完結感謝SS マーガレット

シャワーを浴び、一息つく。

この世界にドライヤーなんてものは存在していないのでタオルでしっかりと髪の水気を拭き取る。

そしてそのままタオルを首にかけて鏡を見た。


(また身長が少し伸びたか……?まあ自分じゃあまりわからないんだけども……)


身長が1センチでも伸びればそれだけ筋肉量が増え戦えるようになる。

婚約者たちへのくっころの想いは完全に捨てたが、まだ他の女性騎士へのくっころは諦めていないし大切に思うからこそ守りたい。

そのためには少しでも強くならなくちゃいけない。


「まあ気にしなくていいか……俺が何を思ったところで身長は変わらないし……」


俺は一つため息をついて更衣室を出ると同じく風呂上がりだったらしいマーガレットと鉢合わせした。

マーガレットは少し驚いたように目を丸くしそっと顔を俯けて目を背けてしまった。


「マーガレットも風呂上がりか?」


「う、うん……とってもいいお湯だったよ」


なんだかマーガレットの様子がぎこちない気がする。

嫌われてるとかそういうわけではなさそうだけども。


「どうしたんだ?少しぎこちないぞ?」


「そ、それは……その……」


(ジェラルトがそんな格好でいるからでしょうが……)


マーガレットがボソボソと何かを言うが小さすぎて聞こえない。

耳に魔装をかけて聴覚強化で聞こうかとも思ったけどなんだか怒られそうだしやめておいた。


「まあいい。少し一緒に歩くか?今日は星が綺麗に見えるそうだぞ」


「そうなの?」


「ああ。使用人が話しているのを盗み聞きした」


「ふふっ、なにそれ。話が本当かわからないじゃない」


マーガレットはようやく笑顔を見せてくれる。

髪が少し湿っていて肌に軽く張り付いている姿がいつもに増して大人の色気が凄まじい。

正直直視できないので自然な感じで視線を向けないようにしている。

笑顔につい引き寄せられてしまったがなんとか耐えきった。


「気持ちの整理はついたか?」


「……まあね。完全に、とは言えないけどだいぶ落ち着いてきたと思う。おに……じゃなくてヒュースさんもサポートしてくれてるし」


俺たちが話しているのはマーガレットの姉、クリスティーナの件。

マーガレットの表情は未だ少し寂しさが見えるものの大分良くなってきていると思う。

立ち直ってくれて本当によかった。


「まあ、俺から言っといてなんだがその話は一旦置いておこう」


「ふふ、そうね。しんみりしすぎるのもジェラルトとのせっかくの時間が勿体ないし」


俺が扉を開けると空に満天の星空が広がっていた。

前世でもこんなに綺麗な星空は見たことがない。

まあ街の光とかも少ないしそういう影響もあるんだろうけど。


「綺麗ね……」


「ああ、本当だな……」


俺とマーガレットは星を見上げながら歩く。

そして中庭にあるベンチに腰を掛けた。


「これ使ってくれ。夜は冷えるしな」


俺は持ってきていた上着をマーガレットにかける。

思ったより恥ずかしいけどマーガレットが風邪を引いてしまうより全然いい。

風呂上がりだしそんなに長居するつもりもないしな。


「あ、ありがと……気が利くのね」


「なに、これでも一応可愛い婚約者が3人いるんでな。これくらいはできないと愛想をつかされてしまう」


「ふふっ、なにそれ」


だが実際これは本当のこと。

政略結婚だから愛想をつかされたところで離婚まではいかないだろうが心が離れてしまえばそれはもう幸せな家庭とは言えない。

婚約者だからとその関係に甘えるつもりはないのだ。


「本当にジェラルトは大きくなったわよね……いつの間にかって感じ……」


そう言ってマーガレットは俺の上着を軽くぎゅっと握る。

身長もいつの間にか追い越していた。

ずっと師匠で俺の前を走るお姉さん的存在だったのに今では対等な関係を築き上げ肩を並べている。

その事実がなんだか不思議なように感じられた。


「いつもお姉さん的立ち位置だったもんな?師匠」


「もう……その呼び方はやめてよ」


「師匠はいつまでだって俺の師匠だろ?」


俺に魔装と紅月流を教えてくれた恩師。

あのときから俺の異世界ライフは本格的に動き出したと言っても過言ではない。

だからマーガレットはいつまでだって俺の師匠であることには変わらない。


「そうかも……だけど。ちゃんと名前で呼んでほしいの……マーガレット、って……」


そう言ってマーガレットは恥ずかしそうに顔を俯ける。

その表情はいつもより少し幼く見えて綺麗というよりも可愛かった。

つまるところ破壊力抜群なわけである。


「っ……!い、嫌なのか?師匠呼びは」


「だって師匠呼びって少し距離を感じない?せっかく婚約者になったんだし名前で呼んでほしい……」


なんか少女って感じがする……

いつも凛々しくてカッコいいだけにこういう可愛い姿はしっかり目に焼き付けて置かなければ。


「今度制服着てくれないか?」


「え?いきなりなんで?」


「ちょっとマーガレットの制服姿を見てみたいなって……」


「話の流れ変わりすぎでしょ……それに制服着るなんて嫌よ。私はもう20だし制服なんて着たら痛くないかしら?」


「痛くない。俺が保証する」


俺はマーガレットの様子から押せばいけると即座に判断。

早急にフォローの体勢を作り上げた。


「周りに見られたくないならそれ専用の建物も作っても良い」


「そんなに……!?まあそこまで言うなら……考えてあげなくもないけど……」


よっしゃ!

俺は心の中でガッツポーズを決める。

シンシアとフローラは一緒に学校に通ってるけどマーガレットの制服姿はまだ一度も見たことがない。

だから見れることが本当に嬉しい。


だが俺は一つ聞かなくちゃいけないことがある。

この話の勢いのまま俺は口を開いた。


「なあ、マーガレット。俺のこと……どう思ってるか?」


「どうって?」


「やっぱり俺はまだ弟、か?」


ずっと姉弟のような関係だった。

だからこそ婚約者になったことで戸惑いがあるかもしれない。

そこをすれ違ったまま俺は関係性を進めるなんてことはできなかった。


「弟としか思ってないなら──」


「そんなこと、ないよ」


俺の言葉をマーガレットが遮る。

見るとマーガレットは顔を真っ赤に染めながら俺を見つめていた。

瞳は潤み、体は少し震えている。


「私はジェラルトのこと本気でカッコいいって思ってるし好きだって思ってる……もちろん弟としてじゃなくて……一人の男の人として、だよ」


「……っ!」


マーガレットは恥ずかしそうに顔を伏せる。

その仕草が、表情が、さっきの言葉が嘘ではないことを物語っていた。

俺は感極まって思わずマーガレットをそっと抱き寄せる。

マーガレットは俺の胸元に顔を埋めていたが耳が赤くなっていた。


「俺だって……マーガレットのことを1人の女性として好きだと思っている……だからマーガレットが婚約者になってくれて本当に嬉しい」


「私もよ……ジェラルト……」


それから俺達はしばらく抱き合う。

そしてどちらからともなく離れ笑いあった。


「そろそろ戻るか」


「そうね。あまり遅くなってもいけないもの」


俺達は来た道を戻っていく。

だが先ほどと違い二人の手は優しく繋がれていたのだった──

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