第77話 続く休暇

 朝食の準備が終わっても、やはりソウは起きてこなかった。

 寝室に入ると、昨夜の醜態のまま、朝の生理現象を隠せない状態で眠っている。

「ソウ、起きろ。朝飯できてるぞ」

「うん?ううん」

 一応蠢いたので寝室を後にした。あれだけやってもああなるのは、主に泌尿器の影響である。

 男性の場合、小の方を非常に我慢ができるのだなと、この身体になってから大変良く分かった。要するに、女性は竿が無い分尿道が短いのである。

 女性トイレが混むのは個室という数の少なさプラス、その限界、限度の低さにある上、生理という制御しようのないどうしようもないものがあるからだと、嫌と言うほどに理解した。

 かといってヒノモトで使える便所のスペースは大抵狭い。男性用トイレを侵食してしまえば、今度は逆転現象が起きる。なんともままならぬものである。設計不良ではないだろうか。

 まぁ人類が産まれた時点で排泄を男女別で分けるような羞恥心が産まれるとは、流石の遺伝子閣下にも理解が及ばなかったようである。いや、わかるわけがない。

 大脳の発達というのは恐らく必然ではあったのだろうが、生物としては非常にイレギュラーな進化ではないかと思われる。生物の本能を抑制するわけであるから、本来は生存に不利に働くはずなのだ。

 だが、実際には社会性動物として理性というのは有利に働いた。ただ、それでも戦争がなくならない辺り、未だ人類は完全には進化しきれていないという事なのだろうが。

 土産に持って帰ってきたゴーヤを味噌汁に入れてみた。ちょっと食べてみたが、まぁまぁ美味い。普通のキュウリよりも少し硬い程度だ。冷や汁だと思えば十分に食える。

 平日の火曜日から始まった休暇は、終わってからも週末が続く。実質6連休だ。ありがたくて涙が出る。

 以前のビルメンテナンスの仕事をしていてこんなに休みがあったのは、官公庁の年末年始ぐらいである。商業施設ならば書き入れ時だ。以前を思えば天国のような……いや、そうでもないか?

 休暇中に何やら得体のしれない猛獣を始末したり、あられもない格好で写真を撮られたりもした。思ったほど、完全無欠な休暇ではなかった。

 だが、今日と明日は間違いなく休みである。どようび。ああ、なんて素晴らしい響き。

「あー、おはよー」

 ぼりぼりと頭を掻きながら適当な男がリビングに現れた。朝が弱いのはどうにも治らない。

 まぁ、昨日は昼間から夜中にかけて、只管搾り取ったので疲労しているというのは仕方がない。これはこちらにも一定の責任がある。

 それにしてもまあ、良く頑張ったものだ。

「休みだからっていつまでも寝てたらダメだぞ。もう8時だし」

「わかってるよ。でも、お前が寝かせてくれなかったんだろうが」

「喜んで腰振ってたのはお前だろ。責任は半々だ」

 うう、と唸ってソウは席についた。まぁ、体力はこちらのほうが圧倒的にあるので、それに付き合わせたのは悪いとは思っているのだが。

 彼の前に飯とゴーヤと豆腐の味噌汁、凍り豆腐の卵とじと切り干し大根の煮物を出した。

「ヘルシーだな」

「まあな。どっちも味がしみててうまいぞ」

 自分なりにある程度考えたメニューではある。あんまり出しすぎると亜鉛が足りなくなるのではと思ったのだ。

 牡蠣はまだ早い。売ってはいるが、朝から出すにはちょっと難しい。

 うなぎは高い。肉にも多いが、こいつは4日間肉ばかりの生活を送っていた。それ以外で朝食に適したものとなると、他にあまり選択肢が無いのだ。

 ただ案の定、凍り豆腐を口に含んだソウは破顔した。

「うめえ。じゅわって出汁の味が出てきて、卵との相性も抜群だ」

「本当は納豆を出したかったんだけどな」

「それは却下だ」

 こいつの納豆嫌いは筋金入りである。たまには食べたいと思うのだが、冷蔵庫に置いてあるのも嫌がるのだ。美味しいのに。

 納豆ほど色んな栄養素が含まれていて美味い食い物は無い。それを制限されると、日中の食材数を結構増やさないといけないのだ。まぁ、金と時間さえあればどうにでもなるのだが。

「今日、どうする?」

 時間はある。予定は無い。なんて素晴らしい休日。

「あー、まぁ、だらだらしてゲームして、ごろごろして寝る感じ?」

「お前な……太るぞ」

 今のところこいつの腹は出ていない。だらしない生活をしていたくせに奇跡だと思うのだが、それはとりも直さず、栄養素が足りていなかったという証左でもある。それはそれで問題だ。

「俺は太らねえし」

「それは、今までの話だろ。俺が料理作るようになってから、めっちゃ食ってるじゃねえか」

「それは、お前の料理が美味いから……」

「心当たり、あるんだろ」

 毎年春から夏にかけて健康診断がある。体重の増加は一目瞭然だろう。

「よ、夜頑張ってるから」

「それで足りるような運動量かよ。とりあえず、外出るぞ。買い物だろうがなんだろうが。ああ、ジムのプールでも行くか?」

 誘い出すにはこの選択が一番だろう。

「……行く」

 ちょろい。水着で釣れば一発である。

 自分も彼の向かいに座って、丼飯いっぱいのご飯と味噌汁、山盛りのおかずを食べ始める。

「ミサキは太らないんだな」

「その分動いてるからな。毎日1000キロ単位のものを持ち上げたりしてるんだぞ」

「怖すぎるだろ……」

「お前はその怖すぎる人間の夫だ」

 入れ替わった大型のトレーニングマシンは、今まで数百キロだった重りを倍以上に引き上げることに成功した。マットが沈んでしまうので、そこだけ外して土台を強化してからマシンを置くという作業まで必要になってしまった。

「まぁ、ジムに行くのは良いけどよ、それだけか?」

「うーん、流石にそれだけじゃなぁ」

 色気がない。折角二人で出るのだから。そうだ。

「駅前の店、行こうか」

「ん?ああ。昨日言ってた」

「うん」

 少し気恥ずかしくなって口数が少なくなる。昨日の事を思い出して、どうにも感覚が戻ってきてしまう。行為中に、夜の生活専用の下着でも買おうかという話になったのだ。

「あー、じゃあ、そっち先行って、ジムのプールで泳いで、昼飯を外で食って、買い物して帰る、と、それでいいな」

「うん。充実した休日だろ」

「まぁな。別に家でゲームしてても充実してるといえばしてるけど」

「充実の方向性が違うからなぁ」

 趣味で費やす休暇というのは、それはそれで充実している。楽しくてストレス発散にもなるし、精神衛生上は非常に良い事だ。だが、ソウは少し身体を動かしたほうが良い。

「水着、どれ持って行くんだ?」

「普通のでいいだろ……なんでジムにエロ水着着ていくんだよ」

 変態みたいな水着しかないのだ。公共の場でそんなものを着ろというのか。

「何故俺がエロ水着を希望していると分かった?」

「それ以外に考えてる事あるか?」

 地味な紺色の露出の少ないもので十分である。見せるために行くのではないのだ。泳ぐために行くのである。

「でもなぁ、折角あるのに」

「じゃあ、ソウは、私が他の人にあの水着を見られても良いんだ」

「……お前な、卑怯だろ」

 卑怯でもなんでもない。隠された心情を代弁しただけだ。

「ていうかさ、ミサキ。お前、口調がエロ関係とそうでない時の使い分けが明確すぎるだろ」

「え?そうか?」

「そうだよ」

 なんとなく、ソウとの会話の雰囲気に合わせて変えているだけだ。

 そもそもきっかけはこいつの気を引くために迫った時に始めた事であって。

「ソウは、どっちの方が好き?」

 少し意地悪な質問をしてみた。男性的な口調か、女性的な口調か。以前の自分を知っている彼であれば、絶対に悩む質問である。

「……それも、卑怯な質問だな。俺はまぁ、どっちでもいい、んだけど」

「けど?」

「その、二人きりの時だけだったらいいけど、他の人がいる時に男性的な口調が出るとまずいだろ?だから、可能な限りは」

 今までそのミスをしたことは無い。男だった頃の口調をするのは、本当に彼にしか聞こえない時だけに限っている。もしくは、事実を知っているトシツグやキョウカ、ミユキとだけの場合に。

「わかったよ。もう、どうせ戻れないんだし。不都合は無いから、ずっとこれでいくね」

「……おう」

 本当は、こうした切り替えも楽しいとは思っていたのだ。だが、最早この心身は間違いなく女性のそれになってしまっている。その現実から目を逸らす事はできはしない。

 男のミサキ・カラスマは死んではいない。だが、ここにいるのは紛れもなく女性のミサキ・サメガイだ。ならばそれを受け入れよう。そして、この適当な男の伴侶として相応しい人間になってやろうではないか。



「だからって、この店はどうなんだ?」

「私も最初は引いたけど、まぁ、色んな衣装着せられたから」

 駅前の裏通りにあるゴスロリショップである。

 ゴスロリショップとは名ばかりで、男女の営みに新たな刺激を与えるような商品も多数取り揃えております、という店だ。

「いらっしゃいま……あら?ミサキさん、と、お兄さん」

「おう」

 ソウがややぶっきらぼうに返事をした。二人は顔見知りのようだ。

「知り合いだったの?」

「知ってるよ。たまにうちに遊びに来てたから」

 なるほど、キョウカの同級生なのだ。遊びに来る事もあるだろう。自分とは会ったことが無かったので、多分タイミングがずれていたのだろうが、ニアミスぐらいはしたことがあったかもしれない。

「お二人で来られたってことは、以前のアレ、気に入りました?」

 いやらしい笑みを浮かべて店主が近寄ってくる。

「気に入りましたよ、主に彼が」

「おい!ミサキ!」

 照れてどうする。こんな店と店主の前で照れるのは弱点を晒すようなものだ。

「あらあら、まあまあ。キョウカに」

「言わないでいただけると助かります。私、こう見えて有名でしょう?」

「でも、妹さんですし」

「店長さんにはごきょうだいがいらっしゃらない?お兄さんか弟さん、あるいはお父さんか息子さんに、ご自身の夜の生活を知られたらどのように思われます?」

「……はい、すみませんでした」

 黙らせるにはこうするのだ。権力を持ち出し、それでもだめなら本人の立場に訴えかける。それでもダメなら……まぁその時は二度とこの店を利用しないだけの話だ。

「ミサキ、お前、なんか変わったな」

「そうかな?それはソウと一緒になったからだよ」

 腕を取ってぎゅっと胸に押し付けると、彼は諦めたような表情になった。もう、いくらでも突っ切ってやる。


「店長さん、下着を見せて下さい」

「ハイヨロコンデー」

 奇妙な発音をした彼女は、奥にある過激なエリアへと導いた。以前に自分が買わされた衣装もここに並んでいたものだ。

「結構色々あるね。どういうのにする?」

「ああ、うん」

 煮えきらない。ここまで来て照れる必要など無いではないか。いや、そうか。

「すみません、店長さん。決まったら呼びますね」

「はい、ごゆっくりどうぞ」

 遠回しに離れていろと言うと、接客に慣れた彼女は意図を察して戻って行った。

 他人、しかも顔見知りのいる前で嫁の着る下着を選ぶというのは抵抗があるのだろう。かと言って他の店で長々と居座って、自分に男がいるという事を広めてしまうのもよろしくない。

 別にもう構わないとは思うのだが、未だ発生するアイドルや声優の騒ぎを見ていると、可能な限り穏便なまま進めるのが良いのは間違いない。

「そういや、こっちに来た時にも一度、下着買いに行った事あったね」

「ああ。あれもまだ時々つけてるよな」

「つけてるよ。ソウが選んだんだし」

「いや、あれは」

 分かっている。店員に言われて適当に指さしたのだという事は。

「今日は適当じゃなくて一緒にちゃんと選んでよ。ソウの好きなものじゃないと意味がないんだから」

 近くを見渡すと、それはもうエロティックな下着が沢山並んでいる。近くにかかっているものをひょいと持ち上げれば、当然のようにオープンクロッチ、つまり穴が空いている。

「これとかどう?紫の」

 何も隠れていないレースの布だ。下着と呼ぶのも烏滸おこがましい。丸見えである。

「うーん、悪くねえけど。ちょっとオバサンっぽくないか?それより、あのヒラヒラのに合わせるなら、同じ色の黒じゃね?」

 あのヒラヒラの、というのは、以前ここで買った下着が透けて丸見えになるビスチェスタイルの寝間着である。確かにあれは黒なので、合わせるのなら同じ色になるのだろうが。

「それもいいけど、逆にこっちの白とかは?ほら、あれはスカートの部分透けてるし、反対の色だから下着履いてるってのが丸見えになるよ」

「おお……ミサキ、お前天才だな」

「スケベなソウの好みは良く分かってるからねえ」

 着たまましたい男なのであるからして、透けて見えるというのは大変お気に召すだろうと思ったのだ。黒は黒で合わせる事もできるので、そちらも買うことにした。

 商品をカゴに入れて店長のいる会計カウンターへと持っていくと、下を向いていた彼女は顔を上げ、満面の笑みでこちらを出迎えた。

「お気に入りの商品はございましたか?」

「ええ、これを。お願いします」

 こういった店で照れるのはご法度だ。堂々としていれば良いのである。

 彼女も微笑みを崩さずに、商品についたタグを取ってレジに通している。

「ありがとうございます、こちら二点で二千二百エンになります」

 言われた金額を過不足無く現金で支払う。しかし、それにしてもこの値段。

「随分と安いんですね。百貨店や専門店でこういったデザインのものを買おうと思ったら、この三倍から十倍は取られましたけど」

 並の服よりも高価な物が多かった。勿論ブランド品だという事はあるのだろうが。

「ああ、そりゃちゃんとした、って言うとうちがちゃんとしてないみたいで嫌ですが、そういう店で買うと高いですよ。大半は有名ブランドの下駄を履いてますけど、生地も縫製も何もかも高級品を使ってますからね」

「こちらのは違うんですか?見た目も手触りも区別がつきませんけど」

 商品を丁寧に外から見えない紙袋に入れながら、店長は少し自慢げになって答えた。

「うちのは個人で制作しておられる方からも入れてますからね、半分趣味で作ってるような製作者の方も多いので。ただ、モノは確実に良いですよ、私がこの目で見て買い付けてますから」

「へぇ、そうなんですか。こういう所のほうが高いのかと思ってました」

 小さなアパレルブランドだと、基本的に全て単価が高いものなのだと頭から思っていた。だが、どうにもここは違うようだ。

「売ってるモノがモノですからね。コスプレ衣装にしたって、フレンチスタイルのメイド服だとか、バニー、ナース服なんてのは大手も作ってるので高いです。ただ、下着ですとか、あるいは版権の問題がありそうなものなんかは、ただ誰かが着てくれれば嬉しいって人が作ってる事も多いんで。勿論、製作者に敬意を払って相応の金額で仕入れてますけど」

 案外良心的な経営者のようだ。だが、それでこの駅近くの立地でやっていけるのだろうか。

 彼女はキョウカの同級生という事で、まだ30そこそこのはずである。その歳でこんな場所に店を構えてやっているのだから、経営に相当な才能があるのではないだろうか。

「はい、どうぞ、ミサキさん。お洗濯は他の下着と同じく、中性洗剤でネットに入れて揉み洗いモードか、手洗いの場合はぬるま湯で陰干し、です」

「ありがとうございます。また来ますね」

 この値段で買えるのであれば、通っても問題ないレベルである。なるほど、こうやってリピーターを獲得しているのか。

 店を出る時に店内をちらっとみたが、やはりカップルで来ている客が多かった。ネット通販もしているという話だが、コスプレ衣装なんかも直接見て買いたいという客も多いのだろう。

 店の外に出ると、路地には夏の日差しが照りつけてくる。日焼けはしないにしても、あまり長く表を歩いていたいものではない。

 最近は妙に暑い夏が続く。温暖化の影響だという事だが、このまま原始の恐竜時代に戻ってしまうのではないだろうなと、少しだけあり得ない妄想をしてしまった。

 駅前の大きな通りに出て、そのまま広い歩道を歩いていく。

「なんか、自然に買い物してたな」

 適当な男が手で日差しを遮りながら言った。

「堂々としてれば良いの。目的を持って買い物してるんだから」

「それはそうだけど」

「照れるほうが逆に恥ずかしいよ?」

 何故この店に来たんだ、という事になってしまう。アダルトショップでエロ本をやエロDVDを買う時に、恥ずかしがる人がいるだろうか。いや、最近は全部通販で済ませるのかもしれないが。

 いつものスーパーを一旦素通りして、大きなビルの立ち並ぶ区画に入る。グラビア撮影に使った、回数券で通っていたジムの入っているビルの中に入った。

 一階は眼鏡ショップになっていて、二階から上がトレーニングジムになっている。

 最近はワンフロアの小さなジムも増えてきたが、ここは割と昔からある所らしい。それにしても、上階にプールがあるというのは設備を見ていた経験のある者としては非常に怖い。

 水漏れもそうだが、消毒に使う薬品の運搬も大変だし、濾過装置なんかのメンテナンスが大変だろう。

 濾材の交換ともなれば大量の運搬に加えてバキュームのホースを通す必要があるし、ポンプや濾過装置のオーバーホールともなれば、マシンハッチのないこのビルではどうにもならない。壁をぶちぬくつもりだろうか。

 多分それは減価償却として、営業が終わるときにはビルごと潰してしまうのかも知れない。なんとも勿体ない事だ。

 まぁ、そんな事はビルの持ち主が考えることだ。自分達は素直に設備を使わせてもらうだけである。

 入口で回数券を買い、プールのある上階へとマットの敷かれた階段で上がる。プール利用の場合は上階の更衣室を利用するのだ。

 入口付近にある更衣室で着替えると、プールに向かうまでの移動を水着でする事になってしまう。いかにジム内は薄着の人間ばかりだとはいえ、流石にそれはまずい。そもそも水を滴らせたまま階段を降りてくるのも問題があるだろう。

 そんなわけで、このジムには男女で合計4箇所の更衣室がある、というわけだ。

 以前、秋藝の撮影で訪れたフロアにやってくる。僅かな塩素臭が漂う中、ソウに別れを告げて女性用更衣室に入った。

 土曜日ということもあってか、中には結構人がいた。

 大半は体型に少々問題あり、のような人ばかりだが、稀にアスリートのような引き締まった身体を持った人もいる。利用層は両極端である。

 自分のように、見た目はそこまで鍛えているようには見えない人間は珍しい。もっとも、見た目にムキムキにならないだけで力は段違いにあるのだが。

 ありふれた地味な紺色の水着に着替える。海で着たようなハイレグでもなければ、撮影に使った紐水着でもない。生地は肩から股下まで満遍なく覆って、胸もお尻もちゃんと隠れている。

 白い伸縮性のキャップに長い髪を押し込んで、ゴーグルを付けてからプールサイドに出た。

 この格好であればDDDのミサキ・カラスマだと気づく人はまずいないであろう。仮にイチャイチャしながら泳いでいても何も問題ないはずである。いや、怒られるか。

 先に男性更衣室から出て待っていた彼は、すぐに気がついてこちらに歩いてきた。

「ダサいな、それ」

 開口一番にこれである。まぁ、わざとダサいのを選んだのだが。

「目立たなくていいでしょ。バレるよりマシだって」

「それもそうか。泳ぐんだろ?どのレーンにする?」

 広い25メートルプールは、ソーセージ状の浮きでいくつかのレーンに区切られている。

 手前から水中歩行、ゆっくり泳ぐレーン、往復でそこそこの速さのレーン。一番奥はタイムを測定している人たちが使っている。人が一番多いのはゆっくりレーンだ。

「私はそこそこレーンかな。ソウは泳ぐの久しぶりだろうから、ゆっくりにしたら?」

「舐めんなよ。太った人とお年寄りばっかりじゃねえか。俺もそっちで泳ぐ」

「まぁ、いいけど。無理しないでね」

 そこそこレーンはあまりに遅いと後ろがつっかえてくる。故に最低限のペースは維持しなければ、他の利用者の迷惑となってしまうのだ。

 往復している人たちの合間から、ソウより先に水の中に入る。前を泳いでいる人のペースに合わせて、ゆっくりと水を掻き始めた。

 遅い。

 遅すぎる。眠ってしまいそうだ。

 肺活量があるせいで、殆ど息継ぎが必要ない。

 前方を見ながら平泳ぎで進んでいるが、少し力を入れたら追いつきそうになってしまう。

 前を泳いでいる人はクロールだが、それでも動きが随分ともっさりしているように見える。高速戦闘やフィンを使った遊泳に慣れてしまったので、あまりにじれったい。

 結局これは意味がないな、と思って、一往復で上がってしまった。訓練にもなりはしない。

 ソウはどこにいったかな、と思って探してみると、いた。必死になって両手足を動かしている。

 フォームは問題ない。そもそも彼は運動音痴でもないので、学生の頃に遊びに行った海でもプールでも問題なく泳いでいた。確か、中学校の頃の体育の成績もそこそこ良かったはずだ。

 特に運動部に所属していたわけではないのだが、大体何をやらせてもそつなくこなすタイプだったのだ。それがこの、体たらくである。

 久しぶりに泳いだせいか、息が上がっている。息継ぎの回数が多いせいで、その度に少しフォームが乱れ、余計に体力を消耗する。間違いなくこれは日頃の運動不足のせいだ。

 彼は追いつかれまいと頑張って二往復したが、そこが限界だったようだ。大きくぜいぜいと息をしながら、プールサイドの隅に座っていたこちらの方へ歩いてきた。

「け、結構、き、きついな、久しぶり、だからか」

「運動不足だからでしょ。やっぱり少し通ったほうがいいんじゃない?」

 彼はこちらの隣に座り込んだ。必要以上に近いせいで、腕同士が触れている。

「100メートルでこれか、歳を感じるぜ」

「そういうのはまだ早いから。鍛え直したら多分、すぐに戻るよ」

「そうかなぁ。まぁ、久々に泳ぐと気持ちいいんだけど」

 彼は運動が嫌いなわけではないのである。ただ、それ以上にだらだらと過ごすのが好きなだけだ。

「少し休憩したらもう少し泳ごうか。私は逆に、遅すぎて物足りないんだけど」

 殆ど浮いているだけのように感じてしまう。負荷もなにもあったものではない。

「一番向こうで泳げばいいんじゃねえのか?」

「そんなことしたらバレるでしょ、絶対駄目」

 タイムなど計ろうものなら、世界新を大きく塗り替えてしまう。このダサ水着でそんな事ができるのは駆逐者だけだ。

 彼の呼吸は大分落ち着いてきた。もうそろそろだろうか。

「なんか、あれだな、ミサキ」

「うん?」

「逆にそれ、エロく感じてきた」

「マニアックすぎるでしょ」

 落ち着いたのに立ち上がらない理由が分かった。

「キャップもゴーグルもつけてるダサ水着で興奮するって」

「いや、だって。一応水着だから、その中身を知ってるとどうしても」

「もう、私が着ぐるみ着てても興奮するんじゃないの?それ」

 立ち上がって彼の目の前でわざと食い込んだ尻の部分を直した。ぱちんと音をさせると、彼は喉の奥でうう、と唸った。

「すまん、先に泳いでてくれ」

「収まったらすぐに来てよ?」

 再びそこそこコースに向かうこちらの尻に、彼の視線が突き刺さっている。勃って立てなくなるのなら見なければ良いのに、本能には逆らえないのである。

 結局、こっちがゆっくりゆっくりと往復している間に彼はやってきて、再び二往復したところで限界がきたのか、引き上げることにした。


 更衣室で身体を拭いて着替えていると、スマホに通知が来ているのに気がついた。

 ふわふわとした夏用のスカートを着用してからスリープモードを解除すると、オオイからのワイアーだった。


『すみません、ミサキさん。二人が今日の15時頃、そちらに遊びに行きたいと言っているのですが』


 遊びに。昨日の今日でもうじっとしていられなくなったのか、まぁ、別に構わないだろう。


『良いですよ。二佐も来ますか?』

『私は付き添いです。二人を送ったら戻りますので』


 遠慮しているのだろうか。夕食ぐらいは誘っても良いかもしれない。わかりましたと返事をして、半袖のブラウスをすっぽりと被った。

 オオイも今日は休日のはずである。それでも送り届けるという事は、多分ジェシカ達が内線で当番の者たちに出かけたいと言ったのだろう。外出にはオオイか自分、あるいはサカキの同伴が必要だ。

 プール上がり特有の暖かさを感じながら更衣室を出ると、出た所でソウが何故か申し訳無さそうな顔をして立っていた。

「どうしたの?何かあった?」

 プールサイドでダサ水着に興奮していた事だろうか。いや、彼がその程度の事でこんな顔をするわけがない。

「うん。その、午後から妹がリンを連れてくるって言ってるんだけど、大丈夫かな」

 何故来客が重なるのか。確か以前にも同じような事があったような。

「別にいいけど、テツヤさんも一緒?」

「いや、親は用事があるから帰るって。リンがどうしてもって」

「リンちゃんだけ?なら大丈夫だけど」

 何かあったのだろうか。まぁ、遊びに来るというのならそれは構わない。ジェシカ達も来るのでちょっと騒々しいだろうが。

「こっちもなんか、ジェシカ達が遊びに来るって」

「そっちもかよ。まぁ、でも、それなら好都合かもな」

「好都合?」

 彼が何を言っているのか良く分からない。

「いや、こないだウミちゃん達を連れてイベントに行っただろ?リンがその時の写真をウミちゃんに見せてもらったみたいなんだよ。それで」

「あー……」

 ウミもショウも、ジェシカ達とも一緒に写真を撮って大変ご満悦だった。そりゃあ同年代のお友達に自慢したくもなるだろう。もしかしたら学校でもあの時の写真を見せている可能性もある。あの露出度はあまり青少年の教育には良くないかもしれないのだが。

「まぁ、そんなわけで。『ミサキおねえちゃんとジェシカちゃんとメイユィちゃんに会いにいく!』って言って聞かないんだと。あの二人は兎も角、ミサキならって事らしい」

「なるほど、それなら確かに好都合だね。折角だし、晩ごはんはリンちゃんの好物にしようか」

「すまん」

「別に謝らなくてもいいでしょ」

 可愛い姪に会えるのであればこちらも大歓迎だ。夕食は張り切って作る事にしよう。


 昼食は近くの定食屋で済ませた。店内は外国人観光客で大変混雑しており、食券を買ってから席に着き、料理が出てくるまで一時間も待たされた。

 予想外のタイムロスに慌てながらスーパーで買い物を済ませ、急いで自宅へと戻ってきた。どうにか予定時刻ギリギリ間に合った。

「おかしいな、普段はあんなに混んでないんだけど」

「時間が遅かったからかもね。ソウは普段、もっと早い時間に食べに行くでしょ」

 彼は大体、一人の時は11時頃には食事に出る。

「そういやそうか。しかし、観光に来たのにチェーン店の定食屋に入るってのがおかしいよな」

「うーん、私達が海外でハンバーガーチェーンに入るのと似たようなもんじゃない?」

 確か、合衆国に旅行に行った時には、最初は食べ慣れたハンバーガーショップに入ったのを覚えている。

「うん?そう言われてみればそうか。人間って変な習性もってるよなあ」

「失敗したくないんでしょ、ヒノモトのファストフードやチェーン定食屋は安くて安定してるって人気らしいし」

 人は失敗を恐れるものである。旅行先で冒険して地元の店に入って、不味かったら楽しい旅に傷がつくと思い込んでいるのだ。

 だが、実際にはその不味かった、というのも後から考えれば面白いイベントではあるし、ぼったくりなんかにあわない限りはそこまで気にする必要は無いのだが。

 イベントに出るために泊まったホテルで、中にあったレストランがイマイチだったのだって、旅行中なのだから文句をつける必要などない。まぁ、だから観光地のど真ん中にある店はクォリティが微妙だったりするのだが。

