第99話 籠の鳥
3メートル四方程の、コンクリート打ちっぱなしの狭い部屋。
圧迫感のあるそこには、会話のために置かれた端末と机と椅子。天井の隅には防爆仕様の監視カメラがついている。
報告の必要性がある場合には、必ず毎回ここに目隠し状態で連れてこられ、外部と隔離された状態で、口頭での報告を強いられる。
端末のモニターに映っているのは、毎回変わる軍人の担当者。
「大きさは」
「高さで15メートルほど、全体で20メートル以上はありました」
「形状は」
「頭部のバランスは他と変わりません。とさかが生えていて、背中にまで伸びていて、それが鎧のようでした。背中には二対のコウモリのような羽が生えており、長い尻尾の先には棘のついた瘤がありました」
「重量は」
「わかりません。ただ、踏みしめるだけでアスファルトが砕けていたので、通常の獣よりは重いのかと」
「お前の感想は聞いていない。聞かれた事だけに答えろ」
少しの推測すらも感想と言われる。杓子定規で無機質なやり取り。いい加減この状況にも慣れてはいるものの、感情を逆撫でする事には変わりがない。
「トドメを刺したのは誰だ」
「ミサキ・カラスマです」
「お前は何をしていた」
「彼女たちが戦いやすいよう、武器での牽制とサポートです」
そうするしか無かった。頑丈な骨格と皮膚を持つあのサイズには打撃武器では致命傷を与えられないので、あくまでも牽制に徹するしかなかったのだ。
実際、ミサキのあの動きと力が無ければ、誰も倒す事はできなかっただろう。唯一、メイユィの槍だけがかなり良いところまでいっていたが、骨まで砕けるかと言えば微妙な所だ。
「何故、お前が倒さなかった」
「不可能だからです」
「何故、不可能だとわかる」
「打撃武器では致命傷に至りません。ロロ・アイナもジェシカ・サンダーバードも、結局は末端の体組織を破壊するか、動きを止める事しかできませんでした」
渾身の一撃は頭部にも何度か直撃させている。だが、揺れこそするものの、致命的なダメージには程遠い。切断か貫通するしか、あの生命力の高い生物に引導を渡すのは不可能だ。
打撃の一撃にしても、純粋な威力であれば恐らくロロのハンマーの方が上だろう。こちらは射程に優れている分、直接的な打撃力に関してはやや劣る。
ジェシカのような連撃も自分には不可能だ。彼女の打撃には浸透性があり、今回のように長期戦になると後から効いてくる。再生力の高い竜でも、修復には優先順位があるのか、内臓や外傷を優先的に治しているらしい。
「サンプルは取って来なかったのか」
「それは軍の仕事ではないのですか」
戦後処理の不手際まで被せられそうになったので、流石に不満に思って言い返す。口ごたえは母の身を危うくするとは分かっても、流石に謂れのない罪まで着せられたくはない。
「央華に待機させていた軍が向かったが、既に回収され尽くした後だったのだ」
「パシフィックはヒノモトからも応援が来ていたので、そのせいでしょう」
「何故、気を利かせて持って帰らなかった」
「できると思いますか」
無理だ。こちらも激戦で疲労困憊だった上に、あちこちにヒノモトやDDDパシフィックの目がある中、どうやって肉なり体組織を切り取って持ち帰れというのだ。どう考えても見咎められる。
「やるのがお前の仕事だ」
「回収は軍の仕事でしょう」
「お前も軍人扱いだ」
よく言う。これのどこが軍人だ。
クソ不味いレーションを配布して、武器と、この中古のだぼだぼ迷彩服と帽子を支給しただけではないか。
防寒具も何もかも持ち出しで、あんまりにも酷いものだから、見かねた母が綺麗な白い服を仕立ててくれたのだ。
戦場だと汚してしまうからと言ったのだが、母は何度でも直してあげるからと無理にでも着せられた。真っ白な服が髪色によく似合うと、何度も褒めてくれた。
「見つかれば我らが祖国の立場が悪くなります。親愛なるヨセフ書記長もそれを望まれないでしょう」
父の名を出すと、軍人は僅かにお前が、と言いかけて口を閉じた。
お前が、何だ。
お前が言うな、か。それはその通りだろう。何しろ自分はあの男の隠し子だ。
