遭遇

森の奥にいる仲間たちに会うための話し合いから2ヶ月が経った

身体はまだすごい速度で成長している

今は大体背格好で言うと小学校低学年くらいか


話し合いの後、犬の獣人の成長速度について聞いてみた

大体4歳になった頃が人間の成人に相当するみたいで

本来の犬は1歳が成犬に相当するためそれに比べたら遅く、人間よりはかなり早い


マットとカーネの年齢を聞いてみたら今年で6歳になるらしい

見た目的には20半ばくらいに見えるが6歳の父と母かぁ…なんか変な感じだ


そしてもうひとつ聞けた獣人の情報

平均寿命は大体35歳くらい、40歳生きれたら長寿という

犬の平均寿命と比べたら倍か、それ以上ではあるが、人間と比べたら約半分未満


マットは俺たちに平和な一時を過ごしてほしいと言っていた

幼少期が人間の1/3程度しかない獣人にしれみれば貴重な平穏な時間だからだ


だけど人間の倍、時間を消費するのが早いのであればなおのこと

幼少期に身につけておかねばならないことも多いと思う


犬の成長期間で最も覚えが身につくのは1歳になるまでの期間だと聞いたことがある

だから今の俺たちは遊びよりも学びを優先したほうがいいのだ


そしてあと半年したらこの集落からは離れることになる

ちょうど俺たちが中学生くらいの体格になると想定されている時期だ

体格に個体差はあるだろうがそれだけあれば、最前線に狩りに出れなくても

女子供たちを守る番くらいはできるだろうとの大人たちの判断だ


だからこの半年は体づくりと対応力の強化に使っている


この世界は過酷だ

人間だった頃の小学生〜中学生の頃なんて勉強と遊び

人によっては習い事程度だろう

住んでいる世界、時代、種族が違えばこんなにも生きていくことが大変なのかと

痛感する


異世界転生でチート能力を貰えてれば苦労せずにみんなを導けたのだろうか?

俺にはなんの能力もない。

人間の頃と同じように学び、できるようになるまで反復。それしかできない


前の自分なら諦めていたと思う

でもあの日、勇気を出して提案したことをみんなは笑って褒めてくれた

マットが誇らしそうに頭を撫でてくれたことが本当に嬉しかった


あの日があったおかげで俺は諦めないでいられる

今日もマットが狩りに出かけるからと後をついて行かせてもらった

決して狩りの邪魔はしない。ただ遠くから観察しているだけ


みんながどう動くか、誰がどんな役割を担っているのか

魔獣がどういう動きをするのか、パターンはあるのか


今日の獲物は猪

と言っても俺がいた世界に比べたらかなりでかい

猪というより牛くらいはあるだろうか

けどそれでもこの世界では小物と言われてる


みんなが獲物を中心にし周りを囲みながら追い込んでいく


あとは単純、獲物の背後をとってる人が魔獣の牙がついた槍で突く

それ一撃では仕留められないまでもだんだん傷が深くなり

動きが鈍くなったらトドメをさす


狩りとしては原始的なやり方

だが手持ちの武器、装備を考えるとこれくらいしか方法はないと思う


罠は使わないんだろうか?

いや、俺の世界の動物のサイズなら可能かもしれないが

この大きさが小物になると罠もかなり大掛かりでないと意味がない

人数が確保できない今の状況なら

狩れる魔物、狩れない魔物を選定している今の方がいいのかもしれない


そんなことを考えてる間に猪のトドメを刺し狩りは終わった

だがここからまた忙し口なる


すぐに引き上げ作業に移行する

獲物を狩った血の匂いで肉食の魔獣を引き寄せることがあるらしい


獣人が人間より力が強い種族なようで500㎏はありそうな魔獣も

大人5人がかりで背負えば運べるようだがそれでもかなりの作業だ


運ぶ人とは別に一人先行して周囲に注意を払っている

無駄がない動きだと思う

俺たちがもう少し大きくなったら先行して注意を払う役

あとは後方で備える役ならできるだろうか?


狩りも撤収も順調だった

メキメキと木が裂ける音と地鳴りのような足音が聞こえるまでは


「やばい!!!魔熊まゆうだ!!!!」


誰かがそう叫んだと思ったらさっきまで猪を担いでいたはずの

マットに抱き上げられている


抱き上げられながら魔熊の方を見る


魔熊は大きさは実物を見たことないが俺が知っている熊と変わらないと思った

だけどそれ以上になんだあの形相は

まるで暴走してるようだ。涎を垂れ流しながら一目散にさっき狩った猪に飛びかかる

空腹というより理性がないといった感じ

それによく見たら片目が潰れていたようにも見えた


走るマットの横をシュウの父親のトラさんが並走しながら

トラ「マット!!あんなのが出てくるようじゃもうここいらで狩りできねえぞ!」

って叫んでる


マット「ここら辺で狩りをしすぎたせいだね。あれ(魔熊)は俺たちより鼻がいいし

血の匂いに遠くからでも感じられるみたいだ」


トラ「クソが!!せっかく狩った獲物をうまそうに貪ってやがる!!」

マット「とにかくいち早くここから離れよう。とりあえずシアンは抱っこよりおんぶに切り替えていいかな?」


魔熊の形相や理性のなさがおぞましくて硬直していた

頭をポンポンされてようやく何を言われていたか気づく


俺が気づいたのを確認してから背中の方にくるっと回すとマットは四足で駆け出した


幸い魔熊は猪を貪っているのでこっちを追ってきたりはしていないが

あれに勝てるところが想像できない

さっきの狩りのやり方でやれば多分みんな死ぬ

槍は一瞬で折られ、あの太い腕に吹き飛ばされて噛みちぎられるだろう


もしこの森の奥に進んだ時あれに遭遇したらどうすればいい


20分くらいマットの背中にしがみついていた

ここまでくれば大丈夫だろうとマットが速度を緩める


背中からおろしてもらった俺は呆然としていた

食料を確保するのだけでもこんなに過酷な世界


自分が前世でどれだけぬるま湯に浸かり、どれだけ何もしてこなかったか痛感する

大人たちはもうすぐに次の狩場の話、今後どうすればいいかを話し合っている


この世界で俺は何ができるんだ?

何かできるからこの世界にいるんじゃないのか?

特殊能力も何もない俺にできることはなんだ?


それに気づけないなら




俺にこの世界に来た意味はあるのか?

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