第11話 「コーヒーを飲んで振り返えろうかな」
■マイハウス
湖畔で過ごした後、私たちはマイハウスへ戻り、ダイニングで夕飯を食べてた。
ガイウスが村で仕入れてきた魚をフェンが料理をしてくれたので、美味しく食べられる。
どんな悩みがあっても、美味しいご飯があれば大半解決できると私は信じていた。
「はぁ~、食べた食べた」
「マスター、食後のコーヒー」
「ありがとう、フェン」
しっかり食事をとり、コーヒーを貰って一息つく。
こんな平和な時間を過ごせるのはこの異世界に来てからだ。
残業も多く、責任が重くのしかかる仕事から離れるためのToFを遊ぶ……。
そんな日々が終わったと思ったら、異世界に来ているなんて、想像できないことだった。
「明日からは村へ、ちょこちょこ顔をだしながら薬作ってのんびり過ごしたいなぁ……」
私としては、ゲームはスローライフをするための場所である。
現実が嫌だったので、逃げ込んだ先で面倒事に巻き込まれるのはもう勘弁してほしい気分だ。
「そんな気持ちだから、眠る機会が多いのかなぁ……」
異世界(?)に来て3日、私の1日の半分近くは寝ている。
休日でもよく寝ていたけれど、どうなっているんだろうか……。
ステータス上の体調は『健康』となっているので、今のところ大丈夫。うん、たぶん。
「お嬢、のんびり過ごすならこの辺を開拓して自給自足しねぇか?」
「あー、それもいいね。ガイウスにお任せしちゃおうかな」
椅子に深く腰を掛けて、ガイウスの声にこたえた。
スローライフを目指すなら自給自足は必要だよね。
畑だけでなく、畜産もしていきたい。
そのあたりの知識はガイウスがスキルとして持っているので、任せるには最適だった。
私は『人の役に立ち、好きなことをして生きていく』ことを生きる目標にする。
「ん、おかげですっきり頭の整理ができたかも……」
フェンの入れてくれたコーヒーの香りを今一度嗅いでから口を付けた。
「主様、それでしたら拙者は情報網の構築を行ってまいります。分体を作ればすぐに構築していけましょう」
いつの間にか、私の隣で膝をついて頭を下げていたサスケが、髪の毛を抜いて息を吹きかける。
するとサスケと瓜二つなものがたくさん現れた。
西遊記だ……と私は思う。
でも、サスケの種族であるハヌマーンは西遊記の孫悟空のモデルとなった存在と言われているので、これも当然なんだろうな。
「この間のようなことを起こさぬように、密な情報網を作れ」
「「「了」」」
サスケの分体は一言告げると一斉にダイニングから散っていった。
私の従魔達はカンストまで確かに育てたけれども、スパダリ感があるんだなと改めて思う。
「オレはマスターの傍に常にいるからな」
出遅れたことが不満なのか、不愛想な顔をしているフェンがコーヒーのお代わりを入れながらそう言った。
私がいま生きているこの世界で、確かな絆を持った存在がいることはありがたい。
「フェン、ありがとう……けど、厄介事を持ってこないようにしてね」
それだけ告げると、私は入れられた温かいコーヒーを飲み直した。
◇ ◇ ◇
コーヒーを飲んでいるマスターを眺めて俺は考える。
マスターやオレ達の力はこの世界では異質ではないかと……。
つまりは、望むと望まざると厄介事が来る可能性は高かった。
ゆっくりとコーヒーを飲むマスターを眺めて、より守りたいと思う。
「ああ、厄介事は持ってこないようにする」
マスターに知られることなく、厄介事を片付られる体制を作らなければならない。
サスケもそうだろうし、ガイウスも畑のついでに周囲を柵で囲って陣地構築をするはずだ。
オレ達は種族も、性格も違っているが、ただ一つだけ共通しているのはマスターを守ろうとする意志である。
ゲーム時代の『従魔としてのプログラム』といえばそうかもしれないが、オレ達にはそんなことは関係なかった。
「フェンは昔から素直でいい子だよねぇ……」
マスターがぽつりとつぶやいた言葉にオレの胸がチクりと痛む。
彼女にとって、オレは子供ようなものなのかと辛くなった。
オレがどれほどの想いでマスターを見ているのか、わからせる必要がある。
マスターの言葉に俺は決意した。
決行は今夜、ひっそりと動く準備をしよう。
「マスター、オレは少し用事を思い出したので行ってくる」
「いってらっしゃい、夜だから気を付けてね」
マスターは俺の方を向き、笑顔で見送ってくれた。
この笑顔を守りたいし、俺だけのものにしたい。
強い気持ちが溢れ出して止まらなくなった。
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