第2話 「これからのこと、どうしよう?」
■マイハウス・キッチン
キッチンテーブルの上には4人分のパンとスープが用意されていた。
パンはゲーム内で何度も食べたもので、スープは誰かが作ったもののようである。
「このスープは誰が作ったの?」
「オレが作ったんだ。マスターの席ははここだ」
フェンが椅子をひき、長方形テーブルの短辺……いわゆる、お誕生日席に私を座らせた。
長辺の片側にフェン、もう片側にガイウスが座り、サスケは私の対面に座っている。
3人の視線が私に集中したことで、私は「いただきます」と両手を合わせた。
挨拶の後で食事が始まり、サスケが状況報告をしてくる。
「主様、先ほどガイウスが言った通り、ここは拙者らがいた世界とは別世界の模様です。周辺の地理は知らないものばかりであり、他プレイヤーのハウスや従魔の確認もできておりません」
「私が起きるまでに調べてくれたんだね。サスケありがとう」
私がサスケに微笑みかけるとサスケは顔を赤くするが、すぐに咳払いをして真剣な面持ちに切り替えた。
「ここは街道から外れた森の中であり、湖が近いです。拙者らがいる位置から湖を挟んで反対側には小さな村があるので情報収集を行うのであれば一度出向くのがいいでしょう」
「食料はゲーム終了前に食べれるものは食べちゃったから、残りは少ないよね? 村にいって食料を分けてもらったりできるといいかな?」
「オレはマスターがやりたいようにやればいいと思っている。だが、危険なことは絶対にさせない。一人で行動するのはやめてくれ。村も友好的かどうかわかるまで、マスターは動かない方がいい」
話を聞いていたフェンが私のほうを見ながら、手を握ってきた。
フェンは確かに甘えん坊なところがあったけど、獣人の姿になっても同じように接してくると刺激が強い。
恋人いない歴=年齢=アラサーな私にはどうしていいのか分からなかった。
乙女ゲーも遊んできたけど、今は選択肢が見えないので行動に悩んでしまう。
「村にいくならよぉ、マイハウスの機能である工房で薬を作って売ってみるのはどうだぁ? 友好的に話を進めるってぇことなら手土産もっていけば邪険にはされねぇだろ」
ガイウスの意見はその通りだった。
マイハウスの工房機能は素材と資金があれば私が作業をしなくても製品を量産してくれる優れものだった。
私のジョブは薬師なのでポーションや滋養強壮剤などレシピでわかっているものは倉庫にある材料で作れもする。
「素材の確保も必要だね。このあたりの森や湖付近に生えている植物で代用できればいいんだけど……」
私は顎に手を当てて考え込む。
衣食住という言葉のうち、衣と住は確保ができているので、食の確保が最優先だった。
そのためには自給自足をするか、お金を使って買うかになる。
「ゲームで使っていた金貨なども使えるのか確かめなきゃ……やること結構いっぱいだぁ~、うなぁ~」
パンとスープを食べ終えた私はテーブルに突っ伏して唸り声をあげた。
クスクスと笑い声が聞こえて、私はここに一人でないことを思いだした。
「マスターの唸り声、可愛いな」
「は、はずかしいよぉ~!」
ガバッと体を起こすと、そこにはフェンがいて微笑んでいる。
ワイルドイケメンの微笑みはギャップがあって破壊力が高かった。
恥ずかしさをごまかすためにポカポカとフェンをたたくが、無駄のない筋肉に包まれているフェンは固かった。
◇
「お嬢ー! 荷車の用意ができたぞ。倉庫にあった薬を数本ずつ、満遍なく詰め込みもした」
しばらくすると、マイハウスの外からガイウスの声が聞こえる。
外に出ると薬をいっぱい積んだ荷車をガイウスが引っ張っている。
ガイウスの頭にあった牛の角は消えており、獣人とは気づかれないだろう。
「ガイウス、表だってはお前とマスターだけだ。守れよ」
「おめぇに言われるまでもねぇよ。お嬢の盾になるように俺ぁできてるからよ」
食料確保のため、森を探索して狩りをするフェンはガイウスをギッとにらみつけている。
フェンは攻撃型のスキル構成だったりしているので、何かあった時の守りを考えるならガイウスのほうがよかった。
サスケは情報共有のためにひっそりついてきて、フェンと私たちの合間のやりとり担当である。
携帯電話やメッセージのやり取りができないので、サスケには飛脚のような地味な仕事を任せなければならなかった。
「サスケもごめんね? 面倒なことを任せて」
「主様のお役に立てるのであれば、拙者は異論ありません。あいつと常に一緒よりいいです」
サスケは狩りの準備をしているフェンを見ながら答えた。
犬猿の仲なのだろうか……でも、フェンは犬というよりかは狼に近いよね。
「じゃあ、夜には戻ってくる予定だから、なにかあったときはサスケ経由で連絡をとりあうということで」
最終確認をした私はガイウスと共に徒歩で、近くの村まで歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます