完結感謝SS シンシア
就寝前、俺が書類に目を通しながらベッドに腰をかけていると扉がコンコンとノックされる。
返事をするとゆっくりと扉が開いて寝間着姿のシンシア王女が部屋の中に入ってきた。
「ジェラルトさん」
「ん?どうした?もう夜も更けている。男の部屋に入ると変な噂が立つぞ?」
「少し報告したいことがありまして。ジェラルトさんの顔も見たかったのでつい来ちゃいました。あまり長居はしませんので」
最近のシンシア王女は本当に一気に大人びてきた気がする。
見た目というか主に精神面という話だが危うさは消え言動に落ち着きが出てきた。
「皆さんがドレイク家のヴァイルン王国侵攻の戦勝祝いに祭りをやりたいって陳情が来てます。皆さんイアン様のことが大好きなんですね。どうしますか……って聞いてますか?」
「あ、ああ……聞いてるさ。祭りは経済を回すしタイミングとしても悪くない。積極的に人を派遣して運営のサポートを出そう」
「わかりました」
シンシア王女は頷く。
しかし次の瞬間には訝しげな目を俺に向けていた。
「一体何の考え事をしてたんですか?」
「まあちょっとな……」
「私のことですか?」
「……なんでわかった?」
俺何も言ってないぞ?
もしかしてシンシア王女は超能力者だったとか?
ものすげえ人材だな。
「ただなんとなくですよ。表情の違いというよりは……雰囲気?私を見る目でわかった気がします」
「……恐ろしいな。女性というのはそんなに視線に敏感なのか?」
「いやらしい視線は割と気づきますよ。でもジェラルトさんは意外と隠すのがお上手なので視線でなんとなくわかるようになったのは最近ですね」
「俺がいやらしい目で見ているという濡れ衣を着せないでくれ」
本当にそんな目で見てない。
今ならそういうことに興味が無いでもないが今まではくっころとかやるべきことが多すぎてそれどころではなかった。
「それって私には女としての魅力が無いってことですか……?」
「っ!?い、いや、そういうわけじゃなくてな!?」
「ひどいです……」
「 シンシア王女に魅力がないわけないだろ?顔だって整ってるし実際近づいてきた男たちは多かっただろう?」
「ジェラルトさんがどう思ってるか知りたいです……」
シンシア王女は上目遣いで俺を見てくる。
そ、それは卑怯なんじゃ……
「魅力的、だと思う」
「ふふっ、ありがとうございます」
シンシア王女は嬉しそうに笑う。
この笑顔が見れたのならシンシア王女に追撃を食らったのもまあいいかとなってしまう。
俺も随分と変わったものだ。
「シンシア王女は本当に成長したな。さっきはそんなことを考えてたんだ」
「私がですか?」
シンシア王女は小さく首を傾げる。
そんな動作もとてもいいと思う。
意識して見れば俺の婚約者は魅力的な人ばかりだ。
一人でもいたら社交界でみんなに羨まれるレベルの美女たちだしな。
だけどただでやられる俺ではない。
「昔は俺のことを『凶暴令息だ』とか『正義なき剣』とか言ってたのにな。随分頼もしくなった」
「なっ……!?そ、そのことはすぐに忘れてください!結構恥ずかしい過去なんです!」
「あのときのシンシア王女は純粋すぎたからな。貴族の社会ではあまりにも危うかった」
「そのことは反省してますよ……志だけじゃ何も成せないし大切なものも失ってしまう。ジェラルトさんと出会ってたくさんのことを知りました」
そう言ってシンシア王女は穏やかに笑う。
そういう切り替えの面でも本当に大人になったよな。
過去を忘れず努力を続けている彼女はきっともっともっと成長していくはずだ。
「少しは私も大人になれたんですかね」
「年的にはもう大人だけどな」
「むぅ……その言い方は少しいじわるじゃないですか?」
「ドレイク家次期当主としては成長してもらうに越したことはないが俺個人としては多少子供っぽさが残っていても魅力的だと思うぞ」
俺がそう言うとシンシア王女は恥ずかしそうに頬を赤く染める。
してやったり。
デレ顔ゲットだぜ。
「もう……からかわないでください」
「からかってないさ。俺の本心だ」
「そう言ってくれるのは嬉しいですが残念ながら私は成長します。あの日の夜、ジェラルトさんの妻として相応しい女になるって誓いましたから」
あの日の夜というのは多分ゴーレムがベトラウを襲撃してきた日のことだろう。
ドレイク家に泊まったシンシア王女と夜話している時にそんなことを言っていた。
自分のために努力してくれたと思うと少しむず痒いものがあるが心がじんと温かくなる。
「頑張ってるさ。シンシア王女の努力は俺が知ってる」
「ふふ、それならどこまでも頑張れそうですね」
そして俺たちの間には沈黙が流れる。
別に気まずくなったわけではない心地の良い沈黙だった。
するとシンシア王女が俺の隣に腰をかける。
体の距離は近く指2本分くらいしか離れていなかった。
(これ誘ってるのか……?わざとやってるのか無意識でやってるのか判断がつかないな……)
「ジェラルトさん。私のこと女として魅力的って言ってくれましたよね?」
「ん?ああ、言ったな」
シンシア王女は恥ずかしそうにもじもじとしている。
頬は少し赤みを帯びており正直色っぽい。
「だったら……その……そろそろ私をあなたの女にしてください……」
「っ!?」
まさかこんなことを言われると思わなかった。
あまりの衝撃に脳が理解してくれなかった。
「そ、その……私たちが士官学校を卒業するときにはマーガレットさんは23歳です……女としては学生じゃないのに子供がいないというのは辛いものなんですよ」
「い、いや……だからといってもな……」
「マーガレットさんは正室になる私に子供ができてからでいいと言ってましたけどドレイク家からしても早いに越したことありませんよね……?」
いや、そういう問題じゃないと思うんだが。
別に父も元気だし数年程度の差なら急ぐ必要もないと思うんだが。
「……マーガレットも理解してくれるだろう?流石にそれは難しい」
「じ、じゃあ言い方を変えますね。今のはあくまで建前です。何よりも私が……あなたともっと近づきたい。この年頃の男子はそういうことばかり考えてるって兄様が言ってましたし……」
ヴィクター王子何てこと教えてんだよ!?
アンタの妹暴走してるよ!?
大丈夫そう!?
「ダメ……ですか?」
「そ、それは……」
正直抱いていいなら抱きたい。
だってそれくらいシンシア王女は魅力的な女性だし婚約者だから致命傷にもならない。
だが理性が俺にブレーキをかける。
ここで早まってはいけないと。
しかし追い打ちをかけるようにシンシア王女が抱きついてくる。
甘い匂いとか柔らかい体とか温もりやらたくさんの情報が一気に頭の中に流れ込んでくる。
そしてシンシア王女は口を耳元に近づけてくる。
「私を……母親にしてください……」
その言葉はもう無理だった。
自分の中で理性が音を立てて崩れていく。
俺はわずかに残った理性でシンシア王女が痛くないように押し倒す。
シンシア王女は全く抵抗せず穏やかに笑い思わず生唾を飲み込んだ。
「本当に……いいんだな?シンシア王女。もう後戻りできなくなるぞ」
「これからはシンシアって呼んでください。あと……いいですよ。私はあなた以外の妻になるつもりはありませんから」
それは男にとって最高の殺し文句だった。
俺はシンシアとゆっくり唇を重ねる。
「わかった。シンシア」
「ふふっ、嬉しいです。初めてなので……優しくしてくださいね?」
「……善処する」
そして俺達はもう一度唇を重ね合わせた──
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