時の国編 第2話スアク・イリンの覚悟
「静かに!声が大きい。」
俺は、開いた口が塞がらなかった。とりあえず小さな声で話すとしよう。
「今なんて?」
「聞いてなかった?」
「いや…聞いていたけど…」
「じゃあ、話の続きだけど…」
「待て待て待て待て!」
「なによ?てゆーか声大きって。」
「ほんとにいきなりだな。てゆーか理解が追いつかん。」
「そうだよね…じゃあ説明するね。」
そう言って床に座る。
「改めて、私はディン・キャーよ。今日ここに来たんだけど、文句言ったら…見ていたでしょ?」
「ああ…どんくらいやっているか聞いてたやつか。」
「ええ…前は都心に近いところにいたんだけど、お父さんが反乱を起こそうとしているのがバレちゃって…それでここまで飛ばされたわけ。」
「…ちょっと待て!」
おかしくないか?
「なんでお前を消さなかった?」
「ああ…それは…」
そいつの目がより真剣になる。
「わかんない。」
「え?」
「ただ、飛ばされただけでラッキーだったのよね。」
「まぁ、死ぬよりマシか…」
「それはそうと、実は他にも仲間がいるの。」
「え?マジ?」
「マジ。飛ばされる前に何人かお父さんと協力して仲間をあつめていたの。それで、3年後の9月23日にある場所に集合することにしたの。」
そう言ってペンダントを見せてくる。割と昔の見た目だ。
「それは?」
「これはお父さんに託されたペンダント。見た目はただのペンダントだけど…」
ペンダントを開けると写真があった。多分こいつのお父さんの写真だ。そして、その写真の上で特定の指の動きをすると…
「何だよ…これ…」
コンピューターの画面のようなものが映し出された。
「これの中にはお父さんの研究の成果が入っているの。どうすればあいつらに対抗できるかとか…自分自身の鍛え方とか。」
「すげぇ…」
「トップに関する情報もある程度は習得済みよ。」
「マジで?」
とんでもないことをやりあがったな。いくら都心に住んでいたとはいえトップに近づくのは相当難しいはずだが…まぁいいや…
「それで、そいつはどんな奴なんだ?」
「これよ。」
その姿は、あまりにも予想と違う見た目をしていた。
「ほんとにこいつ…?」
「そうよ?」
「いや…えぇ…」
てっきりゴツくて化け物みたいな顔をしているとばかり思っていたが…
「13になったかなってないかの姿じゃねぇか…」
思わずそう言うと、
「まあ、見た目だけならなんとでも言えるわね。だけど、こいつの能力は時に関する能力を持っているの。」
「時…?」
「そう。時間を戻したりとか、止めたりとか、遅くするのもある。」
「うそだろ!?そんなことが…」
「あるのよ。そして、そいつはその力を悪用してみんなを苦しめている。だからそいつを倒したい。」
「だけど、無茶だろ!」
「落ち着いて。」
ディンは冷静に言う。
「確かに奴は強い。けどそれに対抗する方法があるの。」
「…え?」
正直驚いた。まさか対抗できるなんて。
「どうすればいいんだ!?」
「それは…」
またペンダントをいじる。
「ここに載っている特訓方法でとても強い肉体を手に入れられる。」
「でも、それだけじゃ時を操る能力には意味がないだろ!」
「そしてもう一つ。この設計図を見て。」
見てみると、なんだか鎧のような図面が映っている。
「これは?」
「これは、チートキラーの鎧。ありとあらゆるチート級の特殊能力に耐性をもたせられる。持ってない能力があっても改造して対応できるのよ。」
「すげぇ…じゃあそれ着れば余裕じゃん!」
「いや…そうはいかないの。」
「そうはいかない?どういうことだ?」
「これは確かに強いけど…装着者に地獄みたいな負荷がかかるの。それに、能力に対応出来るかも装着者次第。」
「え…?」
「それで、あなたにお願いしたの。あなたこの中でも一番働いてるじゃない?みんなを庇ってると思ったんだけど…」
「…だけど、ほとんど意味なかった。ポーズに何人も殺されたのに、そのときに限って体が動かなかった!これじゃ卑怯者じゃないか!そんな俺にできるわけ…」
