第54話 上手に揚げました

「こんにちは、ミサキです」

「ジェシカです!」

「メイユィだよー」

 サカキの持ってきた三脚の上に固定されているハンディタイプのデジタルビデオカメラに向かって、笑顔で両手を振って、間抜けな挨拶をする。これは必要な事なのだろうか。

「今回はですね、私達が鎮圧している新古生物。これが、食べられるのではないかというお話を聞きまして。これを調理していこうと、そういう企画です」

「アトランティックのロロが言っていました!とっても美味しいと!」

「あっ、知ってるかもだけど、あっちのメンバーとも協力してやっていこう、ってことになったから。そんで、会って話をした時に聞いたんだよ」

 前フリが長すぎやしないだろうか。まぁ、6人が協力して事に当たるというのを一般に周知するという目的もあるので、これはこれで人々にとって安心材料の一つではあるだろう。ただ、合流するとなると鎮圧までに時間がかかってしまうのだが。

「はい、ではー。今回調理するお肉はこちらです。じゃん。羽毛の生えたMクラス新古生物、オヴェストドンのもも肉です」

「これは鎮圧するのにとても大変でした。もう、たっくさん湧いてきたものですから」

「だから、本来は研究材料としている肉が余ったんだよ。今回はそれを使うね」

 いつもこんなものが手に入ると思われては困る。シリーズ企画化でもされようものなら、毎回この茶番をする必要があるのだ。面倒くさいし恥ずかしい。

 カメラの後ろにいたサカキが人差し指と親指で円を作った。一応導入部はこれで完了らしい。

「サカキさん、これ、必要なんですか?」

 調理動画なら普通に作っている所を映して、字幕で説明でも入れればそれで良いではないか。実用第一である。

「必要ですよ。まず、その肉はどうやって手に入れたのか、DDDは普段どうしているのかを視聴者は知りたいはずです。必要です」

 確かにそれはそうかもしれないが。こいつは本当にエリート公務員なのだろうか。やたらと動画視聴者の嗜好に詳しいが。

「それじゃあ、作成している所を映しますので、下処理はこっちで」

「はあ、わかりました」

 給湯室には何故か調理台が用意されていて、その上にでんと例の肉が置かれている。

 カメラが回り始めたので、肉に手を添えて説明を始める。

「この肉は、丁度昨日仕留めたものです。恐竜の、失礼、新古生物だと長いので、これから竜と呼びますね。竜の肉がどうなのかはわかりませんが、他の動物のものと同じく、一日寝かせてみました。これからこれを、唐揚げにしてみたいと思います」

 ぺりぺりとラップを剥がしていく。ドリップは殆ど出ていない。状態は良好である。

「ご覧の通り、大きいです。まずはこれを一口サイズに刻んで、タレに漬け込んでおきますね。あ、タレの材料は字幕をご覧下さい」

 セラミック製の包丁で皮、というか鱗?いや、やはり皮だ。それをそぎ取り、削るようにして乱切りにしていく。そのままでもまだ大きいので、一口大の大きさに細かく刻んでいく。

 切った感触は他の肉よりやや硬いが、特別変わった感じはしない。生きている時は非常に硬く感じるものだが、肉にしてしまえばどうやらその抵抗力は無くなるようだ。

 黙々と同じ作業が続く。こんなのを見て面白いのだろうか。

「あっ、カラスマさん。ここはカットするんで喋らなくてもいいですよ。喋って面白かったら採用しますけど」

「……そうですか。別に面白い事もないので、黙ってやりますね」

「どうしてですか?何か面白い事を言って下さい、ミサキ。キナイの人でしょう?」

「そうだよミサキ。何かボケてよ」

「キナイ人を一緒くたにしないでください。私はヤマシロ出身なので」

「あっ、ヤマシロ人は特別意識があるそうですね!」

「ありません。というか、どこからそんな偏った情報を仕入れてくるんですか」

 地方差別ではないだろうか。確かにカワチの人はそういった冗談を好む人が一部にはいるが、別に全員がそうというわけではない。

「ジェシカがネットで調べたって言ってたよ」

「適当な情報を鵜呑みにしてはいけません。情報はきちんと真偽を判断してから受け入れましょう」

 ジェシカは結構な頻度で、端末を使って外部サイトにアクセスしているようだ。そういえば飛行機の中でノート型端末を貸した時も、スムーズにタッチパッドとタッチスクリーンを操作していたのを覚えている。

 下らない話をしているうちに、どでかいボウル3つ分ぐらい、山のような肉のタレ漬けが出来上がった。

「えー、普通の唐揚げですね。下味も衣も、鶏の唐揚げと同じです。というか、どういう調理法が良いのかわからないので、とりあえず唐揚げにしてみようかと」

「ロロの言ってた肉の具合が、鶏肉に似ていたそうです。それで、ミサキが唐揚げにしてみようと」

「ワニにも似てるよ!ワニも揚げ物にすると美味しかったよ」

「メイユィ、ワニは世界的にはあまり一般的な食材ではありませんよ」

「えっ!?そうなの?」

 そうだ。一応ワニのいる地域では食べられることもあるし養殖もされているが、世界的に流通しているような代物ではない。

 これまた黙々とボウルから金属パットに用意した片栗粉と小麦粉のブレンドの衣をまぶしていく。ジェシカとメイユィにも手伝ってもらい、その間に、定温調理のできるIH調理台に油を入れた鍋を置き、170度にセットした。

「作業は簡単だけど、一つ一つやっていくと手間がかかるね」

「袋に入れて振るという手もありますね。どうしても時短したいならそれでも」

 量が量だけに結構かかる。作業しているうちにIHで音がなったので、そちらに向かった。

「それじゃあ衣は二人に任せて、揚げていきましょうか。まずは170度です」

 小気味良い音を立てて、竜の肉が揚がっていく。適当にひっくり返して、程よい色になったところで一旦油切り用の網の上に並べていく。

「ミサキー、終わりました。あっ!出来上がりですか?」

「違いますよ。まだもう一度、今度は高温で揚げていきます」

「オー、面倒くさいですね。一度に高温で揚げて良いのでは?」

「面倒くさいならそれでもいいですけどね。今回は一応二度揚げでやります」

 こちらも地味な作業だ。映像にしても何も面白くはない。一つつまみ食いしようとしたジェシカの手をぺしっと叩いて止めて、どうにかこうにか、大皿山盛り三皿分の唐揚げが出来上がった。

「山盛りです!美味しそうです!」

「味はどうでしょうかね。竜の肉ですし……」

「早く食べよう!ごはん持ってくるね!」

 メイユィを先頭に丼に山盛りの飯を業務用のこれまたどでかい炊飯器からよそってくる。一応先に作っておいたサラダもあるものの、目の前にあるのは肉と油の塊、いや、山である。豪快にも程がある。

 談話室の大きなテーブルの前で、サカキに撮影されながら麦茶を人数分入れて各自の前に置いた。

「それじゃあ、一ついただきましょうか。あっ」

「いただきます!」

 我慢できなくなったジェシカが山から一つ摘んで、止める間も無く口に入れた。

 さくさくもぐもぐと口を動かしているジェシカは、すぐにごくんと飲み下して笑った。

「普通の唐揚げです!鶏肉よりも、ちょっとあっさりしています!」

 普通か。普通なら大丈夫か。自分も一つ、箸で摘んで口の中に放り込んだ。

 高温でカリッと表面を揚げられた唐揚げ。歯ざわりはいつものものと変わらない。

 肉質はやや繊維質だろうか。鶏むね肉やささみにも似ているが、風味はそれとは当然違う。どちらかというと淡白で、味が薄い。ただ、生姜と醤油ベースの下味がしっかりとついているのでそれ自体は問題ない。

「うん、普通の唐揚げですね。風味が弱いので、もう少し下味を変えても良かったかもしれません。何というか、非常に癖のない鶏肉というか」

 よく考えたら羽毛が生えていたのだ。あの竜はどちらかといえば鳥に近いのかもしれない。

「おいしいよ!ミサキの料理は何だっておいしいけど!」

 メイユィも笑顔でもりもりと食べ始めた。まぁ、食べられると分かったのなら問題はない。

「さ……ええと、カメラさんもどうぞ。どうですか?ああ、普通?普通ですね。普通に美味しいと」

 サカキもこちらが差し出した揚げ物を食べて、笑顔で頷いた。まぁ、不味くなくて良かった。これなら消費しきれるだろう。

 こっそりとサカキの分を皿に取り分けて、大食い三人で山を取り崩しにかかったのだった。


「はー、満腹です!沢山食べられたので満足です」

 後片付けを終えて椅子に座り込み、ジェシカが軽くげっぷをした。少し下品だ。

 隣ではサカキが飯とサラダと味噌汁、竜の唐揚げの、竜の唐揚げ定食でお昼ごはんを続けている。竜田揚げではない。唐揚げだ。

「美味しいですよ、竜の唐揚げ。僕は鶏肉よりもこっちのほうが好きかもしれません」

「そうですか、それは良かったです。サカキさんも外食に飽きたら、ここでお昼を食べてもいいですよ。一人分多く作るぐらいはどうってことないですから」

「本当ですか?それは嬉しいですけど」

 この男も外食やコンビニばかりで済ませているらしいのだ。個人の自由とは言え、流石にそればかりでは栄養が偏るだろう。

「シュウトさんも一緒にお昼?」

 メイユィが露骨に嬉しそうな顔をした。サカキは少し困っているようだが、それでも満更ではないようだ。そりゃあ、こんな美少女に好かれて嫌な気分になる男はいないだろう。

「あっ、でもこの材料購入費って防衛省の経費ですよね」

「問題ありますか?サカキさんのお昼ごはんだって、外務省の経費でしょう」

「あぁ……そういえばそうでした。同じ税金か。それじゃあ、宜しくお願いします」

 食事は大勢でしたほうが楽しいだろう。広報とももう少し密に情報交換をしたほうが良いだろうし、悪い事は何もない。

 食事を終えたサカキの食器を片付けて戻ってくると、彼は思い出したように言った。

「全くの別件なんですが、例のイベントの話、今週末にする予定です」

「イベント?何の話ですか?」

 イベント、イベント。何かあっただろうか。

「本当ですか!でも、急ですね!」

「わぁ、もう準備できたの?嬉しい!」

 二人は何の事か分かっているようだ。何だ、二人が喜びそうなイベント。あっ。

「カラスマさん、例のコスプレですよ。先方から会場を押さえたのでその日にしてほしいと」

「……はい」

 早すぎやしないだろうか。しかも今週末とか、あまりにも急すぎる。

「衣装も先方持ちです。販促イベントでもあるのでまぁ、当然ですね。向こうの広報もえらく乗り気で、パブリッシャーの社長まで出てくるとか」

「社長が?え、ちょっと待って下さい。BFのパブリッシャーっていうと、あの」

 ヒノモトで最も有名なゲーム業界の雄。

「そうです、ユリア・エンターテイメントのユリア・スギタ社長です。実は防衛省とも以前からユリアは提携していまして、ドローンや戦闘機のシミュレーションシステムなんかも手掛けているんですよ」

 防衛省と……なるほど、それでこちらの提案にやたらと積極的だったのだ。

 DDDパシフィックは名目上、ヒノモトの防衛隊に所属している事になっている。繋がりがあるというのなら、これを期に二度、三度と別のゲーム等でもコラボレーションしたいと思うのは当然だろう。仮に自分が広報だったとしても前のめりになる。

 小規模なイベントにわざわざ大元の社長が出てくるというのは、それだけこの突発的コラボを重視しているという事だろう。今後ともよろしく、というわけだ。断りにくい。

「はあ、なるほど。あの、ところで私のコスプレするキャラって」

「エリザベートですね。投票ダントツ一位です。多分、ジュエさんの実況中の言葉が影響しているのかと思われますが」

「えへへ、だって、エリザベートが一番カワイクて、ミサキに似てるし」

 褒められるのは悪い気分はしないものの、あの衣装である。

「メイユィはティンクルでしたっけ?大丈夫なんですか?あれ、パンツ見えたりするキャラですけど」

 ひらひらしたミニスカートを履いた、魔法使いの少女である。ゲーム内では遠距離攻撃が得意で、画面制圧力の高いかなりの強キャラに分類されている。

「ワタシは大丈夫だよ。だって、下着の上に衣装のものを履くんでしょ?パンツじゃないので、恥ずかしくないよ」

 どこかで聞いたような台詞を吐くメイユィ。いや、下着じゃなくても、見ている側が下着だと認識していればそれは下着なのではないだろうか。

「ジェシカは……」

「ユンファです!使用キャラなので嬉しいです!」

 そうか、確かにそうだ。ユンファは央華の衣装をやたら扇情的に改造した格好の。

「でも、あれも」

「パンツじゃないので!」

「そうですか」

 それでは、唯一下着らしくないものを履くのは自分だけだという事になる。バニーに続いてまたハイレグ……。

「ええと……大丈夫です、カラスマさん。カラスマさんは概ねそういうキャラだと認識されつつあるので」

「どういうキャラですか!?ひょっとして露出狂だとか思われてません!?」

「いやあ、それは。はい」

 はいじゃないが。

 いくらなんでもひどすぎる。どうして世の中はこの自分を辱めようとするのか。神も仏もいないのか。いないのだろう。

「でも、楽しみだねミサキ。シュウトさん、会場は近くなの?」

「いえ、ムサシ県ですね。ワイドサイトのホールを一つ、借り切っているようです」

 ワイド、なんだって?

「聖地です!聖地巡礼です!」

「うわっ!びっくりした!何?ジェシカ」

 唐突に大声を上げたジェシカに、メイユィがびくりと髪の毛を逆立たせた。

「ウスイホンの聖地です!ああ!マイゴッデス!神はいたのですね!」

 何故女神なのか分からないが、ジェシカが両手を組んで神に祈りを捧げている。

「ああ、即売会もワイドサイトですね。まぁ、いろんなイベントに使われる大きな施設ですから」

「そんな大きなイベント会場、一週間前で良く借りられましたね……」

「まぁ、天下のユリアですからねえ。もしかしたら、系列が使う予定だったのを急遽変更したのかもしれませんし」

 ユリア・エンターテイメントはグループ企業をいくつも抱えている。金融に出版業、土地開発不動産、更にはテクノロジー関係にはほぼ全て食い込んでいる。元は小さなゲーム制作会社である驚天堂という企業だったのだが、若くして社長となった彼女があっという間に巨大コンツェルンに成長させたのだ。一体どんなマジックを使ったのだか。

「ミサキ!ミサキ!ワイドサイトですよ!ワイドサイトでコスプレイベント!夢のようです!」

「はぁ……そんなに喜んでくれるのなら、あちらさんも広報冥利に尽きるでしょうけれど」

 ジェシカもメイユィも大喜びしている以上、自分が水を差すというのも駄目だろう。精々楽しんでいる振りをしなければならない。そしてまた、エッチな格好が大好きなエッチな女だと世の中に認識されるのである。

