閑話 緊急会議

 オレ達は泣き疲れたマスターをベッドへ寝かせてから、ダイニングに集まり座った。

 沈黙が続き、誰も話さない。

 グゥォォォゥと大きな音がその沈黙を破った。


「ガハハハハ、俺だ、俺! 腹減ったから、なんか作ってくれよ」


 ゲラゲラと笑うガイウスが足をバンバンと叩く。

 オレはため息をついて、椅子から立ち上がり、キッチンまで行くと冷蔵庫から食材を取り出して料理を始めた。

 ガイウスやサスケ達が出払っているときに狩ってきた猪肉である。

 血抜きも終えて、漬け汁に浸しているので、あとは焼くだけにしていた。

 マスターと共に食べようと思っていたが、肉はまだあるので今は筋肉ダルマガイウスの餌にしようとおもう。


「主様の前ではいわなかったが、貴様は感情的やすぎないか? もっと冷静になるべきだ」

 

 サスケの言葉に静かになっていたオレの怒りが再び燃え上がった。

 マスターを危険にさらしておいて、コイツは何をいっているんだ?

 サスケやガイウスにとって、マスターの存在は何にも代えがたいものじゃないのか?


「それはマスターが怪我をしたりするのを見過ごせというの……か?」


 解答によっては料理をしている場合ではなく、殺しに行ってもかまわないとさえ思う。

 オレにとってマスターは守ってずっとそばにいたい存在なのだ。


「そういいたいわけではない。ただ、主様の自主性を貴様が殺しかねないといっているんだ。拙者たちはだ、だから付き従いマスターの障害を排除していくのが筋というもの……制限して動けなくするべきではない」


 必要以上に喋らないサスケが饒舌に語りだし、オレは焼いたイノシシ肉を皿に盛りつけた。

 たしかに、全てが安全になるまでマスターが動けない状態というのは現実的でなく、マスターが寂しい思いをしてしまう。

 ガイウスの話を聞いていると、薬の素材集めに行くときのマスターの笑顔はこちらに来てから初めて見たものだそうだ。

 オレ達が人型になって、話せるようになってからは考えることがいっぱいで悩んでいたり、困っているような顔しか見てなかった。

 そして、喧嘩をして泣かせてしまった……。


「俺ぁよぉ、難しいことはわからねぇ……けどな、お嬢が伸び伸びできるようにサポートするのが俺達の役目ということだけはわかるぜ?」

 

 猪肉のステーキを食べながら、ガイウスは語った。

 影ながらのサポートするのはオレ達が”ゲームの従魔”であった頃から命令プログラムされていたことである。

 だが、オレは今、ゲームの理から外れたことによりもっともっと、マスターと共にいたい。

 愛されたい、愛したいと思っていた。

 サスケやガイウスはオレと違うのかどうかはわからないが、この3人で仲互いをすることはマスターを悲しませることだけはわかる。


「わかった、オレも自重しよう。だが、サスケも今回のは油断しすぎたんじゃないか?」

「あのラヴィル村の薬師であるエミリーがどうにも怪しくてな、主様の技術を奪おうとしている節があった。村長に渡したはずのポーションから数滴もらって詳しく鑑定したりするつもりのようだ」


 オレはサスケの言葉に椅子から立ち上がったが、そこをガイウスに止められた。


「自重しろと言われたばかりだろうがよぉ……そういうところが感情的なんだぜぇ?」

「まだ確固たる証拠もないし、主様はあのエミリーという女と仲良くしたいと思っている様子でもある。敵意が明らかになるまでは静観するのがいいだろう」


 サスケの表情は不愛想なものだが、その瞳に温かさはない。

 敵としてはっきりしたのであれば容赦なく手を下すつもりがある暗殺者の目だ。


「わかった。それで、明日は朝から滋養強壮薬の生成をして、昼からリヴィル村の市場で販売という流れだな」

「ああ、お嬢はそう言ってたな」

「オレも明日は行く。この家の周りは牙狼族とかいう奴らに守らせる」

  

 エミリ―という薬師が怪しいというのであれば警戒するに越したことはない。

 オレはちょうどできた舎弟にこの場を任せられることに気を良くしていた。



 

 

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