完結感謝SS フローラ

「さて、到着だな」


「晴れてよかったね。雨だったら中止しないといけなかったもの」


俺が空を見て呟くとフローラが隣にやってきて笑いかけてくる。

今日は少しみんな休みが取れたので俺と奥さんたち、そしてカレンを加えた五人でピクニックに来ていた。

前日の天気が少し不安だったのだが今日になってみたら雲一つ無い快晴。

本当によかった。


「早速準備始めちゃおうかしらね。カレン、手伝ってくれる?」


「もちろんです、マーガレット様。むしろ私1人に任せていただいても……」


「ダメよ。そうやって楽をするつもりならもっと使用人を連れてきてるわよ。今回はみんなで色々とやろうってことでここまで来たんだから」


「そうでしたね、失礼しました」


後ろではマーガレットとカレンが楽しそうに話している。

普段は年長者としてみんなのお姉さん的立ち位置のマーガレットの声も少し弾んでいるように聞こえる。

まあ忙しい日々が続いてたし貴重なリラックスできる日だもんな。


「そうだぞ、カレン。お前も身内みたいなものなんだからそう畏まる必要はない」


「ふふ。ジェラルトは自分も参加したいだけじゃないのかな?」


「……そう見えるか?」


「うん。だってとっても楽しそうな顔をしてるもの」


フローラは笑顔を浮かべたまま頷く。

心の内を見透かされているようでなんだか気恥ずかしい。

俺はバツが悪くなってフローラから目を背けた。


「私にも手伝えることがあったら言ってくださいね。仲間外れは嫌なので」


シンシアもクスクスと上品に笑いながら会話に参加してくる。

動きやすくてゆったりとしたワンピースを身にまとった彼女は風で揺れる帽子を手で抑えていた。


「運動して大丈夫なのか?」


「ええ、激しい運動とかは難しいですが適度な運動はしてくださいと言われましたので。それに私だって参加したいです」


そう言ってシンシアは優しく自分のお腹を撫でる。

妊娠が発覚したばかりの彼女は日課だった剣の稽古をやめ、政務の手伝いや使用人の管理などをしてくれていた。

大丈夫だとはわかっていても心配になってしまう。


「ジェラルトは心配しすぎよ。私とカレンが無理させないって約束するからあなたはフローラと一緒に食べ物を取ってきてくれる?」


「だが……」


「もう……行くよ。ジェラルトってば」


「お、おい。引っ張るなって」


フローラが俺の手を引っ張って歩き出す。

そんな俺達に3人は手を振って見送っていた──


◇◆◇


「それにしても俺達たくましすぎないか?」


「そういうことって自分で言うものなの……?まあドレイク家の力はすごいしあながち間違いでもないと思うけど……」


「いや、そういう意味じゃなくてな。貴族のピクニックってをするのかって話だ」


そう言って俺は視線を上に向ける。

そこには血抜き中のイノシシと兎が吊るされていた。

俺の言葉にフローラは苦笑いする。


「あ、あはは……確かにピクニックの昼食のために狩りをする貴族家は少ないかも……」


「自然を感じたいからってなんだよ……了承した過去の俺がどれだけ冷静じゃなかったかが伺えるな……」


ピクニックの計画を立てている時盛り上がりに盛り上がりまくってせっかくなので今回のキャンプは全部自分たちでやってみようという話になった。

そのため今回は食材を何も持ってきておらず持ってきているのは調理器具と調味料のみ。

食材は現地調達ということになったのだがその結果がこれ。

ちょっとたくましすぎない?


「まあ私達全員がある程度戦えるからこんな無茶な話も通るんだろうね。魔物とか全然相手にならないだろうし」


「……まあそれは否定しない。というか俺の嫁って全員武闘派すぎないか?」


「軍の名家ドレイク家って感じでいいじゃん。人質に取られにくいっていうのは大事な要素でしょ?」


「それはそうだが……よくもまあこんなに集まったものだなと」


まあ俺がくっころ狙ってた時代の副産物と言っても過言ではないから突拍子もないというわけでもないのだろうが。

結果的にこの国の女性騎士でも10指に入るであろう実力者たちと結婚することになったのである。


「まあとにかく移動するか。ここにとどまってると血の匂いが移りそうだし」


「あはは、賛成。少し一緒に歩こっか」


俺とフローラは肩を並べて歩き出す。

しばらく歩いていると見晴らしのいい丘を見つける。

フローラと初めてゆっくり話したのもこんな場所だったなと思いつつ一緒に腰を下ろした。


「もうドレイク家に嫁入りしたのも慣れてきたか?」


「あはは、学校に通ってるときも休みは泊まらせてもらってたしね。それにドレイク家って戦いと誰よりも密接に関わってるはずなのにどんな場所よりも温かくて安心するんだよね……」


「フローラ……」


「実家が嫌だったってわけじゃないんだけどさ。やっぱり愛する夫と一緒に暮らせるのは一番幸せ。シンシアやマーガレットさん、お義父さまもお義母さまもとっても優しい人だしね……」


フローラはしみじみと呟く。

ドレイク家が彼女の居場所になれているのならばよかった。

母とお菓子作りをしている姿をよく見かけるし笑顔も最近増えたような気がする。

人妻になったというのに社交界でフローラに対する視線が増えたのもそういう理由があるだろう。


「ジェラルト、私ね。ずっと普通の生活が欲しかったの」


「普通の生活?」


「そう。町娘みたいに恋をして好きな人と一緒になって子どもたちと一緒に幸せに暮らす。そんな夢……」


「……夢、か……」


俺も学生時代くっころを追い求めてきた輝かしい青春を思い出す。

夢というのはそれだけで日々に希望という彩りを与えてくれる。

フローラも俺と似たような思いを抱えていたのだと、教えてくれた。


「私達、子育てするときは誰が産んだ子どもだろうとみんなで母親をするって決めたんだ。だから子どもに囲まれながら生きるっていう目的は叶えられそう」


「相変わらず仲が良さそうだな」


「ふふっ、みんないい人だもの。反発する理由も不満もないから」


嫁同士の仲は俺でも解決するのが難しい。

だから最初から仲が良いというのはとてもありがたかった。

ギスギスした雰囲気よりも家族円満のほうがいいに決まってる。


「最初の夢は貴族だから叶わないかなって思ってたんだけど……」


「……だけど?」


「夫になった人を好きになれたんだからこれ以上幸せなことはないよねっ」


そう言ってフローラは屈託なく笑う。

隠すことのない真っ直ぐな好意だからこそ嘘じゃないとわかって照れくさくなる。

本当に俺の嫁には勿体ないほどいい娘だ。

でもだからこそ誰よりも幸せにする。

俺を選んでくれたフローラにできる俺からの最大限の誠意であり義務なのだから。


「ジェラルト、大好きだよ」


「ああ、俺もだ。フローラ」


俺達はゆっくりと唇を重ね合わせた──


─────────────────────────

カドコン落選しました。

最終選考16作品までは残っていたそうですがそこから最後の最後に選ばれなかったのは砂乃の力不足です。書籍を期待していてくださった皆様、本当に申し訳有りません。

最終選考まで残れたのは読んでくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

悔しすぎたので明日の朝九時より死ぬ気で書いたもう一つの新作出します。

カクコンでカドカワさんが唸るくらい面白い物語を書きたい一心で。

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