 観光客は一度来て、いくらその店の料理が良くても、リピーターにはまずならない。要するに店としては、次から次へとやってくる観光客に、高めの適当な料理を出したほうが儲かるのだ。

 地元人は近寄らなくなるかもしれないが、いくらネットが発達していても、ヤマシロのように観光で人が溢れていれば、食事をするために入ってくる客はいくらでもいる。

 自分はヤマシロの場合は絶対に観光客向けの店には入らないし、どうしても食事をする場合はご近所の評判を見てからにする。

 だが、別の場所に旅行をするとそんな事はころっと忘れて、ふらふらと適当な店に入ってしまう。だからこの傾向がなくならないのだろう。

 無論、観光地でも料理を売りにしている場所はそうではない。サヌキに行った時はうどんの美味さに大変感激したものだ。

 なので、外国に出た場合ではとりあえず安牌を、となりがちなのだろう。矛盾しているようだが、大幅に食文化の違う所では萎縮しがちだ。

 早めに夕食の支度をしていると、リビングの入口にあるインターフォンが鳴った。どっちだろう。

 ソウが応対した。口調を見るに、どうやらキョウカの方だったらしい。

 少しして二度目のインターフォンが鳴ったので、エプロンをつけたまま、今度はソウと一緒に玄関まで迎えに出た。

「ミサキお姉ちゃん!」

 玄関を開けるなり、屈んだこちらに姪のリンが飛び込んできた。艶のある黒髪が慣性のまま舞い踊って、こちらの目元にぶち当たる。

「リンちゃん、いらっしゃい。今日は泊まっていくの?」

「うん!」

 元気良く挨拶した彼女を連れてきたキョウカが、申し訳無さそうに言った。

「ごめん、ミサキさん。急で」

「いいよ別に。丁度良かったと言えば丁度良かったし」

 疑問符を浮かべたキョウカだったが、今日はどうしても地元の集会にでなければいけないから、と言って謝りながら帰っていった。

「集会か。まだやってんのか、あれ」

「何かあったっけ?」

 少し困ったように呟いたソウに聞き返す。子供の頃住んでいた場所は、ソウとは同じ学区ではあるのだが、少しだけ地域が離れている。彼の実家は山に面した広い敷地を持つお屋敷で、幹線道路沿いに広がる住宅地だった自分の所とは多少距離があるのだ。

「うん、まぁ、地元の集会という名の、自治会費を使った飲み会だよ。親父が出られなくなったからなぁ」

「あー、そっか。名士の家から出ないのはまずいよねえ」

 ソウの実家は周辺一帯の大地主である。故にそういった旧来の集まりにも顔を出さねばならないのだろうが、フユヒコは殆どムサシ県にいるし、ハルコが出られないとなればキョウカが出る必要があるのだろう。かれらにはかれらの苦労があるのだ。

「まぁ、リンも家で暇してるよりはいいだろ。よし、ゲームするか」

「するー!」

 二人はリビングの前のソファに陣取って、早速テレビゲームの物色を始めた。パーティゲームの類は少ないが、それでも遊べるものはいくらでもある。買って積んであるものも沢山あるのだ。

 二人が配管工のアクションゲームを始めた所で、インターフォンがまた鳴った。今度はこっちだろう。

 ゲームにポーズをかけたソウが立ち上がろうとしたが、自分が出ると言って料理を中断した。間違いなくこちらの客人だ。

 案の定、インターフォンのモニターに映っていたのはオオイだった。脇からひょいひょいとジェシカとメイユィが顔を覗かせている。

 地下駐車場の解錠をして、暫くその場で待つ。ソウとリンの二人は二人プレイで協力して、亀の魔物を退治しているようだ。

 玄関の外から足音が聞こえてきたので、インターフォンを待たずにサンダルをつっかけて玄関の扉を開けた。三人のうち、オオイだけが驚いたような顔をしている。

「いらっしゃい、三人とも。オオイ二佐はどうします?食事ぐらいは一緒に」

「いえ、すみません。今日はちょっと、例の刑事事件で行く所がありまして」

「刑事事件……ああ、まだ続いてたんですか」

 確か、オオイの部屋に隣の大学生が侵入してきたという話だ。余罪があるという事なので、被害者同士の話し合いでもあるのかもしれない。

「ええ。ですので、申し訳ありませんが」

「いいですよ、気にしないで下さい。二人は私が明日、駐屯地まで送りますから」

 不運の二等陸佐は恐縮しながら帰っていった。うずうずしていた二人を連れて、リビングに戻る。

「ハイ!ソウ!その子は誰ですか?ソウの隠し子ですか?」

「そんなわけないでしょ、ジェシカ。ミサキ一筋のソウさんがそんな事するわけないよ」

 騒々しくリビングに入ってきた二人を見て、振り返ったリンが唖然とした表情をしている。

「じぇ、じぇ、めい」

「二人共、この子はソウの妹さんの娘さん。私の姪ですよ」

 口をぱくぱくとさせている姪をソファから抱き上げて、二人の前に置く。

「あっ!じゃあ、ウミちゃんたちと同じだね!ワタシ、メイユィ。よろしくね」

「はじめまして!ジェシカです!」

 リンがこちらを向いた。

「たまたま今日来る事になったの。リンちゃん、運が良かったね」

 彼女はそれはもう大きく顔を崩してこちらに抱きついてきた。ひたすら可愛い。


「ウミちゃんとの写真見たんだ、そっかー。じゃあ、リンちゃんも一緒に写真撮ろうよ」

「皆で撮りましょう!取り敢えず自撮りで!」

 騒ぐ三人にソファを占拠されてしまったソウは、キッチンのカウンターにやってきて腰掛けている。子供はあの二人に任せておいて大丈夫だろう。

 嬉しいサプライズを受けたリンは、二人に学校の事や両親の事、ウミとショウの事などを興奮して嬉しそうに話をしている。ジェシカとメイユィもその話を興味深そうに、楽しそうに聞いている。小学生の話というのは彼女達にとっても珍しいものなのかもしれない。

 自分には小学生だった頃の記憶がある。思い出すとなんだか黒歴史が多くて忘れてしまいたいような事ばかりだが、目の前に座っているソウとは、時々馬鹿な事をしたものの、楽しい思い出が沢山ある。

 記憶というのは人格を形成する上でとても大切なものだ。

 ジェシカもメイユィも、二人を形成している人格は記憶を失ってから今までに形作られたものである。

 マフィアのファミリーであったり、農場の家族であったり、そして多分、こちらに来てからの僅かな時間さえも彼女達の糧となっていっている。

 ウミやショウ、リンといった小さい子と関わることもまた、彼女達に良い影響を与えてくれるに違いない。そしてそれは、子供達にとっても同じであって欲しいと思う。

「ジェシカちゃん達はどこにいってたの?」

 話が休暇の話になっている。リンの夏休みは始まったばかりだが、その予定を話した事で、メイユィがこちらも昨日まで休暇だったのだと言ったのだ。

「リュウキュウに行っていました!もう、海の中がすごく綺麗でしたよ」

「サメも食べたよ!美味しかった!」

 サメは別にリュウキュウの名産というわけではない。たまたま襲いかかってきたから、無駄にするのは勿体なくて食べただけだ。

「リュウキュウ!あたしも一回行ったけど、あんまり海の中は見てないの。目が痛くなっちゃうから」

「それは勿体ないですね!ゴーグルをつければ大丈夫です!次に行った時はゴーグルをつけるといいですよ!」

「そうだね。水着もカワイイの着て」

「うん!そうする!水着、ジェシカちゃんとメイユィちゃんは、どんな水着だったの?」

 あっ、これは、ちょっと。

「さ、三人とも、先にお風呂に入ってはどうですか?」

 慌てて話を逸らそうとしたが通用しなかった。

「何を言っているのですか、ミサキ。まだ早すぎます」

「そうだよミサキ。まだ4時半だよ?」

「そ、そうですか?そうですね」

 別に早くても良いではないか。しかし、風呂以外に気を逸らせる方法は。

 考えたが思いつかなかった。仕方なく手元のボウルをかき混ぜることに専念する。

「なあ、ミサキ。あれ、いいのか?」

「良いわけないでしょ。でも、どうしようもないし」

 一体どうやって手に入れたのか、ジェシカとメイユィはいつの間にか手にスマホを持っている。

「見て下さい!クマさんから早速送ってもらった私達の写真です!」

「わぁ……すごい、皆、きれい……」

 リンは素直に感動しているようだ。まぁ、あの年頃の子にエロいという感性はあまり無いようなので、単純に綺麗、という感想になるのだろうが。

「ジェシカ、そのスマホ、どうしたんですか?」

 オオイか自分がついていないと外には出られないのだ。ショップに寄って買うにしても、どちらかが認識する事になる。

「SIMフリーのものをネットで買いました!通話はできませんが、無線通信やデータのやりとりはできます!写真は駐屯地の端末に送ってもらいました!」

「ワタシのはシュウトさんに買ってきてもらった」

 サカキめ。確かにSIMフリーであれば誰でも買う事ができる。通信会社と契約しなくとも、町中に溢れる無線通信でネットに接続はできるし、カメラを使うには全く問題ない。ケーブルを使えば普通にデータのやり取りもできる。通話というのはスマホの一機能にしか過ぎないのだ。

「オオイ二佐はその事を?」

「知ってるよ」

「通話は支給品を使うようにと言われています」

 今日初めて知らされたぞ。今まで彼女達が自分の前で出さなかったのは、ひょっとしてこちらに隠していたのか。

「そ、そうですか。でもその、クマガイさんの写真は雑誌に掲載前のものなので、外には出さないようにお願いしますね」

「わかっています!」「わかってるよ!」

 それなりのリテラシーも身についている。いやはや、成長のお早い事で。

 ただ、当然の如く駐屯地の地下には電波が入らない。無線通信も無いので、あそこにいる以上、外と繋がった回線は各自の部屋に置いてある端末だけだ。

 あそこから外に接続すると駐屯地内のサーバーを通す為、恐らく監視されている。クマガイとの連絡も多分、知っていて問題ないと見て放置しているのだろう。

「な、なぁミサキ。俺もちょっとだけ見せてもらってもいいかな」

「ダメ」

 黄色い声を上げている三人からは、おっぱいがどうだとかいう言葉が頻繁に聞こえてくる。あんまり小学生にそんなものを見せないで欲しいのだが。

「ちょっとぐらい」

「ダメ。完成したらちゃんと送ってくれるんだから、それを待てばいいでしょ」

「いや、でも……ボツになった写真とか」

「そういうのは写真映りが悪いからボツになったんでしょ?選別されたのが雑誌に乗るんだから、別にいいでしょ?」

「それでも見たいんだよ!」

 全くしょうがない男だ。あんまり思い詰めてジェシカ達にこっそりねだるとかされても迷惑だ。

「分かった。じゃあ、サカキさんに言っておくから。多分サカキさんは原稿だけじゃなくて写真のチェックもしてるだろうし、データも多分もらえると思う」

「本当か!?頼む!いやあ、ありがたい」

 そんなに写真に頼らなくても、水着姿が見たいのならいくらでも見せてあげているだろうに。そもそも本物が目の前にいるのに、水着の写真なんかを見てどうするのか。いや、待てよ。

 写真のデータに入っている水着姿は自分のものだけではなく、ジェシカとメイユィのものも含まれている。

「ねえ、ソウ。まさかとは思うけど、ジェシカとメイユィで抜いたりしないよね?」

「え?」

「しないよね?」

「し、しないしない!絶対しない!」

 本当だろうか。この男は大変なおっぱい星人であると共に、虹ロリもいけるのだ。書斎に並んでいるウスイホンを見れば、嗜好に傾向はあるものの二人がストライクゾーンから外れているとは思えない。

 毎日見飽きたこちらの身体では物足りず、あの二人に性欲を向ける可能性も無きにしもあらず。そう考えると、この話を安請け合いするのは危険だ。

「本当だって!俺はお前一筋だから!」

 尚も疑いの目を向けていると、声高に恥ずかしい事を叫びだした、それはそれで嬉しい事ではあるが。

 ふと見ると、三人が声を上げたソウの方を見ている。流石に声が大きかったか。

 ジェシカとメイユィはニヤニヤと、リンは不思議そうな顔をこちらに向けている。

 はあと溜息を吐いて手元の作業を再開した。まぁ、彼の言った事は本当だろう。

 そもそも写真やエロ本や同人誌で抜こうが、対象が妊娠するわけでもない。無駄撃ちは勿体ないとは思うが、実際に身体を重ねることができるのは自分だけだ。そこまで神経質になる必要もあるまい。

 ただ、二人の写真で抜くのだけはやめてほしい。なんか、生々しいから。



 夕食にはありきたりであるが、ハンバーグを作った。

 ソウに聞いたのだが、ファミレスなんかに出かけるとリンは良くこれを注文していたのだそうだ。

 茶色く焼き上げた二つのミンチ肉の塊。片方には中にチーズを入れてあり、片方には少しだけ黒胡椒を効かせている。一つの皿に二つの肉塊を載せ、付け合せには甘く煮た人参のグラッセとくし切りにしたポテトフライ、それから茹でたブロッコリー。

 ソースはブラウンソースとチーズソース、トマトソースの三種類用意して、テーブルの中央に置いた。好きなソースをかけて食べれば、二種類のハンバーグと合わせて六種類の味が楽しめる。

 スープはメイユィも大好きなコーンポタージュスープだ。取っ手のついた深皿にたっぷりと入れて、バジルをほんの少しふりかける。

 時間があるからこそできた、かなり手のかかった夕食である。

 三人だけでなく、ソウもこれには大変喜んでいた。いつもよりも沢山食べ、いつもよりも沢山飲んだ。折角昼間に運動しても、これではあまり意味がないのではないだろうか。

 ジェシカとメイユィの食べる量にリンは目を丸くしていたが、彼女自身も競争するように、大きなハンバーグを3つも平らげていた。満足してくれたようで嬉しい。

 食事中に話を聞いたのだが、彼女の母がハンバーグを作ると表面を削って食べなければいけないため、実際に食べる量はかなり少なくなってしまうのだという。

 確かにハンバーグにはしっかりと火を通さないといけないが、焦げるまで焼くというのはタネが大きすぎるか火力が強すぎるのだ。キョウカはこちらが教えたもの以外の料理は相変わらずである。

 食事が終わると三人は再びゲームをプレイし始めた。次はどうやら、ブランディッシュファイトに新しく実装されたローグライトモードを遊んでいるようだった。

 片付けも終わったので、着替えを持って風呂に入る。自分が最後なので、溜めた湯は抜いて浴槽を軽くシャワーで洗い流しておいた。

 夏場にしては少しもっこりとしたパジャマに身を包んで、リビングの椅子に腰を下ろす。

 三人は交代で新モードのステージを遊んでいるようだ。

 システムとしてはそれほど難しくなく、三叉に枝分かれしているステージを選んで先に進んでいくだけで、見えているアイコンによって能力が強化されるかアイテムを手に入れる、という至極単純なものだ。

 1ステージごとに使用したキャラクターによる横スクロールアクションステージをクリアして、その結果によってもらえるアイテムの質やステータスの上昇率が変わる、という、実にシンプルなゲームである。

 それ一本だと多分、すぐ飽きる。だが、このモードの目的はキャラクターの強化にあるので、好きなキャラクターを限界まで強化したい、という、ある種のRPG好きに向いたシステムではある。

 対人では使えないものの、ストーリーモードでは育てたキャラクターが使用可能なので、場合によっては最高難易度のボスすらも割と楽に倒せてしまうようになる。ある意味格闘ゲームが苦手な初心者への救済モードのようなものだ。

 この成長する、という要素をRPG好きのメイユィは気に入ったらしく、早速持ちキャラのエリザベートを強化しているようだ。

 アクションパートは失敗してもそれまでに得た能力は持ち越せるようで、やればやるほどキャラクターが強くなる、という単純なシステムだ。ただ、BFはキャラクター数が多いため、やり込もうと思えば物凄い時間がかかってしまう。対人だけだと格闘ゲームに不慣れな層は飽きてしまうので、開発はこの辺りのプレイヤー層の引き止めも見越して実装したのだろう。

 操作がそこまで複雑ではないため、コントローラパッドを持ったリンも目の色を変えて楽しそうに遊んでいる。以前来た時はパーティゲームばかりだったので、こういった一人でやるゲームは新鮮なのだろう。

「やった!勝ったよ!ジェシカちゃん!メイユィちゃん!」

「いいですね!リン!ステータス大幅アップです!」

「これでまたエリザベートが強くなったね!リンちゃん、次いこう次!」

 実に楽しそうだ。小学生のリンにも楽しめる程度の難易度のようである。

「そういえば、新キャラはどうでした?」

 ビールをグラスに注ぎながら言う。ソウも前に座ったので、仕方なくそちらにも注ぐ。

「ああ、ダイヤとレイスだね。イベントで触った以上の感触はなかったよ」

「ミサキ、私達はチャンピオンです。ネット対戦では敵がいません」

「まぁ、それはそうですか。私は使ってないですけどね」

「ミサキならすぐに使いこなせるよ。オススメはダイヤかな」

「いえ、メイユィ。レイスの方が強いです」

 割とリアルでこういった評価の違いは発生する。だが、頂点レベルの能力がある二人がこうやって議論になるというのなら、そのバランス調整は極めて正確だったという事だろう。開発者の高い調整能力が伺える。

「あっ!次でボスだよ!メイユィちゃん、お願い!」

「まかせて!ワタシが倒してやるから!」

 メイユィにパッドを渡したリンは、実に嬉しそうに画面を見つめている。あっという間に馴染んだのは多分、ジェシカとメイユィの子供に対する近い距離感のお陰だろう。ウミとショウの時もそうだったが、彼女たちは子供にとてもフレンドリーかつ親密に接する。多分精神年齢の事もあるのだろうが、元々子供が好きなのだろう。

 子供が好きなのは自分もそうだ。甥姪の事は大好きだし、できれば早く自分も子供が欲しい。けれど、今すぐにというわけには。

 向かいに座ったソウを見ると、やはり三人を見てうっすらと優しい微笑みを浮かべている。彼も子供が好きなのだ。

 どうにかならないだろうか。連邦にいるという駆逐者がこちらに来てくれれば、一時的に離脱しても大丈夫だとは思うのだが。


『関係ないだろう、子が欲しいなら成せば良い。お前はその為にいるのだから』


 無理だろう。連邦はあまり協力的ではないし、入った駆逐者に自分と同程度の指揮能力や精神年齢があるとは限らない。やはり、もう少し落ち着いてからか、安心して任せられる人が増えてからになる。

 しかし、増えるのだろうか。

 駆逐者は現在極めて希少だ。連邦にいるのが発覚したのは最近だが、それでも世界中でたった七人である。あまりにも足りなすぎる。

「ナイスメイユィ!クリアです!フルボーナスですよ!リンちゃん!」

「やったあ!さすがメイユィちゃん!」

「皆のおかげだよ!これでまた、ミサキのエリザベートが強くなったね!」

 どうやら無事ローグライトモードをクリアできたようだ。時間的にもリンのお休みの時間に近い。この辺りで終わりにした方が良いか。

「お疲れ様。そろそろ寝る時間なので、歯を磨いて寝ましょうね」

 渋る三人を続きは明日の朝にやれば良いよ説得して、どうにかこうにか布団を敷いた和室へと押し込んだ。

「賑やかだな」

 グラスの最後に残っていたビールを喉の奥に流し込んで、ソウも立ち上がった。

「リンちゃんも二人に会えて良かったよ。正直、うちのウミとショウだけだと不公平だなと思ってたし」

 リンの家族も招待できればよかったのだが、招待可能な人数的に難しかったのだ。結局、先の学校の事が気になったが故にウミ達を優先する事にしたのである。

 グラスと空き缶を片付けて、こちらも寝る準備をする事にした。



 日曜の朝、一番に起きてきたのはリンだった。

 彼女は以前朝食に焼いたガレットがお気に入りだったようなので、今日も沢山焼いて準備してある。一つ作るのにも手間がかかるので、大喰らいであるジェシカ達の分まで作ろうと思うと大変だ。

 笑顔で生ハムや卵の入った生地を切り分けては頬張っているリンを眺めていると、和室からややげっそりとした様子の二人が揃って出てきた。

「おはようございます。二人とも、ちゃんと眠れましたか?」

「ミサキ……」

「ミサキはどうしてそのように元気なのですか……」

 人の情事を盗み聞きして眠れなくなるなど、自業自得にも程がある。こちらが元気なのはいつもしているからだ。

「私は普段からこうですよ。いいから、朝食を出すので座って下さい」

 二人は不思議そうな顔をしているリンを挾むようにして座った。すぐに焼き上がっていたガレットを五段重ねにして彼女たちの前に置く。

 寝不足でも食欲には勝てないのか、すぐに二人とも凄い勢いで食事を始めた。両側で繰り広げられている食欲の権化達による暴食を、挟まれた少女は目を白黒させて視線を動かしている。

