第6話

「…よかった、壊れてない」


鞄を手に取り、安堵する。

俺は先程のスライムからの逃走で走ってきた道を戻り、放り出した鞄を確認していた。


スライムの体当たりの威力は中々だったが、少し地面に擦った痕が出来ていた程度だった。


中身も、ぐちゃぐちゃだったけどちゃんと入ってる。


「これからどうしようか…」


外へ出る道を探さないと行けない。

でも、またさっきのスライムみたいにモンスターが出てくるかもしれない…


「まあ、行くしかないか」


ここでウジウジしてても仕方ない。どうせ何もしなければ死ぬんだ。

それに何だか、さっきほど不安はない。


スライムの襲撃から生き延びて度胸がついたのか、ハイになってるのか、何故かはわからないが。


俺は鞄から出したペットボトルの蓋を開け、2口飲み、歩き出した。




先程スライムと遭遇した場所まで来た。

右に進む。




「なんだ、これ…?」


そのまましばらく進んでいると、扉があった。

それは、行き止まりになった通路の壁の、真ん中にある。

木製の、アンティーク風なドアだ。暗い色で、蔦がをモチーフとしたような模様がある。


異様で、不気味だったが、この場所がおかしいのは今更だ。

俺はビビりながらも、取っ手を持ち、ドアを押し開けた。


中の光景もまた、奇妙だった。


これまでと同じくレンガで出来た床、壁、天井。

そこは立方体の部屋だった。1辺は3mぐらい。

結構狭い。


そこまではまあいいのだが、

部屋の真ん中に、球体が浮いていた。


何の材質なのかはよく分からない。

真っ黒なのだが、これまで見た事が無いほど黒い。世界で1番黒い塗料、というのをテレビかなにかで見たことがあるが、それよりももっと黒い…吸い込まれるような黒。


…それ以外には、部屋には何もない。調べてみたが、ただレンガ(多分だが)で出来た壁に囲まれているだけ。


他にやることもない。


意を決して、球体に触れてみる。


《個体名:春名怜がダンジョン:名称 未決定を踏破しました》


《個体名:春名怜に『最初の踏破者』を付与します》


《条件を満たしたため、個体名:春名怜に『開拓者』を付与します》


めっちゃ声が聞こえてきた。

ダンジョンの踏破?この球体に触れることで、攻略したことになるのか?


《最初にダンジョンを踏破した者には報酬が与えられます。望むものを答えてください。》


え、そんなのがあるのか?

俺、ただスライム1匹倒しただけなのに?


「な、なんでもいいのか?」


…返事は返ってこなかった。答えを言えということなのだろうか。


もう良く分かんねえことばっかだし、混乱もしてる。でも、答えは決まっていた。


俺は良く、妄想をしてたんだ。

つまらない日々が終わって、ゲームみたいな世界になる。モンスターが現れて、戦う。そして、能力に目覚める。

中学生男子なら誰もがする妄想だろう。


妄想の中の俺には、どの妄想でも共通してることがある。




「『最強になること』だ!」



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