第9話 「残った私が村人を守ります」

■ラヴィル村


 寝る間も惜しんで薬を作り、私たちは急いでラヴィル村までやってきた。

 村は若干騒がしい。

 フェンは私と一緒に村に入り、ガイウスは村の外で待機してもらうことにする。

 事情も知らないはずの薬師が大量の解毒剤を持ってきたら怪しさが酷いからだ。

 私は村に入ってすぐ、村長さんの家を目指した。


「村長さん! 何が起きていますか?」


 家の扉を開けて中に入り、開口一番村長さんに尋ねました。


「おお、リオ。それが村人の中から、腹痛や下痢を訴えるものがおってな。エミリーを探してもらっておるのじゃが見つからなくてな……」

「そう……ですか……」


 村長さんが困ったように答えてくれたのだが、私は歯切れの悪い返事かできない。

 エミリーさんが仕掛けた毒なのだが、それを言ったら村が混乱するのでいえなかった。


「リオはどうして朝早くから村へ?」

「ええっと、村の近くにある薬草の生えている場所をエミリーさんに教えてもらおうと思い、こちらに来たら騒がしくなっていたので……」


 怪しくない理由を立ち上げて、村長さんと話をする。

 現状を素早く解決するためには多少の嘘も必要だった。


「そうか、それは助かる。見に行ってくれないかな?」

「はい、わかりました。すぐに行きます」


◇ ◇ ◇


 私は村長の家を出て、村人たちが騒がしくしている方へ駆け出す。

 フェンとガイウスも私の後ろについて来てきた。

 人だかりができている家が見え、そちらに向かう。


「すみません、道をあけていただけますか?」

「おお、リオ!」

「ブライアンさん! ここはブライアンさんの家なんですか?」


 私が人だかりの前に立っていると、鍛冶師のブライアンさんが血相を変えて私に近づいてきました。

 

「ああ、俺の家じゃねぇんだが……従妹がな朝食を作っているときに急に倒れて、エミリーの家にいったらいなくて、周辺を探していたんだが見つからなくて……そうしたら騒ぎになっちまってな」


 ブライアンさんは頭をぼりぼりと掻きながら答えてくれる。

 小さな村だから、病気の蔓延が怖くて様子を見に来る人がいるのだろう。

 感染症だったら、この行為は完全にアウトなんだけどね。


「わかりました、まずは私が持ってきていた解毒剤を試してみます」

「そうなのか、助かるぜ」

 

 疑うことなくブライアンさんは従妹さんの家に私をいれてくれた。

 家に入ってみると、青ざめた従妹さんが苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。


「この薬を飲んでください」


 瓶のふたを開けて、従妹さんの口から解毒剤を流し込んだ。

 飲み終わった彼女は呼吸が整い、顔色も戻る。

 解毒剤は無事できたということで、私はほっとした。


「持ってきた薬でなんとかなりそうですね」

「おお、助かったぜ! ありがとう、リオ!」


 ブライアンさんは涙を流しながら私をハグしてくる。

 苦しいともがく私を解放してくれたのはフェンだった。

 

「マスター、他の村人の様子も見に行くべきだ」

「うんうん、そうだね」


 私はフェンの鋭い視線を向けられておびえるブライアンさんをよそに被害状況の確認に向かう。

 幸い、ブライアンさんの従妹さんと数人の家だけが被害にあっており、私のアイテムスロットに仕込んでいた分でなんとかなった。

 サスケの話では川に毒を入れたと言っていたが、流れきる可能性のほうが大きいので、様子見としておこう。


「目の前の問題は解決したので、村長さんに報告しなきゃね」

「ああ、そうだな」


 フェンは先ほどのブライアンさんに向けた鋭い視線とは違う優しい目で私を見下ろしてきた。


「どうしたの?」

「マスターの仕事をやりきったときに見せる顔が俺は好きだ」


 ストレートな言葉が私にボディーブローのように刺さる。

 乙女ゲーのキャラクターからしか聞かされない言葉を受けて、私の顔が赤くなるのを感じた。

 フェンの少し低い声色がASMR音声のように聞こえて、私の理性が危険で危ない。

 

 「も、もう! バカなこと言っていないでいくよ」


 私はフェンを連れて村長の家に今一度向かった。


◇ ◇ ◇


 村長さんの家にいき、私は状況報告を行う。


「おお、リオ。お疲れさんじゃの」

「村長さん、村の治療の方は対応できました」

「村人でもないリオに世話になっておるのぉ、申し訳ない。エミリーがいればよかったのじゃが……どこにおるのかのぅ」


 村長さんは大きなため息をついて、窓から外を見る。

 いつも薬を持ってきてくれたエミリーさんがいなくなったことがよほど堪えたのだろう。


「私がエミリーさんの代わりに薬を持ってきたりしますから、安心してください」


 彼女は戻ってくるのか分からない、私が彼女の居場所を奪ってしまった形になるがそうなった原因が私にあるのであればこの村のことを守っていく責任があった。


「そうか、リオのジオーキョーソーザイに村の者は助られておるからのぉ。ありがたいことじゃ」

 

 村長さんは目を細めてお礼をのべてくれたので、私の心が少し痛む。


「それでは私はこれで失礼しますね」

「また市場で薬を売ってくれるのを待っておるよ」


 私はだんだんといたたまれなくなって、頭を下げてから村長さんの家を後にした。

 







 

 

 


 

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