第16話 くっころガチ勢、王城に駆けつける

1台の馬車が王城の門を抜け中に入っていく。

そして玄関口とも言える場所で馬車が止まり一組の男女が現れる。


「な、何用で王城へのご来訪をお望みでしょうか?現在、国王陛下とヴィクター王子殿下により登城制限がかかっています」


「急いでいるんだ。通してくれ」


「なっ!?その紋章は……!?し、失礼しました!どうぞ!」


二人組の男女は許可を得て王城の中に入っていく。

その二人組こそ言わずもがなジェラルトとフローラであった。


「家紋を見せるだけでこんなにも早く通してもらえるなんて……」


「ドレイク家は王家の懐刀であることを知らない民はこの国にいない。家紋を見せて身分さえ証明できれば中に入れてもらうことは難しくないからな」


家紋の偽造や本人以外が使えば極刑だ。

しかもドレイク家の家紋は特別な色が使われているのでまず真似して作るのは不可能だ。

これ以上に信頼できる身分証明はこの世界に存在していない。


「おい、シンシア王女とアリスはどこにいる?」


「は、はい!お、おそらく医務室ではないかと。この時間ならばカレン様の看病をしているのではと……」


「そうか、感謝する」


そこら辺のメイドを捕まえて場所を聞き出した俺たちはすぐに医務室へと向かう。

王城で走るのはご法度なので歯がゆいが早歩きで歩いていく。


(ここか……)


「シンシア王女とアリス=ドレイクは中にいるか?」


「その通りですが……失礼ですがご身分を伺っても?」


どうやら王城で暗殺沙汰があったせいで相当ピリついているらしい。

意識高く警護するのは結構なことだが一々止められるのはストレスだった。


「これでいいだろう。早くどけ」


「……っ!失礼しました。お通りください」


同じように家紋の入ったハンカチを見せどいてもらう。

そして医務室の扉に手をかけガチャリと開けた。


「アリス、シンシア王……」


「お兄様!」


中に入るとすぐにアリスがやってくる。

ここに向かう途中で報告には既に聞いていたがこの目で怪我が無いことを確認して安堵する。

アリスは走りこそはしなかったものの嬉しそうにこちらにやってきたので一度ハグをする。


「ジェラルトさん……その……」


シンシア王女が申し訳無さそうにこちらに歩いてくる。

整った眉尻は下がっていて悲しみやら、悔しさやら、後悔やらいろんな感情が見て取れる。


「ジェラルトさん私は……。……っ!?」


俺は左手をアリスの頭に手を置き、右手でシンシア王女を抱きしめた。

普段ならば絶対にこんなことはしない。

だが今は違った。


「よく……よく無事でいてくれた」


「……っ!でも……カレンが……カレンが私たちを庇って怪我を……」


「カレンのことは何も問題はない。安心していい」


「……!はい……」


俺はシンシア王女の背中を軽くポンと手を置くと一度離れてフローラと向き合う。

フローラは真面目な顔で堂々と頷いた。


「失礼します。今カレンさんの容体をお尋ねしてもいいですか?」


「カレン様の体はかなりボロボロになってしまっています……特に外傷は無いのですが内臓がかなり傷ついてしまっているようです……手術したいのですが出血が多く今切開してしまうと失血死してしまう恐れがあります。現状できることはありません……今のところ容態は安定していますがこれからどうなるかまでは……」


フローラの問いかけに部屋にいた医者は言いづらいそうに答える。

だがこの場で取り繕おうとして下手なことを言われるよりかは何百倍もいい。

この世界でも外科手術は存在するが執刀できる医者は本当に少ない。

この医者が本当に優秀なことを表していたが、今この場には違う意味での医療のスペシャリストがいた。


「問題ありません。私が治します」


「っ!?治せるのですか!?」


フローラは小さなスティックのような物を持ちカレンに近づく。

これこそウォルシュ家で作られる医療用魔道具。

ウォルシュ領から帰るときにウォルシュ男爵が5本ほどくれたもののうちの一本だ。


「いきます」


フローラが目を閉じ集中し始めるとフローラの持つスティックが優しい光を放ち始める。

熱と失血で顔色が悪かったカレンの顔がみるみる生気を取り戻していく。


「すごい……」


誰かのつぶやきがポツリと聞こえてくる。

俺も初めて見たが同じことを言いたくなるくらい目の前の光景はすごかった。


「シン……シアさま……」


「カレン!?目が……目が覚めたの……?」


先程まで意識を失っていたはずのカレンが目を開ける。

まだ焦点は合ってなかったが確実に顔色が良くなっている。


「おんみを……きけんに……ほんと……に……ごめんな……さい……」


「いいんです!本当に……私も兄様もあなたのおかげで助かったんです!だから……」


「だいじょうぶ……です……わたしは……シンシア……さまの……おこを……だかせていただくまでは……しねま……せん……」


未だ呂律は上手く回っていないけど意識はしっかりしている。

山は完全に超えて一安心する。


「カレン、聞こえるか?」


「ごじゅじん……さま……?」


「本当にありがとう。君がいなかったらシンシア王女もヴィクター王子も危なかった。君はアルバー王国を救った英雄だ」


「かぞくを……たすけてもらったおんにくらべれば……たいしたこと……ないですよ……」


「……っ、本当にありがとう。必ずその働きに報いることを約束する」


「ぷはっ……はぁはぁ……」


「フローラ、大丈夫か?」


「うん、集中したからちょっと疲れちゃったけど全然大丈夫だよ。カレンさんの怪我も全部治した」


まだ治療始めて5分くらいですけど?

やはり凄まじいの一言に尽きる。

一般の医療用の魔道具をメスなどの道具として使用するのに比べてウォルシュ産の魔道具は切開すらせず傷そのものを治す破格の性能を持つ。

使用する人が癒しの魔力を持っていればなおのこと効果は何倍にも跳ね上がる。


「ほ、本当に治ったのですか?」


「ええ。傷の修復は完了しましたよ」


「信じられませぬ……まさかこれほどの治療が可能とは……」


医者も驚きを隠せない様子だった。

だがこれでカレンの命に別状はない。

一山超えたことに安堵し息をついた。


「ただ体内の血は溜まったままなので暫くこのまま安静にしてもらって体力がある程度戻ったら手術で血を抜くのが良いかと思います」


「なるほど……勉強になりまする」


「ありがとう……ございます……フローラさま……」


「いえ、カレンさんを助けるのは当然のことですから。お礼には及びませんよ」


フローラはニッコリ笑ってカレンの手を握る。

その笑顔はまさに聖女で彼女がウォルターの街でなぜあんなに好かれていたのか理由がわかった気がした。


「フローラ、本当にありがとう。君のおかげでカレンは無事だ」


「ううん、大丈夫だよ。このくらい全然……ぁ……」


フローラがフラリと倒れかけたのをなんとか支える。

顔色が少し悪くどれだけ頑張ってくれていたのかよくわかり感謝してもしきれない。


「ゆっくり休んでくれ」


「うん……」


フローラは目をつぶりすぐに寝息が聞こえ始める。

おそらく魔力不足による一時的な体調不良だろう。


今回は『シンシア王女、ヴィクター王子、アリスの三人が襲われた』という情報しか入ってこなくて本当に肝を冷やした。

だがカレンとマーガレットがなんとか窮地をしのぎ、重体だったカレンの命も王城に置いていった一本のウォルシュ産魔導具による延命とフローラが馬車を引く馬の疲労を回復させるというスゴ技によってなんとか繋ぎ止めた。

どれ一つ欠けても今日という日を全員で迎えることはできなかっただろう。


(よくも……よくもこんな舐め腐ったことをしてくれたものだな……!)


覚えておけ、必ず俺たちは今回の黒幕を突き止め地の果てでも追いかける。

この世から存在を消し去るその時まで俺は決して許さない──

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