第15話 戦闘狂
「滅、滅滅滅――」
――今だ。僕の纏う回転力によって弾き飛ばされたザルバが、倒れかかって地面に左手を突くところを、僕は見逃さなかった。
間髪入れずに【回転】スキルを一時的に解除して速度を取り戻し、相手の懐へと飛び込んだ。よし、今のところ予定通りだ。
ザルバは【暗殺者】スキル持ちというだけあって、こちらがスキルを使うタイミングさえも勘付くほどの感覚の鋭さだけど、それは行使された場合のみのはずだ。
そこから、僕は渾身の斬撃を浴びせようと大きく剣を振りかぶる。それと同時、自分自身への【回転】スキルを復活した。
さあ、来い……って、あれ? 攻撃してこない……?
「アルム、お前の力を認めよう」
「へ……?」
「ゆえに、私は退却させてもらう」
「……」
ザルバはその一言だけ言い残すと、僕の前からあっという間に姿を消していった。
認めるって……最初から僕を殺すつもりじゃなく、力を試すのが目的だったっていうこと?
しばらく頭の中が混乱していたものの、少しずつ整理できるようになった。つまり、僕の力を試すのが本来の目的で、力量がわかった時点で戦いをやめたってことか。
あのまま戦ってたら一体どうなってたんだろう? 勝ったのは僕なのか、それともザルバか……どっちにしろ、決着をつけたかったって思ってる自分がいて驚く。いつしか、痛みや恐怖よりも戦いに対する欲求のほうが上回っていたんだ。
「あ……」
気づけば、目でも視認できるほどの雨粒が降り注いでいて、誰かが駆け寄ってくるのが見えた。
だ、誰だ……? もしかして、ザルバが心変わりして戻ってきた? いや、その仲間かもしれない。
負けるもんか。まだ戦える……って、あれ……? 立ち上がったと思ったら、意識だけがある感じで、体の感覚がまったくない。というか、もう何も見えない……。
■□■
そこは黒蛇組の寮の最上階にある屋根裏部屋。
舎弟頭のシビルと使用人リリが、ベッドに横たわるアルムを神妙な表情で見下ろしているところだった。
アルムは上半身裸の状態で、その脇腹には包帯が幾重にも巻かれている。
「シビル様。アルム様の怪我の具合はどうでしょうか」
「ああ、怪我自体は大したことはない。念入りに消毒したし、薬草で血も止まった。ただ、かなり脈が小さかった。アルムのやつ、相当に無理をしたみたいだな……」
「……私がアルム様の監視を怠らなければ、こんなことには……。申し訳ありません」
「その件についてはもういいんだ、リリ。そもそも、俺がアルムをこんな窮屈な場所に閉じ込めたのが元凶だしな」
「シビル様……」
「それより、アルムがこの程度で済んだことのほうが驚きだ。力量を考えると、黒蛇組で警戒するべきなのはザルバのみ。やつは獲物を仕留めるまで戦いをやめない戦闘狂だ。アルムはそんな化け物を相手に戦ったのに、たった一人で凌ぎやがった……」
「確かに……って、お待ちください。確か、アルム様は黒蛇組に入ったばかりの新人でございますよね。なのに、そのような恐るべき存在と戦って耐えたということは、アルム様は加護を持っているのでございますか……!?」
「あぁ、その通りだ。だからこそ、リリ。お前に監視を頼んだんだ」
「加護持ちというのは、本当にいるのでございますね」
「……俺も最初は信じられなかったが、間違いない。それで、強欲なカイのやつがアルムを奪おうとザルバを送り込んでくると見て、罠を張っていたってわけだ。ここにアルムを閉じ込めたのもそのためだ」
「なるほどでございます」
「アルムが脱走したのは仕方ないとして、俺がもっと早くここへ来ることができていたら、ザルバを仕留められたのかもな……って、起きたのか、アルム」
シビルとリリが会話をする中、アルムが目を開けるとともに起き上がろうとして、苦し気な表情を浮かべる。
「……シ、シビルさん、リリ……」
「アルム、無理をするな。大人しく寝てろ」
「ごゆっくりなさってください」
「……う、うん。でも、二人とも、本当にごめん……。僕が加護の詳細を知りたくて、勝手に抜け出しちゃって。すぐに帰るつもりだったんだけど……」
「それは自然な欲求だ。それより、アルム。お前は加護があるからといって自分の力を過信しすぎだ。逃げることも選択肢の一つだってことを覚えておけ」
「……そ、そうだね。でも、惜しいところまでいったんだよ。正直、ザルバともっと戦いたかったくらい」
「こいつ……どっちが戦闘狂だ。というか、俺の舎弟だってわかってるのか? 調子に乗るな」
「イテテッ……!?」
シビルの拳骨を額に受けて涙目になるアルム。
「……な、なんかシビルさんって、僕の父さんみたい……」
「……そ、そうか? それについては、俺はよくわからんが……」
アルムの台詞に対し、シビルがしどろもどろになり、リリがその後ろで口を押さえて噴き出しそうになる。
「あ、そうだ。シビルさん。舎弟といえば……ずっと聞きたかったことなんだけど、なんで僕を唯一の舎弟にしてくれたのか、その理由を教えてもらえないかな?」
「お前を舎弟にした理由、か……。そういえばまだ言ってなかったな」
シビルは思い出したように語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます