犬の一族

寝て起きて、寝て起きて

繰り返し、繰り返し

自分が生まれてからどれぐらい経ったか正確にはわからない

壁の傷は30を超えた


この洞穴はあまりにやることが無い

骨を食べてご飯を食べて寝るだけの生活ではあまりに勿体無いので

自分の体のことを見える範囲だけではあるがどういう構造なのか知ることができた


まずは手

手のひらに肉球らしきものがある

ぷにぷにして気持ちいいがおかげで手先が人間の時より不器用になった気がする

マットやカーネの手のひらの肉球は硬くなっていた

成長すると硬くなるんだろうか


次に耳

耳はよく聞こえる。

洞穴の中にいても雷や雨などの天候の変化、虫や鳥の囀りなどが聞こえる

あとは犬の遠吠えのような声

この遠吠えが聞こえるとマットが狩りに出かける


だからその時に

シアン「あの声はなんなの?」とマットとカーネに聞いてみた


マット「あれは…」 カーネ「お父さんが連れてかれちゃう合図」

マット「いや、ちょうどいい狩りの獲物を見つけてくれた仲間からの合図だよ」

と苦笑いしながら答えてくれた


このお母さんは本当にマットのこと大好きだな


と、話がズレた

遠吠えを使って合図してるってことはオオカミか犬なのか

どっちの種族だかわからないが耳がとてもいい


この合図の話のあとオオカミ、もしくは犬なのかわからないが

鼻がどれだけいいのか確認した

がこの洞窟の中にずっといたためか、この部屋で鼻の良さがわかる発見はなかった


尻尾は自分の意思とはあんまり関係なく動く

だからまああんまり邪魔でもないし気にならない

カーネはマットが帰ってきた時尻尾がブンブン動く

空飛べるんじゃないかと思うほどブンブン

ご主人様が帰ってきた時のゴールデンレトリバーみたいに


わかったのはこんなところ


でもこれからもっとわかることが増える


なぜなら……もう外に出れるくらいには成長したからだ

まだ生まれてから体感1ヶ月程度しか経っていないが

もう歩けるくらいにはなった

成長の速さに驚くがこの世界がどういう世界なのか

それを知るためにはありがたいことだ

あ、あと食事が子供用に柔らかくしてれたお肉になってた

さよならカーネのお胸

もう好きになった人じゃない胸に口つけるなんて恥ずかしい思いしなくて済む


というわけで今日がそのお外デビュー当日

まあ一人で歩き出れるわけもなく

マットの抱っこにカーネが隣を歩くわけだが

ドキドキしてくる


この世界がどんなファンタジー世界なのか


洞穴から外へ

差し込んでいる日差しが眩しすぎて外はまだ見えない

そういえば太陽の日差しを浴びること自体がこの世界では初めてかもしれない


そしてようやく外に出る

目が慣れてないためか全然わからないが

時間が経つにつれ見えてきたそこは



ただの森だった



シアン「え……?」


何にもないただの森


出てきた洞穴の方を見ると同じような洞穴何個かあるだけで

何もないただの森


ああ、そうか…そうだよな

俺は何を期待していたんだろう

マットとカーネの生活からみて文明レベルは低いというのはわかっていた

それなのに洞穴を出たらそこには素敵な街が広がっているわけがない


あの女神は俺に期待していないと言った

この生活レベルから成り上がれるわけもない

だから逃げ隠れするのにちょうど良さげな転生先をあてがったのか


カーネ「どうしたの?シアン??思ってたのと違った?」

マット「……」

シアン「え?」


まずい。あまりの何もなさに絶望していたため

二人にいらぬ心配をかけてしまった


そうだ。勝手に期待して勝手に絶望してるだけだ

元々俺は何もない男だ

そんな男が幸運に恵まれた異世界転生なんてあるわけがない


シアン「う、ううん…めがいたくてびっくりしただけ」

カーネ「あ、そっか〜!お外初めてで眩しかったもんね!」

マット「もうちょっとゆっくり外に出たほうがよかったかな」


いや、この二人の間に2度目の生を受けたことは幸運か

高望みしすぎた俺が馬鹿なだけだ


仲良く談笑してる二人を横目に出てきた洞穴とは別の洞穴から何かが見える


オレンジと茶色の中間のような髪と耳

それが出たり引っ込んだり


同じこの森に住む仲間なんだろう

が何をしてるんだあれは?


カーネ「あ、あの子名前なんだっけ?」

マット「ん?ああ柴一族のマコトだよ」


しばいちぞく……???

司波?司馬?柴…?茶色とオレンジの中間的な毛色

もしかして柴犬の一族???


もしかしたらと思ってたけどやっぱり俺たちは犬の獣人???


マコトと呼ばれる子が頭だけじゃなくて全身ひょこっと表す

その時に見えた尻尾

それが巻尾だったため納得がいった


巻尾は日本犬に多く見られる特徴のある尻尾だ

お尻の穴がよく見えるその特徴が世界的に愛されていたから知っていた


マコトはジーーーーーーーーっとこっちをみたあと

フンっと鼻を鳴らしてまた洞穴の中に姿を消した


カーネ「あはは、柴一族の子って癖強めというか面白い子多いよね」

マット「けど賢い人も多いよ」


そういうところも前の世界の柴犬と似てるのか…


そっか…犬の獣人か

それで肉球がある理由やカーネの尻尾がよく揺れる理由がわかった


血統書がこの世界にあるかはわからないが柴犬の一族のように分かれているのか

じゃあカーネとマットはなんの一族なんだろう


シアン「ねえ?お母さんとお父さんはなんの一族なの?」

と思い切って聞いてみた


カーネ「ああ、私たちには一族みたいなものはないよ?」

マット「人間たちは俺たちのこと雑種って」

カーネ「あ!!!!」


人間たちは…??

人間たちって言い方は俺たち獣人とは違う種族に人間族がいるってこと?


カーネ「は〜い!!もうお家戻ろうね!」

この世界について詳しく知るチャンスだったが

カーネがそそくさと俺を抱き上げ洞穴に戻ろうとする


抱き上げられながらマットの方を見ると

マットはやってしまったとバツが悪そうな顔をしている


何がいけないことなのか

今まで一緒にいたが【人間】というワードは一度も出てこなかった

それがNGワードなんだろうということは

いち早く反応し話を遮るように退散するカーネとマットの顔を見ればわかる


この異世界にも人間はいる

それが俺が前に生きてきた人間と同一の存在なのかはわからないが

俺たち獣人の中ではNGワードになっている


つまり…人間と何かがあった


憶測でしかないが、恐らくそうなんだろう…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る