赤い瞳の商人

「こんにちは」


男がいた

前世で自分が知っている姿形の人間の男

獣耳も尻尾もない

獣人の特徴が何一つない普通の人間


年齢はおそらく20歳前後

服装は派手な柄が入っていて、着崩しているが様になっている

サラサラの黒い髪、切れ長な目に赤い瞳、白い肌

笑顔を向けてくれているが、張り付いたような嘘くさい笑顔


そして何よりも…香水なのかわからないが柑橘系と薬品を混ぜたようなすごい匂い…

ものすごい不快感…


大人たちも明らかに警戒している。がそんなことはまるで気にせず近づいてくる


赤い瞳の男「お久しぶりですね〜マットさん。お元気そうで何よりです。

お子さんたちも無事産まれていたんですね〜産まれたのも最近でしょうに

こんなに成長が早いなんて、正直ドン引きですよ」

男はケラケラ笑いながら軽口を叩く


マット「なにしにきた」

マットがこんなに低い声出すところなんて聞いたことがない

普段は安心してるのを表す、横向きに向いてる耳もまっすぐ立っている

顔見知りではあるみたいだが、警戒心剥き出しでちょっと怖い


赤い瞳の男「そんな警戒心剥き出しにしないでくださいよ〜

また商売しに来たんですよ?

ほら、子供達の成長も早さはお伺いしてましたから

そろそろ新しい服が欲しくなってくる頃なんじゃないかって」


赤い瞳の男はマットの警戒心なんてどこ吹く風

飄々と話を進める


赤い瞳の男「おや〜?そのちっこい子がマットさんのお子さんですか?

毛色もお父さんとお母さんのが混じった白と黒で可愛らしい〜」


シアン「!!!?」


赤い瞳と目が合う

匂いだけじゃない

この人の纏う雰囲気、喋り方、何もかもが苦手


赤い瞳の男「初めまして。ちびっこさん、僕の名前はリオンです。

以後お見知り置きを」


と手を出してきたので怖かったが礼儀なので握り返す


リオン「わあ!お手ができるなんて賢いな〜」


バカにしたような物言い

明らかに俺のことを子犬扱いしている


マット「シアン、お家戻ろう」

とマットに抱き上げられる


リオン「へえ〜マットさんの息子のシアンくんね。覚えときます〜」

マット「覚えなくていい」

マットは俺とリオンという男を近づけないように抱き上げ背を向ける


リオン「将来のお客様になるかもしれないのでちゃんと覚えときますよ?

そんなことより、要りますよね?新しい服。子供用から大人用まで

ちゃんと揃えてありますよ?」


というとパンパンと手を叩き荷を抱えた馬が近づいてきた

マットの肩越しに見たけど普通の馬より大きくて力強そう


ばんえい馬みたいな速さより力強さに特化してるような感じ

ぱんぱんの袋を下ろし中からは質素だけどちゃんとした服が入っていた


それを見たマット以外の男衆が一度洞穴の中に消えたと思ったら

毛皮や獣の骨、それにキラキラした石なんかを持ってきた


リオン「お〜大量ですね〜!あ、骨なんかはもういらないです

嵩張って邪魔になるので〜」


以前は取引に使えたんであろう言い分

男衆からは舌打ちなんかも聞こえたが武器としても使えるからまあいいかと

また洞穴に戻していく


リオン「うんうん、なるほどなるほど

では今お持ちしたものと物物交換でよろしいですか?」


マット「ああ、そっちがそれでいいなら問題ない。終わったら早く帰ってくれ」


リオン「あれ?釣れないですね〜お茶の一杯なんて出てくるわけありませんが

世間話くらいしてくれてもいいじゃないですか〜」


普段のマットならこんなことは言わない

口数は少ないが誠実なマットと口数が多く軽率そうなこの男

水と油なんだろう

仲良く世間話なんてするようには見えない


リオン「あれ〜?いいんですか?散り散りになった他の犬の獣人

どこにいるのか知っているのに聞かなくても?」


周りにいた男衆たちもその言葉に咄嗟に反応し耳も尻尾も逆立て

男に近づいてまくし立てる


「どこにいた」「みんな無事なのか」「どうやって探した」

「お前はなぜこの森の中を平然と歩いてる」


リオン「そんないっぺんに聞かれたって答えられませんよ〜

というか近いんであっちいってください。シッシッ」


手でひらひらしながら追い払う


リオン「全く、わんわんわんわん、どこの集落行ってもみんな同じ反応ですね」


マット「いいから答えろ。みんなは森のどこら辺にいた」


マットは興奮してるみんなを一旦落ち着かせ、代表として話を聞くことにした

俺もこの男の話はちゃんと聞きたい

だから洞穴には戻ろうとはせず抱き上げているマットの服をぎゅっと握りしめた


リオン「どこって言われましても具体的にここって地図もない森では無理でしょ〜」


ヘラヘラしながら男は答える

この森には地図がないのか

それなら確かにそれは正しい、がその答え方は嘲笑ってるようにも見えて

またみんなから殺気が漏れる


リオン「な・の・で、具体的な場所は言えませんが僕の匂いはわかりますよね?」

と男は襟を広げパタパタと仰ぐ


うげ!と距離を離すもの、くしゃみが出てしまうもの

反応はそれぞれ違うがみんなこの匂いが嫌いみたいだ


リオン「あはは、みなさんこの匂い苦手なんですよね〜ごめんなさいね〜」


わかっててつけてるのか…たちが悪いなこの人…


マット「なんなんだその匂いは…以前はそんな匂いしなかったぞ」


リオン「これですか?これは今、城下町で流行ってる魔獣除けにもなる香水です

とかいう別の世界から来た人が開発したらしいです〜」


は!????て、転移者????

転生者ではなく?転移もいるのか??

というか女神たちが殺し合いを楽しみにしてる世界で

そんな堂々と商品開発してるのか!???


獣人たちはなんのことだかわかってない様子だが

この世界にいる別の転生者、いや今回は転移者か

知りたかったその情報を思わぬところで耳にしてしまい

男の顔を見てしまった


そしてその血のように赤い瞳と目があった


背筋が凍るような感覚


思わずマットの胸に顔を埋める


なんで目があった?会話してたのはマットのはずなのに?

この人も転移、もしくは転生者なのか?

けどそれならなんでわざわざ城下町で転移者が商品開発してるのを話しまわっている?


この男が何を考えているのかまるで理解できない

理解できないから怖くて、震えてしまった


マットも怯えているのを察してくれたのか優しく抱きしめ

マット「もうこの男は帰すから大丈夫だよ」と頭を撫でてくれた


マット「最後に確認したい。みんなは無事で、集まってはいるのか?」


リオン「一ヶ所に固まってる人たちもいればバラバラな人たちもいましたね

無事かと言われたら答えに困ります」


マット「なんでだ?」


リオン「みなさんが思っているよりも深刻な状況とだけ

詳細は…お子さんたちの前で言っていいんですか?」

ヘラヘラした態度だった男の面持ちは変わっていた


俺だけじゃない、近くには親に抱かれてるシュウもマコトもいる

子供達の前ではできないような話

俺たちには聞かせたくないようなそんな話があるのだろうか


リオン「とりあえずお仲間と合流したいならご自慢の鼻で

僕のいい〜匂いをたどってください。それが一番手っ取り早いでしょうから」


そういうとリオンはもう話すこともないと荷を持ち、馬に近づく


マット「最後にもう一つだけ聞きたい。お前なんなんだ?」


リオン「あはは、そんなの、ただの商人ですよ?」


馬に乗った時にはまた最初見た時のようなヘラヘラした顔に戻っていた


リオン「ではマットさんにシアンくん、並びに皆様方。合流できるように願ってます

どうか次会えるかわかりませんがそのときまで死なないでくださいね〜?」


リオンは軽口叩きながら森の中に消えていった



なぜだかわからない

だがあの男とは確実にまた会う


そんな気がした




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