養育を放棄した挙げ句に、記憶には無いものの、直接血の繋がったこちらの体を犯しまくったというのだから、自分の口からあの男を称える言葉が出たとしても、知っている者には空々しく聞こえるに決まっている。
今だってそうだ。祖国に発生した竜を駆逐しているというのに、感謝の言葉一つかけられた事がない。母が人質に取られていなければ、こんな国、とっとと出ていきたいぐらいだ。
いっそそうしようかと考えた事もある。母と一緒に他の国へ亡命し、そこで静かに暮らせれば、と。
だが、この国の海外に伸ばした手は長い。亡命した人達が何人も殺されたという話はいくらでも聞こえてくる。自分はともかく、一般人である母がその魔の手を逃れられるとはとても思えない。
最初は逃げようとも考えなかった。他の国はここよりもひどい環境だと聞いていたし、金を持った強者が弱者を虐げるディストピアだと、軍に引っ張られた時に、散々聞かされたのだ。
だが、実際にフレデリカ達と一緒に戦って、その考え方はあっという間に変わった。
フレデリカ達は信頼できる。言葉にはできないが、こちらに対する強烈な仲間意識が、言葉だけでなく、態度からも伝わってきた。
それに、彼女たちがご馳走してくれた食事も美味しかった。あんなにしっかりとした食事ができたのは初めてだ。栄養補給にしかならない、乾燥した保存レーションとは雲泥の差だ。
そして今回の作戦で、初めて顔を合わせたパシフィックの三人も同じだった。
馴れ馴れしいのはロロ達と同じだが、あの三人からもフレデリカ達と同じ、強い連帯感のようなものが感じられた。
何より、あのミサキだ。
他の竜人、いや、駆逐者達と比べて一際大人っぽくて丁寧な物腰。
滲み出る優しさと理知的な言動、そして何よりも、戦闘でのあの頼もしさはどうだ。
彼女とフレデリカにはどこか似たものを感じる。やはり、人の上に立つというのはああいった才能が必要になるのだろう。今、モニターの中に映っている無愛想な軍人からは、その手のカリスマ性が一欠片も感じられない。
あの6人と一緒であれば、どんな化け物が出てきても戦える。そう感じさせるほどに、自分は彼女たちの事を気に入っていた。
「自分の立場というものがわかっていないようだな」
仏頂面の男は、これまでに何度も聞いた台詞を吐いた。
「そんな事はありません。気分を悪くしたのであれば謝ります」
口の上だけであれば何とだって言える。母の為であれば、泥だって食らってみせよう。
だが、仮に……実際に母に何かしたり、ましてや殺されでもすれば。
自分はどうなろうと、あの男を殺すだろう。そしてその潰れた首を赤い広場に掲げ、高々と宣言してやる。この男は世にも邪悪な淫魔であると。
「ふん、まあ良い。いつもの通り、引き出しに入っている薬を打て。誤魔化そうとしても無駄だぞ」
この男の顔は今日初めて見るのだが、恐らく監視カメラの映像を見て知っているのだろう。自分はここに連れ込まれた後、薬――強い麻酔薬だ――を自分で打つよう命じられ、気を失った後に研究所へと運ばれる。
そこで様々な人体実験をされたあと、一区切りがつけば毎回違う公園や林の中に捨てられる。そこでようやく家に帰れるというわけだ。
引き出しからアンプルと注射器を取り出して、自分の左腕に押し付けた。
毎回注射はするものの、その跡は綺麗に治ってしまう。これはどんな怪我をしても同じだ。
実験で身体を切り刻まれ、体内を弄られ、脳をかき回されても治ってしまう。まるで不死者だ。墓から蘇ってきた死なない化け物。
机の上に突っ伏しながら考える。いつまでこんな生活が続くのだろうか。
麻酔薬は早々に効かなくなっていた。なので、意識が無くなったふりをして連れ出され、研究所までの道は覚えてしまった。そもそも目隠しをされてここに連れ込まれても、移動した道を振動で覚えているので無意味なのだ。
研究所の連中は兎も角、軍人どもは我々の能力を甘く見ている。ただの馬鹿力の、女に似た姿をした化け物、程度の認識なのだ。
実際には学習能力も何もかも、そこいらの人間よりは優れているとすぐに分かった。研究所の人間が使っている専門用語や、外国語まで、あっという間にに覚えてしまった。