「いい?よく落ち着いて。確かにそれはそうかもしれない、けどこれからなら変えられる!あなたならできる!」
「…」
「…良い答えをまっているね。それじゃ。」
そう言って部屋を出ていってしまった。
「どうすればいいんだ…」
あの提案はとても魅力的だった。この現状が変えられるなら変えたい。だが、俺にできるのか?この長い間何もしなかった俺に、ましてやあいつらを見殺しにした俺に。それに、正直怖い。
「これからなら変えられる!」
その言葉が頭の中を回り続けた。
〜翌日の4時〜
「朝だぞ!起きろぉ!」
ポーズのでかすぎる声で目が覚める。ただでさえ睡眠時間は基本2時間なのに…昨日は話していたからほぼ寝てない。
「今日は作物収穫だ!早く並べ!」
現状を変えたい、けど怖い。
そんな考えが俺の心を揺らがしていた。そんなとき…
「おはよう。」
「あ…ディン、おはよう。」
ディンが声をかけてきた。
「それでなんだけど」
こっそりと小さな声で俺に言う。
「昨日のこと考えてくれた?」
「あぁ…そのことだけど…」
「おい、お前ら…」
嫌な予感がする。振り返ってみると…
「ポーズ!…さま…」
「なんだお前ら!開始早々サボりか!?」
俺が必死で言い訳を考えた。何かないか?そんな考えが、頭の中を100回くらい回った。そうだ!挨拶しただけってことにしよう!それだ!それしかない!挨拶したのは嘘じゃないし!そう思って口にだそうと…
「実はですね…これは…」
「申し訳ございません!ポーズ様!」
いきなり遮られた。ディンだ。
「私がこの者に業務の内容を伺っていました!許可も取らずにすみません!」
助かったー。しかし、こんな言い訳がこいつに通じるのか?と思ったが…
「そうかそうか!結構結構!これからも我が国の為に尽くすように!だが、許可はとるんだぞ!ハッハッハッハ!」
そう言って、行ってしまった。もしかして、あいつの性格単純なんじゃ…?
「危なかったわね。」
「ああ、助かったよ…ありがとう…」
助けられたので、ここは素直にお礼を言っておこう。
「それで?どうすんの?」
「それは…」
今、俺の中でこれまでで一番の葛藤が生まれた。この現状を変えたい。そのためなら力になりたい!と考える俺と、死にたくないし正直怖い!それに見殺しにした俺にできるわけがない!だから行きたくない!と考える俺の2人がいた。
「えぇ…あぁ…その…」
なんとか口に出そうとした時だった。
「お兄さん悪い人達やっつけてくれんのか?」
「え?」
そう言ってきたのは、昨日ポーズにムチでしばかれまくった少年だった。
「なら、協力させてくれよ!俺も今を変えたい!」
こいつ、本気か?トップに逆らうってことは死を意味すると言うのに…
「ごめんねーこのお兄さんやらないみたいよー」
「え?そんな…」
どうすんだ?こいつみたいなやつの笑顔を捨ててまで、逃げるのか?いや、やるさ!やってやる!
「いや!やる!」
こいつの言葉が背中を押してくれた。みんなこの状態を変えたいんだ!俺がやれば自由になるなら、俺がやればいいんだ!
「本当!?」
少年は目を輝かせた。
「ああ!本当に俺でいいんだな?」
「何度も言ってるじゃない!もちろんよ!」
「決まりだ!詳しい説明は今夜だ!ディン、また来れるか?」
「ええ!行ける!」
「俺も行く!」
「え?」
俺は耳を疑った。夜に抜け出すのは、危険なんだぞ!?
「俺もこの今を変えたいんだ!やらせてくれ!他の人の部屋に行ける秘密の裏道を知ってるから!」
「いや、でもなぁ…」
「わかった!」
そう言ったのはディンだった。
「おいマジか!?消されるかもだぞ!?」
「この子にも、覚悟があんのよ!来なさい!」
まじかよ…だが、決まったもんは仕方ない。
「お前、名前は?」
「俺?おれは、レチョワイ。レチョワイ・ホートコト」
「よし!よろしくな!レチョワイ!」
「よーし!今夜、スアクの部家で計画を立てる。それでいいわね?」
「異議なし!」
「俺も!」
「よし!じゃあ今夜集合だ!」
続く
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