第10話 「……疲れちゃった」

 フェンと一緒に村を出て、待ちぼうけをしていたガイウスと合流した。


「お嬢、顔がつかれているけど大丈夫か?」

「そんなにひどい顔してる?」


 頬をむにむにと両手でマッサージする私をフェンがぎゅっと抱き寄せる。


「マスターは悪くない。気にするな」

「だから、そういう態度はやめてって!」

「まったくだ、俺の前でイチャイチャすんじゃねぇよ」


 蚊帳の外になっているガイウスがガハハと笑っているので、私はフェンを突き放して、一息ついた。

 フェンは特にスキンシップが激しいので困る。

 でも、顔がつかれているのはエミリーさんのこともあったけど、朝まで薬の準備ともあって、あまり寝ていない部分があった。

 昨日はお昼から夜まで寝ていたのに、人間の体というのはよくわからない作りになっている。


「ふわぁ……また寝ちゃいそう……」


 大きな口を開けて欠伸が漏れた。

 村の一大事を解決したという安心感もあって、力が抜けてきている。

 もっと異世界の時間を大事にしたいのに寝てばっかりな私だ。


「ガイウス、少し離れた場所で休んでいこう」

「おう、そうだな。村人に見つかれないように湖のほうまで行こう」


 うつらうつらとなる中で、フェンとガイウスの声が聞こえる。

 頼りになる二人がいてくれて、私はありがたかった。


◇ ◇ ◇


 そよ風が吹いている中、私は目が覚める。

 頬を撫でる優しい風とそれによって起こされる水音が私の寝ぼけた感覚に染み込んできた。


「ここは、湖の上?」

「おはよう、お嬢」

「ガイウス、おはよう」


 私が声のする方向をみるとガイウスの顔が見えた。

 堀の深い顔立ちに短く刈り揃えられた赤茶けた髪がよくわかる。

 フェンとは違った筋肉質な漢の魅力がよく出ている顔だ。


「水の上だから、ガイウスなの?」

「くくく、あいつは泳ぐのが苦手だからなぁ……岸辺で荷物の見張りだ」


 フェンは何故か泳ぐのが苦手で、水辺を嫌う。

 それでも湖のほとりでボートをの上で休むように言ってくれたのであれば、気遣いがうれしかった。


「お嬢はフェンや俺らのことをどう思っているんだ?」


 ガイウスからの突然な問いかけに私は言葉を失う。

 どう思っていると言われても、大切な従者という感覚が抜けなかった。

 ゲームの時とは違って獣人の姿になったとしても、大切に育ててきた我が子のような思いである。


「どう思うと言われても……ちょっと、わかんない」


 でも、ゲームとは違ってそれぞれが自分の意思をもって行動し、愛情を向けてくれているのがわかるので、私もドキドキしていた。

 そのドキドキは異性を意識しているといえばそうだけども、だからと言って愛や恋なのかと言われたら、わからない。


「そうかぁ……まぁ、こんな世界に来ちまってまだ日も浅いし、ゆっくり考えていけばいいぜ」


 ガイウスは何か思うことがあるのか、それだけ言うとボードを漕ぎ始めた。

 湖を軽く1周して戻るつもりらしい。


「魚がいるね。これをとって食べるのも美味しそう……」

「釣りもいいなぁ。釣り竿を作ったら今度やろうか」

「いいね! 湖の上だとフェンがこれないから、岸辺からだね!」

「フェンがこれないから……ねぇ……」


 私はガイウスが漕いで動くボートと泳ぐ魚に気を取られて、ガイウスが呟いたときの顔を見ることができなかった。


 ◇ ◇ ◇


 ボートを漕いで動きながら、俺はお嬢のことを見ていた。

 俺達従魔は『げぇむ』ではお嬢のような契約主を守る存在として、動くのが当たり前となっている。

 3日前からたどり着いた世界で、自らが考えて動けるようになった時、俺は正直どうしていいかわからなかった。

 難しいことを考えるのは苦手だし、もともと敵として存在していたイベントの特典で加入したのが俺である。

 だから、お嬢がはじめから育てていたフェンや、役立つ仲間として育成をさせてきたサスケと俺は立場が違っているように思った。


「でも、そういう枠以上のものを感じるんだよなぁ……」


 湖の水面を触って、子供のようにはしゃぐお嬢を見ていると、胸の奥があったかくなるのを俺は感じる。

 この気持ちは『げぇむ』設定での【親密度MAX】のものなのか俺にはわからなかった。

 俺は馬鹿だからな。

 荷物運びくらいしか俺はやってないし、できていない。

 だから、このボート漕ぎはチャンスだと思って、フェンに代わってもらった。

 けど、お嬢の見ている景色の先にはフェンが大きいことを知る。

 わかっていたと思っていたが、俺はそのことが悔しいと感じた。


「もっと、お嬢の役に立たないとなぁ。俺も」

「何をいっているの、私はガイウスの力強いところとっても頼りにしているよ?」


 俺のつぶやきが大きかったのか、お嬢が答えてくれた。

 頼りにしているという、ちょっとした言葉だけども俺は嬉しくなる。

 チョロい奴だと思われてもいい、誰って俺は馬鹿だからよぉ。



 



 

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