「ジェシカちゃんもメイユィちゃんも沢山食べるんだねえ」

「食べないと動けませんからね、特に私達は」

 何気なくつけていたテレビで、朝のニュースに意識が引かれた。DDDとか駆逐者という単語が聞こえたのだ。


『この要請を受けて、連邦のウリヤノフ書記長は、協力はするが彼女は連邦に留め置く、と強固な意思を示しており、事実上、今までの体制を維持する姿勢を表明しています。これに対して連合王国のピット首相は、迅速な展開に影響がある体制は認められない、と反発を強めており、3日後のWDO主催となる首脳会談に向けて、各国が慎重な調整を行っています』


 やはり、合流は無理か。立ち位置としては当然だろう。DDDアトランティックの面子は全て西側国家出身であり、そこに連邦の駆逐者を入れるとなると、どうしても力関係上、連邦が渋るのは分かっていた事だ。

 連邦にいれば1の戦力だったものが、集団に入ると割合的には1/4、あるいは2/7となる。客観的に見て勢力としてはどちらが強いか、誰の目にも明白になってしまう。

 いくら単体で強かろうが、駆逐者同士の実力差というのはそこまで大きなものではない。多少の差異はあろうとも、誰かの倍以上も強い、という者は今のところいない。

 結局のところ連邦は他の駆逐者に頼らざるを得ず、連邦以外に竜災害が発生する頻度によってその立場と優位性が変わる、という、微妙な立ち位置に収まらざるを得ない。

「ミサキお姉ちゃん、ニュースの人、何言ってるの?」

 じっとテレビを見ていたこちらに気がついたのか、リンが食後のグレープフルーツジュースが入ったグラスを置いて聞いてきた。

「私達の仲間が増えたんだけど、その子のいる国がその子を手放したくないって言ってるだけだよ」

「ふーん。でも、メイユィちゃんもジェシカちゃんもヒノモトにいるよね?」

「ヒノモトからのほうが移動が楽なことが多いからね、みんなでそう決めたの」

「そうなんだ。じゃあ、その新しい子がいる国は、よっぽどその子の事が大切なんだね」

 彼女にそうだねと答える。その認識でまぁ、間違ってはいない。

 どうであれ連邦が七人目を外に滞在させるのを渋っているのは事実だ。理由は内政的なものが殆どだろうが、もしかしたら本当にリンの言っている通りなのかもしれない。

 リンとジェシカ、メイユィの三人は朝食を終えて、ニュースを消して昨日の続きを始めた。ローグライトというのは周回が必要になるのである。

 いつまでも起きてこないソウを起こしてきて、あまりこちらを見ようとしなくなったジェシカとメイユィを横目に見ながらよそ行きの朝食を終わらせた。



「侮っていたよ、ジェシカ。ミサキとソウさんのエッチがあんなに情熱的だなんて」

「私もです。あれが大人のセックスなのですね、勉強になりました」

 昼もミサキの所でご馳走になり、彼女に駐屯地まで送ってもらった二人は、談話室で夕食を食べながら、昨夜、廊下で盗み聞きした話で盛り上がっていた。

「『今夜も何度でも愛してくれる?』だって。かぁー!言いたい!言いたいよジェシカ!」

「『お前はどんな格好していても可愛い』ですよ、メイユィ。あんな事言われたら、もう身体が溶けてしまうに決まっています!」

 身悶えしながらも食事をする手だけは止めない二人。色気も食い気もどっちも欲しい欲張りな年頃である。

「メイユィはシュウトにそうやって迫るのですか?」

「いやあ、うーん。『今夜も』ってのは初めてでは使えなくない?『今夜は』にしても何か変だし」

「あの二人とでは違いますね。参考になると思ったのですが」

「そうだね。あれ?でも、ジェシカは相手がいないじゃない。参考って何の参考にするの?」

「そ、それは……ウスイホンです!ウスイホンを描く時に参考にします!」

「え?描くの?ジェシカ、絵が描けるの?」

「まだです!今思いつきました!」

「なにそれ。まぁでも、ジェシカなら多分できるよ。ねえねえ、じゃあさ、最初にミサキの本描いてよ」

「勿論です!最初からそのつもりでした!」

 話が変な方向に転がり始めたが、二人は違和感も何もなく話を続けている。

 その後、二人の若干の趣味の違いで少しだけ諍いが発生する事になったが、それはあまり重要な問題ではなかった。



 散々に飲まされ、うわばみを自称するキョウカでも流石に疲れて帰宅した。ヤマシロ県でも中心部以外は基本的に田舎なので、どうにも古いしきたりが残っているものなのだ。

「ママー!おかえり!おさけくさい!」

 彼女の娘が広い玄関まで迎えに来た。靴脱場には二人分の靴しか置いていないので、非常に閑散としている。

「ただいま、リン。ミサキお姉ちゃんの所、どうだった?」

「楽しかった!あのね、ママ。ジェシカちゃんとメイユィちゃんも来てたの!」

「えっ!?」

 彼女が娘をミサキの所に連れて行った時は、特に二人の姿は見えなかった。後から来たのかとキョウカは思わずその場で立ち尽くした。

「どうしたの?ママ」

「え?いや、なんでもないよ。ママも会いたかったなあって」

「写真撮ってきたよ!みんなで一緒に写って、ゲームも一緒にした!」

「そ、そう……良かったね、遊んでもらえて」

 娘が思わぬ幸運に浴していた事に、キョウカは軽く嫉妬した。ジジババの相手で美味くもない酒をしこたま飲まされて愚痴を聞かされる会合は、できれば参加したくないものだったのだ。

「ねえママ、ばんごはんは?」

「あー、うん。ママ酔っ払っちゃったから、何か取ろうか。何が食べたい?」

「お昼ごはんはミサキお姉ちゃんのドリアだったから、それより美味しいのがいい!」

 無茶を言う、とキョウカは頭を抱えた。

 娘のリンにとってミサキの料理というのは特別な意味を持つ。しかも、ミサキの作る料理というのは、そこら辺の料理店で出てくるようなものでもあるのだ。半端な宅配では不満が出てしまう。

「うーん、ミサキお姉ちゃんの料理より美味しいのってなると。パパが帰ってきてからお外に食べに行こうか、ね、何が良い?」

「お寿司!」

「そう、お寿司ね。わかった。パパが帰って来るまで待とうね。ジェシカちゃん達の写真撮ったんでしょ?見せてくれる?」

「うん!二人共、ミサキお姉ちゃんと同じぐらい可愛かったよ!」

 娘が羨ましい一児の母は、より過酷な休日出勤をしていた夫を待ちながら、娘のスマホに収まっている写真を見せてもらって、集会で疲れた精神を癒すのだった。

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