第4話

あいつは、俺を見失っているようだ。

少しずつ、音を立てないように後ろへ下がりながら、俺は考えていた。


スライムは、洞窟に入ったのち、周りを少しウロウロしていた。

俺の場所が分かってるような動きじゃない。


先程の鞄のことからも分かるように、こいつは、目が悪いか、見えないようだ。


俺からは、その場所がしっかりと分かる。

やつの場所から、俺のことも、多分普通の人間なら見えるはずだ。


故にスライムは、他の情報、例えば音や、振動とか…何かは分からないが、それを頼りに俺を探している。


故に、やるべき事は、静かに下がり、スライムが諦めるのを待つこと。


なのだが。


ゴトン...


石を蹴って、音を立ててしまった。


やっちまった!

石が落ちてるってのは知ってたのに!


やつは俺の失態を見逃してはくれなかった。

いきなり、俺の方へ向かってくる。


「クソっ!」


なんとか、やつから少しでも逃れようと走る。

だが、やつの方が速い。


俺は壁に追い詰められ、体当たりを食らった。


「うっ!」


次は足に食らってしまった。

思わず蹲る。

すげえ痛い。ギリギリ骨折はしてないみたいだが…


また向かってくるスライムから、そのまま倒れ込み、転がることで逃れる。


「こうなったら……」


手段の1つとして考えてはいた。


スライムは、ゲームとかで言えば1番弱い敵だ。だから、もしかしたら倒せるかもしれない。

そんなことが頭に過ぎってはいたが、これは現実だ。

怖い。


だから逃げてた。


でも、もう逃げれない。

俺がこいつを殺さないと、俺が殺される。


もう、訳が分かんねえことばっかで、混乱してたし、泣きたい気分だったが、それだけは分かる。


やるしかない。


「うおおぉぉおお!」


俺は、気合いを入れるために叫びながら、すぐそこにあった石を握り、また向かってくるスライムをぶっ潰そうと、石を叩きつける。


避けられた。


俺はやつがまた向かってくる前に、なんとか立ち上がる。


そして、飛びかかってきたスライムを何とか避ける。


そしてまた走ってやつから離れながら、どう生き残るかを考えていた。


(このまま逃げ回っててもダメだ。でも殴ろうと思っても避けられる。どうすりゃいい?あいつの弱点は、恐らくだが、あの核みたいなやつだ。さっき飛びかかってくる時に見えた。体の真ん中ぐらいに、小さい石みたいなのがある。ゲームとかじゃよくある設定だ。)


また飛びかかってくるのを、左脇腹をかすめながら横っ飛びで避ける。


(もうひとつ、恐らくだが目が見えないのも弱点。なら、さっきの鞄みたいにまた石で気を逸らせられるか?)


体をたわませ、飛んでくる直前のスライムに向かって石を投げる。


僅かにそれたが、やつはまた、石に引き付けられている。


これだ!


俺はスライムが気を取られてる隙に、石を拾って、スライムに向かって投げまくる。


やつは戸惑いながら、ウロウロしていた。

周りに落ちてきた石のどれもに反応している。


俺は石をもうひとつ拾って、スライムにむかって走る。


「うらぁぁ!!」


石を両手で握り、思いっきり叩きつける!


ゴリッ ビチャッ


固いものを潰したような感触があった。そしてスライムの体は、ゼリーをぶちまけたみたいに広がって、動かなくなった。


《個体名:スライムを討伐しました》

《個体名:春名怜に『最初の討伐者』を付与します》

《レベルアップしました》


頭には、「討伐した」と聞こえてきた。やつも動かない。


やったんだ、俺はやつを倒した!

生き残った!


「よっしゃぁぁあ!」


俺は、腕を天に突き上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る