15分ほどそうやって突っ伏して待っていると、いつものように兵士がストレッチャーを引っ張って部屋に入ってきた。
身体の力を抜いて目を閉じていると、勝手に持ち上げて運んでいかれる。時々胸やら尻やらを無遠慮に揉まれたりするが、すぐに終わるので我慢している。実験でされる事に比べれば些細なことだ。
研究所では、最初の頃は主に身体を切り刻まれる事が多かった。
当初はまだ麻酔が効いていたのでそこまででもなかったが、数回もすると途中で目が醒めるようになった。
追加で麻酔薬を投入されたものの、それもじきに効かなくなる。意識のあるまま、泣き叫びながら延々と身体を切り刻まれた。
腕や足が落とされ、再生する様子を観察された。
腹を切り開かれ、生存に必要なもの以外の臓器を取り出されたりもした。
頭蓋骨に穴を開けられ、脳の組織を取り出された事もあった。あの後は流石にまる一日眠ったままだったそうだ。
最近では主に生殖や消化器を調べているのか、膣や尻の穴に何かを突っ込まれる事が多くなった。流動食を流され、その直後に鼻から胃カメラを通されたこともある。
こちらの意識があるのは研究者もわかっているのだろうが、実験動物を扱うように、いや、まるでこちらが生きている事を忘れたかのように、痛みに呻くこちらを遠慮なく扱う。
従順にしているこちらが人間だという意識は全く無いのか、実験中もかれらは遠慮なく実験の内容を話している。
かれらがこちらを指す時には、名前ではなく、竜人と言っている。
連中が赤裸々に語る実験の成果は、嫌でもこちらの頭に残り続ける。ただ、こちらの身体の事がわかったとしても、それを何か有効活用できるか、というと、そうではないようだ。
生きた人間に自分の細胞を移植しても拒絶反応が起こるだけだし、大量に輸血なんかすれば、血液型が合っていたとしても大抵死んでしまう。
切り取った組織は普通の体組織と同じく死んでしまうし、培養したところでそれを活かす場所もない。クローンの製造には取り掛かっているそうだが、その結果はあまりはかばかしくないようだ。
ストレッチャーがガタガタと乱暴にクルマから降ろされる。研究所は、モスコー郊外にある廃病院の地下室だ。
表向きは立入禁止の廃病院、といった趣だが、一步中に入れば、金網と鉄条網で隔離された厳重な機械警備が敷かれてある。
別段この程度の警備であれば、一人で逃げ出すのはわけはない。素直にしているのは、母の身に何かあっては困るからという、ただそれだけの理由からだ。
いつもの手術台の上に寝かされ、眩しい照明が下半身に当てられる。
服は既に脱がされ全裸になっているが、研究者たちに欲情したような目の色は見られない。完全に別の生き物を見る目だ。
水色の手術着にマスクを付けた研究者たちがこちらを取り囲む、一人の男が、こちらの腹に、鋭く輝くメスを向けた。
また、切り刻まれるのか。
最近はあまり無かったが、また調べる事でもできたのか。
今日は何を取り出されるのだろう。腸か、腎臓か。
無慈悲に下腹部にメスが当てられる。鋭く走った痛みに、思わずうめき声が漏れる。
痛い、痛い、痛い、痛い。いたいいたいいたいいたいいたいいたい。
焼けるように、突き刺すように、ひたすらに灼熱の刺激が腹から襲ってくる。
深く突き刺さたった刃が引かれる度、我慢できずに絶叫が飛び出る。だが、研究者たちはそんな事は意に介さず、拘束具で押さえつけられたこちらの腹を裂いていく。
この拘束具は、竜の革で作られた分厚いものだ。自分の剛力をもってしても外すことはできない。
痛みに身体を捩ろうとするが、研究者の一人が面倒くさそうに締付けを強くした。ふとももと胸に食い込んだベルトで、身体がうっ血しているのを感じる。
手元が狂って動脈を斬り裂いたのか、激しく鮮血が吹き上がる。研究者はすぐに、面倒くさそうに手元を動かして止血した。
普通は、死ぬ。だが、死ねない。痛いのに、死ねない。
股間から温かいものが流れ出るのを感じた。毎度の事だ。痛みで失禁してしまう。
