第12話 全裸で護衛

 今回は重大任務。要人の護衛らしいよ。

 命を張って貴族か大商人をお守りすることになるわけだ。全裸で。


 どう考えてもそれはまずいだろうとのことで、僕はこっそり後ろから見守る手筈となった。

 そして当日、現れたのはまだ若いお嬢さまと髭の生えた老執事だった。

 これはもう絶対に見つかってはならない。護衛対象と仲間たちの乗った馬車をこそこそと追いかける。


 言うてまあまあの速度だよ。当たり前だよね。馬車とかけっこだもん。

 べつに僕なんて要らないんじゃない? と思った矢先、あってはならないことが起きた。

 なんと、後ろを見ていたお嬢さまに見つかってしまったのだ。


 変質者が現れたとのことで、勇者たちが馬車から降りてきた。

 おい、その抜き身の剣はなんだ? まさかこの僕に手をかけるというのか。


 こうなった以上は倒されたふりをしろだの、血を用意しないといけないだの、あーだのこーだの。

 こいつら、僕の命と報酬とを天秤にかけていやがる。


 そんな時、さらにまずいことが起きた。

 護衛が外に出た隙をついて、本物の野盗が馬車に襲いかかってきたのだ。

 もはや変態の処理なんて後回し。慌ててみんなで駆け戻る。


 馬車では、執事がお嬢さまをかばって野盗ともみ合っていた。

 人質をとられた僕らは、ひとまず武器を捨てる羽目に。

 野盗はこちらに、身ぐるみを置いていけと迫る。

 ……ん? 身ぐるみってなんだい?


 僕のなかで、これまでの怒りが急にふつふつと込み上げてきた。

 風呂上がりで異世界に転移し、そのまま全裸で冒険してるんだ。何度も服を着たいと願ったがかなわない。どう考えても常軌を逸している。


 気づいたら僕は仲間を押しのけて前に出ていた。

 そしてこう言った。

 奪えるものなら奪ってみろ。僕は全裸だ、と。


 最高の決め台詞。

 固まる空気。

 どうすんだよこれ。


 一拍おいて、みんなで大騒ぎさ。

 その混乱に乗じ、仲間たちは瞬く間に野盗を制圧した。

 良かった良かった、一件落着。


 お嬢さまは僕の活躍をお認めになり、報酬にハンカチをくれた。これで隠せということらしい。

 残念ながら、隠すにはちょっと小さかった。

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