのからぼんやりしたものだけど。

 てかこの世界、そんな体にならないと生きていけないの?え?テレビ見て勉強して寝てまた起きての繰り返しが出来ない世界なの?さっきみた外の景色は、私の知っている日常生活とは違った。あれが現実なら、本当に映画やゲームの世界のように、武器を装備しないと生き残れない世界なのかもしれない。


「強いなら私を守って」

「バカ言うな、誰がお前なんか」

「だから!あんたの大事なお姫様を助けるためって言ったら?」

「……」

「私も元に戻りたい。アンタはこの体をカノンって子に戻したい。私はこの世界を知らない。アンタは知ってるし強そう。ならやることは一つ」


 フン!っと勢いつけて立ち上がり、私は行儀悪くテンを指さす!ビシッとね!


「協力しましょう!」

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