断章・愛の女神

目の前の女神が私にいう

「あなたは可哀想」だと


平凡な家庭に生まれ、特に秀でたものがあったわけでもなかった

ただただ普通な人生だと思っていた


それがある日壊れてしまった

たった一度の拒否


私の家の隣に住んでいる幼馴染

顔もスタイルもよく他校にまで名前が知れ渡るほどのイケメン

私はそんなイケメンが隣に住んでいることにちょっとだけ優越感を持っていた


小学校以来ほとんど会話もしなくなったため

眼中にすらないんだろうと思っていた


だからこの優越感は恋じゃないと思っていたが

ある日そんな彼から珍しく声をかけられてちょっとテンションが上がってしまった

見るからに嘘くさい笑顔を見るまでは


「お前にしか頼めないことがある」と彼は言った


そんなわけない

あなたは私より交友関係が広い

いろんな女子があなたに仲良くなりたいと思っている

いろんな男の子があなたと仲良くしてればおこぼれがあるかもと仲良くしてる



それをいきなりほとんどつながりがなかった私にしか頼めないって

明らかにおかしい


とりあえず話だけ聞いた

「大丈夫だから。危険はないから。トラブルがあっても処理できるから。」


久しく話していないにも関わらず安心、安全でお金が入ってくる

美味しい話を私だけにしてくれるなんて


それが何を意味をしてるのかわかってる


お前にしか頼めないんじゃない、どうなっても構わない相手が私なんだ


だから拒否した


そういうことはしたくないって


途端に彼の顔から笑顔が消えて

「調子に乗んなよブス」という捨て台詞を吐かれ

その翌日から、私の平凡な日々が終わってしまった


彼が根回ししたんだろうか

クラスの女子、男子問わずのいじめ


私物は壊され、物を投げられ、嘲笑われた


私は間違ったことをしていないのに

なぜそんな酷いことをするんだろう


でもあの時、彼のお願いを聞いてしまったら

そっちのほうが嫌な気持ちになっていたと思う


なら私は間違ってない

その気持ちがあったから折れさせなかった

いじめだって乗り越えてやる

なんなら明日抵抗してやろうと


学校に居場所がなくなってもいい

どうせもうなくなってしまったんだから

最悪転校すればいい


あいつの家が隣なら両親説得してでも引越してやるって

そして何年かかってでも努力してブスって言ったこと後悔させてやるって




でもそんな決心した矢先に車に轢かれて死んでしまうんだもの

可哀想と言うよりもはや間抜けにも思える


傘を壊されたからといって雨の中

ずぶ濡れになりながら考え事して歩いてたら轢かれましたって



でも私を可哀想だというこの女神はなんでそんなに嬉しそうなんだろう


ニコニコ笑いながら女神はいう


女神「そんな可哀想なあなたには特別な力をあげちゃうわ〜♡」


なんか…こんなこと思ったら失礼だと思うが

喋り方が頭の中空っぽみたいな女神だなと思った


女神「あ!ひど〜い〜そんなこと思ってるのね〜?」


ご、ごめんなさい…


口に出した覚えはない心に思ったことは伝わってしまうみたいだ


女神「特別な力をプレゼントするその前に〜」


女神はこれから私を異世界転生されることと

そこで生き残りをかけたゲームを他の女神たちと見てるという説明をしてくれた

が、説明が下手であんまりよく理解できなかった


女神「そして特別な力っていうのが〜♡あなたが最後に思ってた力よ〜♡

なんと〜異性を魅了できる能力〜♡」


魅了する能力?そんなの願った覚えはない


女神「え〜?願ったでしょ?あなたをいじめたやつらを見返してやるって」


努力していじめてきた奴らを見返してやりたいとは思った

けど魅了したいとは思っていない


女神「ん〜?でもこの力すごいのよ〜?相手を問答無用で魅了させて〜

跪かせ、隷属できる魅了の魔眼♡これがあればあなたをブスだっていう男はいないし

お隣さんの男みたいな男もあなたをいじめるようなことしないのよ〜?♡」


なんか噛み合ってない

この女神が言っていることがわからない

私が願ったのはそんなことじゃない

私は見た目がいいだけで特別扱いされてる彼とその取り巻きたちが

私に優しくしておけばよかったと思えるくらい綺麗になってやろうって思っただけ


だからそんな特別な能力なんて要りません

自分の努力で手に入れたい

と拒否したのに


女神「ダメよ〜?女神に選ばれた子達はみんな

一人一個は特別な力持って転生、転移するんだから

あなた専用の特別な力はこれなの♡」


なんでそう自分勝手に決めてくるんだろう

途端にこの女神の笑顔があの男と似てると思った


自分の思い描くように動いてほしい時に見せる笑顔

女神ではなく悪魔に見えてきた


しかも聞けばその魔眼とやらは目が合うだけでいいらしい

ただそれだけで問答無用でその相手は私のことを好きになる


そんなの特別な力じゃない

ただの呪いだ

相手の気持ちを無視して上書きする力なんてほしくない


女神「大丈夫♡あなたも前の人たちと同じでこの力を使ってみたら

便利だって気づくから」


前の人たち?それってどういう意味?

と聞きたかったのにそこで意識は暗転し私は異世界に投げ込まれた



女神は転生先の異世界がどういう場所なのかとかは適当で

この世界でどうすればいいかわからない


そして私が転生し生まれ落ちた場所が洞穴に住む獣人の子供

頭に耳と尻尾が生えていて、生活レベルは原始時代レベル


不自由しかない生活

わからないことばかりの世界ではあったけど

この両親はとても優しくて私を愛していてくれていた

それだけが救いだった




けどそんな家族愛を私が壊してしまった


生まれてから数週はずっと母親が面倒見てくれた

獣人は成長が早いみたいでどんどん体が大きくなっていく


どんどん成長する私を可愛い可愛いといっぱい褒めてくれる両親

けど私が父と目を合わせないから

父は悲しみ、母は困っていた


私のことを愛してくれているそれがとても感じられるから罪悪感からか

ちらっと父の目を見てしまった


それで終わり


父は実の娘に邪な感情を持ってしまったことに自己嫌悪し

自傷行為をするようになってしまった


母はそれを深く悲しみ塞ぎ込んでしまった


ああ、なんて最悪

この力がどれほどの効果があるかはわからなかったが

私の持ってる力が家族を崩壊させてしまった

それがたまらなく辛かった


私は悪くない

そう思えるなら私は折れないでいられた


だけど例え神からもらった呪いでも私が原因だと思ったら耐えられない


人の気持ちをコントロールするなんて絶対にしたくない

これから生きていってもしたくもないことと隣り合わせで生きていたくない


それなら早く死んだほうがマシだと

洞穴を抜け出したどり着いた谷


月明かりで下まで見えないが音からして川が流れてるんだろう


ああ、なんか…私の人生ってなんだったんだろうな

生まれてくるべきじゃなかったのかな?

と崖ぎわに足を進めていた時


後ろから


「死ぬなら死ぬでもいいですけど?まだできることありますよ?」


なんて男の人の声が聞こえた




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