第5話 「私が悪いの……だからっ!」

■エヴァ―グリーンの森


 「リポの葉にアリナの実もあるなんて、ゲームの世界のようだけど、ラヴィル村なんてゲーム内ではなかったのよね。それとも同じアイテムと認識される別個体なのかしら?」


 採集はできたものの、できたことにふとした疑問が浮かぶ。

 私のゲームの知識がそのまま使えるが、世界は別物という作りに違和感を覚えました。

 けれど、考えても答えがでるわけでもないので、残りのスライムを倒してのスライム液集めをしたいところです。

 倉庫のストックにはあるものの、自動生産で作っていけばなくなるので補充できるならばしたいところ……。


「そういえば、水辺のほうへ行けばスライムは発生しやすいかも」


 森のほうから湖のほうへと足を向けようとして立ち上がったら、周囲は薄暗くなっていることに気づきました。

 夜になればモンスターが出てくるかもしれない……。

 ゲームでもそうだったので、可能性は低くありません。


「スライムは明日以降でもいいかな……早く帰らないと……」


 ザアァァと風が吹いて私の髪とローブを撫でました。

 冷たい風が頬を撫でて、体温が下がるのを感じます。


「どうしよう……ランタンとかそういったのないから明りの確保ができない」


 夜までに帰るつもりだったので、所持アイテムスロットはそれほど整っていない。

 ウォゥウオゥと狼のような唸り声が聞こえてきました。


「この世界のモンスターの強さについて、確認しわすれていたなぁ……」


 今更後悔しても遅いのだが、後の祭りです。

 素材採集ができると思って、気が緩んでました。

 森の茂みが揺れて、光る眼が複数近づいてきます。

 私はメイスを持ち、迎撃できるようにしながら、周囲を警戒しました。

 緊張で心臓が早くなり、私がこの世界で生きていることを嫌でも感じさせます。


「噛まれたら、絶対にいいたい……よね」


 その言葉に誰も答えない……はずだった。


「そんなことは俺がさせない!」


 ビュンと影が飛び込んできて、私の前にその影が襲わせまいと陣取りました。


「フェン!」

「マスターが遅いから、匂いを辿ってやってきた」


 光る眼が森から出てくると、グルルと唸りを上げてます。

 その姿から推測されるモンスターはダイアウルフのようです。


『ただの狼ごときが我主に牙をむく愚かさ、体に刻み込もうか!』


 フェンが人語ではない言葉でダイアウルフに向けて、威嚇をはじめました。

 フェンの周囲からブォンと〈威圧の波動〉が広がり、ダイアウルフの一部が尻尾を垂れて、四つん這いになる。

 服従のポーズで震えるダイアウルフ達が多い中、フェンを睨みつけながら足を進めてくるものがいました。

 ダイヤウルフのリーダーでしょうか。


『牙狼一族として、見知らぬものに負けるわけにはいかない!』

『ならば、勝負しようか!』


 フェンとダイアウルフリーダーがお互いに向かいあって、唸りあいました。

 じりじりと間合いを詰めあった二匹が飛び上がり、交差する。

 地面に着地した後、ダイアウルフリーダーの方が地面に倒れこんだ。

 それでも浅く息をしているので、死んではいないことがわかる。


「治さなきゃ……」


 私は倒れているダイアウルフリーダーに近づき、アイテムスロットに入れていたポーションを取り出して振りかけました。

 ダイアウルフリーダーの傷がなおり、元気よく起き上がり、尻尾を振り始めます。


『おい、マスターにちょっかい出すなよ』

『わかりました、兄貴! 俺ら牙狼族は兄貴に従います』


 フェンが何かを話して、私とダイアウルフリーダーの前に割り込んできました。

 ダイアウルフリーダーが納得したのか頭を下げ、それに従って他のダイアウルフも同じように頭を下げていきます。

 ともかく、無事にまとまったの……かな?


「フェン、それじゃあ帰ろうか」

 

 私がそういうとフェンはその体を二回りほど大きくして、私を背中に乗っけます。

 モフッとした柔らかさが心地いい……。


「マスター、しっかり捕まってくれ」


 私がぎゅっとフェンに抱き着いたのを確認するとフェンが森の中を駆けて、マイハウスに向かっていきました。

 フェンの背中にいる間、私の手が震えていたのにフェンは気づいたかな?


◇ ◇ ◇


「主様、おかえりなさいませ。すみません、村の方で怪しい動きがあったためすぐに迎えませんでした! 拙者の不覚でございます!」

 

 マイハウスにたどり着くと、入口の前で土下座をしているサスケの姿がありました。

 そのサスケを人の姿になったフェンが胸倉をつかんで起き上がれます。

 ドンとマイハウスの壁にぶつけて襟首を捩じり持ち上げていきました。

 サスケの顔がゆがみ、両手でフェンの腕をつかんでもがきます。


「ちょっとフェン! やめて! 私の準備不足と油断が原因だったから……」


 血走った眼をしているフェンの腕を私が掴んでも、サスケを話してはくれません。


「こいつはマスターを危機にさらした。殺されても文句はいえん! ガイウスだって、本来なら近くで見張っておくべきだったんだ!」

 

 フェンの苛立ちながら放たれる言葉にガイウスもサスケも何も言い返せなく俯いていました。


「それでも、二人は私の命令に従って動いただけだから……責任は指示をだした私なの! みんな喧嘩しないで……せっかく話せるようになったのに、こんなのって悲しいよ……」


 私は自分のミスで責められる二人を見てられなくて、思わず涙がでてくる。

 この子達の主人としてこの世界に来たのに自分を大事にできないなんて、最低だ。

 


 

 




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