以前は脱糞してしまう事もあったため、最近は事前に用を足してくるようになった。それでも肛門が緩むのか、腸液が流れ出ていく事もある。
永遠とも思える地獄の苦しみの先に、何かがぶつりと自分から切り離されるのを感じた。
血の味がする。下唇を噛み締めて食いちぎってしまったようだ。
霞む視界の先、見たくないのに持ち上げられて保存液に漬けられるそれをみた。
それは、逆三角形をした血まみれの、小さな袋だった。
そうして、気を失った。
気がつくと、研究所からは遠く離れた林の中だった。
どれだけ時間が経ったのかは分からない。いつもそうだ。
家に帰って母から聞き、それでようやく、自分がどのくらい気絶していたのかを知る。
支給品の迷彩服は着ていたが、下着は履かされていなかった。寒い郊外の林の中、凍死する事もなく、落ち葉を全身にくっつけたまま起き上がる。
自分が捨てられる場所はいくつか決まっている。広い連邦の国土とは言え、多分、運べる範囲で人の近寄らない場所というのは限られるのだろう。
時折野犬だか狼に襲われたのか、服がびりびりに破れている事があった。ただ、それでも肌には傷一つなく、暴漢に襲われた女も同然の格好で帰った事もある。
最近はそういう事はなくなったものの、報告の時に支給品の迷彩服を着ていくのはそのせいだ。折角母が作ってくれた服を、ぞんざいに扱われ、破かれてはたまらない。
また下着を買わなければいけない。立場は軍人と言っているくせに、支払われる報酬は下士官の額にも及ばない、一般兵も同然の金額だ。実験のせいなのだから、下着代ぐらいはせめて経費で出してはくれないだろうか。
衣服の修繕で稼いでいる母の収入は微々たるものだ。今は自分の収入が増えた分マシになったが、以前は自分の身体を売ってでもこちらを養っていたのだろうと想像がつく。
部屋のそこかしこにそういった痕跡があるし、昔のことを聞いても、母はあまり話したがらない。無理に聞くのも悪いので、あくまでも想像だ。
自分が書記長に犯されていたのだ、と教えてくれたのは、最初に連れて行かれた軍施設にいた軍人からだった。
特別な存在であるこちらを、ただ単に傷つけるだけの目的で言ったのだろうが、実際その事実は、こちらの精神を著しく痛めつけた。
裸足に靴だけ履いた状態で、落ち葉を踏みしめてモスコーへと向かう。自分の今いる位置と、家の方角はわかる。距離はあるが、竜人である自分は健脚であり、頑丈だ。
竜人。
人ならざるものと定義したい、彼らが付けた呼び名だ。
だが、この国の外では、我々の事を駆逐者と呼んでいるのだという。
少なくとも、その呼び方のほうがまだ、人間扱いされている気がする。
何かから逃げるようにして人気のない山道を駆け出した。いつもこうだ。今までいた場所は、人間のいる場所ではないと感じてしまう。
狭っ苦しい軍施設の地下にある部屋も、無機質で人の感情が消えた研究室も。
自分が人として扱われるのは、母と共にいる時か、戦っている時だけ。だから、逃げる。怪物ではなく、人として生きていくために。
モスコーの隅っこ、狭い裏通り。
石でできた古い階段を上り、鉛筆のように細いアパートメントの中へと入る。
細長い廊下の脇にある階段を上り、三階の右手の扉をノックする。呼び鈴はついていない。
すぐに顔を出した母は、笑顔になってこちらを中へと招き入れた。
歳を取って栄養不足のせいか、少しやつれてはいるものの、自分によく似た顔立ちの母。部屋の中には、スパイスとトマトの香りが満ちていた。
「お帰りなさい、ルフィナ。すぐに夕食にするから、少し待っていてね」
狭い台所に戻った彼女は、笑顔を絶やさないままこちらを振り向いて言った。
「ただいま、お母さん。今日は何日?」
日付を聞くと、あれから二日が経っていた。運ばれてから二日後の夕方だ。つまり、丸一日と半分以上を再生に費やしたことになる。
「今日も時間がかかったのね。大丈夫?嫌なことされていない?」
「大丈夫だよ。お給料が安いのだけは不満だけど」
母には実験や報告の事を話していない。言えば心配させてしまうし、また逃げようという話になってしまう。
