完結感謝SS カレン

「ご主人様……お忙しいところ申し訳ありません。実はお願いしたいことが……」


日課の鍛錬の時間。

剣を振り汗をかいてきたところでカレンが飲み物とタオルを持ってきてくれた、そんな休憩時間でのことだった。

カレンが真剣な表情で俺を見ている。

そもそもカレンがお願いというのも珍しい。

何かあったのだろうか。


「一体どうした?俺にできることならできるだけ応えようと思うが」


カレンは少し言いづらそうにしている。

何を言おうとしてるんだ?


「あ、あの……ご主人様……!」


「おう」


「私にクッコロの極意を教えてください……!」


…………………………………え?

一瞬何を言われたのか理解できなかった。

カレンの口からくっころなんてワードが出ると思ってなかったのだ。

というかなんでカレンがくっころを?


疑問は尽きず頭の中をぐるぐると回る。

それくらい今の発言は衝撃的だった。


「……くっころなんて言葉、どこで知ったんだ?」


「ご主人様と戦ったときですよ。クッコロの気配がするから私の襲撃に気づいたって」


(言ったような気がする……)


あのときはテンションがおかしなことになっていたのだ。

色々と恥ずかしいセリフを言った気もするし、あまり思い出したくなかった。

俺は気恥ずかしさを飛ばすように咳払いをして改めてカレンに聞いてみる。


「どうしてくっころについて知りたいんだ?随分と急じゃないか?」


「私は以前、シンシア様を危険に晒してしまいました。もう守れないかもしれない、そんな想いは二度としたくありません。私は自分の力で大切な人を守りたいんです」


「な、なるほど……」


「御子を守るためにもお願いします。私にクッコロの極意を知りたいのです」


そう言ってカレンは頭を下げる。

大切な人を守るために、か……

しかもシンシアは俺の大切な人でもある。

そんな人を守ろうとしてくれてるのに俺が協力しないわけにはいかない。


「……わかった。くっころの極意を教えよう」


「……!本当ですか……!」


「ああ、ただし予め言っておく。この道は辛く厳しく終わりがない果なき道だ。そんな道を進む覚悟はあるか?」


「……強くなると決めた日から苦労は覚悟のうちです。どんな訓練も乗り越えてみせます!」


ふむ、やる気はありそうだ。

しかもカレンは至高のくっころを自らやってのけたいわばくっころ界のスーパーエリート。

育てるだけの才能は持ってるはずだ。


「ではこれから俺のことはせんせいと呼ぶといい」


「わかりました、師」


カレンは頷くと手を胸の前でぎゅっと握る。

その目は燃えているように見えるほどやる気に満ちていた。


◇◆◇


場所はドレイク家の訓練場。

俺はそこで訓練服に着替えたカレンと向かい合っていた。

俺のくっころについての極意はまさに値千金でありどれだけ拝聴したい人がいようとそう易々と漏らすわけには行かないのだ。


「まずは問おう。くっころとはなんだと思う?」


「……師の極秘の戦闘技術、ですか……?諜報隊の方々もクッコロについて知ってるかたはいませんでした」


「違う!くっころは戦闘技術などではない!」


まずはカレンにくっころが何たるかを教えてやらねばならない。

それこそがくっころ道の基本であり奥義なのだ。


「いいか?くっころとは人々の心を照らす光だ。それを想えば無限の力が湧いてきて、幸せな気分になれる。それこそがくっころということだ」


「それは……ものや技術ではなく心構えということでしょうか……?」


「ある意味そうとも言えるかもしれないな。ただ俺もまだくっころ道の道半ば。俺もまだ最高峰には至れていない。くっころには無限大の形があるということを日々痛感している」


