友達
また月日は流れ、一人で歩き回れるほど成長し
外にも一人で出ることを許可してもらえるようになった
ただし男衆が狩りに行っていないこと、出ていい範囲は決まっていること
というルール付きではある
個人的には魔獣がいるこの森を一人で歩く勇気なんてないし
ここまでは安全だと範囲を決めてもらってるほうが安心できるので
ルールを破る気なんて全くない
範囲は決まっているが外のことをよく知るいいチャンスなのに
一つだけ困ったことがある
それが
マコト「ガウガウガウガウガウガウガウ」
シアン「痛い痛い痛い!」
マコトに見つかりいつも耳や首に噛みつかれること
マコト「ふふふ♪」
人のことを散々噛み噛みしたかと思えば今度はぺろぺろ舐めてくる
シアン「マ、マコト!やめて!」
と制止するとピタッとやめてくれた
話を聞いてくれたのかと思ったら後ろ足で首をカキカキして
ブルブルって頭を振ってどっか行こうとする
本当にこの子は大人の獣人と比べると
犬が擬人化したと言われたほうが納得がいくくらい行動が犬
シアン「というかそっち行ったらダメだよ!怒られるよ!」
マコトは大人たちが出ていいと言っていた範囲の外に
トコトコと歩いて出て行こうとするから止めようとしたら
俺たちより一回り大きい男の子がマコトの後ろ襟を掴んで制止する
シアン「はあ…ありがとうシュウ…」
この大柄な子はシュウ
俺たちと年はそんな変わらない秋一族の子供
大柄、巻尾、半立ちの耳
恐らくではあるが秋田犬の秋から取った秋一族なんだろう
日本の地名が入っているっていうのはどういうことなんだろうか?
試しにシュウに聞いてみたこともあったが
シュウ「………?」
と無愛想なのに可愛らしく首を傾げて全くわからない様子
体は大きくてもほぼ同い年の子供に一族のルーツを聞いても無理か
マコト「むぅ…シュウ離して!」
と後ろ襟を掴んでるシュウの腕に歯を向けながら抗議してるが
例え犬でもその首の裏あたりを掴まれたからシュウの手まで口が届かない
そんな犬みたいな仕草がおかしくって
ふふふと笑ってしまった
こっちにきて笑い声を出したのは初めてかもしれない
いや、前世でも人と話しながら笑ったのなんていつぶりだろう
もう全然覚えていない
何もよくわからないまま転生させられてしまったが
俺には前世よりこっちの方が笑っていられるいい環境なのか…
と思い耽っていると
マコト「じゃあシアン倒して遊ぶ」
と、それならいいかとシュウが手を離すもんだからまたマコトに襲われる
自分が笑われたのが気に入らなかったんだろう
顔を手で押しつぶすわ、服を噛んで引っ張るわ。
すごい暴れよう
ぐぅ子供の肉球は柔らかくて押しつぶされてもちょっと気持ちいい…
というか
シアン「噛み噛みしてもいいけど服は引っ張らないで!」
服が破けてしまったらカーネに本気で怒られる
結局この服がどういうふうに手に入っているのかわからない
獣人のみんなは手の肉球のせいか手先は不器用で
衣服を縫い合わせるような技術力はないように見える
俺たちの成長速度的にもうそろそろこの服を着るのも限界が見えてきたが
数少ない衣服を破られたら流石に困るし、怒られるのは嫌だ
マコト「じゃあ首出して」
と首を噛み付いてきたので大人しく受け入れる
もう好きにしてくれ
そんな俺たちを遠くから見て微笑んでいるマット
やられっぱなしの息子でごめんなさいお父さん
けど子供の遊び方なんてよくわからないからこうするしかない
やり返すなんて絶対にできないし…
ところでシュウは何をしてるのかと思ったら
首を噛まれながら横を見ると
カタカナのヒの字のように両手両足を突き出しながら横になって寝ていた
犬ってそういう寝方するけど獣人もそうなの?
なんて考えていたら突然森の奥から遠吠えが聞こえてきた
いつもの狩りの合図の時とは雰囲気が違う
何か焦っているような警戒するような遠吠え
それと同時に寝ていたシュウも飛び起き
近くで俺たちの遊びを眺めていたマットや男衆が近づいてきて
マット「シアン、お家に戻ってなさい」
と鬼気迫る表情で洞穴に戻るように促してきた
狩りの合図の時でさえ優しい声のマットに余裕の色が全くない
これは明らかに異常事態
だから速やかに3人揃って洞穴に戻ろうとしたら
マコト「なんか臭い〜」
なんて気が抜けた声で変なことを言う
何をいってるんだとマコトの視線の方に目を向けると
そこには
???「こんにちは」
俺が知っている全く同じ姿形の人間族がいた
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