獣人の子供

女神とのやりとりの後

初めて目が見えるようになった時に見えた人物


俺の父親にあたるであろう人

頭から獣耳

背中の後ろから尻尾らしきものが左右に揺れている


ファンタジーものでいうところの獣人か…

虫とかモンスターに転生したらどうしようかと思ったが

獣人なら全然不満はないかな…



産まれてまだ間もないのだろうか首が上手く動かせない

首がまだ座っていないからであろう

この父親だけでなく周りも観察したいがそれができない


だが動かなくてもなんとなくわかる

ここが建物の中ではなく、洞窟のような場所だって


誰かに渡される感覚

さっきの父親より柔らかい

顔を見えるとそこには同じような獣耳の女性


母親が不思議そうな顔をしてこっちを見つめている

何か言っているが何を言ってるかはよく聞こえない


もしかしたら俺はおかしいのか?と不安に思ったら

父親が頭を撫でてくれた


ちょっと力加減が下手だなお父さん


できる抵抗として声を出そうとしたが上手くできない

赤ちゃんのようによくわからない声が出たら

やっと母親が安心した顔を見せた

父親は撫でるのが下手だったのかと凹んでいる


ああ、そうか


産まれてから一度も声を出さなきゃ不安だよな

子供は泣くのが仕事って言われていたし何かあれば泣かなくちゃダメなのか


けどなんだろうな

この両親から感じる温かさ


前の世界の自分の両親も好きだったし尊敬していた

早くに事故で他界してしまったからこんな感覚は久々に経験した


祝福されている。愛されている感覚。

もう経験することはないと思ってたから今度は大きく泣いてしまった


俺の両親もいい人たちだったが

この二人もいい人たちだと思う

泣いたら眠くなってきた

もう……ねちゃおう…



こうやって寝て、起きて、泣いてを何回も繰り返していった


え?他にもしてることがあるだろうって?

そりゃあるにはあるが生きるため、食事のためとはいえ

好きになった女性以外の胸に口を…

なんて恥ずかしいし申し訳ない気持ちになるから詳細は話さない


何回繰り返したのかはわからないが明らかにおかしいことが一つある


成長が早すぎる


この人格が残っているまま動けない赤ちゃんのまま過ごすのは

すごく退屈だろうと思っていた

それがどうだろう、もうハイハイができる


人間の赤ちゃんがハイハイするようになるのは

大体生後8ヶ月くらいからと聞いたことがあるが明らかに8ヶ月間も過ごしていない


体感ではあるが一日3回の食事だとして……母親の…胸を…してもらった回数的に

せいぜい二週間くらいしか経っていないと思う


人間の成長速度ではない

獣人だから犬や猫たちと同じように早熟なんだろう


これに関しては少し助かる

急に異世界に飛ばされて、意識?人格?はあるのに

身動きが取れない赤ちゃんの時間を悠長に過ごしているよりも

成長しこの世界について知る方が大切だ


別に女神の作ったゲームなんて積極的になる気はない

殺し合いなんてできる気は全くしないし多分逃げてばかりになると思う


ただこの世界がどういう世界なのかは気になる


期待はしていない

なぜなら産まれたこの場所がただの洞穴で

家具らしきものがほとんどない原始時代のような生活をしているからだ


あるのは木の棒とでかい葉っぱ、ベッド代わりの藁

松明はあるから火を使うことはできるみたいだが

文明レベルが低すぎる


これがこの世界の標準レベルなのか

それとも獣人以外にも種族はいて獣人だけが遅れているのかもわからない


ただこの状況で俺は幸せを感じている

この両親のおかげで


父親の名前はマット

あまり口数は多くないが優しくてあったかい男

ただ力加減が下手だ


母親の名前はカーネ

明るくて元気、口数は多いがいいお母さんだ


いつも尻尾をフリフリして機嫌が良さそうな二人

その中心に俺がいる


一人でいることに慣れすぎて久しく感じていなかったこんな日常

スマホの画面を見ながら1日が終わる文明が発達していた前の世界よりも

洞穴で何もないが微笑みがあるこの日常を


もし


もし他の転生者に壊されてしまうとしたら



そう考えると


不安で


恐ろしくなってくる

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