「……なる、ほど……?」


カレンはあまりしっくりこないような顔をしている。

だがそれも当然のこと。

くっころ道は長く険しい。

簡単に理解されてたまるか。

日々鍛錬を続けそれでもなお届かないほどくっころには無限の可能性を秘めているのだ。


「ははっ、いつかわかる日がきっと来る。今はまだわからなくてもいいんだ」


「わかりました。自分のクッコロが何たるかを日々考えてみようと思います」


「ああ、そうするといい。そして自分だけのくっころ道を見つけるんだ。俺はそのためならいくらでも手伝おう」


「……っ、はい。頑張ります」


「まずは軽く打ち合いでもしよう。話はそれからだ」


俺とカレンは剣を交え数刻の間戦い続けるのだった──


◇◆◇


そして後日。

俺とカレンは王城の訓練場をヴィクター王子にお願いして一つ借り、そこに王国騎士団の面々を集めてもらっていた。

もちろん女性騎士だけである。


「……師?これは一体どういうことですか?」


「これは己のくっころ道を知るためには避けては通れない関門だ。存分に戦うといい」


「それは別に構わないのですがなぜ女性騎士だけなのですか?奥方様たちが悲しみますよ?」


「問題ない。すでにシンシアたちの許可は取ってある。カレンの修行をつけるために王国騎士たちと模擬戦をしてくると」


「女性騎士だけ集めたことは?」


「……言ってないな」


「報告します」


カレンの言葉に俺はぎょっとする。

そしてカレンの肩を持ってなんとか引き留めようとする。


「ま、待ってくれ……!そんなこと報告されたら俺の小遣いが減らされる……!それに夜寝かせてくれなくなるんだが!?主人の健康と小遣いを守るためにここは一つ黙っていてくれ!給料は普段の三倍出すから!」


懇願に賄賂。

もはや主人の威厳もへったくれもない。

だけどどうしても止めないといけなかった。

小遣いはまだしも夜寝れなくなるのは本当に辛い。

複数人でしたことはないが向こうは毎日交代で搾り取ってくるから俺の寝る時間が全く取れずいつか腹上死するかもしれないと最近思い始めるくらいにはやばいのだ。


「はぁ……わかりましたよ。ただし給料は上げなくていいです。賄賂を受け取って隠蔽したなんてシンシア様にバレたら私も怒られちゃいますから」


「助かった……居眠りなんて領民に格好がつかないし働いてくれる臣にも申し訳無さすぎるからな……」


「師の子どもが生まれたら居眠りのことなんて消し飛ぶくらい喜んでくれると思いますよ」


勘弁してくれ……

祭りは経済効果を生むが最近シンシアとの子どもが生まれたばかりなんだからまた次も子どもができたら盛り過ぎだと思われやしないか?

実情は俺ではなく彼女たちのほうが積極的なのだが世間一般はそんなこと知る由もないし知らせる必要もない。

後の世の歴史の教科書とかで色狂いとか書かれるのは絶対に勘弁なんだが。


「……今は遠慮しておこう」


「……師、目に見えて痩せましたもんね」


「……そういうことだ。あとは察してくれ」


カレンも少し不憫そうな視線を俺に向けている。

日々の暮らしが幸せなのは間違いないが大変なものは大変だ。

第一子も生まれたばかりで使用人や乳母に世話を任せているが時間があるときはできるだけ俺達家族で面倒を見るようにしている。

仕事のこともあるし我が子との時間は癒やしなのは間違いないがそれで睡眠を取らなくて良いということはまったくない。


「まあ俺の話は置いておいて、一度戦ってみろ。何かつかめるかもしれないしな」


「わかりました。全力を尽くします」


カレンの目が真剣なものへと変わる。

そしてカレンと王国騎士たちの模擬戦が始まった。


カレンなら……きっと俺の後継者になれるはずだ──


◇◆◇


ちなみにこの後のカレンはジェラルトの思惑とは異なりなぜかくっころの気配ではなく、殺気や攻撃の気配を敏感に察知する技術を確立。

ドレイク家の諜報隊隊長になったタイミングで部下たちに指南することで諜報隊の力は更に増す結果となったのだった──




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新連載『煩悩だらけの聖職者、欲に従って自由に生きる』がスタートしました!

https://kakuyomu.jp/works/16818093090046467541


冬休みに入るのでもう後1、2作品書く予定なのでそちらもよろしくお願いします!

受験勉強が始まるギリギリまで砂乃は物語書き続けますので読んでくださると嬉しいです!(ついでにフォロー、☆、コメントとかも……)

よろしくお願いします!

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