第7話 「大人気すぎて、この先が怖いんだけど……」

■ラヴィル村 市場

 

 私は自分がこの世界のお金を持っていないことに気づき、自分の露店の場所へ戻ろうとするとすでに人だかりができていた。


「順番に頼む。値段は5ルーク。一人1本までだ」

「押すな押すな、一人1本でも100本は用意しているから大丈夫だぜ」


 フェンとガイウスが店番をしてくれているが、どうしてこうなったんだろ?

 私が首をかしげていると隣で店を開いていたブライアンさんが私の方へ近づいてくる。


「おう、リオ! おまえさんのくれた『じよーきょーそーざい』だったか? あれやすげぇな、俺が長年患っていた肩こりが飲んだらなくなっちまったんだよ」

「ええ!?」


 疲労回復の効果があるとアイテムのテキストにはあったが、まさかそれほどまでに効果があるとは思わなかった。

 ブライアンさんが効果を感じて騒いだら、このように人だかりができたのはわかる気がする。

 ヒールポーションもそうだけれど、異世界では私が遊んでいたゲームの時よりもアイテムの効果が高くなっているようだった。

 ルークという通貨単位も初めて聞くものだったが、フェンかガイウスがブライアンさんに相談して決めてくれたのかな。

 頼りになる従者たちで助かった。


「マスター!」

「お嬢!」


 二人が人込みを離れて眺めていた私を見つけて手を振る。

 すると、人込みの中のマダムたちが私に迫ってきた。


「ねぇ、今日売っている『じよーきょーそーざい』はまた売りに来てくれるの? それなら、予約をしたいのよ……5本は欲しいわ!」

「私は10本! 最低10本は欲しい!」

「しばらくはおひとり様1本限りでお願いいたします。材料の確保が安定しましたら、購入数は増やしますので……」


 鬼気迫るマダムたちに私はたじろぎながらやんわり断ると、露店のほうへ足を勧めた。

 フェンとガイウスに昼食を買いそびれたことを伝えると、店番を代わった。

 ガイウスには売上金から昼食を買ってきてほしいとお願いする。


「滋養強壮剤の在庫はあと20本か……一気に売れちゃったね」

 

 そういいながらも、並んでいたマダムや農家や漁師の男らが滋養強壮剤を買っていった。

 私達がこの村の市場に来て、まだ一時間も経っていない。

 

「大盛況ね。私にもその『ジヨーキョーソーザイ』というのを1本いただけない?」


 列の最後尾にいたのか、村の薬師であるエミリーさんが笑顔で立っていた。

 目立ちすぎて顔を見るのが怖いけれど、見た感じ大丈夫そうなので少し安心している。


「はい、エミリーさんと村長さんには別に分けていますので、プレゼントいたします」

 

 私はウィンドウを開き、アイテムストックから滋養強壮剤を取り出した。

 手元に2本の瓶が現れたことにエミリーさんはワッと声を上げて驚く。

 私はついついやっちゃったぁと、頭に手を置いて後悔するも何事もなく笑顔で渡した。


「疲れがなくなると大評判なので、是非使ってみてくださいね」

「ええ、たった一日で100本も作り上げられるなんてすごいわね」

「オレのマスターは最高の薬師だからな。当然だ」


 エミリーさんの浮かべる笑顔にフェンは何かを感じ取ったようで、私の前に出てきた。


「エミリーさんのお薬もきっとすごいんでしょうね。長年この村の人々に大切にされてきたんですから……」


 私は素直にそう思っている。

 村長さんにひいきにされていることから、エミリーさんの積み上げて来たもののすごさがわかった。

 私は営業の仕事でも誰かに必要とされたことはなく、便利に使いつぶされる駒だったので、エミリーさんがうらやましく思う。


「……村長さんに、これ届けてきますね。今日は出店ありがとう、毎週来てくれればきっと村は盛り上がるわ」


 エミリーさんは少し硬い笑顔でお辞儀をしたあと、去っていった。


「完売したわね。思ったより早かったわ」

「お嬢、フェン。昼飯買ってきたぜ」

 

 ガイウスが串焼きとサンドイッチを持ってきたので、私たちは露店を片付けて木陰で昼食をとることにする。

 初めての市場での販売は大成功だ。

 スライム液を手に入れるためにスライム狩りをしなきゃなぁと考えながらおいしそうなサンドイッチを頬張る。

 イノシシ肉がとてもジューシーで美味しかった。


◇ ◇ ◇


 昼食を食べ終えたマスターは木陰で寝息を立て始めている。


「サスケのいうとおり、あのエミリーという女は匂うな……」

「そうかぁ? 俺ぁ特に変な感じはしなかったがよぉ」

 

 オレが周囲を警戒しながら語るもガイウスは何も感じていないようだ。

 狼系が誇る種族特性なのだろう。

 早めにこの場から去らないと、面倒なことになりそうだった。


「ガイウス、マスターと一緒に一度帰るぞ。昼寝しちゃったことを理由にすればなっとくするだろう」


 オレはマスターをおんぶしながらガイウスに語る。


「そうだな、できれば食料品とかの買い込みもしたかったがマスターが起きている時でいいだろうよ。荷車の上は空いているから、フェンが背負わなくてもここに寝かせてはどうだ?」

 

 荷物の減った荷車に手をかけたガイウスがオレに言ってくる。

 その目はやさしさとは別の感情が見えかくれしていた。


「いや、マスターを背負いたいんだ。いざというときに逃げやすくするためにもな」

「それほどの脅威がこの村にあるとは思わないんだがなぁ……」


 オレとガイウスはまだまだ盛り上がる市場を後にリヴィル村から出ていく。

 その姿を睨むように見つめる視線を感じながら……。


 

 

 

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