第8話 稀有


 名前:アルム・クライン

 年齢:15

 性別:男

 レベル:1

 スキル:【回転】

 所属:黒猫組系黒蛇組

 役職:舎弟

 冒険者ランク:F

 加護:【活】


「す、凄い。本当に加護がついてる……」


 黒蛇組の本部、待合室にて、僕は自分のギルドカードを確認したところだった。役職が舎弟になったのはもちろん嬉しいとして、何より目を引くのが【活】という加護。これってどんな効果なんだろう?


 スキルが強力になるのは試したからわかってるけど、もしかしたらほかにも効果があるのかもしれない。そうだ。神父のモーズさんに聞いてみるといいかもしれない。ただ、舎弟の仕事を終わらせてからだけどね。


 舎弟頭のシビルさんが言うには、舎弟の仕事は見習いの指導、狩りや買い物での食料や魔石の調達、舎弟頭の付き添い等、多岐に渡るらしい。


 それでも、見習いのように朝から延々と皿洗いや部屋の掃除、大広場の掲示板の確認や報告をさせられるよりはマシかな。あと、この前みたいに抜き打ちの戦闘テストとかあるから心臓に悪いし……。


 ここで指示があるまでしばらく待ってろっていうから従ってるんだけど、シビルさんは僕に何をさせる気なんだろう? あと、いつか聞いてみたいのが、なんで僕を専用の舎弟にしたのかっていう理由だ。聞きづらい空気ではあるものの、隙があれば質問してみようと思う。


「待たせたな、アルム」


「あ、シビルさん……」


 待合室の入り口から声をかけられる。いつも思うけど、シビルさんはいきなり現れるからちょっとびっくりするんだ。意図してるのかどうかは知らないけど、気配を消してるみたいに存在感がない。


「ボケっとするな。外へ行くぞ」


「あ、うん!」


 黒蛇組の本部を出てシビルさんは裏手のほうへ回ったかと思うと、観葉植物や花壇に囲まれた裏庭で立ち止まり、茂みから何やら取り出すような仕草を見せてきた。


「シビルさん、これから何を?」


「アルム、かかってこい」


「え……」


 両手に短剣を構えたシビルさんの目は、今にも僕を射貫くかのように鋭かった。このときのために茂みの中に武器を隠してたのか。ここまでする理由って、まさか……。


「ど、どうして……」


「いいから、つべこべ言わずかかってこい。来なければ俺のほうから行く!」


「ちょ、ちょっと……!?」


 いきなりで驚いたけど、これはもしかしたら抜き打ちの戦闘訓練の一種かもしれない。自分が舎弟として相応しい力を本当に持っているのか、最終テストの可能性もある。そう解釈した僕は、もう見習いに戻りたくもないので木剣を抜き、戦闘モードに切り替える。


 それでも相手はさすがレベル2といった機敏な動きで、僕は躱すのが精一杯だった。


 二刀流というのも相俟って、怒涛の攻撃を回避しきれない。ただ、相手の攻撃が当たりそうになったところで、【回転】スキルで弾いてやった。


「な、これは……!」


 押し出された格好のシビルさんの目が見開かれる。やっぱり、相手には僕が回転してるようには見えないらしい。なのに弾かれるから驚いてるんだろう。それだけ凄まじい回転力で守られてるってことなんだと思う。


 レベル2なだけあって、シビルさんは弾かれても大きく後退することはなかった。ただ、そのせいでかなり慎重になっているのか、攻撃の動作が次第に小さくなってきていた。


 僕は反撃のチャンスとばかり、シビルさんの体に【回転】スキルを使用する。


「うっ……!?」


 よし、回った――と思ったら、シビルさんは体勢を低くして踏ん張り僕の視界から消え去った。柔らかい身のこなしと脅威的な身体能力で僕の目を翻弄し、範囲外へと跳んだり視界から消えたりしてスキルの影響下から逃れる。なるほど、これが狙いなのか。


 これじゃ、僕の目のほうが回りそうだ……って、あれ? シビルさんが不意に立ち止まった。


「……もういい。やはり、か。アルム、お前、加護を持っているな」


「なっ……なんで、そのことを……」


「レベル1らしい粗削りすぎる動きなのに、手を抜いていたとはいえレベル2の俺に普通に対抗できている。その時点でバレバレだ」


「な、なるほど……って、それを確認するため?」


「薄々気づいてはいたがな。身をもって、それを確認したかった。まさか、加護持ちとやり合えるとは……」


「……」


 シビルさんが珍しく興奮した様子を見せてる。加護は世界中を見渡しても、持っている人なんてほとんどいないらしいからね。十人いるかいないかのレベルらしい。そりゃ珍しいわけだ。


「チッ……」


 シビルさんがハッとした顔をしたかと思うと、忌々し気に舌打ちする。な、なんか悪いことしちゃったかな?


「シ、シビルさん?」


「どうやら、誰かに見られていたようだ……」


「え、えぇ……?」


 それって、誰か見張りでもいたってこと? 全然気づかなかった……。


「いいか、アルム。俺の指示があるまで、屋根裏部屋に籠ってろ。なるべくそこから出るんじゃないぞ。わかったな」


「あ、う、うん!」


 シビルさんが険しい顔で指笛を吹くと、高々と跳躍して塀の上に着地し、いずこへと走り去っていった。なんていう身軽さと平衡感覚。僕はあんなのと戦ってたのか……。


 ていうか今の笛は、誰かに対する合図……? なんか、僕たちって大変なことに巻き込まれちゃったのかな。胸騒ぎっていうか、凄く不穏な匂いがするんだ。実際、何者かに見張られてたみたいだしね。何事もないといいけど。


 そういえば、彼が僕を舎弟にしたのって、加護を持ってると見抜いたから? その辺の理由も聞きたいのに聞きそびれちゃったから、今度こそ絶対に聞かないとね……。

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