第8話 「村を救うために私ができること」

■マイハウス


「……様! 主様!」

「ん……誰?」


 自室のベッドで眠っていた私が眠い目をこすって起き上がると、そこにはサスケがいた。 

 いつもの不愛想な雰囲気があるのだが、目が緊急事態が起きたことを訴えている。


「お休みのところ申し訳ございません、至急、お耳に入れたいことがございます」


 私が起きたことを確認したサスケは一歩下がり、膝をついて頭を下げた。


「どうしたの? あれ、今は……夜?」


 お昼ご飯を美味しく食べたことは覚えているが、それ以降の記憶が私にはない。

 ずっと寝ていたとしたら、相当なものだよね。

 まだ、この世界に慣れていないせいなのかもしれないけれど、勿体ないなぁ……。


「はい、主様はずっとお休みに慣れておりました。夕食もまだでしょうが、緊急のお話です。リヴィル村の薬師の女が毒薬を井戸に投げ込もうとしておりました」

「うそ……エミリーさんが……なんで!?」

「理由はわかりませんが、こちらがその毒になります」


 私の驚きにサスケの顔が一瞬固まったように感じたけど、今はそれどころじゃない。

 毒の瓶を受け取った私は〈鑑定〉を行った。


「滋養強壮剤の効果を得た人にだけ影響する毒なんて、エミリーさんしか……作れないよね……」


 薬と毒は表裏一体であり、薬がわかれば毒も作れる。

 死に至るほどの効果はない毒だが、これを摂取した村人たちが苦しむ姿が目に浮かんだ。


「でも、ここに毒の瓶があるなら問題はないんだ……よね?」


 私はサスケに問いかけるがそうじゃない可能性が高いことを薄々感じている。

 だって、そうじゃなかったらサスケが私を起こしてまで、相談に来るはずがないからだ。

 それでも、エミリーさんのことを信じたいと思う自分がいる。


「……いえ、薬師の女は川に別の薬を撒いて逃走しました。拙者はまずは主様に対処の相談をするべくこちらに向かった次第です」


 少し間を開けてサスケが経緯を説明してくれた。

 川に毒が流されてしまったことは事実となる。

 そうなれば、川に近い村人が水くみをした時に、この毒を摂取してしまうかもしれなかった。


「わかった、サスケは報告ありがとう。ご飯を食べるまえに解毒薬作らなきゃね」


 私は座っていたベットから立ち上がって、工房に向かう。

 夜の工房は静かで、道具たちが準備万端と綺麗に整理されてまっていた。


「そういえば、ここの工房の道具たちって、使ってそのままでも気が付いたら整理されているんだけど、どういう原理なんだろう?」


 ゲームシステムのままの部分が時折あるので、この世界はゲームなんじゃないかと思うこともある。

 けれど、エミリーさんのようにキャラクターの行動は決していいものばかりじゃなく、人間らしさがあるいびつさも私は感じるんだ。


「ストックの解毒剤は70本はあるから、あと30本分は最低限必要だね」


 倉庫の情報を呼び出して確認をしてから、私はここで気づいた。

 

「そうだ、専用解毒剤のレシピはないんだ……」


 ゲームでは考えられなかった毒のため、ゲームでのレシピは存在しない。

 つまり、私には今回の毒の専用解毒剤を作るこはできなかった。

 ただのゲーマーの薬師では、本物の薬師にはかなわない。


「エミリーさん、どうして……」


 これほどまでの力がありながら、その道をたがえてしまっている彼女を思うがこのままでは解決しなかった。


「この世界にはゲームと同じ植物があったから、探せば解毒剤の材料はあるかもしれない……いや、見つけるんだ。30本分」


 静かな工房で一人気合いを入れ直した私は外へ向かおうと玄関へと向かう。


「マスター、こんな夜中に一人で動くのは危険だ」

「探すにしても人手はある分には困らないだろ、お嬢」

「一人で考え込みすぎるのが主様の悪いところです」


 すでに玄関には私が来るのを予想していたのか、ランタンなど明りの装備を整えているフェン達が待機していた。


「みんな……私に力を貸して!」


 3人の目を見てお願いし、私たちはエヴァ―グリーンの森へと出る。

 

「必要なのはナロキ草って、草とスライム液なの。水辺に生えていることが多いから湖の近くに行くよ」

 

 私はレシピを確認し、ナロキ草の絵を紙に書いて見せた。

 画伯と言われていた前世と違って、こういうところも得意になっているのは嬉しい誤算だよね。

 ガイウスが明りを確保し、フェンを先頭に森の中を進んで湖の近くへと移動していった。

 大蛇などが出てきても、サスケやフェンが一撃で倒してくれるので、心配せずに進んでいける。

 私たちが湖のそばに来ると、月明かりに光る湖が綺麗だった。

 今のような時じゃなかったら、ゆっくりと眺めていたいほど綺麗な光景だなぁ……。


「スライム液も足りないと聞いていたから、スライムもついでに狩ればいいか?」

「うん、お願い。少なくなっているからスライムもお願いね」


 フェンが聞いてきたので、私は答えてナロキ草を探し始めた。

 絵を見せはしたものの、私が一番知っているので、私が積極的に動かなければいけない。

 ランタンの灯があるといっても、月明かりが中心では求めている草を探すのは困難だった。

 一時間ほど探していると、私は湖の岩陰に生えているナロキ草を見つける。


「あった! 岩陰に生えていたよ! みんなも岩陰を中心に探してみて!」


 これで村人を救う薬が作れる。

 帰ったら早速作り、朝一番に村へ行こうと私は決意した。



 

 

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