ただ優しかっただけの負け犬

眼前のトラック


これは流石にお決まりすぎるだろって

自分でもそう思う


自分の人生ここで終わるという確信

嫌になるくらい冷静で嫌になるくらい走馬灯がつまらない

なにも特別なことがなかったなって


まあそれもそうか

キラキラした世界に憧れたことはなかった

だってその世界は生き残りを賭けてみんな努力している闘いの世界


争いごとは苦手だからいつも避けてきた

でも嫌われるのも嫌だから当たり障りのない生き方をしてきた

敵を作らない、でも信用する人もいない

そうしていつの間にか周りからついた評価が「優しい」


優しいんじゃない

ただ競走ごとから逃げてばかりいた臆病者

みんな特に褒めるところがないから気を遣ってつけてくれた評価


知っている

俺は負け犬だって


その負け犬の最後がこれかって

雨の中フラフラ歩いている少女がいたから

危ないぞってちょっと体を張ってみたが

普段からやらないことやるとこうなる


人間の体は軽くない

やるなら勢いよくやらなきゃただ体勢を崩すだけ

ここでも傷つけたらまずいという臆病さが仇となり

二人一緒にトラックに…


こんなダメダメな俺

せめて少女だけでも救えたなら気持ちよく死ねたのに

それすらできないなんて

そんなどうしようもない罪悪感を抱きながら


意識は暗転する





意識がなくなってからどのぐらい経っただろう

目の前はまだ暗闇その中で誰かに声をかけられてる気がする

誰なのかはわからない


ただこの展開はお約束すぎないかと思いながら意識を集中する


「聞こえるかしら」


聞こえてますよ 綺麗な声が


「そ、ありがとう」


声に出したつもりはなかったけど相手には伝わっていた


「早速で悪いのだけど、あなたは選ばれたわ。異世界転生に」


ということはあなたは女神様?


女神「そうよ。話が早くて助かるわ」


お約束すぎるなって、姿ははっきりとは見えないがそこに何かいるのはわかる


今までの人生なんて碌に楽しいこともなかったし

未練なんてないから異世界でもなんでもどうぞお好きにしてください

って普段ならそう思う

でも今はあの少女を救えなかった罪悪感がまだ残ってる

少女一人救えない俺が第二の人生…そんなことしてもらっていいのだろうか


女神「あなたが何を考えているかはわかるわ。たった一人の少女を救えなかった罪悪感それを拭いたいのでしょ?」


全てお見通しですか


そう。虚無感しかなかった人生だったけど最後くらい人助けしてスッキリしたかった


女神「それならその願い叶えてあげる」


どういう意味でしょうか?


女神「あなたはこれから行く異世界。そこはあなたがいた世界よりもっと理不尽な世界」


女神「だからあなたが救ってあげてね」


この負け犬に勇者にでもなれってことですか?


女神「勇者…ね、確かに勇敢じゃないとどうしようもないかもね」


女神「多分あなたが思い描いている勇者とはまた違うけど」


よくわからないことを言う女神様だ…


女神「説明するとね、これはゲームなの。あなたたちが必死にあらがっている姿を見たい女神たちの娯楽」


女神「私も本当は…ああ、まあこれはいいわ」


女神「あなたと同じように不慮の事故で亡くなった人が6人、私以外の女神に選ばれて、これから同じ異世界に送り出します」


女神「その世界で最後まで頑張って生き残ったものには約束された来世が用意されます」


異世界サバイバルみたいな感じかな?

ただ頑張って生き残るって言うのがよくわからない

具体的に何をするんでしょうか?


女神「具体的に…楽しませればいいのよ?私たちはあなたたちが必死に生きてる姿が見たいの。それが殺し合いでも逃げまとう姿でもなんでも」


異世界サバイバルでありながら、デスゲームみたいなものですか?


女神「めちゃくちゃよね。私もそう思う」


ええ、めちゃくちゃですね。


女神「……あなたはあれね。やけに聞き分けがいいなと思ったけど

諦めが良すぎるのね」


痛いところをついてくる

そう、俺は臆病な性格ともう一つある最大の欠点、それが諦めが良すぎること

運が悪い、どうしようもないってそうやって言い訳し

でも嫌なことは嫌という度胸もないから

その場を上手くやり過ごし有耶無耶にしてきた


この状況も『選ばれた』と言われた時点でもうそれは決定事項だろうし

喚いたところで何も変わらない

だから話は聞いて異世界にいった後、それから考えるつもりでいる



だから女神様、俺を選んだのは失敗でしたね

俺の人生をのぞいても楽しませるようなイベントなんて発生しませんよ


女神「そうかもね。何もしないならそれでも私は構わない」


女神「ただ、見過ごせるかしら?たった一人、赤の他人の女の子を救えなかっただけで罪悪感抱えていたあなたが」


………この女神様は随分先まで見えているんだろうが俺にはなんのことかさっぱりわからない


えーっと…ちなみに、いきなり異世界なんて飛ばされるんですから

定番の一つである特典なんかはあるんでしょうか?


女神「ああ、そういうのは私にはないの」


女神「私は特別な力を授けるとかそういう力はないの」


じゃあ本当に俺は異世界に放り投げ出されるだけですか


女神「頑張って生き抜いてね。あ、ちなみに自殺はおすすめしないわ」


女神「自殺するとね。もう2度と人間にはなれないの

人間でいることを諦めたとみなされて人間の器に魂が適合しなくなるから」


女神「さてと、もう時間ね。何か最後に聞いておきたいことはある?」


特別な力を与えるないまま生き死にを観測してるから頑張ってねって

いきなり言われて、これから異世界に投げ込まれるのに

もう時間ないからなんか最後にあるかって聞かれても

何を聞けばいいか全くわからない


もうなんでもいいか

どうせ自分みたいなもんが異世界行っても誰の役にも立たず

また負け犬になるだろうしもう聞きたいことは特にないです


また


こういう時に悪癖が出てしまう


女神「そ、じゃあ頑張ってね。見守ってはあげるから」


そして目の前にあった気配は消えて暗い闇の中


どんな世界だろう

まあどうでもいいか


過去にいった人たちはワクワクしたんだろうか

それとも同じようになんの力ももらえず放り出されて

不安でしょうがなかったのだろうか


もうなるようになるしかない…か






目の前がだんだん明るくなっていくのを感じる

人の声

女の人と男の人の声

嬉しそうで抱き上げてくれる感覚


だんだん目が見えてきた先に見えた父親と思しき人の頭には



獣耳が生えていた










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