自分一人ならば逃げ切れるが、あまり運動をしていない、40代の母を連れて暗殺者たちから逃れ切るのは難しい。ただでさえ、自分の容姿は非常に目立つ。
「毎回思うけど、軍の報告って時間がかかるのね。そんなに言うことがあるの?」
「うん。報告書も書かないといけないし、倒した恐竜の受け渡しもあるから」
殆どが嘘だ。竜の回収は軍の仕事だし、報告も紙面やデータに残さない、全て画面越しで口頭のやりとりとなる。無論、あの会話は録画されているのだろうが。
「そうなのね。あまり無理をしてはだめよ?ちゃんと食べて、睡眠は取らないと」
「わかってるよ。ちゃんと寝たから大丈夫。ほら、顔色を見ればわかるでしょ?」
眠った、というよりも気絶していたのだが、健康体なのは事実だ。忌々しいこの身体は、何をされようがある程度時間が経てば元通りになってしまう。加齢による衰えすらあるのかどうか疑わしい。
「そうだけど。でも、やっぱり早く帰ってきて欲しいわ。ねえ、ルフィナ。今回は央華に言ってきたのでしょう?話を聞かせてちょうだい」
母は陶器の大きな器になみなみとスープを注いで、粗末なテーブルの上に置いた。二人一緒に組んだ両手を目の前に置いて、食前の祈りを済ませる。
祈りが一体何を意味しているのか、この身体になってからわからなくなった。
何に祈っているのだろう。神にだろうか。
神は本当に存在するのだろうか。少なくとも、母はそれを信じている様子はない。
神など信じられるような生き様ではないし、だったら何故、と考えて、ロロから聞いた話を思い出した。
彼女は、食べ物はみんな、生き物の命を奪っているのだから、食べる前に感謝と祈りを捧げるのだそうだ。
たとえ言葉に出さなくとも、祈りの動作をしなくとも、心の中で、食べ物になってくれた動物、植物に対して、感謝の気持ちを忘れてはいけないと。
そういえば、ヒノモトの人達も何人か、食事の前に手を合わせていた。あれがブディストの多いヒノモト流の祈りなのだろうと思っていたが、どうやらどの国の人間も、ある程度考える事は同じらしい。
「今回はね、フレデリカ達だけじゃなくて、ミサキ達も一緒に戦ったんだよ。パシフィックの皆も可愛くて優しくて、とってもフレンドリーだったよ」
「まぁ、そうなのね。それじゃあ、新しいお友達ができたのね、良かった」
友達、そうか、友達、なのかもしれない。
もっと強い繋がりを感じる仲間だと思っていたが、確かに皆、年頃の近い女の子だ。
自分の年齢は本来もっと上なのだろうが、ミサキやフレデリカ以外は、精神的に皆同じぐらいに見える。自分だって軍人みたいな堅苦しい話し方をしているが、感情的にはかなり彼女たちに近いものがある。
「うん、そうだよ。メイユィはね、央華の人で、私と身長が同じぐらい。黒い髪の毛を頭の上で丸くしてて、それがぷるぷる揺れててとっても可愛らしいの。ジェシカは背が高くてすごくスタイルのいい元気な子で、言葉遣いは乱暴だけど、とっても優しかったよ」
一生懸命に二人のことを説明する自分に、母はいちいちそうなのねと頷いて、本当に嬉しそうに微笑んでいる。母が嬉しそうだと、こちらもとても嬉しい。
「それでね、ヒノモトのミサキなんだけど、彼女が一番強くて格好いいの。皆の中で一番落ち着いてて、本当に頼れるリーダーって感じで」
本人たちを前にしては絶対に言えないような本音が、次々と口から飛び出てくる。
優しい母の前では本音で話をしたいし、母にも彼女たちの事をもっと知ってほしい。だから、一緒にいる間は彼女たちの魅力を伝えよう。それが自分の役割でもあるような気がするのだ。
結局食事を終えて眠るまでの間、ずっと6人の話をし続けてしまった。
話していて気が付いた。心の柱が、母以外にも増えたのだと。
どれだけひどい事をされても、また母と、あの6人と会えるのだと思えば、いくらでも我慢できる。
だから、この柱を大切に、大切に守り続けよう。人類の存亡より、祖国の繁栄より何よりも、母の幸せと友人との語らいを願い、心の支えにしていこう。
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