【完結】ゲームキャラで異世界転移したら、元従魔のスパダリ獣人達に溺愛されて困ってます。

橘まさと

第1話 「異世界転移したって本当なの?」


 テイマーが主役のVRMMO『テイムズ・オブ・ファンタジー(ToF)』がリリースされて5年。

 動物好きプレイヤーに愛されたToFもサービス終了の時を迎えていました。


「みんなともお別れだね……寂しいなぁ……」

 

 私――リオ――はToFで購入したマイハウスの中庭で従魔たちに囲まれている。

 マイハウスはゲームの中で所持できるログハウス風の一軒家で、作物を育てるための庭付きのものを私は購入していました。

 中にはシャワーやキッチンもあるので、仕事が休みの時は前日の寝るときからマイハウスで過ごしていた方がリフレッシュできるくらいです。

 彼らをブラッシングするのも今日が最後でした。

 楽しい時もつらい時も一緒にいた彼らと別れるのはつらい。

 家では動物を飼えなかったこともあって、ToFが発売したときにはブラック企業での仕事でためていた給料を全ブッパしてHMDを買い、従魔も課金して入手したのはいい思い出だった。


「フェン、サスケ、ガイウス……今までありがとうね」 

 

 名前を呼びながら頭をなでると、それぞれの従魔は目を細めながら、私にすり寄ってくる。

 この3人は長く付き合いのある従魔たちだ。

 フェンリルのフェンはチュートリアルで手に入った☆3で弱いと周囲にいわれていてもずっと使いこなしてきている、ハヌマーンのサスケは子猿の時から育てて進化させてきた。

 ミノタウロスのガイウスは農業をする従魔が欲しいと調べていたら、イベントダンジョンにいるのをテイムする必要があるとのことで、徹夜して頑張ったのがいい思い出でもある。

 ほかにもガチャで出てきた従魔達もいるが倉庫で眠らせていた。


「なんで、サービス終了しちゃうんだろう……」


 涙が出てきちゃうくらいたくさんの思い出があり、この世界から離れるのが辛い。


「翌朝になったら、仕事にいかなくちゃな。行きたくない……行きたくないよ、ずっとここにいたい……」


 フェンのモフモフな体に顔を埋めて、涙をぬぐった。

 5年という年月をVRという環境で過ごしたのであれば、ここが自分の居場所と思っても仕方ないことだろう。

 私は涙を流したまま、いつの間にか寝てしまっていた。


『――対象者の願いを確認。別世界への転移を開始します』


■異世界エルディア・エヴァ―グリーンの森


「ん……寝ちゃってた……」


 まぶしい光を受けて目を開けると、私は森の中にいた。

 キョロキョロと見回すと、マイハウスの中庭であることはわかる。

 でも、マイハウス外の景色に見覚えはなかった。

 マイハウスは平原に立っていたはずなのである。


「えっ……ちょっと待って、ログアウトして……いない?」


 私はコマンド画面を表示させようとするが何も出てこなかった。

 でも、ステータスを意識するとステータスウィンドウや、アイテムウィンドウなどは出てくる。

 システムウィンドウだけが出てこないのだ。

 不思議な現象に悩んでいるとグゥとお腹が鳴る。


「どんなことをしていてもお腹は減るんだよね……」


 ToF内でも空腹パラメーターはあり、飲食をしていた。

 なので、料理などもスキルで作ったり、食料もあったりするのだけど……。

 私はとりあえず立ち上がり、体を伸ばした。

 モフモフと抱き合っていた従魔たちはおらず、私一人だけである。


「流行の異世界転生? なのかもだけど、マイハウスと一緒なのはちょっと安心かな」


 私は勝手知ったる我が家マイハウスに中庭から入り、キッチンへと向かった。

 内装などは私がハウジングしたままで、北欧風の家具でコーディネートしてある。

 ゲームだからと実際に買えない高そうなものをチョイスした結果だった。


「おはよう、マスター。目覚めたようだな?」


 内装を確認していた私に声がかけられる。

 バッと声がした方を振り返ると、犬耳の生えた長身のイケメンが立っていた。

 筋肉質ではあるものの、ゴリゴリのマッチョではなく無駄のない筋肉を持った人というのが正しい。

 服装はレザーのズボンに毛皮のジャケットのようなものを着ていた。

 毛皮のジャケットの下は裸で鍛えられた大胸筋や腹筋が自己主張している。


「えっと、あなたは……どちらさま?」

 

 私は警戒しながら後ずさる、中庭へ続くドアには勢いよく走れば行けるはずだ。


「マスター、これを見て何か気づかないか?」

 

 耳をへにょっとさせた犬耳のイケメンは首輪型のチョーカーを私に見せてくる。

 黒い首輪で銀の十字架がのど元当たりのところに取り付けられて揺れていた。


「その首輪……フェン……なの?」


 そういえば、髪の色やお尻の方から生えている尻尾の色もフェンリルの従魔であるフェンのものである。


「ああ、マスター。はマスターに恩返しできる存在になれたぞ」

 

 フェンはそういうと私に近づくと、ぎゅっと抱きしめてきた。

 力強い男性からの抱擁に私の体温が上昇し、心臓が早鐘を打つ。

 

「ま、まって!? いきなり抱きしめるのは心臓に悪いから……」

「どうしてだ? マスターはいつも俺達を挨拶替わりに抱きしめてくれただろ?」


(だって、それはモフモフだったからで!!)


 私は真っ赤になる顔を見られないようにうつむくと、両手でフェンの固い胸板を押して、離れようとするがフェンの腕はロックされたままだ。


「オレはマスターをこうして抱きしめられるのを……ずっとずっと願っていた……」

 

 フェンの顔が耳元に近づき、ささやきかけてくる。

 その言葉に私の心臓がますます早くなり、その音が聞かれていないか心配になるほどだ。


「フェン……ちょっと、恥ずかしいから……離れて……」

「マスター、もっとこのままでいさせてくれ……」


 ハァハァと息が荒くなるフェンは尻尾もぶんぶんとふりながら私を抱きしめる力を強めてくる。

 現実世界では男性にこんな風に抱きしめられたことのない私はどうしたらいいのかパニックになり始めた。


「おいおい、お前だけずるいぞ」

「全くだ。節操無しな犬は困る」


 フェンが私を抱きしめ、そのまま床に押し倒そうとしたとき、玄関の扉があいて二人の男が入ってくる。

 一人は黒い牛の角が生え、タンクトップにジーンズを履いたゴリゴリのマッチョ。

 もう一人は痩せ型で忍者のような恰好にサルの長い尻尾を生やしている。

 私は声がした方に顔を向け、特徴的な人外の部分のある二人を見て声をかけた。


「ガイウスにサスケ? あなたたちも一緒に異世界に来てしまったというの?」

「ここが異世界というか『げぇむのせかい』ではないことは確かだなぁ」

「そのことで主様には報告したいことがいくつかあります」


 ガイウスとサスケが報告を行おうとしたとき、グキュゥと一際大きな音が部屋に鳴り響く。


「あっ……その……恥ずかしい……」


 空気を読まない自分のお腹に羞恥心をあおられていると、3人の獣人達は笑いあった。


「マスター、食事にしよう」


 ようやく離れてくれたフェンにほっとした私は改めてキッチンに向かう。

 わからない状況ではあるものの、私の大切な従魔と一緒であれば何とかなる気がしていた。



 



 



 

 

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