成長期

あったかい家族に愛されて育ち不満なんてあっていいわけないんだが


だがやはりこの何もない洞穴生活は退屈だ


あれからまた二週間が経った

寝る前に壁に傷をつけるようにしてるだけだから正確かは定かではないけど


体はどんどん成長し、今は歯が生えてきてる

口の中がむず痒く、何か噛みたい衝動がすごい

子犬でいうところの甘噛み期ってやつだろう

とりあえず洞穴の中にあった骨を噛み噛みしている


ところでこの骨はなんの骨なんだろう?

この洞穴には台所らしきものなんて見当たらない


マットやカーネは普段の食事は焼いた肉か干し肉を食べている

だから狩猟しているのはわかるが

この世界の動物は俺の知っている動物と同じなのだろうか?

骨を噛み噛みしながら考える


獣人がいるんだからファンタジー世界ならモンスターがいても不思議ではない

ならこの骨もモンスターの骨なんだろうか?


マットに聞いてみたいがいきなり突っ込んだ質問をしたら気味悪がられないだろうか?


う〜んどうすればいいだろうか…


まあすぐに聞きたくても今日はマットとカーネ二人ともいない

朝起きたら二人して外に出ていった

俺も便乗して外に出ようとしてみたがカーネにダメだと首根っこ捕まれ奥に戻された


外がどういう世界なのか気になるから外には出てみたいが

あの二人を困らせたくもないから大人しくしている


そんなことを考えているとカーネが戻ってくる

何をしていたのか聞くくらいなら怪しまれないだろうと聞こうとすると


いつものカーネらしさがなかった

普段からニコニコしていて尻尾フリフリしてる可愛らしい母は

どこか怯えたような感じで尻尾も垂れて動かない


こういうとき前の世界で人と深く付き合ってこなかったのが仇になる

なんて声をかけていいのかわからない

「どうしたの?」「大丈夫?」

そんな簡単な言葉が出てこない


だってみるからに大丈夫ではない

そんな気休めの言葉はただ気を遣わせるだけであって

何にも解決しないっていつも決めつけてきた


ただマットが帰ってきていない

もしマットの身に何かあったとかだったらどうする?だから


シアン「お母さん…お父さんは?」

これが俺にできる精一杯の質問


カーネは何も答えないまま

俺を抱きしめた


本当に何かあったのか?どうすればいい?何か聞かないとまずいか?

けど突っ込んだ質問して、俺が転生者だとバレるわけにもいかない

ああどうすればいいなんて混乱していたら


カーネ「お父さん、狩りに出かけちゃった〜〜〜〜〜〜〜!!!」


なんて大きな声で言うから理解するのに時間がかかった




シアン「かり?」 狩りだよな?借りだったら言葉がおかしいし


カーネ「うん…狩り…シアンが産まれてからずっとそばにいてくれたのに

そろそろみんなに任せっきりではまずいから、自分も出ないとって言っちゃった…」


育休みたいなものをもらっていたのか?

確かにマットが長時間いない日はなかった気がする

少なくとも俺が目が覚めてる間はそばにいてくれた


俺がだいぶ成長してきたからその育休期間が終了したんだろう


ただちょうどいい

この流れで狩りがなんなのか何を狩っているのか調べるチャンス


シアン「かりってなあに?」

演技なんて今までしたことないが不気味に思われないように

できるだけ子供っぽく聞いてみる


カーネ「シアン、喋り方が変」

あれれ〜おかしいぞ?できる限り演技を頑張ったつもりだがダメだったみたい


カーネ「狩りっていうのはね、お母さんたちが食べてるお肉あるでしょ?

あれを獲りにいったの」


俺の時代にも狩猟自体はあったが地域的に身近ではなかった

だがやってること自体は同じみたいだ


シアン「そうなんだ。どうやってとるの?」


カーネ「う〜ん…シアンが噛んでたこの骨を…相手の首にブスッ!!て刺したりとか」

シアン「ヒッ!!?」

カーネ「あ、ごめん!びっくりさせちゃった?」


尖ってはいない骨だが首元に突きつけられると恐ろしい

子供になんて恐ろしいことを教えるんだ!と一瞬思ったが

この世界、この人たちからしたら生きるための行為であり

それが普通なんだろう、だがいきなりは驚くからやめてくれ


カーネ「お父さんは狩りが上手だから魔獣相手に怪我なんてしないだろうけど

早く帰ってきてほしい…」


帰ってきたらまたイチャイチャするんだろうな…

さっき心配したのはいらぬ心配だったかな?


ん……??魔獣???

魔獣ってモンスター?


シアン「魔獣ってなに?」

もうくだらない演技はやめて聞きたいことを聞くようにした


カーネ「魔獣っていうのはね、こ〜〜〜〜〜んな大きな動物!」


カーネは少しお茶目なところがあるんだろう

その表現は誇張してるだろうなって信用はあんまりしなかった


だってこ〜〜〜〜〜んな大きい魔物の表現が3mはゆうに超えているぞ

そんな魔物を狩ってるって銃どころか剣も見当たらないのに?

相手がどんな魔獣なのかわからないがその大きな相手を

獣の骨で狩猟してるって原始時代レベルだぞ


でもどうだろうこの洞窟にあるものは…

文明レベルでいったら原始時代と言っても疑わないようなものしかない


あの女神はどんな世界に送るかなんて説明していなかった

あくまで中世的なファンタジーというのは一般的な異世界ものであって

俺は原始時代に飛ばされた可能性は大いにある



だがもう一つ疑問に思うものもある

それは俺たちがきてる服はどう調達してるんだ?

明らかに布を縫い合わせた服

獣の毛皮だったら原始時代であっても納得はいく

それなのに服だけは中世時代ぐらいな気がする

マットやカーネ以外にいるであろう獣人に服を織るのが得意なものがいるのだろうか?


わからない。とりあえず外に出れるようになるまでは何にも


そんなことを考えてると

カーネ「お父さんが帰ってくるまで寂しいからシアン抱っこさせて!」

と、強く抱きしめられた。カーネは本当にマットが大好きなんだなって

全くこのラブラブ夫婦は…

抱きしめられてあったかいおかげか眠くなってきた

とにかく今は外に出れるくらい大きくならなきゃはじまらないな…

おやすみ…






その時はまだ気づいてあげれなかった

カーネが震えて、本当に怯えていたことに


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