「先日戦ったランカーでイベントに出られる方には、色紙を直接手渡す事になります。来られない方には郵送ですね」

 なるほど、表彰式のようなものだろう。にしても、対戦者全員が全員、こちらのメンバーにボコボコにされたわけではあるが。

「わかりました。心構えをしておきます。ただ」

「わかっています。出動があった場合は日を改めます」

 中止じゃないのか。意地でもコスプレをやる気なのである。この情熱は一体どこからやってくるのか。ひょっとして自分達のエロコスプレを楽しみにしているのではなかろうか。

「一応入場は抽選の予約制ですが、どなたか招待したい方がいらしたら、お一人5人まで可能ですよ」

 いや、恥ずかしい姿を見に来てくれと誰かを呼ぶなんて、できるわけがないだろう。それこそ本当に痴女ではないか。

「シュウトさんが来てくれるならワタシは別に」

「私も、こちらには知り合いがいません。ヒトミやハルナは?」

「ああ、マツバラ先生とオオイ二佐は別枠ですよ。確保してあります」

 あの二人も来るのか……また尻を触られたりしないだろうか。

「カラスマさんはどうされますか?どなたかご招待を」

「いや、私は……」

 精々ソウを連れて行くぐらいだろうか。ムサシ県で朝からイベントという事なら前日からの泊まりになるだろうし、彼を連れて行く方が良いだろう。あとは、いや、そうだ。

「親戚の家族を一組、招待したいんですが、いいですか?」

「勿論です。人数分の認証コードを送るので、それを入場時に読み取り機にかざせばOKです。後でワイアードで送りますね」

 サカキは暫く彼女達と雑談をした後、また何かあれば呼んで下さいと言って戻っていった。


 二人は昼寝をするようなので、自分は部屋に戻って昨日の報告書を書き上げる。

 Mクラス12体。耐刃繊維にも似た羽毛、食味は薄味の鶏ささみ肉。一体何の報告書なのだか分かりゃしない。

 ただ、前回の南コリョに出現した大群よりは楽に倒せた。サイズの割に数が多かったものの、自分の能力、全力の一歩手前を維持する戦い方ができるようになったためだ。

 この手法を二人にも教えてみたのだが、どうにもコツが良く分からないらしい。あの二人であれば戦っているうちに勝手に学習しそうではあるが。

 紙の報告書は疲労感がすごい。慣れたキーボード入力ではなくボールペンだと間違えたらやり直しなので、これも神経を使う。シャープペンシルで下書きをするとなるとまた時間がかかる。

 一応、この報告書は公文書という事になっている。担当者から上長のハンコを押す欄までしっかりと用意されていて、一番頭には大臣という欄がある。まるで冗談のようだ。

 スタンプ印をまっすぐ押して完成だ。そういえば最近、妙なビジネスマナーだとかでハンコは左に少し傾けて押すとかいう文化があるというのを聞いたことがある。

 実は自分も大昔にそのような作法を聞いたことがあるが、その時は右肩が上がっていると縁起が良いからだと教えられた。

 そう言われてみれば、縁起をかつぐヒノモト人らしいなあと微笑ましく思ったのだが、今現在、巷で言われているのは上長に対するお辞儀を意味しているからだという。

 馬鹿馬鹿しい。ハンコでまでお辞儀なんてする必要はなかろう。大体電子印はどうするのだ。一体誰が仕掛けたのだかわからないが、時々こういった意味不明なビジネスマナーだとか、食事のマナーだとかが表に出てくる事がある。

 多分、誰かが無理矢理流行らせようとしているのだろう。それでそういった内容の本を出したり、講座か何か開いて金儲けをしようという腹なのだろうが、面倒くさい事を広めないで欲しい。社会が窮屈になるだけだ。

 オオイに内線で連絡をして、クリアファイルに入れた報告書を給湯室の貨物用エレベーターで上に上げる。エレベーターの中は料理ばかり上げ下げしているせいか、どことなく色んな食べ物の匂いがしみついていた。

 そういえば、サカキはお腹は大丈夫だったようだ。竜の唐揚げをそれは美味しそうに食べていたので、一応は人間が食べても大丈夫なもののようだ。

 自分達は消化器官も頑丈なので問題ないが、サカキの場合はある種の人体実験である。本人にその気は全く無かっただろうが。

 少し喉が渇いたので冷蔵庫を開けて、中から麦茶を取り出してグラスに注いだ。茶色い色をした栄養ドリンクだかは常に補充してあるが、自分は一度飲んでどうも好みに合わなかったので飲まなくなった。二人は喜んで飲んでいるのだが。

 別に不味いわけではない。チョコレート味にしてあり、飲みやすい。しかしどうも二人のようにごくごくと飲む気にはなれない。何というか、飲もうとすると喉に絡むような、鼻の奥が何かつんとするような感覚があるのだ。

 いくら栄養があろうとも自分は日常的に食事の栄養バランスには気をつけているし、自分達の力は別に筋力によるものではない。プロテインは必要ない。そう思えば、彼女達の足りない栄養素を補う何かなのだろう。栄養の足りている自分が、それほど飲みたくないと思えるのも自然だ。

 グラスを軽く洗って水切りカゴに置いて、部屋に戻った。今日はもう特にすべき事は無い。動画で外国語でも学ぶか、可愛い生き物を愛でても良いだろう。出動が無く、平和な一日というものは素晴らしいものだ。

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